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「ファンタジーアース ザ リング オブ ドミニオン」正式サービス開始記念開発者インタビュー

Text by 星原昭典 / Photo by kiki 

 本日(2月23日),ついに発売となった「ファンタジーアース ザ リング オブ ドミニオン」(以下,FE)。本作は,50人対50人という大規模なPvP戦闘をメイン要素とした,“MMOアクションRPG×ストラテジー”である。
 昨今,数多くのタイトルがリリースされているライトユーザー向けのMMORPGでは,プロモーションの一環として単なる無料期間を「βテスト」と称しているケースも多い。しかし今回行われたFEのβテストはそんなものではなく,テスターからのフィードバックを開発に反映させたり,システムの弱点を見つけだしてそれを改善しようという意図を持って行われた,至極真っ当な,昨今ではほとんど見かけない「βテスト」だった。
 FEは,これまでにあまり例のない新しいタイプのゲームであるだけに,開発の現場では,予想を大きく外れた事態に遭遇したり,新たな仕様を大急ぎで追加する必要に迫られたりと,さまざまなことが起こっていたようである。
 無論,今回は筆者も1テスターとしてテストに参加していた。プレイしながら「ここはなぜこうなんだろう」と疑問に感じた点もいくつかある。おそらくは,ほかのテスターも同様に感じているであろうこれらの疑問も,このインタビューで作り手たちにぶつけてみた。

βテストを通じて分かったことと今後の改良点

4Gamer:

 今日はよろしくお願いします。まずは三度にわたるβテストを終えての感想を聞かせてください。

スクウェア・エニックス
ファンタジーアースプロデューサー
渡辺泰仁氏(以下,渡辺氏):

 大変でした(笑)。

4Gamer:

 ひと言ですね(笑)。

マルチターム
ネットワークゲーム開発部 部長
田中博氏(以下,田中氏):

 いや,本当に大変でしたね。50人と50人で実際に行われる戦争を見て,まずは開発者として「これはすごいな」と感じました。そして,予想以上にこの戦争のバランス取りが難しかったです。人間とNPCではなく,人間の動かすキャラクター同士が戦うというところで,想定していなかった問題が数多く出ました。そこを何とかしつつ,短い期間で形にしようと作業して……という感じでした。

4Gamer:

 当然,βテスト前に内部テストはあったと思うんですが,やはりそこでの想定を越えた行動を,実際のプレイヤーがとっていたということでしょうか?

田中氏:

 そうですね。スキルに関しては,ある程度こちらが予測していたとおりに使われていた部分はあるのですが,人の集まり方や戦争の始め方などといった戦局の流れの部分は,想定し切れていませんでした。テスト前は「戦場に本当に100人も集まってくれるだろうか?」と不安に思っていたくらいですから。

4Gamer:

 第1次βテストでは,大勢のキャラクターが集まるとゲームがとても重くなってしまう部分がありましたよね。これもやはり予想していなかった部分だとは思うのですが,重くなってしまっていた理由を聞いても良いでしょうか?

渡辺氏:

 まず初めに,第1次βテスト開始後数日は,サーバー側ですべての状況をログに記録していたんですが,それがあまりにも多くて,キャラクターを足止め状態にしてしまう原因になっていました。

田中氏:

 それを軽くしたら,自由に動けるようになったんですが,今度はクライアントの方が重くなりました。これは「オベリスク」が予想以上に乱立してしまっていたせいです。

渡辺氏:

 で,オベリスクを軽くして,次に気をつけたのはスキル使用時のエフェクト関係ですね。これも当初想定していたよりも高い頻度でエフェクトが発生していた。これを軽量化するというのが次のステップでした。

田中氏:

 キャラクターのモデル自体を100体同時に出すテストはしていたのですが,スキルと建築物の管理という部分では,恥ずかしながら甘いところがあったということです。

4Gamer:

 それ以外に,想像と異なっていた部分には,どのようなものがありましたか?

田中氏:

 やはり想像を大きく上回っていたのは「皆さん意外と積極的に戦争するんだなー」ということでした。テスト前はプレイヤーに戦争をさせるためにはどうしたらいいか,というところで長く悩んでいたんです。いわゆるMMORPGのスタイルにとらわれてしまい,なかなか戦争に行けないプレイヤーも多いのではないかと思っていたんです。
 でも,いざフタを開けてみたら,そこはぜんぜん気にしなくても良かったようです。どんどん戦争に参加してくれるプレイヤーが,本当に多くて驚きました。

4Gamer:

 私も初めて画面を見たり,仕様を聞いたりしたときには,何だかんだといいつつも,基本的には旧来のMMORPGを踏襲したスタイルだろうと想像していました。ですが,実際にやってみると違うんですよね。本当に戦争がメインのゲームで。ところで,戦場は盛況でしたが,逆に狩りのフィールドが閑散としているような印象がありましたが……。

渡辺氏:

 そのあたりの問題は,こちらでも認識しています。狩りのクォリティは,今後上げていきたいと思っています。FEでは,ゲームのほとんどのリソースが戦争に集中していますので,戦争をうまく遊んでもらえるように調整するというのが最重要だと捉えています。なので狩りの方の改良は,どうしても後回しになってしまっていますね,現状では。

4Gamer:

 βテストのフェイズが進むごとに,戦争は遊びやすくなっているのに,狩りがあんまり変わらないな,というのが正直な感想です。

田中氏:

 狩りって,自分が成長していることが感じられないと,面白くないと思うんです。レベルアップするたびに,どんどん強くなっていることが実感できるから楽しい,といった具合に。けれどもゲームのもう一方の側面である戦争は,レベルによってキャラクターの強さに大きな差が付いてしまうと,面白くなくなってくる。その二つの要素のバランスを,今後どうしていくかというのが,実は悩みどころです。

4Gamer:

 狩りを軽視しているわけではなく,それなりに重要視しているからこそ,難しいところなんでしょうね。

国家のイメージが集まる人のカラーを左右

4Gamer:

 それでは,国家について教えてください。第2次βテスト以降は,5か国すべての国家を選択可能になっていました。前のインタビューでは人気国/不人気国が出てしまうのではないかとの予想も出ていましたが,実際にはどうでしたか?

田中氏:

 第1次βテストでは,「カセドリア連合王国」と「ゲブランド帝国」の二つから選べたのですが,最初のうちはカセドリアに人が集まっていました。王様が女の子のキャラということで,人気があったようです。でも後半は,他方のゲブランドにも人が増えてきていました。第2次βテストに入ってからは……以前のインタビューで渡辺さんが「ジイサンの国にはなかなか人が集まらないんじゃないか」と発言したせいかどうかは分かりませんが,なぜかジイサンの「エルソード王国」が人気で(笑)。

4Gamer:

 ああ,やっぱりエルソードは人が多かったんですね。プレイしながら,なんか多いなぁと思っていたんです。

スクウェア・エニックス ファンタジーアース アシスタントプロデューサー
藤本哲哉氏(以下,藤本氏):

 第3次βテストでは,追加募集でそれまでより多くの人が入ってきて,また第1次βテストと同じような(女性の王様の国に人が集まる)パターンに戻って,女戦士が王様の「ホルデイン王国」が一番人気でした。

スクウェア・エニックス ファンタジーアース プロジェクトアシスタント
成田正美氏:

 初心者の方が多く集まっていたのか,ホルデインはなかなか勝てない国になっていましたね。

田中氏:

 王様のイメージで,集まる人達のカラーが決まってくるみたいですね。戦い方なども国によって違ったみたいで。

4Gamer:

 国によって,戦い方が変わってくるというのは面白いですね。国ごとに,得意な戦術といったパラメータが用意されているわけではないんですよね。

田中氏:

 ええ。でも第2次βテストでは,ネツァワルがまるで“戦闘民族”という感じで,とても強かったです。このゲームは,一回の戦争の中で一度状況が見えてしまうと,そのあと逆転が難しい部分もあるんです。でも,ネツァワルにだけは,“最後に逆転できる!”みたいな雰囲気がありました。
 あと,国のイメージに合わせてクラスを選んでいる人も多かったですね。エルソードにはソーサラーが多くて,カセドリアはやっぱり弓矢のスカウトが多い。そうなると,戦い方にも特徴が出てきます。どの国でどのクラスを選んでも変わらないのですが。

渡辺氏:

 βテストをやってみるまで分からなかったことの一つに,「バランスというのは,そこに所属する人達のアクティブさに依存するんだなぁ」ということが挙げられます。ゲームのパラメータはいろいろ調節できますし,そうやってバランスをとっていくんですけれども,それはそれとして,やっぱりアクティブな人がいる国は断然強いんですよね。

4Gamer:

 そのアクティブさとは,“積極的に戦場に出向く”,あるいは“チャットで仲間に指示を出す”ということでしょうか?

渡辺氏:

 そうですね。あとは戦争の中でちゃんと役割を意識して動くとか,負けそうになっても最後まで粘るとか,そういう心構えみたいなものもあるでしょう。そういう意味では,わりとメンタル面が重要なゲームになっています。

田中氏:

 ある国の国民は,負けそうになるとすぐに抜けていくけど,ネツァワルの人達は負けそうでも最後まで残って戦う,みたいな。

藤本氏:

 国民が多い国=強い国というわけではないですね。

成田氏:

 例えば先ほどのホルデインですが,国民に初心者が多いので,人が集まっているところになんとなく寄っていって,どんどん倒されてしまって……という,戦略性のない戦いになってしまうことが多く,なかなか勝てなかったようです。

藤本氏:

 一人強いキャラクターがいたからといって,どうにかなるゲームではないですね。弱いキャラでも何人か集まって,きちっとした行動がとれると,成果につながっていきます。

渡辺氏:

 オベリスクを建てに行くときも,自分が全体の中でどういうことをしているんだということを考えて働けると,俄然強くなりますよね。

藤本氏:

 オベリスク破壊担当を自認する人達って,敵オベリスクが壊れそうになると,自軍のオベリスクを建てられる人を即座に呼ぶんですよ。壊した途端に,自軍のを建てられるように。

渡辺氏:

 無言でこう,連係するのが結構気持ち良かったりします。

田中氏:

 チャットで一言,「(召喚モンスターの)ナイトになりたい」って言うだけで,何人もの人がそのために必要なクリスタルをこっちに渡してくれたりしますよね。

藤本氏:

 どうしてもアクション性が強いので,ゆっくりチャットする余裕はありませんが,次第に“何となくの意志疎通”ができるようになってきますね。ミニマップで一人だけ違う方向に向かっている人がいると,「ああこの人はオベリスク倒しに行くんだな」というのが分かったりするんで,自分も手伝いに行ってみたりとか。そういうのが,面白いですね。

4Gamer:

 チャットをしながら戦うのは,結構難しいですよね。ボイスチャットの実装などは,将来的に考えていたりしませんか?

渡辺氏:

 話だけなら,何度も出ていますね。そこに踏み切れない大きな理由の一つが,「どんな声が聞こえてくるのかちょっとコワイ」というか……。可愛い女の子キャラクターの声が……みたいな(笑)。ボイスチェンジャーとか使えばいいんですかね。まあ,これは冗談ですけど。

4Gamer:

 技術的にはどうなんでしょう。「よし」と腰を上げればすんなり実装できそうなものなのでしょうか?

田中氏:

 ボイスチェンジャーを入れたとしても,CPUにかかる負荷はそれほどでもないと思います。ただ,人数をどう切るかとか,いろいろと仕組みを作り上げる必要はありますね。100人が同時に喋ってしまったら,わけが分からなくなるでしょうし。ただ,決して不可能だとは思っていません。

成田氏:

 今,あまり使われていない気がするのが,ショートカットキーを使った発言です。ちゃんと自分の行動や現在地,敵の数なんかを上手に伝える準備をしておけば,いろいろなことを伝えられるんです。もっと使ってほしいな。

藤本氏:

 ゲーム的には,そういった情報伝達は,スカウトがやっているのかもしれないですね。

田中氏:

 ハイドで消えていれば,ゆっくりチャットできますからね。

タイトル ファンタジーアース ゼロ
開発元 スクウェア・エニックス 発売元 ゲームポット
発売日 2006/12/21 価格 月額プレイ料金無料(アイテム課金制)
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium 4/1.30GHz以上[Pentium 4/2GHz以上推奨],メインメモリ:512MB以上[1GB以上推奨],グラフィックスメモリ:64MB以上[128MB以上推奨],HDD空き容量:3GB以上,ネットワーク環境:300kbps以上

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