ご存じではない人もいるだろうから,あらためて説明しておこう。「なんですぐ怒るの?」は,2006年6月から8月まで4Gamer上で連載された,シングルプレイ専用RPG「The Elder Scrolls IV: Oblivion」のプレイ日記である。ストーリーに縛られることなく比較的自由に歩き回れるOblivionのゲーム世界を,4Gamerではまず見かけない美少女なキャラクター(筆者星原氏談)が,適当に楽しく遊んで回る姿を紹介するという企画だった。連載は3か月継続し,無事終了した。
そして,Oblivionのリリースから約一年が経過した2007年3月,同作の拡張パック「The Elder Scrolls IV: Shivering Isles」が欧米で発売された。せっかくなので,この拡張パックのより詳しい内容紹介も兼ねて,「なんですぐ怒るの?」の番外編を掲載することになった。
というと,こう期待する人もいるんじゃないだろうか。
あのミッシェルにまた会える! と。しかし,それにはちょっとした問題がある。4Gamerの連載史上最も“可愛い”主役キャラクターミッシェルは,編集部からの指示により,以前の連載中に“バンパイア症”にわざとかかって,バンパイア(吸血鬼)になってしまっているのだ。
バンパイアになることにはいくつもの利点と欠点があるのだが,欠点の一つである「太陽の下でまともに活動できなくなる」というのが,今回はイタイ。昼間の野外活動が制限されてしまうとクエストがうまく進まなくなったり,そもそも受けられなくなったりする可能性がある。新コンテンツへのアクセスに支障が生じるかもしれないし,そもそも野外関連のスクリーンショットが全部真っ暗になってしまう。ほらやっぱり問題があった! だからやめたほうがいいって言ったんだ!
いやまぁ,実のところ,バンパイア症を治す方法もある。だがこれがハンパなく大変な内容で,真面目に治療に専念していたら,新ゾーンを探検できるのがいつになるか分からない。だからもう今回は新キャラを作っちゃう。前のキャラクターは弓が得意なステルス型のキャラクターだったが,新キャラクターの“ミッシェル”はヘビーアーマーを着てブラント(殴り系)の武器で戦う戦士にした。プレイ感覚もだいぶ変わって,うん,こっちのほうがいい。一応編集部の顔も立てて,性別は女性でしかもまた美少女で作ってやった。まあミッシェルの妹みたいなものだ。妹キャラである。よし,以下「妹」で通そう。
拡張パックをインストールした後に,ゲーム内でしばらく時間を進めると,キャラクターは奇妙なポータルに関するウワサを耳にする。ウワサの場所に出向いてみると,およそ妹キャラの美少女には似つかわしくないデザインのポータルが立っている。Shivering Islesのテーマとなっているのは,“狂気”(Madness)。このポータルもまさに狂気の産物といった印象だ。
ポータルをくぐると中にはおっさんがいた。どうも姉妹ともに,体の一部がツルッとしたタイプのおっさんには縁がある。さらにこのおっさんは王子(狂気の王子)の存在を口にする。姉妹ともに,王子にも縁がある。前の王子もわりかしおっさんぽかったので,期待しないで先に進んで王子に会ってみると,やっぱり初老のオヤジだったのでもう腹も立たない。
王子はさすが“狂気を司るもの”というだけあって,自分でしゃべっているうちに熱くなって怒りだして,すぐまた元に戻るというエキセントリックな性格の持ち主だ。怒られることにかけてはこちらにはちょっと実績があるというか慣れている。メインクエストの流れに合わせて,この王子のもとでしばらく働くことに抵抗はない。
そんなわけで,王子から言いつけられるクエストをこなしていくことにした。ツルッとしたおっさんはこの王子のいわば補佐官で,どうにも要点のつかみにくい王子のしゃべりの内容をうまく要約してこちらに伝えてくれて,さらにはアドバイスまでくれた。割といいやつだ。
さらに,しばらくクエストを進めていくと,驚いたことにこのおっさんを自分のそばに召喚する能力まで身についた。いつでもどこでもおっさんを呼び出してクエストのことなどいろいろと相談することが可能。なるほどこいつは確かにマッドネスだ。
拡張パックの冒険の舞台である狂気の島は,狂気の王子の創造物であり,その雰囲気は狂気の王子の心を映し出したかのようである。島は北側と南側で様相が異なっており,北側には狂気の陽気な側面を表したかのような明るい景色が,南側には狂気の陰気な側面を表したかのような暗い景色が広がっている。
王子の宮殿とその城下町は,島の中央あたり,陰と陽の境界をまたぐように存在し,町の中にも宮殿の中にも陽気サイドと陰気サイドが存在する。陽気サイドには全身が金色の女性兵士が,陰気サイドは黒い鎧を着た青い肌の女性兵士がいる。彼女達の存在も,この町の異様な雰囲気を形作る要素の一つである。いや,だっておかしいっしょ。全身金粉女がウロウロしてるんだよ!
この中央の町「New Sheoth」は確かに狂気の町という設定だが,奇声を発しながら走り回るような人ばかりが暮らしているわけではない。この町の多くの人達は,パッと見た限りでは普通に見える。それぞれに家や仕事を持ち,日々の生活を営んでいる。二言三言,言葉を交わしてもまだ普通だ。しかし,それ以上踏み込んでいくと「あれ? この人ちょっとおかしいぞ……」という思いが頭をよぎりはじめる。New Sheothで妹が出会ったのはそんなタイプの狂気達だった。
町の中には,拡張パックのメインストーリーを追うクエストとはまた別に,単発のクエストがいくつも用意されている。このあたりの仕組みは本編と同様だ。妹が出会ったクエストのいくつかを紹介する。
町を歩いていると,男に声をかけられた。頼みがあるので夜にもう一度会いたいという。真夜中過ぎに指定された場所に向かうと,男は待っていた。そして「報酬を渡すので,自分のことを殺してほしい」とこちらに頼んできた。自殺だと具合が悪いのだという。また正面からではなく,後ろからこっそり殺してほしいようだ。さて,どうしようか……。
ある道具屋に入ると店主が妙にそわそわとしている。話を聞くと,「もうすぐ恐ろしい嵐が来る」のだという。しかし表はいい天気だし,そんな嵐がくる兆候は感じられない。しかし店主は嵐が来ると固く信じ込んでいるようだ。店主はやってくる嵐への備えとして,指輪とパンツとアミュレットを持ってきてほしいとこちらに頼んできた。何に使うんだろう……。
男に声をかけたら,強い口調で「例のものはもう手に入ったのか」と問われた。よく分からないが,話を聞いてみると,なんでも彼は船を造っており,水に浮く船はもう完璧だ,と。次は空中に浮く船を造りたい。そのためには空中に水を固定すればいい。そのために測径器とトングが必要だから持ってきてほしい,と言うのである。つまりこの人もアレなわけだ……。
とまぁ,こういった案配だ。住人と言葉を交わすほど,狂気は静かに,ではあるが確実に,この町全体に浸透していることが実感できる。まだ住人の話を聞いて回っているだけならば,「ふ,ふーん」とか「そ,そ,そうなんだ」などと距離を保ってもいられる。
しかし拡張パックの核であるメインクエストを進めるのであれば,自身も狂気の世界に足を踏み入れて行くことになる……。(後編に続く)