レビュー : PV-T80G-GHD9

メモリ320MB版GeForce 8800 GTSのクロックアップは,上位製品に迫れるか

PV-T80G-GHD9

Text by 宮崎真一
2007年3月6日

 

»  4GamerのハードウェアレビューでPC内蔵デバイスを語らせたらこの人,宮崎真一氏が,今回はメーカーレベルでクロックアップの行われたハイエンドグラフィックスカードを評価する。さて,今回のジャッジはいかに?

 

PV-T80G-GHD9
メーカー:PINE Technology(XFX)
問い合わせ先:シネックス(販売代理店)
info@synnex.co.jp
実勢価格:5万1000円前後(2007年3月6日現在)

 「GeForce 8800」シリーズの廉価モデルとして登場したグラフィックスメモリ容量320MBの「GeForce 8800 GTS」は,2007年2月13日のレビュー記事でお伝えしているように,メモリ容量削減のペナルティが少なくなかった。
 では,そんなメモリ320MB版GeForce 8800 GTSを,クロックアップしたらどうなるだろうか。今回は,PINE TechnologyのXFXブランド(以下XFX)製品「PV-T80G-GHD9」を借用できたので,同グラフィックスカードが,上位モデルに迫るパフォーマンスを発揮できるのか,チェックしてみたいと思う。

 

 

コア,メモリクロックとも大幅に向上したPV-T80G-GHD9
上位モデルと横並びで比較

 

NVIDIAコントロールパネルから動作クロックを確認したところ(※クリックすると別ウインドウで全体を表示します)

 PV-T80G-GHD9は,コアクロックが標準の500MHzから580MHzに,グラフィックスメモリクロックは1.6GHz相当(実クロック800MHz)から1.8GHz相当(同900MHz)へと,それぞれ16%,12.5%高められている製品だ。動作クロック以外は同社のリファレンスクロックモデル「PV-T80G-GHF9」から変更なく,GPU(グラフィックスチップ)などを冷却するクーラーが2スロット仕様なのもまったく同じである。
 メモリチップはHynix Semiconductor製の「HY5RS573225A FP-11」(256Mbit/1.1ns品)を8枚搭載。このメモリはチップレベルで1818MHzの動作が可能とされているので,仕様上のほぼ上限までクロックが高められている計算になる。

 

左と中央は別の角度から撮影したもの。基本的にはリファレンスクロック版と変わらないデザインだ。右はPV-T80G-GHD9の付属品一覧。「Tom Clancy’s Ghost Recon: Advanced Warfighter」英語版フルバージョンが同梱となる

 

8800GTX
比較的入手しやすいウルトラハイエンド
メーカー:Albatron Technology
問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp
実勢価格:8万円前後(2007年3月6日現在)

 今回は,そんなPV-T80G-GHD9が,上位モデルにどこまで迫れるかを見るべく,比較対象としてAlbatron Technology(以下Albatron)製の「GeForce 8800 GTX」搭載グラフィックスカード「8800GTX」を借用した。また,2月13日のレビュー記事から,リファレンスクロックで動作するグラフィックスメモリ320/640MB版GeForce 8800 GTSのスコアをそれぞれ流用する。詳細なテスト環境はのとおりだ。
 ベンチマークテスト方法は4Gamerのレギュレーション3.0準拠。また,分かりやすさへの配慮から,以後,本文とグラフとも,PV-T80G-GHD9は「XFX 8800 GTS(320MB)」,そしてAlbatronの3モデルは,「『GeForce』を外した状態のGPU名(グラフィックスメモリ容量)」という形で表記する。

 

 

 

 

クロック分のスコア上昇は確実にある一方
メモリ容量というハードルを越えられない場面も

 

 さて,まずは定番の3Dベンチマークソフト,「3Dmark06 Build 1.1.0」(以下3DMark06)から(グラフ1,2)。3DMark06では,リファレンスどおりのクロックで動作する8800 GTS(320MB)に対して,XFX 8800 GTX(320MB)は(メモリクロック上昇分とほぼ同じ)12%ほど高いスコアを見せている。さすがに8800 GTX(768MB)には届かないものの,8800 GTS(640MB)にも大差をつけている点は評価すべきだ。「標準設定」「高負荷設定」とも傾向は同じで,クロックアップがよい結果につながっている。

 

 

 

 同じくベンチマークソフトである「3DMark05 Build 1.3.0」(以下3DMark05)の結果をグラフ3,4に示す。3DMark06と同じく,クロックアップに伴うスコアの上昇が見て取れるが,ここでは,標準設定の1024×768ドットで対8800 GTS(320MB)比7%弱だったのが,1920×1200ドットでは15%ほどに広がっている点に注目したい。これは,3DMark06と比べて描画負荷の低い3DMark05において,低解像度設定時に,GPUの性能にほかの部分がついてこないことで生じる,いわゆる“数値の頭打ち”が発生していることを意味している。これは高負荷設定の場合でも同様だ。

 

 

 

 実際のゲームタイトルでのテストに移って,まずはグラフ5,6で「Quake 4」(Version 1.2)の結果を見てみよう。
 Quake 4は,GeForce 8800クラスのGPUにとって,もはやそれほど“重い”タイトルではないため,標準設定の1280×1024ドット以下では,3DMark05と同じく数値の頭打ちが生じている。クロックアップの効果が出てくるのは1600×1200ドット以上だ。
 高負荷設定だと描画負荷が高くなるため,低解像度でもXFX 8800 GTS(320MB)と通常の8800 GTX(320MB)の差はハッキリと確認できる。しかし,同時に8800 GTX(768MB)との差がより顕著になってしまっているのも,見逃すわけにはいかない。

 

 

 

 「Half-Life 2:Episode One」のテスト結果(グラフ7,8)も,Quake 4と同じ傾向となった。こちらは標準/高負荷設定とも,1280×1024ドットからクロックアップの効果が出てくる。

 

 

 

 続いて,リファレンスクロック同士で比較したとき,グラフィックスメモリ容量がスコアに大きく影響した「F.E.A.R.」(Version 1.08)の結果をグラフ9,10にまとめた。
 先のテストでは,8800 GTS(320MB)が高負荷設定でスコアを大きく落としたのを覚えている読者も多いだろうが,XFX 8800 GTS(320MB)は,8800 GTS(640MB)とほぼ同じスコアを維持している。メモリ容量が半分というペナルティをクロックの上昇分が相殺したと見るべきだろう。

 

 

 

 一方,グラフィックメモリ容量がF.E.A.R.以上にベンチマークスコアを大きく左右する「Company of Heroes」(Version 1.4)だと,XFX 8800 GTS(320MB)は,8800 GTS(640MB)を前に,まったく歯が立たない(グラフ11,12)。描画負荷が極端に高いケースでは,いくら動作クロックを上昇させても,絶対的なグラフィックスメモリ容量差がスコアを決定してしまうことがあるわけだ。

 

 

 

 というわけで,描画負荷の軽いレースシム「GTR 2 - FIA GT Racing Game」の結果に移ると,やはりQuake 4やHalf-Life 2: Episode Oneと同じ傾向になった(グラフ13,14)。同タイトルにおいて,クロックアップによる平均フレームレートの向上は,確実に存在する。

 

 

 

 最後に,「Lineage II」標準設定時のスコアをグラフ15にまとめた。Lineage IIの描画負荷は,GeForce 8800シリーズにとって問題にならないレベルということもあり,クロックアップの効果はまったくない。全体的に,数値が頭打ちになっている状態だ。

 

 

 

やや不可解な消費電力
メモリチップは1.8V動作か?

 

 パフォーマンスを一通り見たところで,今度はシステム全体の消費電力を計測することで,XFX 8800 GTS(320MB)の消費電力を推し量ることにしたい。
 ここでは,OSの起動後30分間放置した直後を「アイドル時」,3DMark06を30分間リピート実行し,その間最も消費電力の高かった時点を「高負荷時」として,それぞれの時点におけるシステム全体の消費電力をワットチェッカーで計測した。その結果をスコアとしてまとめたのがグラフ16である。

 

 

搭載するメモリチップ

 8800 GTS(320MB)のレビュー時に指摘したとおり,同製品はメモリチップの駆動電圧が2.2Vで,8800 GTS(640MB)の1.8Vよりも高かった。そのため,8800 GTS(320MB)のほうが8800 GTS(640MB)よりも消費電力が高かったのだ。
 しかし,XFX 8800 GTS(320MB)は,8800 GTS(320MB)と同じ,動作電圧2.2Vのメモリチップを搭載しているのにもかかわらず,高負荷時の消費電力が低い。むしろ,1.8Vのメモリチップを搭載しながら,動作クロックを上げたかのようなスコアになっている。
 GeForce 8800 GTSチップのコア電圧をチェックしたところ,いずれも1.3Vだったので,正直,このスコアは不可解と言わざるを得ない。断言はできないのだが,XFX 8800 GTS(320MB)では,1.1ns時に本来2.2V動作となるメモリチップを,1.2ns品と同じ1.8Vで動作させているのではないだろうか? グラフィックスカードのBIOS(VBIOS)をチェックするツールを使ってもメモリ電圧は分からなかったため,あくまで想像になってしまうが,仮にそうだとすると,クロック上昇による消費電力増大により,高負荷時に8800 GTS(640MB)から14W高くなっている点も合点がいく。

 続いて,グラフ16の各時点におけるGPU温度を,GeForceファミリーのGPU温度も測定できるATI Radeon向け多機能ユーティリティ「ATITool 0.26」で測定した。PCケースに組み込まない,バラックの状態で計測した結果をグラフ17に示すが,やはり消費電力が増えた分,GPU温度は少し高めである。もっとも,グラフ16の結果が結果だけに,ここは参考程度,ということになるが。

 

 

 

パフォーマンスの伸びは如実だが
製品の位置づけが難しく,買い得感には疑問も

 

製品ボックス。「580MHz」というシールで,PV-T80G-GHD9かどうかを見分けられる。なお,今回紹介している製品名ではなく,「GeForce 8800 GTS 320MB DDR3 XXX Version」という呼称を与えているショップもあるので要注意

 XFX 8800 GTS(320MB)――PV-T80G-GHD9は,Company of Heroesなど,グラフィックスメモリ容量が絶対的に重要なタイトル以外では,リファレンスクロックの製品に対して有意な差を見せている。「おおむね8800 GTS(640MB)以上」と言っても語弊はない。

 しかし,問題はその価格である。2007年3月6日時点におけるPV-T80G-GHD9の実勢価格は5万1000円前後で,リファレンスクロック版のグラフィックスメモリ容量320MBモデルと比べて,数千円〜1万円高い設定になる。しかもこの価格だと,あと数千円足すだけでグラフィックスメモリ640MBモデルを購入できるのである。
 グラフィックスメモリ320MB版GeForce 8800 GTSが持つ最大の特徴は,上位モデルよりも大幅に安いこと。それだけに,PV-T80G-GHD9のコストパフォーマンスの低さは,どうしても気になってしまう。1280×1024ドット以下の解像度でコストを抑えながらも,とにかく高いパフォーマンスが必要といった,かなり条件が限定された層に向けたグラフィックスカードになってしまいそうだ。

 

■■宮崎真一(ライター)■■
某有名PC専門誌の主力編集者として活躍した長いキャリアを持ち,「いかにして公正なデータを取得するか」のノウハウに長けているテクニカルライター。4Gamerでは主に,GPUやCPUの新製品をゲーマー視点で評価している。ゲーマーとしては「Diablo」以来のオンラインRPG好きで,ここ数年,「ファイナルファンタジーXI」をひたすらプレイし続けていることは,デバイスメーカーやパーツメーカーの間でも有名な話だ。
タイトル GeForce 8800
開発元 NVIDIA 発売元 NVIDIA
発売日 2006/11/09 価格 製品による
 
動作環境 N/A

Copyright(C)2006 NVIDIA Corporation

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/xfx_8800_gts-320/xfx_8800_gts-320.shtml