― 特集 ―
特別インタビュー:ガイアックスのゲームポータル「ムポー」で,新たなマーケットを生み出す

Text by TeT Photo by 新井邦彦 

 ガイアックスが2月14日に発表し,同日プレオープンしたゲームポータル「ムポー」。国内ゲームポータルとしては現時点で最後発となるムポーは,一体どういう戦略をとって既存ゲームポータルとの差別化を図り,顧客を獲得しようとしているのか。後発ならではのアイデアはあるのか。ガイアックスの執行役員 ゲーム事業部長 越知雄一氏に聞いてみた。

良質なゲームとサービスを提供することで,差別化していく

4Gamer:

 早速ですが,ゲームポータル「ムポー」についてのお話を聞かせてください。
 正直なところ,ここ最近増えてきているゲームポータルの中で,ムポーがどのようなポジションを狙っているのか,どう差別化していくのかがよく見えないのですが,そのあたりはいかがお考えでしょうか。

ガイアックス 執行役員 ゲーム事業部長 越知雄一氏

ガイアックス 執行役員
ゲーム事業部長 越知雄一氏
(以下,越知氏):

 正直なところ,まだ「コレで差別化していく!」というのがはっきり見えている状態ではありません。ただ,僕らが今日発表したゲームのラインアップ(「とぅいんくる」「天晴!からくりボウリング」「超学校」「ストーンエイジ2(仮称)」)で,ある程度の個性を打ち出せているかな,とは思っています。

4Gamer:

 ということはつまり,今日発表されたタイトルはすべて,ムポー独占供給という形になるんですか?

越知氏:

 ええ,基本的にはそうです。まずは,これらのタイトルでしっかりとお客さんを集めるところから始めないといけないわけです。
 確かに今「ハンゲーム」さんや「ネットマーブル」さん,ほかの会社でもゲームポータルの準備を進めているような状況です。でも僕らとしては,ポータルをやるというよりも,いくつものゲームを手がけていきたいっていうのが,まず先にあるんですよ。だから,結果的にポータルという形にせざるを得なかった,というのが正直なところですね。

4Gamer:

 つまりは,ゲームのパブリッシャとして複数のタイトルをやっていきたい,どうせそれをやるならば,一つのアカウントですべて遊べるようにした方が,プレイヤーにとっての利便性も高いだろうという考え方ですか?

越知氏:

 そういう流れですね。
 やっぱりゲームポータルっていう形を打ち出すことで,大きなことをやろうとしているように見られてしまう側面はあると思うんですよ。でも本当はそういう風には見られたくないんです。現場レベルではとにかく,ゲームを地道にしっかりやっていきたい。そのための場所を作りたいという思いなんで。

4Gamer:

ガイアックスのゲームポータル「ムポー」。2006年内に10近くの新作タイトルが登場する予定

 つまり,そのスタンス自体がそもそもほかのポータルと異なる部分である,と。

越知氏:

 さらにその上での差別化っていうのは,コンテンツの広がりだと思うんですよ。先ほどの発表会でも「音楽」なんてキーワードを出してはいますが,別に音楽配信をやるって決めたわけではありません。ゲームをベースに,どこまで広げられるかっていうことを考えているんです。

4Gamer:

 というと……?

越知氏:

 例えば,デバイスかもしれません。実は今作っているオンラインゲームのエンジンの中には,もともと携帯電話向けの軽いものが使われていたりもするんですよ。だから携帯電話とPCで同時に遊べちゃうとか,そういうのも考えてはいます。ただ,それがプレイヤーに対して大きなメリットを感じさせられるかっていうと,必ずしもそうではないわけで……。
 そういう意味では,差別化っていうのは重箱の隅をつついていくように探していくしかないという感じですね。だからこそ,あまりそればかりを意識するのではなく,いいゲームを出して,いいサービスをしていくしかないと考えています。

4Gamer:

 なるほど。ところでガイアックスさんでは現在,「なつゲー」や「Soft-City.com」といった,いわばレトロゲームのポータルを運営されていますよね。そういう意味では,ガイアックスさんとして複数のポータルを持っているわけで,これらをまとめてムポーに統合するようなことは考えていないのでしょうか。

越知氏:

 その可能性はゼロではないということだけは,言えますが,具体的なことはまだ考えていません。ただ,ビジネスとしての成り立ちが違うんですね。弊社だけはなく,NTTコミュニケーションズさんや,D4エンタープライズさんとの共同事業なので,どう折り合いを付けていくかというのが,大きな課題です。

4Gamer:

 ばらばらで集客していくというメリットはあると思うんです。がだ,これからムポーの会員になろうという人にとっては,これらもまとめて遊べる方が嬉しいんじゃないかとも思うのですが。

NTTコミュニケーションズとガイアックスが共同で展開しているレトロゲーム配信サイト「なつゲー」

越知氏:

 確かにそうですね,でも正直なところ,オンラインゲームをやっている人達にとって,ガイアックスという会社の知名度はまだまだ低いと思うんです。なつゲーやSoft-City.comのお客さんだって,ガイアックスを知らないかもしれない。だから今は,各サービスで集客していくというメリットの方が大きいかな,と。

4Gamer:

 なるほど,それでは当面は別々で動いていくわけですね。

越知氏:

 そうですね,はい。

公式のアイテムトレードのような仕組みも検討していきたい

4Gamer:

 サービスとして,後発ならではの新しいことなどは,何か考えているんでしょうか?

越知氏:

 そうですねぇ……,例えば今考えていることとしては,ゲーム内アイテムの取り引きみたいなことも可能にしようかなと。

4Gamer:

 それはつまり,公式のユーザー間アイテムトレードみたいな感じで?

越知氏:

 ええ,ニーズはありますからね。やり方はじっくり考えないといけないんですけど。もちろん,タイトルにもよりますけれど,ゲームとしてうまく設計しておけば,アリだと思うんです。

4Gamer:

 とくにカジュアルゲームが多い場合,それだけをずっと遊び続けるというプレイヤーばかりじゃないでしょうしね。

越知氏:

 だから,「じゃあ次はこのゲームをやってみませんか?」となったときに,例えば前に遊んでいたゲームのアイテムを,違う形で次のゲームに持って行けるとか,あるいは前のゲームで遊び続ける人に売れるとか,そういう仕組みは重要になると思うんですよ。これは何らかの形で実現したいと思っています。

4Gamer:

 今回発表されたタイトルはすべて,基本無料のアイテム課金制になるとのことですが,やはりムポーとしての有料コインみたいなものを提供する形になりますか?

越知氏:

 もちろん,それはします。

4Gamer:

 それは,例えばまず有料コインを購入して,それを使ってさらにゲームごとに用意されたポイントなど手に入れて,そのポイントをアイテムと引き替えるような……?

越知氏:

台湾のInterServが開発した「M2〜神甲演義〜」

 まあたぶん,そういう形になるでしょうね。

4Gamer:

 そこら辺は,ほかのポータルとあまり変わらないわけですね。むしろ新たに始めるのであれば,いっそのことどのゲームでもムポーの有料コインをそのまま使えるというような形になった方が,利便性も高まるんじゃないかなぁと思ったんですが。

越知氏:

 確かにそうですねぇ……。現実問題,今回発表したような,僕らが主体的に創っているタイトルは,そうできなくはないんですよ。ただ,ほかのパブリッシャさんのものとか,韓国から持ってきたりしたものに関しては難しいでしょうね。
 ポリシーとして,こちらのやり方に合わせてくれないと,ウチではサービスできません! っていう風にはできるかもしれないですが,まだ立ち上がったばかりのものでは現実的には難しいでしょうね。可能ならばそういう風にはしてみたいですが。

4Gamer:

 では逆に,そういうことができない分,先ほどお聞きしたようなアイテムトレード的な仕組みでカバーするような感じですね。

越知氏:

 そうですね,楽しみにしていてください。

4Gamer:

 アイテム課金ついでにうかがいたいんですが,現在主流になっている“基本無料+アイテム課金”というのは,課金モデルの最終形なんでしょうか?

越知氏:

 それは違いますね。絶対に違います。

4Gamer:

 となると,こういうアイテム課金制と月額課金制以外に,どういった課金モデルがあるのでしょうか?

越知氏:

 うーん……,あくまで例えばなんですが,アイテムを売るにしてももっとプレイヤー寄りになっていってもいいのかもしれない。プレイヤーに対して,一律に同じものを売るのではなく,こういうアイテムを作りますよ,じゃあいくら下さい,みたいな。ゲームの楽しみの部分と,どうバランスをとっていくのかも考えないといけないですけどね。
 ただ,今のアイテム課金が最終形ではないと思います。

4Gamer:

 基本料金なしで遊べるゲームが多いですよね。その中で今後,プレイヤーに対してどのように課金していくのかというのは,この業界の誰もが悩んでいるところだとは思うんですが……。

越知氏:

 やっぱりそれは悩みますね。ただ,あくまでも個人的な見解ですが,日本のプレイヤーは製品のクォリティさえしっかりしていれば,それに見合う額を支払ってくれるんじゃないかと思うんです。コンテンツに対する敬意というか。

4Gamer:

 でもそれならば,アイテム課金だけじゃなくて月額課金制のゲームをムポーでやってもいいのでは?

越知氏:

 まあ,ゲームによりますね。今はとくに考えてないですけれど,「面白いけどこれはアイテム課金じゃ無理」っていうタイトルも出てくるかもしれませんから,そこら辺は柔軟に。

日本産のタイトルにこだわっているわけではないが……

4Gamer:

 ムポーの新規タイトル第一弾は,韓国産の「コンコンオンライン」ですよね。でも今回の発表会では,国産タイトルを前面に押し出していた印象があります。ムポーとして,国産タイトルを押し出すという方向性なのではないかと感じたのですが,もし仮にそうであるとしたら,その方向性を決めたのは,コンコンオンラインの権利を獲得する前か,それとも獲得した後なのかというのを教えていただけますか?

越知氏:

 厳しいところにつっこんできますねぇ(笑)。実はラインアップとしては,2006年のうちに二桁に限りなく近付くんですよ。今回は確かに,国産タイトルばかりを発表する形になりましたが,ラインアップ全体で見ると,実は国産タイトルばかりというわけではないんです。

4Gamer:


3月3日よりオープンβテストが行われる“とんではねる”レーシング「コンコンオンライン」

 となると,コンコンオンライン以外にも韓国産のゲームが出てくるわけでしょうか。

越知氏:

 そういうことですね。やっぱり韓国には,オンラインゲームをたくさん作ってきた歴史があるので,それなりにいいものを作ってくれるであろうという安心感があるんですね。一方,日本の場合は,キャラクターやゲームの世界観の作り方などに対する安心感がある。ただ,オンラインゲームとしての仕組みを作るという部分では,まだ不安があります。

4Gamer:

 とくに今回,コンシューマ系の開発会社なども参加してますもんね。

越知氏:

 ええ,そういうところは,どうしてもコミュニティのことや,それこそクローズドβテストやオープンβテストのやり方について,知らない部分が多いんです。経験がないから当然のことなんですが。そこは,我々ガイアックスと密に相談しながらやってもらってます。
 ただ実際のところ,ムポーとして国産重視とか,韓国産重視とか,そういうこを決めているわけではありません。

4Gamer:

 では,そういう状況の中で,今回あえて国産タイトルにスポットを当てたのは,どういう理由なのでしょうか。

越知氏:

 やっぱり,サービスの発表にあたって,日本でもこれだけ作っているんだよっていうのが,一つのウリになると考えたからですね。打ち出し方として,分かりやすいじゃないですか。もちろん,開発中のゲームが,これまでになかったようなものもあって,魅力的だったというのも大きいんですが。

4Gamer:

 ということは,冒頭の話とも重なりますが,ムポーとして国産タイトルを推し進めることで,差別化を図っていこうというわけではないんですね。現在のラインアップを見ると国産タイトルが多いので,そこを差別化のポイントにしていくのかと思ったんですが……。韓国産のものなんかも増えてくると,少し焦点がぼやけてしまいそうな気もします。

越知氏:

 いやぁ……それはもう,そのとおりなんですけどねぇ……。
 実際のところ,国産タイトルがうまく軌道に乗っていくようであれば,そっちにシフトしていくとは思いますよ。なんせ,距離も近い,言葉も同じっていう意味で,作る前からいろいろ議論ができるし,作りやすいんですよ。韓国で出来上がっているものを買ってきて,さらに直したりするのは,それはそれで双方に負担がありますから,やりにくい部分もあるのは事実です。

4Gamer:

 でも逆に,韓国で開発したほうが,コストは抑えられますよね。

越知氏:

 まったくその通りですね。だから,こっちで企画したものを韓国に持って行って開発してもらうとか,そういう形で開発初期から関わっていくようなスタイルに,今後は変わっていくと思います。
 まあ,今回は国内でもそれほどコストがかかっているわけではないですけどね。

4Gamer:

 そういう理由もあって,今回のタイトルはカジュアルゲームばかりという感じですか?

越知氏:

 そうですね。いきなり「MMORPGを作ってください」と持ちかけて,「はい,分かりました!」ってやってくれる会社は,日本にはそうそうないじゃないですか。

4Gamer:

続編が開発中だが,まだまだ現役のMMORPG「ストーンエイジ」

 カジュアルゲームばかりだと,似通ったものが増えてしまう危険性もあると思うのですが,そのあたりはどうコントロールしていくんでしょうか。

越知氏:

 そういう懸念は確かにありますね。もちろん,そうならないよう,事前に手は打ちますが。

4Gamer:

 ゲームの内容に関しては,基本的に開発元にお任せという感じなのでしょうか。

越知氏:

 基本的には,ほぼ任せてます。ゲームとしてどうかっていう部分に関しては,元々きっちり実績のある方々なので心配はしていません。ただ,オンラインゲームとしてどうなのか,と疑問に思う部分だけ,注文を付けさせていただくような感じです。

4Gamer:

 じゃあ,全体的なコントロールはあんまりしていないと……?

越知氏:

 日本で作っているものに関しては,企画の方向性が見えた時点で,ある程度全体像も見えると思うんで,あんまり心配はしてないんですけどね。ただ韓国のゲームの場合は,比較的近いジャンルの中で,さらに細分化していたりするんですが,実際にやってみないと分からなかったりして。正直,悩むところではあります。結果的に同じようなコンテンツが集まって来ちゃうってことも,あるかもしれないですね。

4Gamer:

 やっぱりバラエティに富んだラインアップが用意されていると,ムポーのアカウント一つで遊べるというメリットが,プレイヤーにとっては大きいと思うんですよね。逆に,ある一本のゲームをやるためにムポーの会員になった人が,次のゲームをやろうとしたときに同じようなゲームばっかりだったら,ムポーにこだわる必要はないわけで。

越知氏:

 ムポーを一つのお店だと考えた場合,やっぱり品物の種類は多くあるべきですよね。そこは本当に,すごく気をつけなくちゃいけないと思っています。

4Gamer:

 そのあたりは,手探りということでしょうか。

越知氏:

 そうですね,気をつけてはいるんですが。こちらで作る場合じゃなく,海外から契約して持ってくるような場合って,複数との話を同時に進めたりするんです。その話の進み方は,まちまちなんで,結果的にあれ? ってなってしまうことも,あるかもしれない。もちろん,同じようなタイトルを連続でリリースするようなことはしませんけどね。

タイトル ムポー
開発元 N/A 発売元 UTDエンターテインメント
発売日 2006/03/03 価格 無料
 
動作環境 N/A

(C)2007 UTD Entertainment Co. Ltd. All Rights Reserved.

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http://www.4gamer.net/specials/060227_mupoh/060227_mupoh_001.shtml