連載 : ゲーマーのための読書案内


ゲーマーのための読書案内

第1回:ユーラシア大陸の民は,いかにしてラッシュを成功させたか?
『銃・病原菌・鉄』 → RTS,文明シム

 

 世の中には,決して直接参考になるわけではないが,それを読んでいることでゲームのテーマやモチーフに対する興味が増すという特質を備えた本がある。また,ゲームのプレイ体験を踏まえて読むと,より面白く感じられる本もある。今週からスタートする連載記事「ゲーマーのための読書案内」では,そういった書籍を新旧にとらわれず紹介していく。どんなジャンル,どのタイトルと見比べると面白いかという論点とともに話題をお届けするので,ぜひ,読書&ゲームライフの参考としてほしい。

 

 

『銃・病原菌・鉄 ―1万3000年にわたる人類史の謎』(上)
著者:ジャレド ダイアモンド
訳者:倉骨 彰
版元:草思社
発行:2000年10月
価格:1995円(税込)
ISBN:978-4794210050

 

 今回取り上げる書籍は,ジャレド ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』だ。生物学や生態学,古人類学の知見を驚くほど広く援用して,ユーラシア大陸に住む人類がいかにして文明をリードする立場になったのかを明らかにするという,壮大な構想で書かれた上下2巻構成の本である。ピューリッツァー賞,コスモス国際賞を受賞しているので,名前は聞いたことがあるという人も多いだろう。
 鳥類の生態学を専門分野とする著者は,フィールドワークでニューギニアに滞在したとき,現地スタッフの一人から深刻な問いかけを受ける。「ヨーロッパ諸国の人々はいろいろな物を持っているのに,なぜ我々(ニューギニア人)にはそれがないのか?」と。また,筆者自身が年来抱えていた「16世紀にスペインがインカを滅ぼした。なぜ,インカがスペインを,ではないのか?」という疑問。著者はこの二つに対する答えを,先史時代に遡って地理的要因から見つけようとする。大陸の形と動植物の分布,人類の到達順序が,ユーラシア大陸の優位を決めたのだと。

 ユーラシア大陸は大きく,東西に長い。大きいので,大陸単位で見たとき作物化に適した植物も,家畜化に向いた大型動物も種類が豊富だったし,東西に長いので同じ緯度≒気候帯に属する地域が続き,移住にも文化と技術の伝播にも都合がよい。
 また,古人類学が明らかにしつつあるとおり,人類の祖先はアフリカで誕生し,中東地域を経てユーラシア各地に拡散していった。南北アメリカやオーストラリアに渡れたのは,舟の技術がある程度発達したあとだ。
 アフリカやユーラシアでは,人類があまり狩猟技術を発達させないうちに大型動物と接触し始める。動物達は,人間から逃れる術を時間をかけて身につけることで絶滅を免れ,これがのちに家畜動物の原種となる。それに対し,高度な狩猟技術を身につけたあとの人類が渡った大陸では,家畜候補の大型動物がほとんど絶滅し(オーストラリアで約4万年前),牧畜文化(約1万年,南西アジア発祥)が発達し得なかったのだという。
 こうして生じた農業/牧畜技術の差が蓄積することで,次第に北半球/ユーラシア大陸の優位が固まっていく。だが,格差の原因はそれだけではない。ヨーロッパ人が新大陸に進出した時点で,両者の運命を大きく分けたのは病原菌だった。

 今日世界で流行する新種のインフルエンザウィルスが,中国で飼われているブタに感染している種類の変形として生じることからも分かるように,人間の伝染病の多くは家畜を起源とする。牧畜を生活基盤とするヨーロッパ人は,生活を通してさまざまな伝染病に対する免疫力を身につけるようになったが,早期に南北アメリカ大陸に渡っていった人々の子孫には,その機会がなかった。
 コロンブス一行がアメリカ大陸から梅毒を持ち帰った話は有名だが,新大陸の住民がヨーロッパ人との接触で受けたインパクトは,その比ではない。スペイン王国が行った大規模な虐殺ですら,数としては問題にならないほど多くの死を,伝染病がもたらしたのだ。新大陸人類と旧大陸人類の出会いは,不幸なことに新大陸人類の大量死を招き,旧大陸の優位が確定する。

 世界各地/各時代における果樹とイネ科植物の分布や,大型動物の家畜適性と推定絶滅時期,そして人類の渡航時期など,さまざまな検証を重ねて結論を導く様子も十分に面白い。だがここで特筆したいのは,扱われる事態の進行が,まるでRTSや「シヴィライゼーション」シリーズのように,時間軸に沿って語られることだ。

 ある優位が次の段階での優位を生み出し,その積み重ねが大局を決める。優位に立つ理由は最初から勢力ごとに内在していたのではなく,マップ上のスタートポイントが初期段階での差を生み出し,その格差が時代を追って拡大していく。「木いちごが見つからなくてさぁ……」といった,「Age of Empires」シリーズのプレイヤーなら誰しも経験している事柄が,ある種の説得力を持って人類史を説明しているような,不思議な感覚が味わえるのだ。

 もっぱら環境要因とその展開に新たな光を当て,それ以外はごくあっさりと済ませている点が本書の限界ではあるのだが,それが逆に,根本のところで多様な発展パターンを想定していない現行のRTS/文明シムのコンセプトとマッチしている。どのプレイヤーにも勝利のチャンスを与えるゲームの原則と,個々の人類集団が持つ固有の能力が人類全体の歴史を決めたわけではないだろうという著者の考えが,シンクロした結果とでも,評すべきなのだろうか。

 

いやそれ,言い方逆ですから!

 

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■■Guevarista(4Gamer編集部)■■
無駄な読書の量ではおそらく編集部でも最高レベルの4Gamerスタッフ。どう見てもゲームと絡みそうにない理屈っぽい本を読む一方で,文学作品には疎いため,この記事で手がけるジャンルは,ルポルタージュやドキュメントなど,もっぱら現実社会のあり方に根ざした書籍となりそうである。


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http://www.4gamer.net/weekly/biblo/001/biblo_001.shtml