― 連載 ―

Eternal Loversアドベンチャーパートの要石ともいうべきヒロイン選択。ここで選んだヒロインのストーリーが進行し,これ以降のストーリー分岐は一切ない。……なんというか非常に思い切ったシステムといえる
 「人はパンのみにて生くるに非ず」という。例えば転校初日に寝坊したら,パンをくわえて走るだけで満足することなく,妙齢の異性と曲がり角で衝突し,教室で再会するくらいの芸当ができないとダメ,ということだ。……ポストモダンな社会を生き抜くのは,思ったより難しいミッションのようである。
 唐突に始まった本連載だが,今まで4Gamerが苦手としてきたキャラクターゲームに,真っ正面から取り組んでみる。とはいえそこは4Gamer,アドベンチャー要素以外にしっかりしたゲーム性,プレイアビリティを持つ作品を厳選してお送りしよう。キャラゲーを愛する人も,何となく手を出しかねていた人も,ぜひご愛顧を。

 記念すべき第一回で紹介するのは,ブロッコリーの「GALAXY ANGEL」(ギャラクシーエンジェル)3部作だ。アニメ・コミック・小説など多メディア展開されており,アニメ版はかなりアクの強いスラップスティックギャグ作品だったが,PCゲーム版は恋あり・熱血あり・笑いありの正統派ライトノベル風のSFになっている。そして,手軽なストラテジーゲームとしてもなかなか良い出来なのだ。
 全体のストーリーは第1作の「GALAXY ANGEL」(以下,第1作)から2作めの「同Moonlit Lovers」(以下ML),そして完結編の「同Eternal Lovers」(以下EL)まで連続している。突然のクーデター勃発で,主人公がエンジェル隊の乗り組む宇宙戦闘艦エルシオールの指揮を任せられるところから話は始まる。その後,ストーリーはクーデター軍との戦い(第1作),その裏にある先文明の謎に迫る戦い(ML・EL)へと展開していく。

会話シーンの画面。いたってオーソドックスな画面構成で,相手のキャラクターの立ち絵と背景が表示され,テキスト表示とキャラクターボイスで,プレイヤーの分身たる「タクトさん」との会話が進む。うーん,普通だ 移動選択画面。行きたい場所を選ぶことでその場所に移動できる。移動先にいるキャラクターのチップが表示されるので,どこに誰がいるのかが一目で分かる親切設計。も,物事はここまで思い通りに運んでいいのか! 最終決戦直前の1シーン。"ごちそうさま"な感じの恋愛シーンだけでなく,ヒーローものアニメのような熱い展開もあるのが,GALAXY ANGELのストーリーが持つ,もう一つの見逃せないポイントだ


 本作で驚くべきは,恋愛アドベンチャーに欠かせないはずのルート分岐が放棄されていることだ。第1作だけは普通の分岐型アドベンチャーになっているものの,MLとELでは最初の選択肢で選んだ女の子がいきなり恋人である。ブロッコリーはこれを「画期的で硬派なシステム」と説明し(GATVでの解説),"第1作で選んだ恋人とのその後を掘り下げて描く"のがコンセプトらしいのだが,「恋愛アドベンチャー=ルート調整」という共同了解をフルに活かして,"ルート選択の手間すら省いた物語作品"という,うがった見方をしてみるのも面白くはある。

 登場するギャル=エンジェル隊の面々は,お菓子作りと運・不運の極端さがチャームポイントの"天然ボケ系"ミルフィーユ,口より先に手が出るが内面は乙女チックないわゆる"ツンデレ系"のランファ,お嬢様で美味しいところはちゃっかり持っていく"ロリ系"テレパスのミント,姐御肌でリーダータイプ"オトナ"キャラのフォルテ,無口・無表情の"不思議ちゃん系"ヴァニラ,"大和撫子系"のちとせ,と,まあベタベタな品揃え。ストライクゾーンを広くとり,ドタバタ群像劇を展開するには打ってつけの陣容だ。艦内を移動してこれらキャラクターと会話し,その受け答えによって好感度が上下する。

今日のワンポイントレッスン  :  ツンデレ系
ギャルのキャラクター類型として,普段の態度はツンツンしているが,その実内面はナイーブで,仲良くなると急にしおらしくなり,デレデレといちゃつくことになるタイプを指す。

 では各キャラとイチャつくことにどんな意味があるかといえば,好感度が高いと戦闘パートでの発揮能力がアップするのである。エンジェル隊各員が乗る戦闘機「紋章機」はH.A.L.O.(有機脳人工脳連接装置)で制御されるため,パイロットの精神状態が影響する。どうしてそういう設定なのか,事ここに及んで突っ込むつもりはないが,とにかく司令官のタクトさんことプレイヤーは部隊戦力の見地からも,色んなキャラとイチャイチャしなければならない。
 で,誰かを本命に選んだ後のストーリーは,キャラの特徴に沿った王道の展開。悶えるようなじれったさ,そこかしこにある突っ込みどころ,こっ恥ずかしくて背中が痒くなるような会話といった,ラブコメに欠かせない要素をしっかり押さえつつ進んでいく。もっとも,3作ともノリは一緒なので,立て続けにプレイするとお花畑に拉致されたような気分にならないこともないが。

ミルフィーユ・桜葉 会話ムービー(MPEG1・7.58MB)
メインヒロインで,お菓子作りが趣味の天然ボケ娘。確率を無視した極端な運勢の波を持ち,運が良いときには福引で1等を引き続けるほどの幸運を発揮するが,逆のときには周りに多大なトラブルを巻き起こす。非常にお気楽な性格で誰とでもすぐに打ち解けられるが,持ち前の運勢に周囲を巻き込むことを気にしている。ちなみに,アニメ版では強運の部分が強調され,"天然ボケ"を超越した"大ボケ"の域に達しているらしい(CV:新谷良子)

※実際の作品では,フルボイス,BGM付きです。


蘭花(ランファ)・フランボワーズ 会話ムービー(MPEG1・10.5MB)
格闘技が得意で勝ち気な少女。占いが趣味という女の子らしい一面も持っており,そのポジティブな性格とは裏腹に,イザと言うときに何も言えなくなってしまう純情派。当初そっけない態度を取るが,仲よくなるとイチャイチャしてくるまさに"ツンデレ系"キャラクター。ちなみにアニメ版では金と男が絡むと暴走する強欲キャラへとアレンジが入り,エンジェル隊一番のトラブルメーカーとして,さまざまな事件を引き起こす。(CV:田村ゆかり)

ミント・ブラマンシュ 会話ムービー(MPEG1・7.60MB)
ブラマンシュ財閥の令嬢。人の意識の表層を読み取るテレパス能力を持ち,幼いころから人の心の内面を見てきたため,一見人当たりが良さそうに見えて,実は軽い人間不信に陥っているらしい。着ぐるみと駄菓子が大好きという子供っぽい一面を持つ。アニメ版では着ぐるみマニアとしての一面が強調され,仲間を平気で計略に掛けるブラックな面も付加された模様。第3期以降ではどういうわけか欲深さもプラスされ,ランファ,フォルテと共にトラブルメーカーの道を驀進中らしい(CV:沢城みゆき)

フォルテ・シュトーレン 会話ムービー(MPEG1・6.84MB)
隊のリーダーで冷静な判断力を持ち,まとめ役として力を発揮する。アンティークの銃を集めるのが趣味で,実際に撃つことも好む。基本的には面倒見のいい性格だが,私生活では大人の女性としての雰囲気とオッサン臭い雰囲気の両方を持つ。アニメ版では拳銃マニアとしての一面が強調され,ランファやミントと同じく本能に忠実な欲深キャラにアレンジされている。何かあると所構わず発砲し,被害担当のキャラすら用意されている様子(CV:山口眞弓)

ヴァニラ・H(アッシュ) 会話ムービー(MPEG1・4.50MB)
経歴に不明な点が多い謎の少女。ナノマシンを使用した医療技術を身に付けており,ナノマシン制御のため,無口で無表情でいることが多いものの,暇があれば率先して他人の手伝いをする心優しい性格。アニメ版では信仰している宗教の怪しさがグレードアップし,部屋でずっと祈っているかと思えば突然意味不明な行動に出るという,香ばしさがウリとなっている。第3期以降は不思議少女としての一面に加え,一風変わった行動で新種のギャグキャラとしての地位を確立したらしい(CV:かないみか)

烏丸ちとせ 会話ムービー(MPEG1・7.93MB)
MLより参加のエンジェル隊新メンバー。名門士官学校の出身で,情報処理・暗号解析能力に優れる和風少女。故郷に伝わっていた弓道を嗜んでおり,遠距離からの狙撃能力も高い。能力は高いが新人ゆえ場数を踏んでいない脆さも持つ。感動したことがあるとメモを取ったり日記に書き留めようとする癖があり,実は隠れ"天然ボケ"キャラ。アニメ版ではゲームと正反対のブラックな性格で,思い込みが激しく努力を嫌い,まったく構ってくれなかったエンジェル隊を倒すべく日夜頑張っているとのこと(CV:後藤沙緒里)


 ゲームのプレイアビリティを担うストラテジーパートは,指揮官としてエンジェル隊に指示を出すリアルタイム戦闘だ。紋章機には接近戦主体で軽装甲,足は遅いが重装甲/高火力といった機種ごとの特性があり,それを考慮に入れつつ指揮を執る。難度はさほど高くないので,例えば最初の戦闘では何も言わなくてもそのまま勝ってくれるが,次第に適切な指示が不可欠になっていく。
 戦闘中には敵機の撃墜などでパイロットの気力ゲージが上がっていき,100%に達すると必殺技が使えるようになる。スーパーヒーロー(いや,ヒロインか)たるもの,ゆめゆめ初っ端から大技を繰り出してはならないのだ。この必殺技は,一度に複数の敵を撃墜できるほど強力だが,ここで大きな意味を持つのが,アドベンチャーパートでの好感度である。好感度が高いと気力ゲージの上昇ペースが大幅に速まるため,事前にイチャイチャすればするほど活躍してくれるという,たいへん前向きな循環となるのだ。

GA001:ラッキースター。ミルフィーユの乗機。あらゆる距離に対応した武装と防御を誇るが,機体バランスが極端に悪く乗りこなせるのはミルフィーユだけ。必殺技は「ハイパー・キャノン」 GA002:カンフーファイター。ランファの乗機。機動性に優れ,接近戦用の武装をメインに搭載する高機動戦闘機だが耐久性が低く,遠距離の敵は苦手。必殺技は「アンカークロー」 GA003:トリックマスター。ミントの乗機。電子戦を得意とする特殊戦闘機で,パイロットのテレパシー能力と組み合わせることで高い索敵能力を発揮する。必殺技は「フライヤーダンス」

GA004:ハッピートリガー。フォルテの乗機。重装甲/高火力で攻撃に特化した重武装機。本来は後方支援用だが,フォルテの性格設定ゆえ前線に出てくることが多い。必殺技は「ストライクバースト」 GA005:ハーベスター。ヴァニラの乗機。修理機能と防御性能に優れたサポート用機。機体前面にナノマシンを収納,散布することでほかの機体の応急処置を行える。必殺技は「リペアウェーヴ」 GA006:シャープシューター。ちとせの乗機。ロングレンジからの狙撃を得意とする長距離攻撃戦闘機だが,機動性が低く防御面に不安があるため,接近戦闘には向かない。必殺技は「フェイタルアロー」


各紋章機に指令を与えると,このように目標指定用の全体マップが現れる。これを見て敵艦などの位置を把握し,紋章機に適切な指令を与える
 さてストラテジーパートでもう一つ見逃せないのが,戦闘シーンの3D描画だ。意外に思う人も多いと思われるが,「GALAXY ANGEL」の3Dグラフィックスは国産ゲームとしてトップクラスのクオリティを誇る。多数のビームやミサイルの爆発エフェクト,それらがきちんと光源処理されて宇宙船に当たる光,落ちる影などはなかなかの見ものである。

 その代わりPCの要求スペックも高く,歴代3作とも発売時点でハイエンドに近いビデオカードを使わないと,高解像度/フルエフェクトで楽しめなかった。筆者がRADEON 8500 PRO,RADEON 9700 PROを購入した時期が,第1作およびMLのリリースと重なるという噂もあるが,えー,我が国としてはコメントを差し控えたい。今,RADEON X800 PROを何に使っているかについても同様である。
 それに関連して,最新作ELの重要な話を。この作品はDirectX 9の32ビットHDRレンダリング設定を素直に利用しているらしく,NVIDIAの前世代ビデオチップGeForce FXシリーズで動かした場合,有効パイプライン数が半分になり,発揮性能が製品クラスで一段ずつ落ちてしまう。最新のGeForce 6シリーズでは解消しているが,ATIテクノロジーズ製品では起きないだけに分かりづらい。
 2年前に「リアルタイム32ビットHDRレンダリングは現時点で実用的か?」という哲学論争を繰り広げ,「無理だから24ビットに変換して疑似処理する」道を選んだATI,「無理だから16ビットの利用を推奨し,優先する」道をとったNVIDIAでも,まさかエンジェル隊にツケが回されようとは,思いもよらなかったに違いない。

 ともあれギャラクシーエンジェル3部作は,いたって素直なラブコメと,手軽にプレイできるリアルタイム3D宇宙戦闘(これ自体国内では貴重なのだが)の二本柱で成り立つ,プレイアブルな好ゲームなのである。Playstation2版も2005年2月24日(木)には発売される予定で,今回紹介したPC版にはないイベントCGが大量に追加されている,PC版のオープニングテーマを歌う佐藤裕美さんの新曲「終わりなきPrelude」がエンディングテーマに採用されているなど,新規要素も盛り込まれている。ファンにはこちらも見逃せないだろう。

戦闘ムービー(1分29秒・MPEG1・40.3MB)
※実際の作品では,フルボイス,BGM付きです。

戦闘パートのメイン画面。視点はマウスでズーム/移動でき,キレイな3Dエフェクトを存分に鑑賞できる。右上にマップ全体,左下には指令用のアイコンが表示されている


(133MB)

■■柿島真治(ライター)■■
データベースプログラミング,居合い抜き,キャラクターゲームと,守備範囲が広いんだか狭いんだか分からない好青年。担当編集と机を並べて仕事をしていたこともあるらしいが,今そのことを覚えているのは6人くらいなものなので,秘密は墓場まで持っていくことにしよう。どこでキャラクターゲームの因果な道に入ったかは,もう少し大きくなってから教えてもらうことにしたい。
タイトル GALAXY ANGEL Eternal Lovers
開発元 セタ 映像コンテンツ事業本部 発売元 ブロッコリー
発売日 2004/08/20 価格 9240円(税込,通常版)ほか
 
動作環境 OS:Windows 98/2000/Me/XP(+DirectX 9.0b以上),CPU:Pentium III/500MHz以上[1GHz以上推奨],メインメモリ:128MB以上[256MB以上推奨],グラフィックスチップ:DirectX 9.0b以上対応,グラフィックスメモリ:8MB以上,HDD空き容量:2GB以上[3GB以上推奨]

(C)BROCCOLI Illust/Kanan