― 特集 ―
4Gamer取材スタッフそれぞれが見た,「E3 2006」

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Text by 大路政志


 E3 2005と比べると,話題性という意味での「大作感」に欠ける作品が多かったE3 2006だが,これはWindows Vistaへの移行に伴う一時的な停滞と見ていいだろう。E3 2007では,Vista対応を謳った大作/力作の数々が,我々PCゲーマーをあっと驚かせてくれるに違いない。
 ……などと書くと,「今年は不作か」と思われてしまいそうだが,多勢の関心が次世代コンシューマ機に集まりすぎていただけで,決して不作ではなかった。2006年内にはクローズドβテストが始まる予定の「Hellgate: London」を筆頭に,「Tabula Rasa」「The Lord of the Rings Online: Shadows of Angmar」など,注目度の高いオンラインRPGの,より完成に近づいた姿を確認できたことは,大きな収穫といえるだろう(Hellgateのクローズドβテスト時期が発表されたことは,本当に大きな収穫だ)。
 また完全な新作としても,本格派RPGのド本命「Neverwinter Nights 2」や,心地いい不自由さを感じさせてくれそうな知的アクションRPG「Dark Messiah of Might & Magic」,NCsoftの次期主力MMORPG「Aion: The Tower of Eternity」などなど,仕事をさぼるか辞めるかしなければ,とても遊び尽くせないほどの期待作が発表されたのである。2006年末前後のために,今から遅刻/欠勤の理由を考えておいたほうがいいかもしれない。

 

 FPSジャンルに関しては,ほかのスタッフがたっぷりとコメントしてくれるはずなので,割愛させてもらう。というよりも,当方3D酔いがひどい人なので遊べるFPSは限られているのだが,「Crysis」だけは酔い止め薬を飲んででもプレイせねばと感じた。この時代に,グラフィックスだけで感動できるゲームに出会えるとは……。残念ながら,E3会場で実際に遊ぶことはできなかったので,デモ版のリリースを楽しみにしたい。

 

Text by noguchi

 E3取材の参加は,4年ぶり3回目。この4年ぶりというのがなんとも微妙な時間で,さすがに4年前に見たゲームのほとんどは発売済み,もしくはお蔵入りとなっていて,初めて見るゲームのオンパレードだった。ショウ全体としては,時が経ってかなり洗練されたというか,色々な意味で厳しくなったなぁ,という印象だ。
 Kentia Hallなんて,以前はもっと雑多感に溢れていたのに,結構立派なブースもできていて,ちょっと驚き。あと,18歳以下は入場禁止のはずなんだけど,これまで明らかに子供にしか見えない若者(といか子供)が長蛇の列を作っていたことも多かったが,これもまた今年は皆無。入場制限が厳しくなったことが想像できる。まあおかげで人が減って,純粋に取材する側としては大助かりだけどね。

 さて,取材スケジュールの都合上,今回は中規模のブースを中心に回っており,大作を抱えたメーカーはチョコっとなめる程度で,取材自体はできなかった。だが,それが不満かというとそんなことはない。規模が小さめのメーカーでも,グっとくる作品がいくつも見られたからだ。
 例えば,CD Projektの「The Witcher」は,見ているだけでもゲーム自体の質の高さが伝わってくる作品の一つ。またSunflowersの「Anno 1701」は,前作にあたる「Anno 1502」と比べてグラフィックスの進化が著しく,かなり魅力的に見えた。同じくSunflowersの「Paraworld」は,恐竜やマンモスといったかなり大きなユニットが登場するRTSなのだが,こちらもしっかりと作り込まれており,大きなユニットが暴れるだけのイロモノゲームでは決してなかった。

 4年前は,中小規模のブースを回っていると,かなりの確率で目も当てられないようなゲームに出会っていたわけだが,今年はそんなことは少なかった。業界全体として,ゲームを作る“腕”が上がってきていることが感じられた。それも,グラフィックスの進化といった一方向だけに偏ったものではなく,ゲームとして面白いものに仕上げるプロデュース力の向上という形で。
 こうなってくると問われるのが,我々メディアの取材力なのかなと。派手なブースやプレゼンテーションの演出に惑わされることなく,作品の本質を見抜いて伝える,ということがますます重要になってくるなぁと,帰りの飛行機の中で思ったような気もする。

 

Text by 奥谷海人

 E3 2006は,いつもと違っていた。とくに大きく変わったのが,“自称ジャーナリスト”の数が激減したことだ。主催者の発表では,来場者数は2005年よりも1万人ほど少なかったようだが,これはゲーム市場の沈滞によるものではなく,メディア参加資格が厳しくなったことが大きな要因ではなかっただろうか。その恩恵として,我々“本業ジャーナリスト”は,初日2時間前からショーフロアへの入場を許された。特設シアターや展示デモを長い列に悩まされることもなく,ややもすると空調が効き過ぎているのを感じるほどのゆったりした個室ブースで取材することが可能だったのだ。

 ここ数年のE3では恒例のことなのだが,不安とともにイベントが始まり,希望とともに閉幕した。
 本年度の不安は,なんといっても「次世代ゲーム機戦争の陰に,PCソフトが隠れてしまうのでは?」ということだった。実際,プリレンダムービーと見間違えるほどの会話シーンが絶品だったBioWareの「Mass Effect」や,Unreal Engine 3でお馴染みの「Gears of War」,そして秀逸なAIプログラムでキャラクターが体のバランス制御を行う「Indiana Jones 2007」など,今までならPCで行われていたであろう展示や技術デモが,Xbox 360やプレイステーション3で盛んに行われていたのだから複雑な気分である。
 また,事前情報では,今年のPCゲームの展示内容はかなり心細かった。「Battlefield 2142」「Flight Simulator X」「Neverwinter Nights 2」「Sid Meier's Railroads!」「Supreme Commander」……。本イベントで初公開となったソフトの中に,PCが主体の大作が少なかったわけではないが,あっと驚かせてくれるような奇抜な新作発表はなかったし,その面ですべて“想定内”にあったと言えよう。

 しかし,会場でさまざまなゲームソフトを眺めていると,おのずと好奇心でいっぱいになるのがゲーマーのさがというもの。今年発売されるソフトだけに限定しても,「CivCity: Rome」「Dark Messiah of Might & Magic」「Enemy Territory: Quake Wars」「Hellgate: London」「Medieval 2: Total War」,さらに「Unreal Tournament 2007」まで,必ず購入するであろうソフトがジャンルを問わず存在する。来年になると,「Crysis」「Spore」なども控えており,PCでもまだまだクオリティの高いソフトが産出され続けられるであろうことを予感させる。さらに,数か月もすればDirectX 10のSDKが各開発者に配布され,そこから新たな次世代ソフト群が生まれてくるだろう。
 近い将来に,再びPCがゲームプラットフォームとしての独自性を謳歌する。楽観的になり過ぎていたら申し訳ないが,イベントの後味は悪くはなかった。

 

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