― 連載 ―

 

キャラクターゲーム考現学 第19回
機神飛翔デモンベイン
ニトロプラスの「機神飛翔デモンベイン」は,アドベンチャーゲーム「機神咆吼デモンベイン」のウリである巨大ロボット「デモンベイン」を,プレイヤー自ら操作できるのがポイントの,アクション&ノベルゲーム

 クトゥルー神話をモチーフにしたゲームは数限りなく存在するが,人名や地名などにちょこっとクトゥルー系の言葉を借りてみましたというレベルでなく,正面からストーリーに取り入れた作品となると,意外に少ない。
 そんななか,かつてクトゥルー神話を正面からモチーフにしたホラーアドベンチャー「沙耶の唄」(注:18禁タイトル)を世に送り出したニトロプラスが,クトゥルー神話を設定や筋立てに利用しつつ,今風のロボット+萌え少女のキャラクターアドベンチャーに仕立てたのが,「デモンベイン」シリーズである。今回紹介する「機神飛翔デモンベイン」は,アドベンチャーゲームだった前作「機神咆吼デモンベイン」からなどを引き継ぎつつ,キーフィーチャーである巨大ロボット「デモンベイン」を使ったアクション戦闘が楽しめるようにした,アクション&ノベルタイトルだ。アドベンチャーでなくノベル,つまりシナリオは基本的に一本道なので,仕立てとしてはステージ制のアクションと捉えたほうがよい。少々ダークな設定も含んだファンタジーライトノベルを,アクションステージをクリアしていくことで視聴する,というわけだ。
 しかし……アメリカはロードアイランド州プロヴィデンスの墓地に眠る故・H.P.ラヴクラフトも,自分の妄想が,よもやこんな別種の妄想に形を変えるとは,思いもよらなかったであろう。

 

 

萌える「ネクロノミコン」,目に見えるデウスエクス・マキーナ
一緒にお風呂に入る九郎とアル。割と冒頭に用意された“ツカミ”のシーンだが,きわどくもなんともないので,過大な期待はしないように

 本作に登場するキャラクターは,ゲームオリジナルの人物と,クトゥルー神話でお馴染みの人物に大別される。お馴染みといっても,ヘンリー・アーミティッジ,フランシス・モーガン,ウォーラン・ライスなど,彼らが登場した小説「ダンウィッチの怪」での描写と比較的違和感のないキャラクターもいるが,亜鉛が大いに不足していそうな体型の美少女に擬人化された伝説の奇書(というゲーム内設定の)「ネクロノミコン」,美少女ロボットを連れたギャグメーカーにされてしまった死体蘇生者ドクター“ハーバート”ウェスト,ハードロックのBGMに乗せて空を飛ぶイケイケ爺さんになっているラバン・シュリュズベリィ博士など,ゴシックホラーとしてのクトゥルー神話を愛する人がコメントに困りそうな,コミカルアレンジが施された人物も盛大に登場。パロディ的な魅力を形作っている。
 全体のストーリーとしては,ハードボイルドのパロディとしてよく見られる,怠惰だが熱いハートを持った二枚目半の主人公と,アクティブかつ自信家だがどこかボケた美少女のコンビが,仲良く喧嘩しながら,周囲の人々と共に巨大な悪に立ち向かうというお話であり,そうした枠組みで見たとき,特別にクセのあるキャラクターはいない。
 おいしいところで登場する渋い脇役,お前を倒すのは俺だと言って主人公を助けるライバル役,主人公のピンチを救おうと集結してくる周囲のキャラクター達。そして,主人公と対立する鼻っ柱の強い奴が独断専行で敵の内部に突入して危機を招く……といった風に,お約束のキャラクターと展開が目白押しで,まさにアニメ感覚の作風。ある意味安心して見られる,予定調和なドタバタ喜劇なのである。

 

 

大十字 九郎

本作の主人公。アル・アジフの主人にして,デモンベインのパイロット。覇道財閥の当主である覇道瑠璃の依頼を受けて,アーカムシティの怪事件を追っている私立探偵で,カスタムガン「クトゥグア」と「イタクァ」の二挺拳銃に加え,アルの呪法「マギウス・スタイル」で超人的なパワーを得て,魔物と戦う。(CV.伊藤健太郎)

 

アル・アジフ

大十字 九郎のパートナー。魔導書「アル・アジフ」(翻訳書名「ネクロノミコン」)の化身であり,さまざまな呪法を用いるほか,鬼械神デモンベインを召喚する能力を持つ。幼い外見だが性格は傲岸不遜。自分が原因で九郎が変態呼ばわりされれば,「おクスリ……ちょうだい」と悶えて見せるノリツッコミぶりである。なお,「アル」は男性形定冠詞じゃないの? というツッコミは禁止の方向で。(CV.神田理江)

 

九朔

アーカムシティに現れた,謎の少年。二挺拳銃と二振りの剣を使うことから「二闘流」(トゥーソード/トゥーガン)の異名を持つ。生真面目な性格で,騎士を自称して魔物と戦うが,九郎に対しては強烈な敵愾心を持ち,デモンベイン・トゥーソードを操る。外観は少女のようであり,美少年系いじられキャラクターとしての素質十分である。(CV.斎賀みつき)

 

アナザーブラッド

ミスカトニック大学図書館から「ネクロノミコン」を盗み出して九郎たちの前に現れた,瞳や髪から衣服まで真っ赤っかな少女。デモンベイン・ブラッドを操り,執拗にアル・アジフをつけ狙う。本作の謎の鍵を握る存在で,後半明らかになるおぞましい過去と合わせて,一人で本作をエロくしようと奮闘している健気な(?)娘。(CV.神田理江)

 

覇道瑠璃

覇道財閥の若き総帥……といえば聞こえはいいが,要は激務を嫌がった父親にその地位を押し付けられ,日々書類仕事に青春をすべて奪われている乙女である。有能にして強力な執事・ウィンフィールドと3人の喧しいメイドを抱えているさまは,どこかの吸血鬼退治機関の局長か,どこかの華劇団の支配人のようでもある。(CV.麻見順子)

 

ラバン・シュリュズベリイ

オーガスト・ダーレスの連作長編小説「永劫の探究」の主役で,純然たる人間のキャラクターとしては,クトゥルー神話最大のヒーロー。本作ではハードロックをBGMにアンブロシウス(バイアクヘー)を操る,イケイケ爺さん。自著「セラエノ断章」が擬人化した少女ハヅキと共に行動するので,九郎に「幼女侍らした爺ィ」と罵られている。どっちもどっちな気もするが。(CV.大塚明夫)

 

左からシュリュズベリィ博士,ハヅキ,フランシス・モーガン,ヘンリー・アーミティッジ,ウォーラン・ライス。平均年齢の高そうな脇役陣の中に咲く紅一点というか,萌えキャラ 「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」というよりも「ゾンバイオ・死霊のしたたり」シリーズのハーバート・ウェストといったほうが有名か? 悲劇と狂気の科学者も,こんなノリに 九朔のこの手が光ってうなる! 悪を倒せと輝き叫ぶ! そのほかにも,鉄人28号由来やら鉄腕アトム由来やらと,さまざまな小ネタが散りばめられている

 

「覚醒」し,執事やメイドたちに指示を出す瑠璃に対して浴びせられる,悪口雑言の嵐。能弁で口汚いキャラクターが多いのも,近年のアニメ的作品における一つのお約束か 前作の強敵,マスターテリオンも復活。言葉といい美形の設定といい「超電磁ロボ コン・バトラーV」のガルーダを思い出させる,伝統的なキャラクター造型である 消滅寸前の憂き目から復活した直後,猛々しく敵を罵るアル。このあと,横の九郎が「もうちと萌えキャラっぽく振る舞えッ」とつぶやく。業界に対するセルフパロディといえようか

 

 

動作する限り,必ずクリアできる親切設計(?)
アクションパートのメイン画面。左のロボットがプレイヤーの操作するロボット=鬼械神。デモンベインのみならず,ほかの鬼械神も操作できる

 本作は前作のアフターストーリーに位置する……というよりも,その立ち位置からほとんど外に出ていない。前作のストーリーは断片的に語られるだけでまとまった説明がないため,いきなり今作をプレイするとテレビアニメの最終回近辺だけを見たような気分になるかもしれない。その意味で,前作をプレイしていることが大前提になる位置付けの作品である。
 それは例えば,出てくる登場人物の相関関係や重要度などに大きく表れる。キャラクターに感情移入して一緒に泣き笑いするためには,本作単体ではいささか情報不足なのである。例えば冒頭に,前作のダイジェストを兼ねたムービーなど,ある程度充実した導入部を入れてくれれば,かなり印象も違ったろうとは思う。

 さて,クトゥルー神話を映像化した作品は多々あれど,高く評価できる作品は実のところ片手で足りるほどしかない。作品的な面白さとは別に,ゴシックホラーのメタファーともいえるクトゥルー神話を,納得できる映像や音楽で表現するのは難しいのである。
 その点,本作はロボットと美少女という,国産アニメ/ゲームの王道を歩みつつ,ストーリー部分にうまくクトゥルー神話を取り込むという方法を採っており,そのオリジナリティは評価できる。実際,旧支配者とロボットがビル街でぶん殴り合う姿が,意外なほど違和感なく絵になっていた点には,少々感心した。

 主人公九郎のデモンベインが登場するのはかなり後半ということもあって,本作ではほかの鬼械神も操作できるのが面白いところ。グラフィックスやメカデザインは,どれもそれなりに凝っている。ただし,空中戦でも上下移動がほとんどできず,動きが二次元的だったりして,本格的なロボット格闘ゲームと比肩できるレベルにはない。まあそもそも,「電脳戦記バーチャロン」や「アーマード・コア」シリーズなどと比較しても,それはそもそも酷な話だと思うが。
 一部にかなり凶悪な攻撃をしてくる敵もいるが,基本的に攻撃ボタン乱打の力押しでクリアでき,3回負けると,そのステージはスキップ可能になるという親切設計である。ゲームコンセプトとして“やり込み”に拘泥しているわけではなく,重要なのはあくまで「あのデモンベインに乗れる」ことなのだろう。
 美少女キャラクターにロボット,クトゥルー神話というモチーフの混淆ぶりを,どれかの要素に強くこだわって嫌う人でなく,“ネタ”というフラットな地平で楽しめる人に,前作とセット(ここ必須)でお勧めすべき作品だ。またシリーズとして捉えるなら,18禁作品からプレイステーション2全年齢版,その派生版がPC一般へという,メーカー自身による“迂回輸出”の結果が,一般PCゲームとしては注目すべきセールスに結実しているらしい点も,実に面白い構図といえるだろう。

 

アクションパートでは,さまざまな鬼械神を操れる。アクションの苦手な人には,コマンドの少ないアンブロシウスが比較的便利かも。各バトルは,「EXTRA」の「FREE FIGHT」でプレイできるが,格闘ゲームのように,相手を変えて……というプレイはできない

 

敵を倒すと,ほんのわずかな間だけ,必滅攻撃を促すサインが表示される。このとき[攻撃]+[魔法]ボタンを押せば,カットインが出て,派手な必滅攻撃が開始される アクションパートは,基本的に移動しまくって敵に接近し,攻撃ボタンを連打すれば,たいていの戦いは勝利できる。もちろん「FREE FIGHT」で華麗なテクニックを磨くのも自由だ

『ダンウィッチの怪』でお馴染み(?)の,旧支配者の一員も登場。オリジナルのイメージを崩さない,いい感じの異形ぶりである ボコボコにされるドクター・ウェストの破壊ロボ。静止画の枚数はかなりの量になるが,「CG LIBRARY」で見られるのはイベントが中心 主人公はアルの呪法の力を得て,マギウス・スタイルに変身する。このあたりはもうお約束として存在し,一見さんは置き去りである

 

 

■■天野譲二(フリーライター)■■
主としてコンシューマゲームタイトルを対象に,世界のかなり奥深くに隠れた名作を紹介したり,どう考えてもおかしいプレイ方法を書籍で披露したりしてきたゲームライター。ホラー映画/小説にも一家言あり,版権が不適切な人の手に渡ることで,二度と日の目を見なくなった海外作品について嘆かせたら,酒瓶が空いても止まらなそうな,愛に溢れた好男子である。
タイトル 機神飛翔デモンベイン
開発元 ニトロプラス 発売元 ホビボックス
発売日 2006/05/26 価格 DXパッケージ版:9975円,通常版:7875円(ともに税込)
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP

(C)Nitroplus


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http://www.4gamer.net/weekly/charagame/019/charagame_019.shtml