― 連載 ―

駒都えーじ氏の画風「ギリギリズム」がよく分かるイベントグラフィックス。よく見るとこのシチュエーションでは見えていてもおかしくないものがない……
 今回取り上げる作品は工画堂スタジオの「蒼い海のトリスティア」。オリジナルの発売は2002年と少々前になるが,昨年(2004年)12月17日にリパッケージ・廉価版が発売され,この春には続編の「蒼い空のネオスフィア」も登場する。

 プレイの目標は,寂れてしまった都市を復興させ,発展させること。といっても「シムシティ」のようにダイレクトな都市計画ではなく,今ある食堂やら商店やら工房やらといった施設に新開発の商品をパテント供給し,収益性を向上させていく。
 一般にキャラクターゲームには,プレイヤーが男性役になって好意の獲得を目指す"恋愛ゲーム"と,女の子側を操作してその(けなげな・キャピキャピした・見ていて心配になる,などお好みで)活躍っぷりを堪能するゲームがあるわけだが,この「蒼い海のトリスティア」は後者に属する。
 主人公である14歳の女の子ナノカ・フランカを操作して街の復興に尽力させ,その過程で展開される"クエスト"的なイベントや,キュートだったりコミカルだったり,ちょっとシリアスだったりするエピソードを,イベントグラフィックスおよびキャラクターボイス付きの掛け合いで楽しむのである。

ゲーム中で発生するイベントでは,専用のグラフィックスが表示され,エピソードが展開する。これはナノカとネネがネネの経営するレストランのために料理を作るイベント ゲーム中には自社パロディから科学ネタまで,ムダに濃いいネタが意図的にちりばめられている。それにしても,チェレンコフ光って……。原子力事業団も真っ青である 「トリスティア どきどきおぺれーしょん」のメインはタイピングアクションアドベンチャー。トリスティア本編では語られなかった事件(……後ヅケ?)をめぐるストーリーとなっている


 主人公は伝説の発明家/都市プランナーの孫娘であり,祖父の代理として海上都市トリスティアにやってくる。だが,さすがに地元の人々は14歳の少女をいきなり信頼できるわけもなく,失望の色が隠せない。そのハンディキャップを持ち前の明るさと発明のウデで乗り越えていくのが序盤の展開だ。

 主人公を取り巻く面々は,ナノカの才能をいち早く認めてバックアップする司祭のレイグレット,地元の有力商会の会長を務める少女フォーリィ,ナノカを慕ってトリスティアに来た後輩のネネ,そして海の底から引き上げられた箱の中で眠っていた記憶喪失の少女ラファルーなど。「最近よく見る,オトナ+メガネ+酒飲み」,「勝ち気なリーダータイプ」,「過度になついている妹分+お嬢様」,「いわくありげで無口なコ」と,いずれも国際社会に名誉ある地位を占める方々だ。
 そして,ナノカのお供(=お目付役)のしゃべる狼型人工生物スツーカや,巨大ゴーレムのテンザンといった男性(?)サポートキャラが脇を固める。立場上発言の多いスツーカさんは,主人公の性格と対をなす皮肉屋&悲観主義者だが,もちろん"犬呼ばわり"されて小腹を立てるのも芸のうちである。

 序盤から中盤までのストーリーは,駒都えーじ氏がデザインを担当するキャラクターグラフィックスにマッチしたほのぼの&ユーモラステイスト。ネズミ退治の依頼に,モンロー効果(対戦車成型炸薬弾の根幹技術。14歳の女の子と成型炸薬……うーん)を応用した地雷を開発するなど,突っ込みどころ満載のイベント/ミッションがそこここで展開され,会話の端々には思わずニヤリとできる(かもしれない)小ネタが仕込まれている。
 そして街が復興するにつれ,そもそもトリスティアが寂れる原因となったドラゴンの襲来や先文明の遺跡の謎が,徐々に明かされていく。街の発展方向によって語られる物語も変わる(分岐する)という,意外に凝った造りのゲームなのだ。

ナノカ・フランカ

主人公。大発明家プロスペロ=フランカの孫娘で14歳。トリスティア復興を依頼された祖父の代理としてやって来る。明るく元気で前向きと,典型的な主人公タイプ。手にしているのは万能工具「スプレンデッドインパクト」で,どう見てもポップな巨大トンカチなのだが,まあドクロちゃんでいう金属バットのようなものなので,あまり気にしないこと。(CV:川澄綾子)

フォーリィ・キャラット

トリスティアにあるキャラット商会の若き会長。意地っぱりな半面,屈託のないカラリとした気性で,ちょっと勝ち気な15歳の少女。キャラット商会長としてナノカに復興事業に関する依頼をしてきたりするが,往々にしてナノカの巻き起こすトラブルに巻き込まれ,受難が続く。ある意味,怒りっぷりが見せ場のキャラクターかも。(CV:大野まりな)

ネネ・ハンプデン

ナノカが通っていた帝都のジュニアアカデミーの生徒で12歳。ナノカを慕ってトリスティアにやって来る。帝国でも五指に入る資産家の娘であり,わずかに入った髪の"縦ロール"はその証であろうか。いろいろな面でナノカの仕事を助けるのだが,慕い方がちょっとアブない方向へ行っているような……。(CV:野川さくら)

レイグレット・クタニエ

トリスティアにあるリュナント神殿の司祭で19歳。細かいことにこだわらないさっぱりとした気さくな性格で,実は大酒飲み。ナノカの才能にいち早く気がつき,その才能の信奉者となって陰から支える。街との因縁をめぐって,腹に一物ありそうな"オトナ"キャラだが,それにしても19歳ですよ,お客さん。(CV:幡宮かのこ)

ラファルー

海から引き上げられた箱の中で眠っていた謎の少女。実は記憶をなくした先文明の人工生命体。現在の世界に関する知識が乏しいためかあまりしゃべらず,物事を傍観するような言動の多い,業界で何人めか分からない"綾波"さんである。正体を知っているのはナノカとネネ,それにスツーカとテンザンのみ。なりゆきからナノカの工房を手伝うことになる。(CV:友永朱音)

スツーカ テンザン
ナノカの祖父が作り出した狼型人工生物。ネガティブな発言をしてはナノカに「めー」とか叱られている以上,「ワンちゃん」呼ばわりされるのも無理からぬところ。(CV:小杉十郎太) スツーカ同様ナノカの祖父が作ったゴーレム。命令があるとき以外めったに口を開かないうえ,しゃべる言葉を理解できるのはスツーカのみ。まあ,ゴーレムだしねえ。(CV:???)


ゲームのメイン画面になるナノカの工房。ここでアイテムの研究や作成を行い,町に出て材料の買い出しや作成したアイテムの売り込みを行う
 工房士のナノカ・フランカことプレイヤーは,さまざまな材料を「研究」して,新商品や営業支援アイテムを発明し,その製造ノウハウと販売権を,街にあるお店に安価でパテント売りしていく。そうしてお店を繁盛させては街の景気を盛り上げてゆくのである。平成不況対策にも「ふるさと創生」にも活躍できるであろうパワフルな娘さんであり,魔法少女のステッキよろしく抱えた巨大なハンマーはダテじゃないのである。
 アイテムの発明とサンプル作成には材料が欠かせないし,制作に失敗することもあるので,その費用をパテントの売り上げでまかないつつ,発明に勤しむ。
 発明したアイテムは売り込める店の種類が決まっており,価格もそれぞれ異なるが,ある店が繁盛すればその分野は儲かるということで,周囲には同業種が増えていく。ここがこのゲームにおける街づくりのキモで,ただ自分のパテントビジネスを拡大すればよいというものではない。どの街区をどのようにするのか(商業地区,工業地区など)という計画性が欠かせないのだ。

 街が発展していけばパテント支援だけでなく,街の予算を使った公共施設のプランニングもミッションに入ってくる。これもアイテムと同じように工房で材料を使って「建設計画書」を作成し,市庁舎に売り込むという形をとる。
 街の発展はステータス画面でも確認できるが,普通に町中を移動するときに強く実感できる。寂れているうちは空き地が多くて店はまばら,出歩く人達も少ないが,栄えてくれば人出が増え,空き地は新しい建物で埋まっていく。プレイヤーの努力と工夫の成果が目に見える形で実るのは,プレイ感覚として重要なところだ。

 建設/開発ゲームで陥りがちなワナとして,ある程度発展してくるとプレイが退屈なルーチンワークと化してしまうことがあるが,本作では街の発展につれてストーリーに関連したさまざまなイベントが発生するため,それが更なる開発のモチベーションとなる。このあたり,同社作品「リトル・ウィッチ パルフェ」以来の女の子要素の取り扱いと,それを通常のゲームシステムに組み込む「火星計画2」以来の試みが生きているのかもしれない。

 といったわけで「蒼い海のトリスティア」は,アイテム発明&都市復興という一味違った切り口のライトな開発ゲームと,ほのぼの,ときにシリアスなアドベンチャー要素を併せ持つ,オリジナリティの高いゲームである。
 「プロジェクトX」の流行や「ものづくり大学」構想に見られる,"ポストモダンな消費減退を近代工業のままの発想で乗り切れるかのような楽観主義"に加担しているような気がしないでもないが,まあキャラクターゲームでそこまで小難しい理屈をこねることもないだろう。PlayStation 2版の発売も決まったことだし,素直にナノカ・フランカの今後の活躍に期待したい。

 最後に「トリスティア どきどきおぺれーしょん」について。2003年7月18日に単体パッケージとして発売され,その後「蒼い海のトリスティア 限定DVDパック〜ネオスフィア予習編」にも収録されている一種の"ファンディスク"だが,これはキャラクターゲームの関連製品としてよくある,壁紙集やボイス集,オリジナルゲームの形をとったサイドストーリーやセルフパロディが収められたものだ。本編をプレイせずにいきなりこちらをやってしまうと,ネタ的に置いてけぼりを喰らうので,くれぐれも注意しよう。

トリスティアの全景。ここで目的のエリアを指定することで,ナノカが移動する 開始直後の街の様子。建物や店も少なく,出歩いている人の数も少ない ある程度復興した様子。建物や店も増え,出歩いている人も多くなっている

工房ではアイテムを研究したり,研究によって発明したアイテムを作成したりできる。アイテムの研究にはお金が必要なので,発明品をお店に売り込んでお金を得る必要がある

街にあるお店ではアイテムの材料を買える。また,作成したアイテムのパテントをお店に売り込むことで,そこを繁盛させられる。繁盛していくとお店のレベルが上がり,より高次の需要が開けるほか,町が活気づいていく


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■■柿島真治(ライター)■■
20世紀末ごろには,プログラミングやハードウェアベンチマーク方法の考案に活躍していたと伝えられる好青年。今やこの記事のライター兼ブレーンとして確保されている身だというから人生分からない。彼がこの記事を書いていることを知って深く納得するヒトが世の中に6人くらいいそうだが,教えてあげるべきだろうか?
タイトル 蒼い海のトリスティア
開発元 工画堂スタジオ 発売元 工画堂スタジオ
発売日 2002/07/20 価格 オープンプライス
 
動作環境 Windows98/Me/2000/XP 日本語版が動作することがメーカー保証されているPC(動作クロック300MHz以上のCPU推奨),メモリ 64MB以上,VRAM 8MB以上,DirectX 7.0以降

(C)2002.KOGADO STUDIO.INC./KUMASAN TEAM.INC.