YNK KOREAが開発し,YNK JAPANが日本でのサービスを手がけているMMORPG,「R.O.H.A.N」。現在はオープンβテスト中ということもあり,4Gamer読者の多くも本作で楽しんでいることと思う。
そんなR.O.H.A.Nのキャラクターボイスの収録が,8月下旬,都内のスタジオで行われていた。今回,4Gamerがスタジオにお邪魔したときは,声優の藤原啓治さんが「ヒューマン(男)」と「エルフ(男)」のボイスを収録している真っ最中。収録風景を見学した後,藤原さんに話を聞いてみた。
藤原啓治さん
「クレヨンしんちゃん」の野原ひろし,「交響詩篇エウレカセブン」のホランド・ノヴァク,「ゾイド -ZOIDS-」のアーバイン,海外ドラマ「LOST」のソーヤーなど,幅広い役柄をこなす実力派声優。
「R.O.H.A.N」では「ヒューマン(男)」と「エルフ(男)」のキャラクターボイスを担当
4Gamer:
今日はよろしくお願いします。
R.O.H.A.Nというゲームのキャラクターボイスを担当されたわけですが,普通の日本語のセリフではなく,「R.O.H.A.N語」とでも言うべき,独自の言語になっていましたね。こういう音声の収録って,いつものお芝居とは違うものですか?
藤原啓治さん(以下,藤原さん):
いやー,違いましたね。攻撃のときに声を荒げたり,力強く叫んだりっていうのは分かるんですけど,感情が分からないものが多いんですよね。感情をどの程度出すか,あるいは引っ込めるかという部分は,手探りというよりむしろ,指示通りにやる感じでした。
4Gamer:
ご自分の中で作り上げたお芝居ではない,ということですか?
藤原さん:
自分の表現の仕方というよりは,言われた通りのニュアンスを出すという感じで。そもそも,言葉の意味自体が分かりませんしね。そのへんが手探りだったので,難しかったです。
4Gamer:
録音している模様を見学させてもらえたんですが,意味のある言葉ではない分,楽器に近い声の使い方をしているのかなと思いました。
藤原さん:
そうかもしれませんね。言葉の意味ではなく,声のトーンや発音,アクセントなどの雰囲気で感情を表現するような。発音に関していうと,あんまりカタカナっぽくなりすぎると堅くなってしまうので,英語っぽい発音,響きを意識していました。
4Gamer:
こういうお仕事って,あんまりないですよね。
藤原さん:
あんまりどころか初めてでした。もしかしたら最後かも……。
4Gamer:
そ,それは,もう嫌だってことですか?
藤原さん:
そういうわけじゃないんですけど(笑),こういう風に架空の言語でしゃべるゲームって,珍しいんじゃないかなと思って。
4Gamer:
確かにこういう架空の言語を,これだけ多くの豪華声優陣(8人!)を使って録音するというのは,珍しいかもしれません。日本語の音声を入れているものは,そこそこあると思いますが。
藤原さん:
そうですよね。どこの言語でもないというのは,珍しいでしょうね。
4Gamer:
どこの言語か分からないがゆえの難しさがあったと思うんですが,最も苦労したのはどんな部分でしょうか。
藤原さん:
どこに正解があるのか,さっぱり分からないところですね(笑)。「発音いいね!」って言われても,それが本当かどうなのか分からないっていう。
4Gamer:
確かに(笑)。そういう部分で,不安に思うようなことはありませんでしたか?
藤原さん:
不安といえば不安でしたね。日本語で喋っているときの感情の出し方とか,ニュアンスの変え方っていうのが,通用しないんですよね。何度かお手本を聞かせてくれるんですけど,それを再現するだけじゃなく,どう表現できるかという部分に,相当気を遣いました。
4Gamer:
やっぱり今までにやられてきた役柄とは全然違う感じだったんでしょうね。
藤原さんといえば,「クレヨンしんちゃん」の野原ひろし役であったりとか,「交響詩篇エウレカセブン」のホランド・ノヴァク役であったりとか,普段は情けない男ながらも決めるときにはビシッと決める役柄という印象が強かったんです。人間の振り幅をきっちり表現される方というか。そういう意味で,架空の言語を録音していると聞いたときに,「藤原さんの持ち味は生きるのか?」って,ちょっと思ってしまったんです。でも,やっぱり生きていましたねぇ。本気で感動しました。
藤原さん:
セリフ自体の意味があんまり分からなくても,キャラクターの雰囲気とかを見てやってますからね。例えばこういう性格で,こういう面を出してくれって言われると,日本語ではないんですけど,そのニュアンスだけは出したいなと思うんで。
性格をどう表現するかという部分に関しては,日本語だからとか,日本語じゃないからとか,そういうことに関係なく,共通している部分があるのかもしれません。
4Gamer:
なるほど……。やっぱり,キャラクターの性格を考えて演じていたんですね。
藤原さん:
もちろんです。それがたまに,裏目に出たりもしたんですけどね(笑)。強いタフな感じの役ってことで,強くばっと出そうとすると,「そこは平板に」って言われちゃったり。
4Gamer:
でも同じ言葉で,しかも日本語じゃないのにあれだけのパターンが矢継ぎ早に出てくるのは,さすがとしか言いようがありません。それでいて,どういう声を出しても軸がぶれないというか,同じキャラクターの声なんだっていうのが分かったんですよ。そういう風に演じるときのポイントは,どこにあるんでしょうか。
藤原さん:
お,ぶれてませんでした? ありがとうございます。
まあ,僕がやってるから僕の芝居なんですけどね(笑)。
4Gamer:
それはそうなんですけど(笑)。
藤原さん:
やっぱり,いろいろなニュアンスを求められても,同じ人物をやっているという意識ではいます。声のトーンであるとか,そういう部分には気を配っているので,ぶれた感じにはならなかったんじゃないかなと。
4Gamer:
ところで,藤原さんご自身はゲームで遊ぶことはありますか?
藤原さん:
ゲームは,ほとんどしないですねぇ。
4Gamer:
あー,やはり。
小さい頃はアニメもあまり見なかったとか。
藤原さん:
アニメは……見なかったですねぇ。当時はあんまりアニメを見させてもらえなかったんです。
あ,でも「未来少年コナン」は好きでしたよ。アニメでは,唯一それだけを楽しみにしていました。まあ当時,好きにテレビを見て良ければ,やっぱりアニメを見ていたと思いますけどね。
4Gamer:
最近の若い声優さんには,ご自身がものすごくアニメ好きで,だからこそ声優を目指したという人も多いですよね。世代的なものかとは思うんですが,藤原さんのように育ってきた方がアニメやゲームの仕事をしているときって,どんな意識なんだろう? っていうのに,少し興味があるんです。
藤原さん:
そうですねぇ……。僕の場合,舞台とか芝居のほうから入っているんですが……,アニメが好きっていうよりも芝居が好きで良かったって思うんですよ。
4Gamer:
というと……?
藤原さん:
アニメって,口パクに合わせて声だけで表現をするという意味で,とても制限されているんですね。芝居そのものが好きだから,そういった制限がある中で,どうやったら面白く演じられるだろう? とか,そういうのを楽しめるんですよ。最初の頃は難しかったですけどねぇ。もちろん,今でも難しいですけど。
4Gamer:
素人の僕から見ても,非常に高度なことをやられているのはよく分かります。
藤原さん:
繰り返しになりますけど,僕の場合は芝居が好きっていうのに尽きますね。アニメにはアニメの面白さがあるし,洋画の吹き替えには洋画の吹き替えの面白さがあります。ほかにも,ナレーションをやったり,今回のようにゲームのキャラクターボイスをやったり,ほかにもドラマCDのように,口パクに制限がないものをやったり。いろんなスタイルを楽しめますから。
4Gamer:
では,その中で一番お好きなのは,どれですか?
藤原さん:
いろいろな仕事のバランスがうまくとれていると,本当にいろいろなことができるんですよ。それはジャンルであったり,表現の仕方であったり。だから,どれが一番っていうのはないですね。それぞれがちょっとずつ違うので。
4Gamer:
そういうものなんですか……。見習いたいです(笑)。
ところで,いろいろなお仕事をされていて,その都度ファンの人にどういう風に受け止められているのかといったことは,意識するものですか?
藤原さん:
ファンの方って,作品を好きであったり,僕がやってるキャラクターを好きでいてくれたりすると思うんですよ。作品が好きでキャラクターが好きで……という人が,僕のファンになってくれたりもしますし。
4Gamer:
基本的には顔を出さないお仕事ですから,まずは作品であったり役柄であったりっていう部分が入り口になりますよね。
藤原さん:
ええ。だから,そういう風にファンになってもらえるのは嬉しいと思っています。でも,無理に気に入られようとか,ファンに媚びたりとか,そういう意識は持たないようにしています。
4Gamer:
その心は?
藤原さん:
例えば,僕が演じたらファンは喜ぶだろうなっていうようなキャラクターは,あまり望んでないんですよ。役柄に応じて,三枚目であったり二枚目であったりといろいろと演じていく中で,それを受け入れてもらえれば嬉しいなと思っているんで。
4Gamer:
つまり,一つのイメージにとらわれずに,常に新しいものにチャレンジしていきたい,ということでしょうか。
藤原さん:
ええ。「こんな役をやっちゃってがっかり」とか,そういうのは全然気にしないんです。むしろ,今までのイメージと違う役を演じたら,それを喜んでくれるといいなって。
4Gamer:
ファンに媚びないとか,そういう言葉だけだとなんだかクールな印象も受けるんですが,むしろ,新しいものをどんどん受け入れてもらえるような関係を,ファンの人とも築いていきたいということのように聞こえました。
藤原さん:
そうですね。実際,機会はあまり多くないですけど,イベントなどで僕のファンもいてくれると,とても嬉しいです。お手紙をもらったりするのも嬉しいですし。
4Gamer:
R.O.H.A.Nでイベントがあったりするといいですね。
さて最後に,4Gamer読者に向けて一言お願いします。今回のキャラクターボイスの聴きどころなどを,ぜひ。
藤原さん:
今回,こうして日本オリジナルの声を入れることで,おそらく,これまでに皆さんがやったゲームとは,また違った新鮮なものになると思います。ぜひぜひ,プレイしてみてください。
4Gamer:
ありがとうございました。
インタビュー中にも触れているが,藤原さんの演技は,情けない男から格好いい男まで幅広い。一人の人物が極端に異なる二面性を持っていたとしても,その両面を見事に演じ分けながら,一つの人格としてまとめ上げられるという意味で,希有な存在だろう。そんな藤原さんを,攻撃時の叫び声や,エモート使用時の声などのために起用してしまう(しかも,日本語ですらない)とは,R.O.H.A.Nというゲームはなんと贅沢なことか。
今回インタビューした藤原さんを含め,豪華声優陣の声は,10月までには実装されるとのこと。すでにオープンβテストでR.O.H.A.Nに触れている人も,藤原さんのファンも,楽しみにしていてほしい(とくに死ぬときの声)。(2006年8月30日収録)