妊婦の心得としてEmmaに筆者が教えておきたいのは,カレンダーに出産予定日が記されていること。出産予定日になると,「妊娠」アイコンの横に「陣痛」アイコン が現れること。そして陣痛が始まったら,即座に夫と二人で病院に駆け込むことの3点だ。
しかし幸福な新婚生活は,長く続かないもの。ましてベルアイル中の不幸を集めたような,この幸薄い顔立ちのEmmaが,前回「結婚」「妊娠」と幸せの絶頂で終わったというのに,今回までも幸せのままでいられるわけがない。
「Emma,きみに会わせたい人がいるんだ」
いつになくニコニコしているS君の言葉に,またもやEmmaの乙女レーダーが激しく反応する。ま,まさか妊娠したEmmaを前に,新しい彼女「キュウちゃん」などを紹介するのでは……一瞬顔が曇るEmma。相も変わらずデリカシーのないS君は,早く早くとばかりに妊婦の袖を引っ張るではないか。
「母さん,これが僕の嫁さんのEmmaちゃんだよ」
「おっ……お義母様っ!?」
よく見れば,目じりにピンときているキツい顔立ちの女性は,そこはかとなくS君に似ている。そう,この人こそ甘ったれ息子S君を生み育てた,お母様のミセスS。上から下まで舐めるようにEmmaのいでたちをチェックする視線は,まるで蛇のようだ。
「Emmaさん。あなた,カルガレオン出身なんですってね? それはそれは遠い“田舎”からボーダーへようこそ。都会ではいろいろと“しきたり”も違うけれど,早く馴染んでちょうだいね」
へぇ〜。カルガレオンって田舎でボーダーが都会だったなんて初耳〜。わずか数行の言葉の中にビシバシとトゲを感じ,めまいがしてくるEmma。何この,母体によろしくない展開は。
早くも勝敗はついているといってもよいのだが,この日からEmmaは世界中で日々勃発している,「嫁vs.姑戦争」へと突入するのであった。そして義母の傍らで微笑むS君は,もちろん微塵も空気を読めていないわけで,ああ先が思いやられる。
カレンダーを見れば,Emmaは妊娠3か月前後。本来ならば一番安静にしていなければならない「安定期」ってやつである。幸せな結婚生活に高望みなどしていなかったEmma。子供が生まれたら託児所に預けて,夫婦共働きでもいいから二人でつつましく暮らしたかったのに,現実はまるで予想外(お約束?)な方向に進み始めていた。