サイバーフロントの「新世紀エヴァンゲリオン 鋼鉄のガールフレンド<特別編>」は,ガイナックスから発売されていた同名アドベンチャータイトルに,新しいシナリオやCGを追加した製品だ
1995年の放映開始から爆発的なヒットとなり,またその「大いなる未完」と評すべき,謎の多い結末とともにいまも多くのファンを惹きつけるテレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」。2007年には新たに映画化されるほか,コンピュータゲームに限っても,トランプやら麻雀やら,パチスロやら,タイピングやら,育成やら,推理モノやらと,すっかり多面展開コンテンツとして定着している。
本作の原型は1997年にガイナックスから発売されたアドベンチャータイトルであり,これはいわばメーカー純製のサイドストーリー。今回の<特別版>化に当たっては,シナリオやエンディング,グラフィックスの追加などが行われ,ヒロインである霧島マナをめぐるストーリーに,より深みが加えられている。
オリジナルの登場時点では,要求するHDD容量の大きさが話題になったものだが,さらなる高解像度に対応した今回も,2D描画主体の作品でありながら4.6GBものディスクスペースを必要とする。……何かそういう決まりがあるのだろうか?
主人公にモーションをかけたり,ピンチに陥ったり。物語はこの本作オリジナルヒロイン「霧島マナ」を台風の目として進む。キャラの苗字は当然ながら,巡洋戦艦/高速戦艦に由来する
もともと「新世紀エヴァンゲリオン」は,キャラゲー的な設定が随所に見られる作品である。主人公の碇シンジは内向的で受け身かつオクテという,視聴者になるべく親近感を抱かせるようなキャラクター造型だ。そして一見平凡ながらも,特段の努力なくエヴァのパイロットに選ばれる……。「楽してエリート」という,視聴者の願望を載せて羽ばたいているのである。
それが,ノリが良くて面倒見のよい年上のお姉さんと同居し,無表情ながら何でも受け入れてくれる(都合のいい)ヒロイン,なにかと衝突してそのたびに罵倒されるけれども,自分を認めているヒロイン,家庭的で面倒見がよい「委員長」,おっとり気味でいいお姉さんの伊吹マヤと,選り取り見取りのハーレム状態だ。ゲーム的なキャラをさまざまに揃えているぶん,生々しい女を感じさせる赤木リツコの影は薄いわけである。
本作ではそれに,清純さと狡猾さと神秘性を兼備しながらも,初対面から主人公好き好きモード全開の転校生が加わる。これによってアスカが「急にモテ出した主人公に嫉妬する近所の幼馴染み」という,ある種ツンデレ的な立ち位置に来たので,前半は完全にラブコメ風味になっている。同級生の鈴原トウジと相田ケンスケの存在は,完全に引き立て役の悪友であり,彼らは逐一,主人公の恵まれた環境をプレイヤーに印象付けてくれる。
霧島マナ |
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謎の爆撃の直後,シンジたちの通う中学校に転校してきて早々に,シンジに猛烈なアタックを始める少女。思わせぶりな態度やらプレゼント攻勢やら,年齢に似合わぬ計算高いテクニックと,天然ともいえる純粋さを併せ持つ。内気で消極的な少年にはたまらない行動様式を体得した存在である。 (CV.林原めぐみ) |
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惣流・アスカ・ラングレー |
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エヴァンゲリオン弐号機パイロット。アニメ版の狂気と愛憎はどこへやら,本作では突然のライバル出現に,シンジとマナにあれこれちょっかいをかけるツンデレの幼馴染みという役どころ。シンジへの好意がクラスメイトにまで露骨にバレているという,ギャグ担当である。本気でマナを殺そうとしているとしか思えない態度をとるあたり,さすがである。 (CV.宮村優子) |
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綾波レイ |
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エヴァンゲリオン零号機パイロット。無表情・無感情な個性で一世を風靡した彼女も,今回ほとんど出番なし。その最大の原因は“中の人”にあると思われるが,ロジャー・ムーア/マイケル・ホイ共演の映画「キャノンボール」で,両者の吹き替え役だった広川太一郎がしゃべくり倒した例を見習ってほしいものである。出番のなさが存在のはかなさを強調する結果となっていたのは皮肉か。 (CV.林原めぐみ) |
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葛城ミサト |
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ネルフにおけるシンジとアスカの上司であり,保護者兼共同生活者である。年頃の少年にとって適度に優しく,適度に厳しく,適度に無防備,加えて徹底的に家事がダメで,その点だけは依存してくるという,永遠の都合の良いお姉さんである。本作では出番こそ多いものの活躍の場に恵まれず,その素晴らしい手料理を振る舞うシーンが最大の見せ場か。 (CV.三石琴乃) |
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碇シンジ |
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エヴァンゲリオン初号機パイロットで,本作の主人公。内向的で悩みがちな性格なところに,マナのアタックとアスカのイビり,その背後で起こる不可解な事態を迎えて,己の無力を痛感しながらも,健気にがんばる14歳の男の子。もっとも,親友のトウジとケンスケには,美人に囲まれてエヴァのパイロットで「なんでおまえだけがー!」と嫉妬される,実にキャラゲーの主人公にふさわしい立場である。 (CV.緒方恵美) |
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とりあえずのツカミは,裸を見られて逆上し,豪快なキックを見せるアスカの勇姿(?)。もともとツッコミ役とはいえ,表情やリアクションの激しいキャラがギャグ担当になるのは必然か |
ベタベタするマナとシンジに,早速ちょっかいを出してくるアスカ。なんともいい表情である。マナよりもむしろ,嫉妬全開のアスカの姿が,本作のセールスポイントといえるかもしれない |
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ある種のデリカシーのなさは,こうした押しかけ型キャラクターの持ち味だが,それにうろたえる弱腰の男子こそ,彼女の(シナリオライターの?)思うツボといえよう |
シンジのコンディションをめぐって,「彼の体のことは一番知っている」と怒るリツコに,同居人の特権を主張するミサト。職場でもうれしはずかし状態にさらされる |
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本作で影の薄い存在となってしまったレイへの,フォローともいえる出演シーン。時間的にはまだシリーズ前半なので,あまり感情表現が出ておらず,シンジの呼びかけにも非常に冷淡だ |
マナを無事に救出するため,動けなくなったシンジの横で,嬉々として強襲に転じようとするアスカ。ちなみにこのあとのセリフは「思い切りぶつかってやる」。かなり黒い感じである |
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ほとんど「見てるだけ」となる本作で,移動先を選べるシーンはゲームとして重要な部分に見えるが,実は「正解」以外ほとんど意味がないという,シンプルな構成となっている
本作のストーリーは至ってシンプルである。謎の生命体「使徒」の襲来に備えてネルフが設立され,その人型兵器「エヴァンゲリオン」のパイロットとして召集されたシンジ,レイ,アスカが住む第3新東京市に,ある夜謎の爆撃が行われる。それに対してネルフはなぜか出動を命じられない。そしてその翌日,主人公達の通う中学校に,霧島マナが転校してくる。彼女はシンジに接近し,シンジのことをすべて知りたいと言い,エヴァンゲリオンについても聞き出そうとする。それが面白くないアスカは彼女をスパイだと疑うが……。
前述のように,本作は1997年に発売されたオリジナルにさまざまな要素を追加したものだ。その内容の差は既報の通りだが,先行してプレイステーション2版が発売されていおり,そのジャンル名が「ビジュアルノベル」となっているように,物語を読むことが主体となっている。
物語が始まると,プレイヤーは基本的にボタンを押す必要すらない。グラフィックスやムービー,音声付きのテキストまですべてが自動的に流れ,その間はセーブも含めて中断不可。もともとウィンドウの最小化はできないうえ(フルスクリーン化は可能),非アクティブウィンドウにしても,ストーリーは流れ続ける。ごく限られた箇所で選択肢が出るが,エンディングの選択肢以外に大きくストーリーに影響するものでなく,プレイヤーはゲームの物語に集中できる仕組みになっている。映画感覚で楽しめる製品といえよう。
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今回の<特別編>では,高解像度表示への対応,アルバムモードの搭載,セーブファイルが99個作成可能に,など,システム周りも地道に強化されている |
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オートデモとでもいうべき部分の合間に,移動先や思考内容を選択するパートが,間奏曲のように挿入される。それらはあくまでイベント,つまりは次なるオートデモの導入部へ向かうためのつなぎであり,ネルフ本部内ならば「A-1通路」「B-1通路」,中学校内なら「図書室」「屋上」だのといった選択肢をクリックして寄り道をしても,簡単な状況描写が表示されるだけだ。片っ端から開けてみて,とっとと次のイベントが起きる場所へ移動すべきであろう。もったいをつけないおかげで早く先を見たくなる,簡にして要を得た(?)構成である。
新たに敵の3D CGムービーが追加されるなどの強化要素もあるが,基本的にビジュアルは止め絵中心,アニメーション部分も爆煙や自動車などの機械的な部分がほとんどで,人間キャラは固まったポーズのままスライドしてくるという,実にキャラクターゲームの文脈に忠実な内容となっている。
プレイしているとエヴァブーム真っ盛りの10年前に引き戻される点は,さすがに純製の派生作品である。新たに付加されたエンディングと共に,秋の夜長にしんみりと,デジタルリマスターされたディレクターズカットの名作映画ソフトを鑑賞する……そんな気分でプレイしてみたい一本だ。
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たまに選択肢が出るが,どれを選んでも結末にはさほど影響はない。イベントCGのコンプリートを目指しているわけでないならば,お気軽に好きな選択肢を選んで可だ |
街の中を移動する際の選択肢が「東」「西」「南」「北」で,碁盤目状のマップをノーヒントで歩く……。テキストアドベンチャー時代を彷彿とさせるギミックが案外楽しかったり |
デートスポットは三か所あり,温泉では条件次第でこのようなイベントCGが登場する。もっとも,どういう経緯で初デートの少年少女が混浴に至ったかは説明されていないが |
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劇場版「DEATH(TRUE)2」というべきか,長編映画でおなじみの,「休憩」(インターミッション)である。DVD-ROMなので,ディスクの入れ替えもなく続きをプレイできる |
要所要所にシンプルなアニメーションが挿入され,アクセントを与えている。このシーンでは,自動車がそのままスライドする様がアニメートされ,紙芝居感覚の演出となっている |
新規に追加されたCGは,高解像度を意識したのか,全体的にキャラクターの線や体型が細く,一目で分かるものが多い。その違いを探してあれこれ言うのも一種の楽しみ |
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