4Gamer:
さて,ヨーグルティングの現状について,いろいろとお話をいただいたわけですが,そうした現状に対して,課題と考えている事柄や,それを実現するための長期的な開発予定などを教えてください。
鳥山氏:
正式サービスが始まって以来ずっと,開発元と次のアップデートについて話し合っています。
ヨーグルティングは独自の「エピソード」システムが柱になっていますので,(学年を進めていくという)“縦軸”のゲーム性は十分です。それに対して,エピソード以外の“横軸”が非常に貧弱であるというのが課題となっています。現在話が進められているのは,その横軸部分の企画なのです。
4Gamer:
横軸というのは具体的には……?
鳥山氏:
要は,レベル上げ以外の要素です。ゲーム本来の楽しみというべきかもしれません。ヨーグルティングの楽しみ方は,必ずしもレベル上げ主体ではないと,開発元とも意見が一致しています。
レベル制をとってはいるけれども,そもそも学校生活を楽しむゲームなのだと。そこで,生活に関わるようなシステムを考案中です。
4Gamer:
つまり,ルームに入って戦闘をする以外の何か,ということですね?
鳥山氏:
そうです。エピソードという形はシステムとして優れたものですが,それはそれとして,ゲームの舞台となっている学校フィールドの使い方が,今課題になっています。
というのも,正式サービスの時点でエピソードを学年ごとに「エピソードゲート」にまとめてしまったため,学校フィールドを歩き回る楽しみがなくなってしまったのです。
現状で無駄になっているフィールドの活用,可能性の追求,ということです。
古志野氏:
主軸のストーリーが5年生まで実装されて,佳境に入りつつある。そこで,舞台の肉付けの部分を今後充実させていきたいのです。ヨーグルティング全体を,エピソード以外にもいろいろな楽しみがあるように変えていき,もっともっと面白くしていかないと,と考えています。
4Gamer:
それは,フィールド各所に新たなクエストが用意されていくということですか?
鳥山氏:
現状だと,フィールドにはアクション要素などはないわけですが,そうしたものを入れたいと考えています。
4Gamer:
調理室が実際に使えたりとか……。
鳥山氏:
そうですね。あるポイントに行くと何かが起こったり,モノが拾えたりとか。
4Gamer:
ヨーグルティングのエピソードシステムは,必ず画面とマップの切り替えを伴いますよね? 今考えているのは,切り替える前提ですか,切り替えない前提ですか?
鳥山氏:
切り替えないものですね。MO部分であるエピソードをずっとアップデートしてきたわけですけれど,そこにMMOの部分の楽しみを追加しようというのが,主な狙いです。
エピソードシステムによって短時間で遊べてしまうがゆえに,例えば同時接続者数は安定しない。多くの人に集まってもらう意味では,MMO部分の層を厚くしたほうがよいということです。
4Gamer:
しかし,すき間時間,裏時間で楽しめるのが,ヨーグルティングのもともとの意義である,ということもありますよね?
鳥山氏:
そうです。ですから開発の方向性としては,遊びの選択肢やできることをどんどん増やしていく,ということになります。ストーリー部分を楽しみたい人はエピソードをプレイする,それはそれでよいのですが,レベル上げ要素を辛く感じる人もいる。そうした人に対するアプローチです。
現状ですでに盛り込まれている,アイテムの強化システムやオークションも,そうしたものの一つだと思います。その発想の延長線上で考えるなら,何かを作成するシステムなどは,考えやすい例ですね。
そのほかに,すでに具体化している例として「部活」システムを実装しようと考えています。
4Gamer:
数々の制服が実体を備えるわけですね(笑)。
鳥山氏:
あくまで開発の方向性レベル,企画段階の話になりますが,ヨーグルティングでは「みんな,今日どうする?」というキャッチフレーズを使っています。これは,学校生活の中で選択肢はいっぱいあっていい,というところからきているんですね。
今で言うと,チャットを楽しんでいる人,着せ替えを楽しんでいる人,オークションを楽しんでいる人,エピソードを楽しんでいる人と,多岐にわたっているんですけど,これらを束ねるシステムは,とくに存在しないわけです。そこで,こうしたすべての選択肢の,ベースとなるものを敷いてみようか,という話です。
具体的に言うと,チャットをしていてもポイントが溜まる,オークションをしていてもポイントが溜まる,走っていてもポイントが溜まる。そして,それが経験値に変わったりとか。つまり,さまざまな選択肢に対する終着点を用意しようか,ということです。
4Gamer:
それはつまり,コミュニケーションツールとしての機能を兼ねようといった発想なのでしょうか? 懸命に敵と戦っていなくても,そこにいること自体がゲーム体験なのだという……。
鳥山氏:
そうです。エピソードをやらなければレベルが上がらないというところを,根底から覆したいという意味があります。
4Gamer:
チャットすらもがその対象,ですか……。
鳥山氏:
極端に言うとログインしているだけで,ポイントが溜まってもいいんですよ。さらに自分の行動に対して,何らかのリアクションが返ってくる形が理想です。
4Gamer:
なるほど,かなり大きな発想転換ですね。
鳥山氏:
実際にシステムがどういった形で導入されるかは分かりませんが,何らかのポイントシステムを媒介にすることは,アイデアとして挙がっています。
各システムを繋げるベースの部分は,根本から新規開発が必要なので,そこをどうするか,まだ開発元と話し合っている最中です。
既存のMMORPGのレベル上げに対する差別化といいますか,逆の発想ですね。そこを狙っていったほうが,このゲームは楽しくなると思います。
4Gamer:
「プレイ」の定義そのものに関わるお話ですね。
鳥山氏:
まあさすがにログインしていさえすればよい,としてしまうと,AFK(Away From Keyboard。離席)が多発しそうな気もしますが。そのあたりはシステムの組みようだと思います。何かをしないと上がらない,という形にはしたいですね。
古志野氏:
ログオンの目的,遊びの幅を広げることは重要だと思います。で,運営する側が予期していない遊び方をしてもらえるとよい,というか。そうした,わざと穴を残しておくような部分を,いっぱい作りたいなあ,と。
鳥山氏:
ラグナロクオンラインの担当をしていたときに,プレイヤーからの意見で非常に多かったのが「露店をしているときでも,レベルを上げられるようにしてほしい」という意見でした。それをどうしたものか,というところから発想が始まっていまして。
4Gamer:
なるほど,原点は既存のゲームの文脈に沿ったものですね。
ラグナロクオンラインには,今動いている作品としてのゲーム性がありますので,一概に経験値が入ればよい,というものではない。ただし,別のゲームで考えたときに,先ほどの意見が頭の隅に引っかかっていまして,じゃあ,それを計算のうえで盛り込んだら面白いんじゃないかと思いました。
それを,現状のエピソードシステムおよび,学校フィールドなどと結びつけたらどうなるだろうと。そういう話をちょうど今している最中です。
確かにいろいろ問題点はありますけれども,それがシステムとして完成すれば,また違った楽しみになるんじゃないかと。
4Gamer:
ちょっと確認させていただきたいのですが,チャットやら走り回ることやらで溜まったポイントは,基本的に経験値になると考えてよいのでしょうか? それとも,ほかの要素になる可能性もあるのでしょうか?
鳥山氏:
ポイントシステム自体が構想段階ですので,最終的にどういった形になるのかはまだいえませんが,経験値というのは,あくまで一つのアイデアですね。例えばそれがTAFF(ゲーム内通貨)になることもあり得ますし,アイテムになってもいいと思います。
ヨーグルティングには同好会というシステムがありますが,この同好会で使えるポイントというのもあります。コミュニティへの支援策として,そちらに使えるようにするのも一案です。
4Gamer:
割と多元的なものとして想像したほうが近いわけですね。ところで先ほど話が出た部活システムというのは,手に入れたポイントを使う例になるのでしょうか?
鳥山氏:
部活システムについては,まったく別のところで動いていまして,今ある同好会というコミュニティをより使いやすくするにはどうしたらよいかというところで考えています。
最終的にポイント制と絡められると面白いな,とは思っていますが,企画としては別のものです。
4Gamer:
既存のMMORPGでは,例えばレアアイテムを探しに行くことでも,商人としてプレイすることでも,ものを作ること自体を楽しむといったことでもよいのですが,典型的な遊び方がいくつかあると思います。今考えている,戦闘以外のプレイ要素として,そうした典型を用意していくことは考えていますか?
鳥山氏:
そうですね,考えどころではあるのですが,学校生活というモチーフから出発すると,そこはそれほど重要ではないと考えています。ヨーグルティングにはエピソードをクリアして謎を解くという大原則がありますので,主たるプレイ目標はそちらに集約すればよいのかな,と。
4Gamer:
なるほど,まとまった形で新しいプレイスタイルを導入するわけではないと。
鳥山氏:
そうです。サービス提供側としては,本当にプレイヤーに“投げかける”だけなんですね。それをどう活用するかは,プレイヤーさん自身の行動にすべてかかっていると。僕らが想定している以外のものが,そこで本当に生まれてくるかも知れませんし,ある意味トライアルで,やってみないと分からない部分もあります。
4Gamer:
一つのエンターテイメント作品として考えると,結構大胆な方法ですよね。こう食べてほしい,ではなく,組み合わせると美味しそうなものをいろいろ並べてみる,というか。
鳥山氏:
MMORPGで「こう遊んでほしい」を打ち出すのは,比較的容易なんですね。でもそれでは立ちゆかない部分も,ところどころ出てくる。そこで,選択肢の幅を広げることを主眼としてやってみたいわけです。
4Gamer:
MMORPGの黎明期におけるプレイヤーの遊び方を,取り戻してみるという感じでしょうか?
鳥山氏:
そうです。初期のMMORPGは,開発側でも何をしたらよいか分からなかったので,いろいろなものを作りました。ある意味それが効を奏して,プレイヤーが自分達で考えた遊び方ができた。今みたいに,システム上ですべて縛りをかけてサービスを行うことは,イレギュラーな要素を考えなくて済むので,楽ではあるんですけれども,逆に楽しみ方が縛られてしまう。そこでは,ゲーム性がどんどん失われていくというおそれもありますので。
4Gamer:
そこで箱庭のようなコンセプトを導入すると。
古志野氏:
そうです。それを開発元と協議しつつ進めています。
鳥山氏:
そのほかに,さらに先の構想にはなりますが,ペットシステムやパーマネントフィールドという要素が考えられています。
ペットシステムについては,開発の初期の段階から考えられていたことで,「ソソ」とか「ラッチュー」(どちらもゲームに登場するモンスター)とかを連れて歩けると面白いな,と。
また,エピソードを画一的に作っていくのではなくて,力試しを含めて永久に楽しめる要素を作りたい。それがパーマネントフィールドで,要はエピソードの自動生成です。
4Gamer:
通常のエピソードがもう5年生に突入することを考えると,今お聞きしている新要素の導入も,それほど遠くないと考えてよいのでしょうか?
鳥山氏:
そうですね……。東京ゲームショウや,11月にあるヨーグルティングのアニバーサリーイベントなどのタイミングが,一つの転機になると考えています。