4Gamer:
いまのお話と関連するのですが,アミーゴ・アミーガで,ゲームプレイをめぐるコミュニケーションを促進する要素として考えられている部分は,例えばどこが挙げられるでしょうか?
山口 尚氏:
さまざまな「アミーゴ」が用意されているのが,まずは話題にできる要素ですよね。それと,ウチがずっとこだわってきているのが,パーティを組んだときの挙動です。リーダーが先頭に立って歩くと,メンバーはとくに操作なしで歩けます。そして,移動についてはそういうモードしか用意されていないわけです。
4Gamer:
ついて行く側はその間存分にチャットができると。
山口 尚氏:
ええ。その移動時間が仲良くなれるチャンスで,フレンド登録にもつながるわけです。
4Gamer:
確かに,雑談がさかんに行われている印象はありますね。
山口 尚氏:
先ほどの話題との関連でいえば,そこで話されるのがゲームの中のことであってほしい。そこが課題であり,目標です。
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テントアミーゴの中に,友達になったほかのアミーゴを配置したところ |
4Gamer:
ゲームプレイをめぐる会話も内側に取り込んだのが,オンラインゲームであるということですね。ところで,そうしたプレイヤー同士の交流や個々のふるまいを,サービス開始から1か月半くらい見ていて,意外に思ったことなどはありますか?
山口 尚氏:
レベルアップのペースが速いこともそうなのですが,韓国作品に代表される現行オンラインゲームのインタフェースに,プレイヤーさんが想像以上に慣れているなあと。
マウスの移動方向と,プレイヤーの視点移動の方向であるとか,そこで標準的になっている操作方法と違う部分があると違和感が生じるようで,オープンβテスト以降変えた部分もあります。
中村光一氏:
そもそもプレイヤーさんからの反応をそのまま受けて,ゲームを改良していけるというのが,目の当たりにしてみるとやはり驚きでした。また,そうであるがゆえに,プレイヤーさんの意見に流される可能性もあるな,と。
いまオンラインゲームをやっている人達が,本当にメインのターゲットなのか,という論点です。いままでコンシューマゲームを楽しんでいた人だとか,これから楽しんでもらいたい相手はもっといるはずで,そうした人達にアプローチしようと考えたとき,いまのコアなオンラインゲームプレイヤーの常識で固まっていってしまうのは,果たしてどうなのかと。
4Gamer:
それは確かに,重要な指摘かもしれません。
中村光一氏:
もう一つ,ビジネス的な面から言うと,いろいろなところが改良されながらプレイヤーが増えていくという構図が,本当にうまく実現できるかどうか。そこがいつも気になります。
コンシューマゲームは最初で失敗したらほぼアウトです。後追いでプロモーションを強化しても,まず売れません。
4Gamer:
イニシャライズがすべて,だと。
中村光一氏:
そう,最初に上手にプロモーションできて,市場に適正量を供給できるか。とくに昨今は(店頭で)欠品したらそれでアウトなんですよ。いくら人気があっても,1週間もすれば次の注目タイトルが出てきちゃいますから。
買えるタイミングで買い,解いて,中古で売りに出すというのが,ゲーマーにとっての資金繰りとなっています。そのループにしっかり入れていかないとダメなので。
オンラインゲームの場合,気になるのはそこです。後追いの改良とプロモーションで,プレイヤーを増やしていけるのかどうか。
山口 尚氏:
これまでの例では,サービス開始後1年で急に伸びたりとか,いけたケースもありました。ただし,これからどうかといえば,それは読みきれないですね。
そうは言っても,良いものを作っていれば,いつか人は集まってくると思っていますので,アップデートはもちろん,常に真剣にやっています。
中村光一氏:
アミーゴ・アミーガのサービスが始まって2か月弱。課金システムを含めて,動作もほぼ安定したいまが,テレビCMも含めたイニシャライズの時期だと考えています。
ここで集まってくれた人のなかから,出てくるいろいろな意見を聞いて,それにどう取り組んでいくか。会社にとっては大きなビジネス上のテーマになりますよね。
4Gamer:
「いまオンラインゲームをやっている人達が,本当にメインのターゲットなのか」というのは,かなり重いテーマに思えるのですが,中村さんから見てアミーゴ・アミーガは,なおも変わっていかなければならないものという認識なのでしょうか?
中村光一氏:
ゲームの「顔」の部分が,初心者を受け入れるものとなっているので,ぜひこれをきっかけにオンラインゲームを始めてほしいと思っています。そのために間口を広げる方向で考えたとき,それこそドラクエでRPGが広まったことなどを思い起こすと,まだまだ入り口の部分が難しいと思います。もっと易しくしないと,という方向で考えていますね。
山口 尚氏:
そうですね。まだまだコンテンツとして弱いところ,満足してないところもありますので。中村さんに言われた言葉で,すごく気に入っているフレーズがありまして,それは「クラスで僕だけしか解けないと思っていたところ,気づいたらみんな解いていた。そういうバランスを作りなさい」と。これがすごく難しい課題です。
4Gamer:
オンラインゲームだと,それにさらにコミュニティの影響が加わりますからね。
山口 尚氏:
ギルドに入っている人は,クエストなどもいろいろ受けていて,どんどん進んでいく。そうでない人は自分で調べてコツコツと進めていくわけで。
その意味では,うまく人が誘ったり誘われたりしていくと,楽しくクリアできるのかなと。スタンドアローンのゲームでも,解き方について盛り上がった結果,みんな解けるようになったりしますからね。
4Gamer:
ゲーム内で解決していく方向と。
山口 尚氏:
そう読み替えればいいのかなと。もう一つ,アミーゴ・アミーガでは「毎日気になる」というのをコンセプトにしていまして,アップデートに力を入れると同時に,最近では
開発ブログもがんばって続けています。
4Gamer:
話の方向は大きく変わりますが,最近は国内でコンシューマゲームを作っていたメーカーさんの,オンラインゲーム参入が相次いでいます。中村さんの目から見たとき,そうしたコンシューマゲーム出身メーカーの参入が,オンラインゲーム界にもたらし得るメリットとは,どんなものになるでしょうか?
中村光一氏:
一番変わるかなと思うのは,ゲームのジャンルの幅かなあと思います。レースやシューティングもあるのですが,なんだかんだ言ってオンラインゲームはMMORPGが中心です。そうじゃなくて,もう少し幅が広がっていくんじゃないかと思います。
4Gamer:
なるほど,それ自体は比較的分かりやすい論点ですね。
中村光一氏:
ただ一方で,それがビジネスとして成立するのかという部分が残ります。コンシューマゲーム界からオンラインゲームに入ってきたとき,「いいな」と思うのはバグフィックスコストが,アップデートの存在で緩和されることです。現場のスタッフも,気分的にはだいぶ楽だと思うんですよ。メディアコストがかからないのもいい。
ただし,先ほども述べたとおり,いろいろなメーカーが無料で次々と作品を出していくなかで,確実に収益を出していくためのハードルは,高くなるだろうなあと思います。
4Gamer:
出発点が無料となることの分かりづらさ,難しさはついて回ると。
中村光一氏:
幸か不幸か,日本のコンシューマゲームマーケットは,玩具流通ビジネスとして展開されてきました。玩具業界は再販制(書籍流通のように,小売店が売れ残りを製造元に返品できる仕組み)ではないので,問屋さんや小売店さんは仕入れてしまったらなんとか売らなければならない。そうしたなかでお金が回るシステムが動いていたと思います。
そこに無料のものが登場して,プレイヤーはクオリティの高いものだけを選んでプレイできるとなると,そこで利益を上げていくのはたいへんです。それがマーケット全体としてうまく動くものなのかと。
4Gamer:
より純粋で熾烈な競争が,そこでは繰り返される……。
中村光一氏:
とくにいまのスタイルだと,プレイヤーがやり込めるゲームは1本だけになってしまいます。
4Gamer:
プレイにかかる時間を考えれば,そうならざるを得ないですね。
中村光一氏:
必然的に,特定のタイトルしか遊ばれない。それはあまり健全とはいえないですよね。一握りの勝ち組がいて,負け組がぞろぞろいる,みたいな。業界がそうなってしまうと,それはそれでつまらないし……。
いろいろなタイトル,いろいろなジャンルが出てきて,その担い手が比較的均等に潤い,ゲーマーもいろいろ新しいものを楽しめる。そういう業界になっていく必要があるでしょうね。
4Gamer:
ほかの産業でなく,ゲームの話として捉えると,そこはたいへん重要な指摘ですね。
中村光一氏:
現在だと,一握りの勝ち組が株式公開を含め大きな利益を得ていて,みんなそうした成功を目指すことで,ある意味活気づいている。でも,問題はその先なんです。
4Gamer:
ある分野で二人目の成功者って本当に出るの? みたいな話ですか。突き詰めれば時間占有競争でもありますし。
中村光一氏:
本当にそうですよね。だから,そもそもゲームだけじゃないんですよ。
4Gamer:
そこで,コンシューマゲームとはまた違う消費循環を作り出していくとなると。
中村光一氏:
そうです。コンシューマゲームにしても,オンラインゲームにある程度お客さんを持って行かれてますし,昨今コンシューマゲーム市場も不調ですよね。インターネットコンテンツ全般との競争とか。
テレビの前で何をやるかと考えたときに,インターネットを利用している時間がけっこう長い。ゲームの人もいれば,メールだWebだといろいろある。
結果,コンシューマゲーム業界が見いだしたのが携帯型ゲームなのかなあと,僕は思っているんです。移動時間や空き時間をちょっとずつ集めて成り立っているという。あれも無線でネットワーク化が果たされているわけで。
4Gamer:
その方向で考えると,別にまとまった時間を占有することがオンラインゲームの必須要件じゃないはずなんですけどね。
中村光一氏:
考えてみれば,ゲームというのはひまな時間をどう楽しむかというものですからね。
4Gamer:
ええと,だいぶ根源的な話題になっちゃいましたが。
中村光一氏:
ゲームは,映画などほかのエンターテイメントと比較したとき,お金だけじゃなくてルールとか人物とか世界観とかを理解するエネルギーが要求されるでしょう?
4Gamer:
そのとおりですね。
中村光一氏:
で,それはすごくたいへんなんですよ。誰にとっても。なので,プレイする人もそこを省きたいからこそ,どうしてもシリーズものに行ってしまう。
4Gamer:
自覚の有無はともかく,結果としてそれはあるような気がしますね。
中村光一氏:
そうであるからこそ,オンラインゲームではアップデートのメリットを受けつつ,ずっと同じところに留まっているようになります。そこが強みであるし,逆に冒険できない要素でもあります。
4Gamer:
なるほど……。つまりコンシューマゲームでシリーズものの消費が起こるのと,1本のオンラインゲームがプレイし続けられることは,同じ現象というわけですか。
中村光一氏:
じゃないかなと思うんですよ。一つの世界を理解しただけで済むという。そこが強みではあるけど,それだけだと新しいものが出来てこない。まあそこは,オンラインでもコンシューマゲームでも起きていることだという意味でもありますが。
例えば映画だと,つまらない作品に当たってしまっても,失うのは2時間だけ,本当につまらなければ寝ていてもいい。
4Gamer:
それで,「二度と映画なんか見るか」と思うこともないでしょうし。
中村光一氏:
ゲームの場合,そこがきついですよね。しかも,最初の数時間で面白さが分からなくても「もう少しやったら面白くなるかな」と思ったら,やっぱり面白くなかったとか(笑)。
4Gamer:
チュートリアルにことさら注力するのも,そこから来ているわけですか?
中村光一氏:
まあそうですね。チュートリアルがよく出来ているということは,少なくとも「分かっている」人達が作っているという感じがするじゃないですか。
最近はそうでもないですが,昔の作品なんかはちょっと触ってみて,操作性だけでだいたい判断できましたよね。操作性の悪いゲームは,やっぱり面白くないですもん。
これが不自由だと思えない人が作っている。そこに問題があるわけです。
4Gamer:
ほかの要素でも期待できないんじゃないか。そういうことですね。
中村光一氏:
例外はたまーにしかありません。操作性は悪いけど「あ,面白いな」というものは。ちょっとやり込んでみてから「実は面白いかも」という。