― 連載 ―

 

キャラクターゲーム考現学 第20回
Dear Pianissimo
ミュージックアクションパートをプレイアブル要素としたノベル作品,工画堂スタジオの「Dear Pianissimo」

※実際の画面解像度は640×480ドットです。

 キャラクターゲームといえば限定版,限定版といえばフィギュアである。もっとも,過去には12体ものフィギュアを同梱させたり,そのあまりの超絶な出来から「邪神」と恐れられたフィギュアが存在したりと,世の中なかなかうまくいかないもの(?)だったが,今回紹介する「Dear Pianissimo」は,なんとフィギュアの中にソフトが収納された状態で販売される製品だ。正確に言うと,ソフトを収録したUSBメモリ(128MB)を,誰もがネコっかわいがりしたくなる(?)13cmのフィギュアに内蔵して販売するという,ユニークな仕様のゲームである。工画堂スタジオの直販サイトであるオムニショップ,そしてゲーマーズでは,オリジナルカラーのバージョンも用意されている。
 このフィギュアの元となった,ゲーム内に登場する妖精キャラクターは,ピアノを弾く主人公の横を漂っているという設定なので,PCの前でキーボードを叩くプレイヤーとゲームの主人公をシンクロさせる役割も担っているのが,芸の細かいところといえようか。

 

 

死後の世界で学園モノ
メイド服姿のナギと,ビザールな女王様ルックのスミカ。容赦ないコメントは,シナリオライターの自戒の念か,セルフパロディか

 本作の舞台は,現世とあの世の狭間にある学園「コンサヴァトリ」である。それゆえ,出てくる人物のほとんどがこの世の者ではない。主人公達は交通事故に巻き込まれ,そこに一時滞在することとなる。そして,二人一組で演奏または歌唱で対決する音楽コンクール「レコンコルソ」が6日後に開かれ,それに勝てば現世に甦れること,その特訓のためにコンサヴァトリに留め置かれていることを知らされる。
 集められた人間は30人ぐらいだが,小説/映画「バトル・ロワイアル」のように全員に個性が与えられてその一人一人の死闘が描かれているわけではなく,「浪人生風情」「ヒロシまたはトオル」「ヤ●ラちゃん」といった,主人公が第一印象でつけた呼び名だけで本名も顔も出てこない脇役,本名が判明してもやはりグラフィックスが用意されていないキャラクターなどがほとんどだ。

 

主人公の妹,イオリとニア。一枚絵まで用意されているにもかかわらず,主人公の回想にしか登場しない,ある意味カタログモデル的なキャラクターである

 実際,ストーリーに絡むキャラクターは一部に限られていて,生徒側が4人,学園側が2人,妖精1匹で,あとはその他大勢という扱い。主要キャラクターはシリアスもギャグもこなして大忙しである。 それでも,メインヒロインを筆頭に黒髪ロング,ボーイッシュ,天然ボケ,メガネ(+女教師),幼女,変な語尾,さらにメイド服,スクール水着,女王様服と,どう見てもある種のクローズドコミュニケーション様式に立脚した“属性”が,無駄なく取り入れている点,そしてキャラクター名もその例外でない点には注目しておくべきだろう。

 

暮里菜葱(クレサト ナギ)

ストレートの黒髪美少女という,ヒロインの王道の一つと評すべき少女。レコンコルソでシュウの対戦相手に指名される。普段はおとなしいが,怒り出すと大阪弁でまくし立てる,芯の強い少女……という言葉だけでは語ってはいけない一面も持っている。声優志望だが,凄まじい音痴。

 

鳴海澄香(ナルミ スミカ)

シュウやナギと同年代の少女。ショートカットで強気でボーイッシュという,ナギと対比するために出てきたようなキャラクターで,ナギとは仲良くなったり,喧嘩したり。とにかく直情的に突進するタイプで,性格がひねている面もあり,主人公を罠にかけては騒動に引きずり込む疫病神的な一面も。

 

花山田先生

主人公達の授業を受け持つ,タイトな白のスーツに身を包んだ女教師。コンサヴァトリの教師ということで,当然人間ではないが,本作唯一のメガネっ娘という強いアドバンテージがあるので,不問に付そう。年齢のことはタブーになっていて,そのことを口にした者には厳罰が科せられる。

 

ぴあのたん

ピアノの妖精・ピアニッシモ。主人公がコンサヴァトリの近くのアレ横丁(闇市場っぽい場所)で入手したアップライトピアノから現れた,小さな妖精。自分のことを「ぴあのたん」と呼ぶことを強要し,自分でも語尾に「ですたん」を付けて話す。記憶喪失だが,主人公およびナギとの演奏練習で,記憶が少しずつ甦ってくる。

 

学園長

どう見ても可愛らしいぬいぐるみにしか見えないが,決して主人公だけにそう見えるとかいう設定ではない。口のきき方は横柄で尊大,ハナヤマダ先生が畏怖し,平伏する唯一の存在である。ハナヤマダ先生同様,うるさい相手の口に,瞬時にバッテン絆創膏を貼り付ける特技を持っている。

 

嵩科 愁(タカシナ シュウ)

本作の主人公。若い女の元に入り浸る父親を見限り,可愛い二人の妹を自分の手で養おうとアルバイトに明け暮れる,格差社会の犠牲ともいうべき高校生。それでもこすっからい部分がなく,公正で正義感に溢れた性格であり,さらに妄想力が豊かで自分の世界に入り込みがちという,主人公キャラクターの鑑である。

 

辺 徹郎(ホトリ テツオ)

主人公達より一回り年上の青年で,小児科医の卵。スミカの対戦相手に指名される。高校生トリオに比べると出番は少ないが,まだ24歳なのに主人公に貴重な助言を与えるという,「横丁のご隠居」役を担当させられる,難儀な人である。

 

パニクって駄々っ子状態で暴走するナギ。主人が追うから逃げると子供の無敵論理を主張する姿は,正統派ヒロインのイメージを破壊するに十分だが,これはまだ序の口 脇役のほとんどは名前だけで,姿を見せない可哀相な扱いである。強いて推測すれば,画面右上の髪を束ねたキャラクターが「ヤ●ラちゃん」かもしれないが

 

「ぴあのたん」という呼び方一つで激しい応酬を繰り返す主人公とぴあのたん。今のご時勢(?),仙台弁が「りゅん」であることを認めないと言っても通じません。たぶん ブチ切れたナギの大阪弁に,ちょっかいを出したスミカもたじたじ。ちなみになぜナギが大阪弁をしゃべるかというと,幼少の頃に住んでいたからである(ここ,試験に出ます)

 

 

ミュージックアクションでノベルを読み進める
ミュージックアクションパートのメイン画面。次々と流れてくる音符に対応する文字キーを,タイミングよく押すスタイル

 本作は「ミュージックアクションアドベンチャー」と銘打たれているものの,ゲーム中にストーリー分岐は存在しない。一本道のノベルものと捉えたほうがよいだろう。また,最近のゲームにしては珍しく,本作にはキャラクターボイスがない。これはプログラム全体をUSBメモリに収録するために,容量を圧迫する音声を省いたということだろう。
 本作でボイスが使われているのは,ナギの歌が流れるミュージックアクションパートのみである。歌うは後藤邑子(ごとう ゆうこ)氏。主人公が「すっげえ音痴」と評するナギの歌がどんなポンコツな歌になるのかと期待していたら,それはさすがになく,主人公の演奏時には超絶美声になるという設定で,普通の歌しか聴けなかった。残念なようなそうでないような。るんらら〜♪

 ミュージックアクションパートは,画面右から流れてくる音符に書かれている文字「A」「S」「D」「F」「J」「K」「L」「+」つまり,QWERTY配列キーボードでいう,ホームポジション列の文字キーを,ピアノの鍵盤に見立ててタイピングする,というスタイルだ。要は工画堂スタジオの「エンジェリック・コンサート」「シンフォニック=レイン」などのミュージックパートと同じで,これらに慣れている人ならば,まったく迷うことはないだろう。
 だが筆者は生粋の「かな打ち」ユーザーであり,「ち」「と」「し」「は」「ま」「の」「り」「れ」と表示してくれない音符群に大苦戦を強いられた。全国のかな打ちユーザーを勝手に代表して厳重なる抗議を申し上げたいところだが(笑),ミュージックアクションパートは難易度を3段階から選択可能だし,いつもどおりスキップもできるので,よしとしよう。また,これも従来の同系統の作品と同様に,インターネットランキングにも対応している。

 前述のとおり,本作は現世とあの世の狭間の学園「コンサヴァトリ」で,敗者ならぬ死者復活戦である「レコンコルソ」に挑戦せざるを得なくなった主人公達の物語である。少々強引な設定の気もするが,「それなら麻雀で勝負よ」の一言で頭を切り替えられる人,身長133cmの4頭身娘が自分は18歳だと主張すれば納得できる人なら,とくに問題はないだろう。
 一本道のノベルなので,攻略できるヒロインが決められていて選択の余地がない点に不満は残るものの,そのぶん主人公とナギに絞って進められる物語は地に足が付いて過不足ない感じ。一つしかない命の争奪戦,定められた「殺し合い」というテーマを取り上げながら,「泣きゲー」「鬱ゲー」といったお約束に進まず,ぴあのたんの正体とともにきれいに収束していくストーリー,そして気持ちのよい余韻の残る作品に仕上げた点は,評価に値しよう。

 

河原で歌っているナギを見かけた,主人公の一言が「すっげえ音痴」。音楽を題材にしたゲームのヒロインとは思えない設定である 主人公とナギが死ぬ原因となった事故。世の中には12人の幼馴染みを残してトラック事故で死ぬ人もいるのだから,本当に恐ろしい

 

日本の教育機関から絶滅したはずのブルマー姿で屈伸運動をするナギ。仕掛け人は,下で悪魔の笑いを浮かべているヒトである 一見したところ,サスペンスシーン。この後屋上から叩き落とされる主人公だが,死ぬことができず,あらためてこの世界が生者の世界でないことを実感させられる ナギのあまりのけしからん服装に盛大にコケる主人公。一応コンサヴァトリの歴史を伝えようとハナヤマダ先生が昔着た衣装を持ち出してきた,というのが表向きの理由

主人公の体操着入れに詰められて運ばれるのはいいが,13cmには見えないぴあのたん。また,身長が13cmだからといって,黒いトックリセーターを想像しないように ナルミから,「現世に戻れる薬」を見せられる主人公。ほかに頼る者のいない,自分の妹二人がどうなっているか気にかかっている彼にとって,それはあまりにも魅力的だったが コンサヴァトリに降る雪は,レコンコルソに敗れた者の魂のかけら。彼らを納得させる演奏がなされたとき,その雪は黄金色に輝くという。そして明日は,主人公達の最後の日だった

 

 

■■天野譲二(フリーライター)■■
音ゲーに強くはないが,コンシューマタイトルを中心にしたキャラクターゲームと,そこでのお約束には一家言あるゲームライター。アニメはそれほど追いかけていないものの,邦画にはめっぽう詳しいので,例えば作劇手法の歴史に関して,ときどきハッとさせられる発言があるのも,このヒトの特徴。プレイにまるで客観認識を要求しないキャラクターゲーム作品も,積み上げてみればそれ自身の歴史を描くことを,思い出させてくれるのである。
タイトル Dear Pianissimo
開発元 工画堂スタジオ くろねこさんちーむ 発売元 工画堂スタジオ
発売日 2006/08/11 価格 6800円(税込)
 
動作環境 OS:Windows Me/2000/XP(+DirectX 8.1以上),CPU:Pentium III/800MHz以上[動作クロック2GHz以上のCPU推奨],メインメモリ:512MB以上,HDD空き容量:300MB以上,USBポート

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