― 特集 ―
「ファンタジーアース ザ リング オブ ドミニオン」正式サービス開始記念開発者インタビュー

Text by 星原昭典 / Photo by kiki 

戦争のルールをプレイヤー達にきちんと伝えることの重要性

渡辺氏:

 第3次βテストで,戦争参加時に評価されるポイントをガラっと変えたんです。第1次,第2次βテストをやっている頃に,このゲームで戦争に参加して,褒めらる行為って何だろう? ということで,ずいぶんと議論しました。
 「戦争に勝つために貢献した」というのは測定不能な値なので,自軍の勝敗がすべてということにしようか,あるいは,とにかく敵を倒せばいいということにしようかとか,いろいろな話が出ていました。

田中氏:

 第3次βテストでは,“建築物をいくつ建てた”“敵を何人倒した”“クリスタルをいくつ採った”というような,“数字に表れる部分”と,参加賞というか“チームとして貢献した結果の評価”,この二つを総合して経験値やリングの数を算出しています。

4Gamer:

 その,表に表れない部分について,もっと詳しく教えてください。

渡辺氏:

 その仕組みを考えているときに話をしていたのは,勝つためにこちらの想定していないアイデアをどんどん出してくるプレイヤーがいる,ということでした。そういう行動をとった人が,何もご褒美をもらえないというのはどうなんだろうかという話があって。
 方法を見つけて評価すべきだという意見と,そこの評価はムリなんだから,逆にシンプルに,今見えている数値だけで評価すればいいという意見,二つの意見の間を行ったり来たりして,結局真ん中あたりに落ち着いた結果が今の算出方法ですね。

4Gamer:

 具体的に,その“見えない部分”ってどうやって数値に置き換わっているんですか?

田中氏:

 つまりは全体で勝ったか,あるいは負けたかが,報酬の算出に関わっている,ということです。分かりやすい評価基準でのスコアには結びつかなくても,勝利に結びつくことであればやってほしい。そういう形でチームに勝利をもたらした人も評価したい,ということです。具体的な部分については,ちょっと伏せさせてください。

4Gamer:

 なるほど……。では,目に見える部分なんですが,与えたダメージの総量って,第3次βテストは評価基準の一つになってますね。でも,与ダメージの合計値を上げやすいクラスと上げにくいクラスってあるように思えます。そのあたりのバランスはとれているんでしょうか。

田中氏:

 難しいところですが,そこでスコアを稼ぐことが得意ではない人やクラスには,参加賞の部分で貢献してほしいと思っています。

4Gamer:

 そういえば,“総合スコア”みたいなものがなくなりましたよね。これも意図があってのことでしょうか?

田中氏:

 以前あった総合スコアは,与ダメージを基本にしていました。ただ,これを総合スコアと表現してしまうと,なんだか分かりづらいものになってしまっていたので,内部で使っているそのままの「与ダメージ」という名前にしました。

藤本氏:

 お話ししてきたとおり,成果には明確に数字が出るものと数字にしにくいものがあります。まったく敵にダメージを与えていないけど,ほかで大活躍している人はいるわけです。総合スコアを出してしまうと,数字にしやすいことに注力している人ばかりが上位に出てしまいます。難しい部分ではあるのですが,そういった見地から,今はあえて総合スコアを表示していません。

4Gamer:

 オベリスクを一つ建てたときの貢献度合いと,敵を一人倒したときの貢献度合い,どちらが上かと聞かれたら,確かに答えるのは難しいですよね。

藤本氏:

 状況にもよりますからね……。オベリスクなら,戦争開始直後は建てやすいですが,中盤以降は建てにくいですし。

田中氏:

 何メートルの距離から敵に鈍足を与えたら何ポイントとか……決められないですね。

4Gamer:

 現在のルールでは,戦争のとき,自分が死ぬとそれが全体のスコアに影響を与えますよね。例えば,FPSなんかだと“たくさん殺してたくさん死ぬ”みたいなプレイも可能です。そこでは自分がいくら死んだところで,味方のスコアが直接減るようなことはないし,敵の勝利に直結するわけでもない。だからそういう戦法が可能になるわけです。でもFEの場合はそうなっていないため,死ぬことにとても抵抗を感じます。これは初めから意図されていたものなのでしょうか。

渡辺氏:

 フィールドにおいて,狙って楽しいターゲットってやっぱりプレイヤーキャラクターですよね。人を狙わせようと思うと,やっぱり人を倒したときに評価されないとダメですよね。ということは,倒される人には,やっぱり逃げてもらわないと困る。そのため,“死んだら良くないよ”という具合になっています。
 ただ,そのペナルティが個人のマイナス,例えばお金がなくなったりアイテムがなくなったり,レベルが下がったりということではなくて,チーム全体が負けに一歩近付きますよ,という。これらを総合して,今のシステムになっています。

4Gamer:

 ところで,第3次βテストから「スタミナ」の仕様がなくなって,HPの回復が可能になりました。このあたりも,死への恐怖というか,そういう緊張感を表現するためのものだったのでしょうか。

藤本氏:

 第2次βテスト以降,クリスタルの側で休むことで,HPを回復できるようにしました。第3次βテストでは,それをさらに進めて,食べ物などのアイテムでHPを回復できるようしました。こうすることで,死のリスクを際立たせたかったんです。

渡辺氏:

 以前は,死ぬのが一番手っ取り早い回復手段になっていたりしましたからね。これはちょっと,良くなかったと思います。

田中氏:

 スキルの「パニッシングストライク」なども,死がコワイというのがあってこそ意義が見えてくるスキルですので。

4Gamer:

 こういった要素のおかげで,ほかのゲームにはないプレイ感覚が生まれていると思います。“いっぱい死んでいっぱい殺して”ではない戦い方というか……。

渡辺氏:

 まさに,FEが目指さなくてはいけないのは,そこです。FEでしか味わえない面白さを,体感してほしいと思います。そういった面白さのために,現在は開発のすべてを注入していっているところです。

4Gamer:

 現状では,死んではいけないということが,FEの世界にやってきたばかりの人にうまく伝わりきっていないような気がします。
 そのため,“たくさん死んでたくさん殺して”という旧来のスタイルのゲームからFEへやってきた人が,そういうプレイスタイルをとってしまい,同じ国の人から「あいつ何なんだよ……」と思われてしまうといった構図が,容易にできあがりそうで怖い気はします。

渡辺氏:

 第1次βテストが終わった段階で,ずいぶんと議論をしたんですけど,大きな問題として,インフォメーションがちゃんと表示されていないことじゃないかという話が出ました。
 例えば,死んじゃダメだということが分からない,何をしたら褒められるのかが分からない。そういった情報が,とにかく足りないと。なので,そこは改善していきました。まだ全部はカバーし切れていないとは思うのですが,これからも,そこはやっていくつもりです。

4Gamer:

 当初用意されていた,チュートリアル的なクエストは,案内係のNPC(Manager)がいろいろ説明をしてくれるようなものに変わりましたよね。それもその一環ですか?

田中氏:

 そうですね。このゲームって,最初は何をしていいのか分かりにくいというのがありまして……。第2次βテストまでは,大陸マップ画面でウインドウを出して説明していたんですが,ほとんどの人が読まなかったようなんです。操作説明すら,読んでもらえない。で,その後うまく進められないという……。

藤本氏:

 その後のクエストに関しても,クエスト自体をやらず,すぐに戦争に参加する人も多くて。

渡辺氏:

 誘われて,フィールドに行って,操作がよく分からなくて死んで……という。その状態が愉快なプレイヤーはいませんよね。そこで,ちょっと手を入れました。

4Gamer:

 操作がよく分からないということで言うと,パッドを使った操作がうまくいかないという意見があったようですが。

田中氏:

 βでは正直なところ,パッドは使いづらかったと思います。今はそのあたり,とくにカメラの速度などを修正しているところです。第3次βテストでは,カメラの動きがパッドのときだけ違っていたりもしたんですが,このあたりを修正していますので,ずいぶん狙いやすくなると思いますよ。

気になるスキルのバランス調整とランク&参戦コストについて

4Gamer:

 第3次βテストで,スキルがごっそりと入れ替わりましたが,その意図するところや,葛藤した部分があったら,お聞かせください。

田中氏:

 低レベル帯で覚えられるスキルでも,成長後に習得できるスキルと比べて,ある部分では最後までアドバンテージがあって,レベルアップとともに使わなくなってしまうスキルが出てこないようにしました。
 また,同じクラスの中でも選んできたスキルによって,キャラクターにさらなる個性が出るように気をつけました。第1次βテストあたりだと,攻撃力が高くてなおかつ状態異常も付加できて,みたいなスキルもあったんですが,そこを調節して個々のスキルの特徴をより明確にしてあります。

4Gamer:

 「鈍足効果に加えてダメージもある」みたいなものはやめて,鈍足付加なら鈍足付加,ダメージならダメージと絞る方向でスキルを整理していったと。そういえば,スキルで付加できる目くらましとか鈍足効果って,やられるとすごくツライですよね。あと攻撃されてひるんだりするのもかなり……。これらが,これほどまでにイヤなものだと,おそらくは想定されていなかったのではないかと感じたのですが,どうでしょうか?

渡辺氏:

 想定できていませんでしたねぇ……。足が遅くなるのがこれほど致命的だとは,正直βテストをやるまで分かりませんでした。

藤本氏:

 だからこそ,この部分の調整は本当に力を入れてきました。

渡辺氏:

 “鈍足すなわち死”って感じでしたからね。

4Gamer:

 ひるむのもシチュエーションによっては致命的ですよね。一撃のダメージが小さくても,何人かに連続で攻撃されるとかなりの確率でやられてしまいます。ウォリアーのひるまないスキルというのは,地味だけれど重要ですね。

藤本氏:

 そこも調整に気を遣いました。五人六人に囲まれたときには,さすがに身動きがとれなくなってやられてしまいますが,二人三人くらいであればハマる状態にはならないような感じです。

4Gamer:

 間もなく始まる正式サービスでは,第3次βテストと比較して,スキルやスキルツリー構造などに大きな変更はないんですよね。

渡辺氏:

 はい,ありません。

4Gamer:

 レベルキャップの上昇に合わせ,獲得できるスキルポイントも増えると思うんですが,それを使って覚えられる,さらに上位のスキルというのはあるのでしょうか?

渡辺氏:

 スキルは,第3次βテストでオープンになったものですべてです。β時よりも上位のスキルというのは,少なくとも正式サービス開始の段階ではありません。

藤本氏:

 もちろん,増やしていくという案はあるのですが,バランス取りのことを考えると,すぐには難しいですね。

4Gamer:

 出そろったスキルを眺めていると,「どのクラスが攻撃役で,どのクラスがサポート役で」みたいなゲームではなく,全員が不足なく攻撃役という認識で良さそうですね。

藤本氏:

 開発段階でクラスを三つにまとめた理由には,「それぞれがそれなりに敵を倒せるようにしないと面白くなさそうだ」というものがあったんです。そのため,三クラス共に攻撃スキルを保有しています。

渡辺氏:

 このゲームにおけるサポート役というのは,クリスタルを集めたり塔を建てたりメッセージを送ったり,そういった直接戦闘以外のことをこなす“プレイヤー”なんです。

4Gamer:

 なるほど,クラスではなくプレイヤー自身の心がけというか,プレイスタイルに依存するわけですね。
 次に,スキル変更と同じくらいゲームへの影響の大きかった新要素“ランクと参戦コスト”について聞かせてください。戦力のバランスが,だいたい同じになるという点はすごく歓迎されていると思うのですが,ランクの決め方には違和感がありました。どういった経緯で,このような形に落ち着いたのでしょうか。

渡辺氏:

 ここも悩ましい部分です。定量化するのがすごく難しいんですよね。結局,このコスト制で何を実現したいかと言えば,ひどい負け方をするのを防ぎたい,そしてずーっと負け続けてしまうという状態を防ぎたいんです。ずっと負け続けている人が負けにくくなるにはどうすればいいかということから考えていって,いまのシステムになっています。

藤本氏:

 単純にその国がずっと勝ち続けていると,その国の戦争に参加している人達のランクは上がっていきます。すると同時に参加できる人数が減ってくるので,どんどん戦争に負けやすくなってきます。いつまでも勝ち続けるのは難しくなっていきますね。逆に,負けがこんでいる国の人達は,そこから持ち直していきやすいです。

渡辺氏:

 例えば半ば冗談なんですが,開発側で「負けドラゴン」と呼ばれているアイデアがあります。連続して負けちゃっている人は,コストなしでドラゴンにしてあげましょうというものです。ドラゴンはとても強いですので,たまには気持ちいい思いをしてくださいな,と。

4Gamer:

 それはとても気持ち良さそうですが,ある意味不名誉な強さですねそれは(笑)。

渡辺氏:

 まあ,それは置いておいて(笑)。第3次βテストをこのルール(参戦コストとランク制)でやってみた結果,極端に負け続けてしまう国はなくなりました。なので,機能的にはとりあえず良しとしていいのかなと判断してます。

4Gamer:

 つまり,このコストやランク制度の眼目は,「星が付いている人は強い人だからハンデを与えよう」というのではなく,「星が少ない人は勝っていないということなので,勝ちやすくしてあげよう」ということに置かれているということでしょうか。

渡辺氏:

 そういうことになりますね。

4Gamer:

 あの星は個人の成績を表しているというよりも,国と国との戦いをうまく拮抗させるための道具というか,その人が勝利する戦争に何連続で参加したのかを表す,ただの目印のようなものなんですね。

藤本氏:

 現状ではそうなりますね。ただ今後は,ランクが上がることをもっと嬉しく感じられるようにしたいと考えています。ランクを表す星マークは勝ち続けている印なのに,現状では,参加できる戦争が減ったりして,ともすればデメリットとして感じられてしまう。その部分は改善したいです。

4Gamer:

 高ランクプレイヤーには,何かご褒美があるとか?

藤本氏:

 そういうことも含めて,現在検討中です。

渡辺氏:

 使用すると自分ではなくて,他の人にメリットが及ぶようなアイテムを,ご褒美として用意しようかな,なんてことを考えています。

タイトル ファンタジーアース ゼロ
開発元 スクウェア・エニックス 発売元 ゲームポット
発売日 2006/12/21 価格 月額プレイ料金無料(アイテム課金制)
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium 4/1.30GHz以上[Pentium 4/2GHz以上推奨],メインメモリ:512MB以上[1GB以上推奨],グラフィックスメモリ:64MB以上[128MB以上推奨],HDD空き容量:3GB以上,ネットワーク環境:300kbps以上

(C)2005-2007 SQUARE ENIX CO.,LTD.All Rights Reserved, Licensed to Gamepot Inc.

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/specials/060223_fe/060223_fe_002.shtml