左がチュンソフト 代表取締役 中村光一氏,右がゲームズアリーナ ネットワークゲーム開発部 部長 山口 尚氏
ドワンゴグループの一員にして,ゲームズアリーナの子会社であるチュンソフトが,開発に携わったオンラインゲーム「アミーゴ・アミーガ」。正式サービス移行から1か月半あまりが過ぎ,アップデートを控えたタイミングで,チュンソフト 代表取締役 中村光一氏並びに,パブリッシャであるゲームズアリーナのネットワークゲーム開発部 部長 山口 尚氏がインタビューに応じてくれた。
折しもアミーゴ・アミーガはテレビCMが始まり,直前と比べて同時接続者数が約2倍,1日当たりの新規ID登録数が約4倍に増えたという,まさに「売り出し中」のタイミングだ。その開発に当たって,チュンソフトならではのこだわりが発揮されたのはどの部分なのだろうか。また,言わずと知れた「ドラゴンクエスト」シリーズやサウンドノベル「かまいたちの夜」などで,コンシューマゲーム勃興期の立役者となり,いまなお数々のゲーム製品を世に送り出す中村氏は,初めて携わったPCオンラインゲームとその業界をどのように捉えているのか。
アミーゴ・アミーガという具体的な作品の話題もさることながら,より広くオンラインゲームを対象とした,彼の率直かつユーモアに溢れる談話をお読みいただきたい。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。最初に「アミーゴ・アミーガ」というゲームの企画が持ち上がった経緯について教えてください。確か当初は,「モノライク」という仮名で発表がありましたよね?
チュンソフト 代表取締役 中村光一氏:
こちらこそ,よろしくお願いします。モノライク! 懐かしい名前ですね(笑)。
アミーゴ・アミーガはチュンソフトからリリースされていますが,当初はドワンゴグループのネットワークゲーム開発部門であった,山口さん(後出。山口 尚氏)のところで開発が進められていました。
4Gamer:
チュンソフトの企画作品というわけではないのですね。
中村光一氏:
ええ。1年と少し前に,チュンソフトの持株会社としてゲームズアリーナが設立され,山口さんの部署もゲームズアリーナに異動しました。ドワンゴのゲーム部門がゲームズアリーナを中心に集まったわけですね。
そのタイミングで,現在開発中のゲームとして見せられたのが,アミーゴ・アミーガとの関係の始まりです。「せっかくグループになったのだから,アドバイスや監修といったことができないか」ということで,「不思議なダンジョン」シリーズの企画担当者達を中心にテストプレイを行い,そこで出てきたいろいろなアイデアを盛り込んで出来上がったのが,現在のアミーゴ・アミーガの形なのです。
4Gamer:
チュンソフトさんに見せた段階で,ゲームはすでに動いていたのですか?
ゲームズアリーナ ネットワークゲーム開発部 部長 山口 尚氏:
ええ,動いていました。
4Gamer:
なるほど,そうした経緯があったわけですか。では,チュンソフトさんにとって,今回のアミーゴ・アミーガは,オンラインゲーム参入第一弾というよりも,大きく参与しました,という感じでしょうか?
中村光一氏:
そうですね,どちらかというと,参与したという意味合いが大きいですね。我々のアドバイスでさらに良くなれば,というスタンスです。
4Gamer:
ではあらためて山口さんにお聞きします。最初に企画が立ち上がったのはいつごろでしょうか?
山口 尚氏:
開発に着手したのは3年と少し前になります。
4Gamer:
そのときは,純粋に山口さんのお手元の企画だったと。
山口 尚氏:
そうです。ドワンゴのネットワークゲーム事業部の新作,ということです。
4Gamer:
ゲームのアウトラインは,現在の形とほぼ同様のものだったのでしょうか?
山口 尚氏:
「モノを友達にできる」というコンセプトは当初からのものです。ただし,シナリオやチュートリアルの部分,インタフェースなどは,チュンソフトさんと一緒にこの1年間仕事を進める中で,だいぶ変わりました。
4Gamer:
そのあたりに,チュンソフトさんのノウハウや思いが込められている,というわけですね。
中村光一氏:
そうですね。ネットゲームというのはもともとそれほど親切でなく,お互いに情報交換をすることで盛り上がっていくところが良さでもあると思います。ただ,我々コンシューマゲームを作ってきた人間からすると,最初に何をやっていいのか分からないとか,どちらに進んでいいのかすら分からないといった状態はつらいと考えたのです。
そこにコンシューマゲームのようなチュートリアルを入れることで,よりハードルを低くしたかった。とくにビジュアルが可愛いタッチなので,子供達や女の人も「やりたいな」という気分になる作品なわけです。なるべく初心者を逃がさないようにするためにも,親切な導入部を用意したほうがいい。それが,最初に見せてもらったときに感じたことでした。
4Gamer:
なるほど,第一印象での取っつきやすさをより生かしたいと。……ということは,グラフィックス要素もほぼ原案どおりだったわけですか。
山口 尚氏:
ええ,そのとおりです。絵については,チュンソフトさんに見てもらった時点で,かなりの部分出来上がっていましたので。
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「アミーゴ・アミーガ」に登場する職業,ファイター/マジシャン/レンジャーのキャラクター。よくある丸っこいモデリングではなく,尖ったデザインが個性的 |
4Gamer:
せっかくの機会なので,グラフィックスと企画内容について少々お聞きしたいのですが,アミーゴ・アミーガの個性的な絵柄と世界設定は,南米インディオのものなんでしょうか?
山口 尚氏:
いえいえ,そういうわけではありません(笑)。キャラクターやアミーゴは社内のデザイナーが描いているんですけれども,グラフィックス要素を決めた最大のファクターは,多くの人にプレイしてもらうための低スペックPC重視の方針です。
Intel 815シリーズチップセットの内蔵グラフィックスコアで動くゲームにしたいという前提がありました。ところが,それで3Dのキャラクターモデルを作っていくと,どうしても既存作品とそっくりな絵柄になってしまうのです。そこでトゥーンシェーディングを使い,少し変わった尖ったデザインにしてみようという発想から,現在のようなものになりました。
4Gamer:
絵柄における個性化の一環,ですか。
山口 尚氏:
そのとおりです。それがそのまま,うまい具合に独特の世界観になっていったわけです。
4Gamer:
そうした絵柄で動くアミーゴ・アミーガを見たとき,中村さんの第一印象はどうでしたか? 作品の潜在能力として何を感じたか,ということですが。
中村光一氏:
そうですね,モノを仲間にできるといった発想は,実に楽しそうだな,と。感覚としてはまさしくコンシューマゲームと同じですよね,そこは。
ただ,いざ触ろうとするとコマンドなどがずらっと並んでいて,「え? これどうやればいいの?」という。そうした難しさと,両面を感じましたね。
4Gamer:
それで,チュンソフトさんが関与するようになってから,コマンドなどの扱いが変わったと。
中村光一氏:
ええ,とにかく簡単に,簡単に,という方向です。そうした結果としていまの状態があるわけですが,実のところ僕としては,いまのでもまだ厳しいな,と捉えています。チュートリアルが終わったとたん,広い世界に残されて,人はいっぱいいるわ,コマンドはいろいろ出てくるわで(笑)。
山口 尚氏:
当時からよく言われていたのは,「すごく可愛くて,万人向けで低スペックで動作してと,山口さんは言っているけど,プレイ内容はハードで,コアなプレイヤーにしかできないんじゃないの?」ということです。
中村光一氏:
ウチがサウンドノベル「弟切草」を最初に作ったとき,反射神経がいらなくて,文字が読めればよくて,AかBかたまに選ぶだけなので,絶対に誰にでも楽しめると思ってたんですよ。
ところが実際にやってもらったら,最初の名前入力が一番難しくて,どうやって選べばいいか分からないと(笑)。そんな感じに近いと思ったことを,憶えていますね。
4Gamer:
そのエピソード自体たいへん興味深いですが(笑),つまりプレイヤーにとってどこが分かりにくいかが,分かりにくいと?
中村光一氏:
そう。コンセプトは分かるんだけど,作っている側だとどうしても,当然「誰にでもできる」と思いこんでいる部分があって。意外にそれが当然じゃなかったりするものです。
4Gamer:
それは,アミーガ・アミーゴの開発段階に留まらず,広くオンラインゲームを見渡したときに,大事な視点かもしれませんね。中村さんとしては,やはり「難しい」と。
中村光一氏:
そうですね。一方でコマンドをワンクリックで切り抜いて貼り付けられるようになってたりして,そうした編集機能などはすごいと思うんですけどね。
山口 尚氏:
チュンソフトさんと仕事をさせてもらってあらためて実感したのですが,開発者が慣れてしまった操作については本当に,何が分からないか分からなくなりますね。
ほぼ全員に順番に触ってもらい,レポートをもらって……というのを繰り返しました。開発内部でもやるのですが,人数が足りなくなるんですよ。一度分かっちゃうと,もうチェックできなくなるので。
ショートカットを登録できることが,最初誰にも分からなくて,困ったなあとか。インタフェースについてはいつも悩むのですが,今回はとくにいっぱい試行錯誤しました。
4Gamer:
そのほかの部分で,チュンソフト側の意見で大きく変わった例を,いくつか教えていただけますか。
中村光一氏:
先ほどの話と重なりますが,例えばチュートリアルがそうですね。最初はああいった物語仕立てのものはなかったですし。コマンドについても,いまはだいぶすっきりしましたが,最初はかなり激しかったので。
山口 尚氏:
いまはウィンドウみたいな形でコマンドが整理されていますけど,最初は全部,つまり12,3個が表示されていたのです。いまから思うと繁雑に感じられるのですが,PCゲームではしばしば見かける形であるせいか,最初は不自然だと思いませんでした。逆に,すべて表示されていたほうが分かりやすいのではないかと。
現在の仕様としては,例えば慣れた人が全部のコマンドを並べておきたい場合,自分でショートカットに登録すればよいということになっています。
4Gamer:
慣れてしまうと,常識のレベルが変わってしまいますもんね。
山口 尚氏:
チュートリアルについては,当初の仕様でもお話っぽいものは用意されていました。そこにはある程度自信があったつもりなのですが,「全然分からないよ」と。そういうことを表現したいなら,もっとこういう言い方をしないと,みたいなやりとりが続いて。セリフ1行で3時間くらいミーティングしたりといったこともありました。
4Gamer:
3時間ですか!
山口 尚氏:
そうです。セリフ1行に懸ける思いが伝わってきて。僕も以前コンシューマゲームを作っていましたから,ある程度理解しているつもりでしたが,チュンソフトの現場のみなさんはすごかったですね。
4Gamer:
アミーゴ・アミーガでは1画面に入るテキストの文字数がかなり抑えられていますよね。あれはコンシューマゲームの開発ノウハウを取り入れたものなのでしょうか?
中村光一氏:
多分そうなんでしょうね(笑)。いや,多分と言ったのは,我々にとってそれは,自然なことなので。
山口 尚氏:
いまでもどうかすると,長くなっちゃいますけど。
中村光一氏:
うーん,僕なんか自社製品の表示メッセージが,めっちゃ長いなあといつも思っているので。もっと短くしようと,さんざん言ってるんですけどね。
4Gamer:
コンシューマゲームだと,とくにそう感じるんでしょうね。
中村光一氏:
そう。ドラクエなんかがすごいのは,堀井さんが,最初に相当短く書いてくるやつをさらに縮めていくんですよね。まあ,メモリがないからといった事情もあったんですけど。単語を1個削ったりとか,語順を入れ替えて助詞を1個減らしたりとか。
そうやってすごくシンプルにしつつも,キャラクター付けを残す。それでいて,ぱっと読んで意味が分かり,記憶にも残る。そういった作品作りを続けてきた現場でやっているので,どうしてもセリフが長いと気になっちゃうんですよ。