ユン氏:
かもしれませんねえ。ところで,BOTを使ったことはありますか?
4Gamer:
いえ,ありません。
ユン氏:
なるほど。私も今までゲームをたくさんやってきましたが,BOTを使ったことはなかったんです。でも,R.O.H.A.Nのプレイヤーの中に,BOTを使っている人はいました。
私は正直なところ,なぜ彼らがBOTを使っているのか理解できなかったんです。そこで,彼らの気持ちを知るべく,BOTを使ってみたんです。
4Gamer:
やっぱり行動派ですね(笑)。
ユン氏:
秘書にBOTを入手させて,自分で使ってみました。それが,つい4週間ほど前のことです。
4Gamer:
どうでした?
ユン氏:
なんと言うんでしょうか……恥ずかしい話なんですが,すごく反省させられました。ゲームが面白ければ,BOTを使おうという気にはならないんだろうな,ということが,身をもって分かってしまったのです。RMTで商売しているゴールドファーマーはともかく,一般のプレイヤーがBOTを使っているということは,それぐらいゲームがつまらないのではないかと,いてもたってもいられなくなったんです。
4Gamer:
なるほど。
ユン氏:
それをどうにかしなければ,と真剣に考えて,すごく画期的なアイデアを思いつきました。1〜2週間後,オリジナルのBOT対策を発表できると思います。すごく衝撃的な内容ですよ(編注:インタビュー収録は2006年6月9日。2006年6月14日に記事にしたが,どうやら
こういうことのようだ)。
4Gamer:
どんな内容なんですか?
ユン氏:
夜中までみなで社内で話し合って決めたことです。プレイヤーの目がBOTにいかないように,手を打つのです。
4Gamer:
ほう!
ユン氏:
特許を申請中なので,詳しいことは言えません。ごめんなさい。でも,実際に自分で試してみたらけっこう楽しかったですよ。
4Gamer:
うーん,気になりますね。何かヒントはないですか? BOTを制御するとか単にBOTをはじくということではなく,BOTを使わなくてもいいようにゲームシステムに大きな変更を加えるということですか?
ユン氏:
両方です。
4Gamer:
うーん……気になるな。なんだか想像も付かないのですが,期待してます。ところで韓国でBOTというのは,どれぐらい根深い問題なんですか?
ユン氏:
BOTを防ごうとする人,それを破ろうとする人のいたちごっこが続いています。BOTを使う側から見ると,開発側が使わせまいとしているものを,どうにかかいくぐること自体が,ゲーム的な面白さになっていると思うんですよね。
4Gamer:
あるいはそういう側面もあるのかもしれませんね。
ユン氏:
今度発表するのは,そういう人達(=使う人)ももっと楽しめるようになる内容です。
開発者の立場からは,BOTを防ぎたい。でもプレイヤーの立場から見ると,色々なところに弊害が出たりすることもありますし,それはそれで鬱陶しいですよね。だからこそ,プレイヤー達にもっと楽しいものを提供するつもりです。
4Gamer:
それは今までBOTを使っていた人に対するものですか? 使ってない人に対するものですか?
ユン氏:
使わなかった人のためのものです。
4Gamer:
なるほど。しかしそれがうまくいくと,また一つオンラインゲームの歴史に新しい可能性を提示することになりますね。
ユン氏:
いえ,そんな大仰なものでは。私の後輩達も数多く韓国でゲームを作っているのですが,彼らにずっと話しているのは,開発者はゲームの父親でも神様でもないということです。
4Gamer:
ではなんなのでしょう?
ユン氏:
ただのサービスマンです。プレイヤーがいない限り,どんなに凄いゲームがあっても,どんなにエラそうなことを言っても,我々はこの仕事を続けられないんです。
だから,プレイヤーが神様です。我々は,プレイヤーの言うことを聞かなければならない。つまり,プレイヤーがゲームの神であり,父なのです。
4Gamer:
日本はコンシューマゲーム文化が根強いので,そういうことを言い切る人はなかなかいないですね。
ユン氏:
そうですね。コンシューマゲームは開発が完了した時点で終わりですからね。開発者がゲームの父親であり,神様でもあるんです。それは正しいと思います。
4Gamer:
発表会で,日本のプレイヤーに合わせてグラフィックスやゲームシステムを変えるとおっしゃっていましたよね。それにつながる話ですね。
ユン氏:
ええ,そういうことです。
4Gamer:
韓国やアメリカのメーカーが日本でパブリッシュして運営するとき,皆さんそうおっしゃるんですが,必ずしもみなさんが実現しているとは言い難いんですよ。
ユン氏:
現実的にはなかなか難しいでしょうしね。
4Gamer:
そうですね。いくら日本側が強くそれを望んでも,開発側にその気がなかったら,なかなかうまく進まないでしょうし。みなさん大変なんだと思います。ましてや日本のオンラインゲーム市場はいま完全な輸入産業ですから,もう大半がその状態だと言っても過言ではないんじゃないでしょうか。
ユン氏:
私達は違いますよ(笑)。実際,韓国で日本のプレイヤーのための新規開発を今もがんばっています。プレイヤーのためにもっと努力して色々なことをしたいんですが,できないことも当然あって,いつも謝りたい気分で一杯です。
4Gamer:
ぜひ期待してますよ。
ユン氏:
韓国では,プレイヤーと話し合うオフラインイベントを,1か月に一回やってます。ソウルだけでなく,各地でやってるんですよ。
4Gamer:
韓国のオフラインイベントは熱そうですね。
ユン氏:
ええ,喧嘩になってしまうこともたびたびです。アップデートの結果,気に入っていたアイテムが使い物にならなくなった! といって怒る人もいっぱいいます。
4Gamer:
うーん。そういうのはあるでしょうねぇ(笑)。日本でもやってくださいよ,オフラインイベント。
ユン氏:
ええ,やりたいですね。まず私が日本語を勉強しないと(笑)……。
4Gamer:
日本のオンラインゲーム業界が抱える問題の一つとして,運営とプレイヤーの距離が遠すぎることが挙げられるんじゃないかと思ってるんですよ。過剰に近づく必然性はないのですが,それにしても余りにも遠い。公式サイトとかにある意見フォームなどは見てるんだか見てないんだか分からないし,プレイヤーの本音をぶちまける場所もないし。
難しいのはよく分かるんですよ,自分もプレイヤーですし。プレイヤーの本音をイチイチ全部真に受けていたら,“経営”という意味での運営が成立しないですしね。とはいえ,もう少し距離を詰めてもいいんじゃないかな,と思うことが多々あります。
ユン氏:
その問題は,私も大いに考えるところがあります。なんで日本の運営会社は公式サイトにBBSを用意しないんですかね?
4Gamer:
荒れるのが嫌だからじゃないんですかね。余りにも荒れると手間もコストもかかりすぎるし。あと色々と不都合なことを書かれたくないという部分も多いと思います。しかしたいがいの場合,どちらに非があるのかちょっと分かりませんけどね……。
ユン氏:
なるほど。まぁその気持ちは痛いほど分かります。それでも私達は,公式サイトの中にプレイヤーが自由に意見を書き込めるBBSを用意してあります。
BBSを毎日見ていると,否定的な声ばかり書いてあったりしますよね。正直見るのもツラかったりするのですが,そういうのも読んでいます。プレイヤーの話を聞くという約束を最初にしたんですが,それを守っていきたいと思っています。
4Gamer:
先ほどちょっと触れましたが,ユン社長は昔から,リアルマネーのアイテムトレードが,ゲームをダメにするという主張をしてましたよね。だからR.O.H.A.Nにしても,おそらくいろいろな人から誤解されているんじゃないかと思うんですが。
ユン氏:
ええ。そうですね。でも,プレイヤーからの感謝の手紙が一通でも届けば,またがんばろうという勇気を得られますし,大丈夫です。
4Gamer:
なるほど。
ユン氏:
以前,中国からハッキングを受けて,プレイヤーの皆さんに申し訳ない事態になってしまったことがあるんです。
昔は,開発者に対してこういうことを公表しろと言っても,隠そうとしてきたんですよね。それに対してR.O.H.A.Nは,何かが起きたらすぐ,正直に公表し,私達の落ち度を認めてきました。そして次からは,同じ手口のハッキングを防いできました。
正直に公表してプレイヤーの理解を求め,次に同じことが二度と起きないようにして,もっとがんばる。それが大事だと思います。まぁ悪口もたくさん言われますけどね(笑)。
4Gamer:
ぜひ,そういう思想を日本の運営にも役立てていただきたいです。