レビュー : 8800GTST

グラフィックスメモリ半減で,GeForce 8800 GTSの魅力は維持できるのか

8800GTST

Text by 宮崎真一
2007年2月13日

 

8800GTST
メーカー:Albatron Technology
問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp
予想実売価格:4万5000円前後

 NVIDIAは,GeForce 8800シリーズの下位モデル「GeForce 8800 GTS」について,グラフィックスメモリ容量を従来の半分,320MBとなる製品を発表した。2007年2月13日(本日)発売予定となっている搭載グラフィックスカードの価格は4万円台半ばが予想されているが,これは,グラフィックスメモリ640MB版の従来モデルと比べて1万〜1万5000円程度安価になる計算だ。

 GeForce 8800シリーズが持つポテンシャルの高さは4Gamerのプレビューレビューで実証済みだけに,グラフィックスメモリ容量が一気に少なくなったグラフィックスメモリ320MB版GeForce 8800 GTSが,上位モデルにどこまで迫れるのかは気になるところ。今回4Gamerでは,Albatron Technology(以下Albatron)製の搭載カード「8800GTST」を借用できたので,現時点で最安のDirectX 10対応GPU(グラフィックスチップ)が,どれだけの性能を持つかチェックしてみたい。

 

 

外観は“640MBモデル”とまったく同じ
メモリ容量以外は基本的に変わっていない

 

8800GTST(左)と8800GTS(右)を並べてみた。よく見ると基板の色が異なるものの,デザインは同一

 グラフィックスメモリ320MB版GeForce 8800 GTSに固有のモデル名は用意されていないため,以後本稿では便宜的に「GeForce 8800 GTS(320MB)」と呼び,さらに同640MB版を「GeForce 8800 GTS(640MB)」とするが,GPU名が区別されていないだけあって,カードデザインは何も変わっていないようだ。実際AlbatronはGeForce 8800 GTS(640MB)を搭載する「8800GTS」という製品を発売しているが,8800GTSTの外観は,その8800GTSとまったく同じ。基板デザインも同一である。

 

 注目したいのは,GPUクーラーを取り外しても,8800GTSと8800GTSTには違いがないこと。グラフィックスメモリ容量が半減しているのであれば,メモリチップの枚数も半分になっていてよさそうなのだが,実際には,右の写真のように,10枚のメモリチップを搭載している。8800GTSが512Mbit品のGDDR3チップを搭載していたのに対して,8800GTSTでは容量が半減した256Mbit品のGDDR3チップを採用するため,カード上のメモリチップ枚数は変わっていないというわけだ。
 NVIDIAコントロールパネルに「nTune」をインストールして動作クロックを確認してみると,コアクロックは513MHz,メモリクロックは1.584GHz相当(実クロック792MHz)だったので,GeForce 8800 GTS(640MB)のリファレンスクロックとなる,コアクロック500MHz,メモリクロック1.6GHz相当と同じ仕様と見てまず間違いないだろう。8800GTSから,動作クロックはそのままに,メモリチップの仕様を変更したのが8800GTSTといえそうである。

 

左と中央は8800GTSTを別の角度から撮影したカット。カードの色と,カードに貼られているシール以外では,8800GTSと見分けがつかない。右はnTuneから動作クロックを確認した“証拠写真”だ(※クリックすると別ウインドウで全体を表示します)

 

 なお,8800GTSTの外部インタフェースはデジタル/アナログRGB(DVI-I)×2とコンポーネント/S/コンポジットビデオ出力端子×1で,製品ボックスにはデジタル/アナログRGBからアナログRGBへ変換するDVI-I−D-Subコネクタ×2と,それぞれのビデオ出力に対応したケーブル×3が付属する。一方,ゲームタイトルは一切同梱されていない。

 

 

上位モデルや同価格帯のGeForce 7などと比較
ForceWareのバージョン違いに注意

 

 今回,8800GTSTの比較対象としては,前出の8800GTS(=GeForce 8800 GTS(640MB))のほか,2007年2月13日時点におけるほぼ同価格帯の旧世代製品として,「GeForce 7950 GT」を搭載したASUSTeK Computer(以下ASUSTeK)製カード「EN7950GT/HTDP/512M」を用意。さらに,2007年2月時点における4GamerのリファレンスカードとなるASUSTeKの「GeForce 7900 GTX」搭載モデル,「EN7900GTX/2DHT/512M」も用いることにした。

 

8800GTS
比較的安価で入手しやすいGeForce 8800 GTSカード
メーカー:Albatron Technology
問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp
実勢価格:6万3000円前後
EN7950GT/HTDP/512M
リファレンス仕様で安価な定番モデル
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティコーポレーション(販売代理店)
news@unitycorp.co.jp
実勢価格:3万8000円前後

 

 テスト環境はのとおり。テスト用OSとして,「Windows Vista」は用意していない。これは,GeForce 8800シリーズ用の公式ドライバが存在しなかったり,そもそもゲーム側の対応が進んでいなかったりなど,ゲームプラットフォームとして採用するのは現時点で無理があるためだ。今回もテストはベンチマークレギュレーション3.0に準拠するが,レギュレーションの説明にもあるとおり,しばらくの間,OSには「Windows XP」をメインで使い続けるので,この点はご了承を。

 Windows XPに関して続けると,現在のところNVIDIAはGeForce 8とGeForce 7用に別個のドライバを提供している。その結果として,GeForce 8800の2製品とGeForce 7900の2製品でForceWareのバージョンが異なっている点にも留意してもらえれば幸いだ。
 なお,以後本稿では,基本的にカードの製品名でなくGPU名で話を進めていく。また,スペースの都合で,グラフ内における「GeForce」の表記は省略する。

 

 

 

ゲームによっては
メモリ容量が大きなハンデとなる

 

 ベンチマークテスト結果の分析に入っていこう。
 グラフ1,2は,「3DMark06 Build 1.1.0」(以下3DMark06)の結果をまとめたものだ。GeForce 8800 GTS(320MB)は,GeForce 8800 GTS(640MB)とほぼ同程度の値を示しており,メモリ容量が半減したことによるペナルティはあまり感じられない。(テストを実行できないGeForce 7のスコアをN/Aとした)高負荷設定になると,高解像度でGeForce 8800 GTS(640MB)との差が広がる傾向にあるが,それでも1920×1200ドットで5%程度。大きな差ではない。

 

 

 

 続いて「3DMark05 Build 1.3.0」(以下3DMark05)の結果をグラフ3,4にまとめたが,特筆すべき点はない。3DMark06と似た傾向だ。

 

 

 

 さて,ここからは実際のゲームアプリケーションにおけるパフォーマンスを見ていくことにするが,「Quake 4」(Version 1.2)でもGeForce 8800 GTS(320MB)のスコアは良好だ(グラフ5,6)。高負荷設定の1920×1200ドットでもGeForce 8800 GTS(640MB)と誤差程度の違いしかない。また,同価格帯のGeForce 7950 GTには有意な差をつけており,さらにいうならGeForce 7900 GTXよりも確実に高速だ。

 

 

 

 グラフ7,8の「Half-Life 2: Episode One」もQuake 4とほぼ同じ傾向。とくに同タイトルではGeForce 7900系とのスコア差が大きく広がっており,GeForce 8800 GTS(320MB)の優位性は際立っている。

 

 

 

 「F.E.A.R.」(Version 1.08)の標準設定も同じ傾向を示しており(グラフ7),いよいよGeForce 8800 GTS(320MB)のコストパフォーマンスは素晴らしいと言いたくなるが,高負荷設定では流れが変わってくる。F.E.A.R.はグラフィックス描画負荷が高く,いきおいグラフィックスメモリ容量がフレームレートを大きく左右する傾向にあるのだが,高負荷設定になると,メモリ容量の少なさが足を引っ張りだすのが,はっきりしてくるのだ(グラフ8)。
 高負荷設定でも,1024×768ドット程度なら問題ないが,1600×1200ドット以上だと,グラフィックスメモリ容量が512MBとなるGeForce 7900 GTXの後塵を,GeForce 8800 GTS(320MB)は拝することになる。

 

 

 

 「Company of Heroes」(Version 1.4)では,F.E.A.R.で見えた傾向がさらに顕著に表れている(グラフ11,12)。ベンチマークレギュレーション3.0におけるテスト項目中,最も負荷が高い設定になっているCompany of Heroesでは,グラフィックスメモリ容量がフレームレートを大きく左右するが,実際,標準設定において,GeForce 8800 GTS(320MB)とGeForce 8800 GTS(640MB)の間には,メモリ容量の違いだけでスコアに大きな差がついてしまった。高負荷設定では,GeForce 7950 GTと互角以下のレベルになってしまっている状態だ。

 

 

 

 続いて「GTR 2 - FIA GT Racing Game」(Version 1.1)の結果をグラフ13,14に示す。
 同タイトルはそれほど負荷の高いゲームではないため,Quake 4やHalf-Life 2: Episode Oneと同じような傾向になっているが,高負荷設定の1920×1200ドットではグラフィックスメモリ容量の少なさが影響しているのも見て取れる。

 

 

 

 最後に,「Lineage II」のテストをまとめてみた(グラフ15)。Lineage IIは,GeForce 7/8世代のハイエンドGPUを比較するには負荷が低すぎてまったく不向きであるため,スコアは参考程度になるが,「描画負荷が低い局面ではGeForce 7900 GTXやGeForce 7950 GTに対して圧倒的な差を付ける」という,GeForce 8800 GTS(320MB)の特性そのものは十分に確認できよう。

 

 

 

 

メモリチップの変更で消費電力が増加
消費電力の低減は期待できない

 

 グラフィックスカードの消費電力を見るために,OSが起動してから30分放置した直後を「アイドル時」,3DMark06を30分間リピート実行し,その間で最も消費電力の高かった時点を「高負荷時」として,それぞれの時点におけるシステム全体の消費電力を計測。その結果をグラフ16にまとめてみた。

 意外なことに,GeForce 8800 GTS(320MB)の消費電力は,GeForce 8800 GTS(640MB)のそれよりも高くなっている。物理的なメモリ容量が減ったのだから,消費電力も減ると推測,もしくは期待した人は多かったと思うが,結果はその逆になってしまった。

 

 

 この理由は,搭載するメモリチップの仕様にありそうだ。
 本稿の序盤で,GeForce 8800 GTS(640MB)とGeForce 8800 GTS(320MB)では搭載するメモリチップの仕様が変更されていると説明したが,具体的に述べると,前者はSamsung Electronics製の「K4J52324QE-BC12」,後者はHynix Semiconductor製の「HY5RS573225A FP-11」を搭載している。駆動電圧は前者が1.8Vで,後者は2.2V。この差が,そのまま消費電力の違いとなって表れている可能性が極めて高い。

 

8800GTST(左)と8800GTS(右)がそれぞれ搭載するグラフィックスメモリチップ(GDDR3 SDRAM)

 

 さらにこの状態で,(その名前に反して)GeForceファミリーのGPU温度も測定できるATI Radeon向け多機能ユーティリティ「ATITool」を利用してGPU温度を測定した。その結果はグラフ17にまとめたが,メモリチップ発熱の影響か,高負荷時にGeForce 8800 GTS(320MB)はGeForce 8800 GTS(640MB)より8℃も高くなっている。GeForce 8800 GTS(320MB)が搭載するチップは型番のとおり1.1ns仕様なので,1.8GHz相当(実クロック900MHz)の動作は可能なはずだが,グラフ17の結果を見る限り,オーバークロック動作はなかなか厳しそうな気配である。
 なお,GeForce 7950 GTのGPU温度が不自然なほど高いのは,GPUクーラーの冷却能力不足が原因だ。

 

 

 

ディスプレイ解像度に制限がある人が
低負荷環境で使うならアリ

 

8800GTSTの製品ボックス

 GeForce 8800 GTS(320MB)は,描画負荷が比較的低く,グラフィックスメモリ容量がそれほど求められない局面に限って,GeForce 8800 GTS(640MB)と同等の性能を発揮する製品だ。絶対的なパフォーマンスはともかく,傾向そのものは非常にミドルレンジGPU的といえる。負荷の高い最新世代の3Dゲームタイトルを高解像度でプレイしようとすると,力不足が否めない。
 さらに――8800GTST以外のカードがどんな仕様のメモリチップを利用するかは分からないものの――消費電力面で上位モデルより不利な状況になる可能性は指摘しておく必要がある。また,確かにGeForce 8800 GTS(640MB)と比べれば安価だが,それでも予想実売価格が4万円台であり,コストを重視するタイプのゲーマーからするとやや高すぎるレベルなのも人を選びそうだ。

 以上から,GeForce 8800 GTS(320MB),そして8800GTSTは,「17インチや19インチの液晶ディスプレイを利用しており,最大解像度が1280×1024ドットに制限されている」ような人が,なるべく安価にDirectX 10世代の高速なGPUを入手したいときに有力な選択肢となり得るグラフィックスカード,ということになるだろう。悪いモノでは決してないが,万人向けではないのも,また確かである。

タイトル GeForce 8800
開発元 NVIDIA 発売元 NVIDIA
発売日 2006/11/09 価格 製品による
 
動作環境 N/A

Copyright(C)2006 NVIDIA Corporation