― 連載 ―

ベルアイルな女たち

第5幕 ヒルメロなオンナ

 「結婚式」という美しい時間を過ごし,さらにはベルアイルで1,2位を争う大切な要素,「子作り」まで一気に体験してしまったEmma。心なしか,その顔には母としての自覚が表れてきたような気がする。
 二人が宿屋の2階に消えたあと,5分間のログアウトを経て戻ってみれば,画面の左上に「妊娠アイコン」 がしっかりと表示されている(左下の妊婦服セット写真参照)。ビキニ姿で体を冷やしては赤子にも悪影響とばかりに,さっそく妊婦服に着替えたEmma。ゆったりと上半身を包む「レディAバートシャツ」はともかくとして,足元の「網タイツ」が妊婦服かと問われると難しいが,そこは「ベルアイル」が“そういうゲーム”だからだと理解してほしい。

 

Emmaが独自に考え出した妊婦服セット。妊娠中にS君の興味がほかの女性に移らないよう,という苦心の末に選んだ網タイツ姿は,涙を誘うものがある。いつでも実家に帰っておいで

ベルアイルの年間カレンダーは,1日がリアルタイムの1時間で進行するため,出産予定日は簡単に計算できる。できれば子供の出産には夫婦で立ち会って,喜びを分かち合いたいもの

この子にして,この親あり

 妊婦の心得としてEmmaに筆者が教えておきたいのは,カレンダーに出産予定日が記されていること。出産予定日になると,「妊娠」アイコンの横に「陣痛」アイコン が現れること。そして陣痛が始まったら,即座に夫と二人で病院に駆け込むことの3点だ。

 

 しかし幸福な新婚生活は,長く続かないもの。ましてベルアイル中の不幸を集めたような,この幸薄い顔立ちのEmmaが,前回「結婚」「妊娠」と幸せの絶頂で終わったというのに,今回までも幸せのままでいられるわけがない。

 

「Emma,きみに会わせたい人がいるんだ」

 

 いつになくニコニコしているS君の言葉に,またもやEmmaの乙女レーダーが激しく反応する。ま,まさか妊娠したEmmaを前に,新しい彼女「キュウちゃん」などを紹介するのでは……一瞬顔が曇るEmma。相も変わらずデリカシーのないS君は,早く早くとばかりに妊婦の袖を引っ張るではないか。

 

「母さん,これが僕の嫁さんのEmmaちゃんだよ」

 

「おっ……お義母様っ!?」

 

 よく見れば,目じりにピンときているキツい顔立ちの女性は,そこはかとなくS君に似ている。そう,この人こそ甘ったれ息子S君を生み育てた,お母様のミセスS。上から下まで舐めるようにEmmaのいでたちをチェックする視線は,まるで蛇のようだ。

 

「Emmaさん。あなた,カルガレオン出身なんですってね? それはそれは遠い“田舎”からボーダーへようこそ。都会ではいろいろと“しきたり”も違うけれど,早く馴染んでちょうだいね」

 

 へぇ〜。カルガレオンって田舎でボーダーが都会だったなんて初耳〜。わずか数行の言葉の中にビシバシとトゲを感じ,めまいがしてくるEmma。何この,母体によろしくない展開は。

 

 早くも勝敗はついているといってもよいのだが,この日からEmmaは世界中で日々勃発している,「嫁vs.姑戦争」へと突入するのであった。そして義母の傍らで微笑むS君は,もちろん微塵も空気を読めていないわけで,ああ先が思いやられる。
 カレンダーを見れば,Emmaは妊娠3か月前後。本来ならば一番安静にしていなければならない「安定期」ってやつである。幸せな結婚生活に高望みなどしていなかったEmma。子供が生まれたら託児所に預けて,夫婦共働きでもいいから二人でつつましく暮らしたかったのに,現実はまるで予想外(お約束?)な方向に進み始めていた。

渡る世間は鬼姑とマザコン夫

「Emmaさん,ワタシ腰が痛いのよー。腰痛には豚肉が効くっていうから,狩ってきてもらえないかしら?」

 

「あ,Emmaさん。雑貨製作用のカッパーインゴットが足りないの。ちょっと採掘してきてくださらない?」

 

 言葉遣いは丁寧だが,どれもこれも妊婦に頼むようなことではない仕事をお願いしてくる義母。助け舟を求めてS君に目をやれば,義母の傍らでニコニコしているだけではないか! おまけに義母は「怠けるといけないから」という理由だけで,採集や狩りの現場にまでついてくる。「そんな元気があるなら自分でやればいいじゃない!」というのは,きっと全国の嫁の立場にある読者が思ったことであろう。

 

「母さん,足元に気をつけて。あ,母さんこっちの草のほうが座りやすいよ」

 

 母親は労わるのに,身重の妻にはツルハシを担がせるS君。そう,いくら鈍くて世間知らずなEmmaでも気づかずにはいられない。S君が重度のマザコン男であることに。

 

愛用の斧を手に「豚肉」や「ヒールリーフ」を手に入れる娘,それをただ見守るだけの夫,そして義母。この,昼ドラも真っ青の鬼姑っぷりには,もはや感心

ツルハシを振るいながら,そっと汗のふりをして流れ落ちる涙。もしかしたら,男に振られ続けていた,あの日々のほうが,幸せだったのかもしれない

さよならベイビー

 そうこうするうちに,出産予定日だけはどんどん近づいてくる毎日。よれよれになったEmmaに,ようやく陣痛アイコンが点滅する日がやってきた。S君と再びパーティを組み,産婦人科ドクターを訪ね,話しかければ出産イベントは無事に終わる。なお万が一,出産予定日にログインできなかった場合でも,自然分娩ということで自動的に子供は託児所に預けられる。
 これまでのつらいイビリも喜びで吹き飛び,笑顔でわが子をその手に抱いたEmma。おまけに子供は双子という2倍の喜びである。白いおくるみの中の赤子にそっと笑いかけようとした,そのとき……。

 

「あらあらあら,まあまあまあ。Emmaさんは『グリフォンステーキ』を作ってもらうお仕事があるから,子育ては無理ねえ。さ,おばあちゃんのところにいらっしゃい」

 

 あれよあれよという間に,赤ん坊は義母の腕の中に。こうして唯一の希望の光,自分の腹を痛めた子供まで姑に取り上げられてしまったEmma。かろうじて姑とS君が寝静まった夜中だけ,その腕に子供を抱ける有様である。

 

双子をいつまでも可愛がる,S君と義母。ええと,私はいつ抱かせてもらえるんでしょうか。だったら三つ子を生めばよかったんですか。そうですか

 

 先週の幸せから一転,今週は不幸のどん底でもがき苦しむEmma。この先どうなってしまうのか見当も付かないが,ベルアイルな女たちの戦いはどこまでも続くようである。

 

深夜,我が子をガス灯の下であやしているEmmaの姿。口元のマスクは,抵抗力の弱い赤子に風邪などうつさないための気遣いだ。なにせ母乳じゃなくてベビーフードで育てるから心配で,心配で

同じ境遇のママ,パパ達と深夜の託児所で慰め合うのが,Emmaの唯一の安らげる時間。出産して以来,一度もS君と一緒に我が子を抱いてはいないのだ……

 

勝負服:レディAバートシャツ,ベレー帽(黒),ベール=黄,スカート,網タイツ,レディCレオンブーツ,三連眼鏡
調理:54.6%
裁縫:60%
雑貨製作:44.38%
テーマ:色気重視のマタニティウェア

 

 

 

■■麻生ちはや(ライター・独身)■■
「では自分の姑話でも聞かせてください」とたずねてみたところ,「兄が,のちに嫁に来る女性を初めて家に連れてきたとき,手作りの懐石料理を出した母親は鬼だと思いました」と,麻生氏。ちなみに麻生氏本人は刺身などの生ものが一切ダメなので,懐石料理を出すような家には嫁げないそうだ。みんなも気をつけよう。
タイトル ベルアイル
開発元 ヘッドロック 発売元 VerX
発売日 2006/05/25 価格 基本プレイ無料
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP(+DirectX 8.1以上),CPU:Pentium III/800MHz以上[Pentium 4以上推奨],メモリ:256MB以上[1GB以上推奨],グラフィックスチップ:GeForce 4 Ti以上[GeForce FX以上推奨],HDD空き容量:6GB以上

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