レビュー : Pentium Dual-Core E2160/1.80GHz

“L2キャッシュ容量1MB版Core 2 Duo”の意義を探る

Pentium Dual-Core E2160/1.80GHz

Text by 宮崎真一
2007年6月4日

 

»  2007年6月3日に国内販売の始まった「Pentium Dual-Core」を,宮崎真一氏がさっそく評価する。L2キャッシュ容量が1MBに制限されたエントリーモデルではあるものの,Pentiumブランド初のCoreマイクロアーキテクチャ採用製品ということで,パフォーマンスはもとより,オーバークロック耐性も気になるところだが,果たしてその実力は?

 

Pentium Dual-Coreの製品ボックス

 2007年6月3日,Intelの新型デュアルコアCPU,「Pentium Dual-Core」(以下Pentium DC)が発売された。「Core 2 Duo」の登場とともに第一線を退いたと思われていた「Pentium」ブランドだが,今回のPentium Dual-Coreで復活したことになる。

 

 PentiumブランドのデュアルコアCPUといえば,いまでも店頭では時折その姿を目にする「Pentium D」が存在するわけだが,Pentium DCがPentium D(やそれ以前のPentiumファミリーのCPU)と決定的に異なるのは,Pentiumブランドで初めて,Coreマイクロアーキテクチャを採用している点にある。
 Pentium DCの内部構造は,基本的にCore 2 Duoとまったく同じ。4Gamerのハードウェア記事をチェックしてくれている読者であれば,Core 2 Duoには下位モデルとして,システムバスクロック800MHz,L2キャッシュ容量2MBの「Core 2 Duo E4000番台」が用意されていることを憶えている人も多いだろう。Pentium DCは,このCore 2 Duo E4000番台から,L2キャッシュ容量を半分の1MBに削減したモデルなのだ。

 

 発売開始時点のラインナップは「Pentium DC E2160/1.80GHz」「Pentium DC E2140/1.60GHz」の2モデル。販売開始直後の6月4日時点では,ともに1万円台前半の価格で店頭に並んでいる。位置づけが似ている既存のCPUとの違いを表1へまとめたので,参考にしてほしい。

 

 

「CPU-Z」(Version 1.40)から確認したところ。CPUIDは「6F2」で,Core 2 Duo E4000番台と同じだった

 ところで,なぜこのCPUが“Core 2 Duo E2000番台”にならなかったのか,疑問に思う人もいると思う。
 日本ではCore 2ブランドが定着しつつあるが,Intelの関係者によると,海外の一部地域では日本ほどうまくいっておらず,Core 2よりも,安価になったPentium Dのほうが人気になってしまっている。そこで,同じPentiumブランドを冠して「Pentiumを探している人にとっての置き換えモデル」であることを示し,Coreマイクロアーキテクチャの普及を図るためなのだそうだ。そのため,日本では逆に,製品ラインナップが少々いびつになってしまうが,さすがにこれは「Core 2のエントリーモデルがPentium DC」と理解するほかない。Pentium D以前のPentiumファミリーが市場から完全に姿を消すまでは,十分に注意しておきたい。

 

 

Pentium DC E2160をテスト
倍率変更でE2140相当&オーバークロックも

 

Pentium DC E2160のエンジニアリングサンプル(ES)

 さて今回4Gamerでは,独自にPentium DC E2160のエンジニアリングサンプルを入手したので,さっそくテストを行ってみたい。
 まず,Pentium DC E2140のテストに当たっては,Pentium DC E2160の倍率変更で“相当品”とする。また比較対象としては,Pentium DC E2160の上位モデルで,動作クロックの同じ「Core 2 Duo E4300/1.80GHz」,そして実勢価格的にちょうどPentium DC E2160と同E2140の間に入る「Athlon 64 X2 4200+/2.2GHz」(Brisbaneコア,L2キャッシュ512KB×2)も用意した。また,やはり実勢価格の近い「Pentium D 950/3.40GHz」も用意……したかったのだが,機材調達の都合で用意できなかったため,こちらも同じ「Presler」コアを採用する「Pentium Extreme Edition 965/3.73GHz」からの倍率変更で対処した。このほか詳細なテスト環境は表2のとおりだ。
 なお,テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション3.1準拠。CPU性能を見るので,グラフィックスカードへの依存度が高い「高負荷設定」,並びにディスプレイ解像度1920×1200ドットにおける測定は行っていない。

 

 

今回は,秋葉原のPCパーツショップである高速電脳の協力でAthlon 64 X2 4200+を試用できた

 このほかPentium DC E2160のテストにおいては,4Gamerのテストでも幾度となくオーバークロック耐性の強さを証明してきたCoreマイクロアーキテクチャ採用製品ということもあり,オーバークロック動作も試みた。「BIOSからFSBクロックとCPUコア電圧を変更する」というオーソドックスな手法で試し,その結果,FSBクロック340MHz(システムバスクロック1360MHz)の実クロック3.06GHzで,レギュレーション3.1で採用したすべてのテストが完走したので,これをスコアとして採用することにしている。このとき,CPUコア電圧を自動(Auto)にしていると早々に限界が来たため,今回は1.350Vに手動設定してあることは,あらかじめお知らせしておきたい。
 また,オーバークロック時のスコアがいかほどかを見るため,比較対象として「Core 2 Duo E6700/2.66GHz」も用意した。先ほどの表2に同モデルの名があるのは,そういった理由によるものである。

 

 ここでお約束となっている注意を一つ。オーバークロック耐性には個体差があり,すべてのPentium DC E2160が3.06GHzで動作すると保証するものではない。また,オーバークロックはそもそもメーカー保証外となる行為であり,オーバークロックによってハードウェアやOSに深刻なダメージが生じたとしても自己責任となる。オーバークロックの結果についてIntelや販売店,4Gamer編集部,筆者は一切責任を負わないので,この点はくれぐれもご注意を。

 

 

Core 2 Duo E4300の差は間違いなくあるが
3.40GHz動作のPentium Dとはいい勝負

 

 というわけで,以後グラフ内では「Pentium DC」「Core 2 Duo」「Pentium D」「Athlon 64」の表記を省略するとお断りしたうえで,さっそくグラフ1,2から見ていきたい。これは「3DMark06 Build 1.1.0」(以下3DMark06)の結果だが,Pentium DC E2160のスコアはCore 2 Duo E4300とほぼ同じで,L2キャッシュ容量のハンデはあまり現れていない。
 CPUスコアだけを切り出してみると,Pentium DC E2160のスコアはPentium D 950やAthlon 64 X2 4200+より若干低い。
 一方,Pentium DC E2160を3.06GHzオーバークロックしたときのスコアはCore 2 Duo E6700を確実に上回っている。

 

 

 

 続いて,グラフ3に「3DMark05 Build 1.3.0」(以下3DMark05)の結果を示す。ここでは3DMark06と異なり,Pentium DC E2160とCore 2 Duo E4300の差がハッキリと見て取れる。また,Pentium DC E2140がPentium D 950よりも高いスコアを出している点や,メモリコントローラ内蔵の効果か,よりCPU性能が効いてくる低解像度でAthlon 64 X2 4200+のスコアがかなり高めに出ている点が見どころといえそうだ。

 

 

 ざっと傾向を掴んだところで,実際のゲームにおける性能評価に移っていきたい。「Quake 4」(Version 1.2)の平均フレームレートを見てみると,Pentium DC E2160のL2キャッシュ容量が1MBであることは,間違いなくマイナスに作用しているのが分かる(グラフ4)。わずかではあるものの,Pentium D 950やAthlon 64 X2 4200+の後塵を拝す結果だ。
 オーバークロック動作について,3.06GHz駆動で2.66GHz動作のCore 2 Duo E6700と互角。オーバークロックでここまで持って行ける可能性を高く評価するか,動作クロックで400MHzも上回りながら,スコアでは上回れないことを残念に思うかは人それぞれだろう。

 

 

 続いては「Half-Life 2: Episode One」(以下HL2EP1)の結果をグラフ5にまとめたが,ここではCore 2 Duo E4300とPentium DC E2160の間にある差がさらに開く。それはオーバークロック時にも顕著で,今回のテスト環境でCPUパフォーマンスの差が最も現れやすい1024×768ドットにおいて,3.06GHzで動作するPentium DC E2160がCore 2 Duo E6700に引き離されている。
 なお,1600×1200ドットでスコアが並んでいるのは,GPU(グラフィックスチップ)のボトルネックが発生しているからだ。

 

 

 ただ,FPSだとイマイチというわけではないようで,「F.E.A.R.」(Version 1.08)ではPentium DC E2160のスコアがPentium D 950やAthlon 64 X2 4200+よりも高い。Core 2 Duo E4300と比較するとスコアは確実に低いので,L2キャッシュ容量は効いているが,L2キャッシュ容量が1コア当たり2MBのPentium D 950よりもスコアが高いあたりからは,Coreマイクロアーキテクチャのデキのよさが見て取れよう。

 

 

 F.E.A.R.よりさらに負荷が高いRTS,「Company of Heroes」のテスト結果がグラフ7だが,HL2EP1とF.E.A.R.の間,とでもいうようなスコアになっている。GPUボトルネックの発生していない1280×1024ドット以下で比較すると,やはりL2キャッシュ容量が1MBというハンデはあるが,Pentium D 950よりはスコアが高い。

 

 

 描画負荷がそれほど高くなく,CPUパフォーマンスの違いがレギュレーション3.1中で最も出やすい「GTR 2 - FIA GT Racing Game」(以下GTR2)のスコアは,これまでと大きく異なっている。一言でCoreマイクロアーキテクチャの圧勝。1MBのL2キャッシュでまかなえるレベルのデータが多いケースでは,Pentium DC E2160は確実にPentium D 950の上を行くといってよさそうだ。
 なお,Pentium DC E2160のオーバークロック時に1280×1024ドット以上でCore 2 Duoとスコアが変わらないのは,GPUボトルネックが発生しているためと思われる。

 

 

 「Lineage II」のスコアはグラフ9のとおりだが,ここではGTR2のテスト結果と比較すると分かりやすい。Lineage IIは扱うデータ量が多く,L2キャッシュ容量とメモリコントローラの性能が効いてくるタイトルなのだが,こうなってしまうとPentium DC E2160のスコアはPentium D 950相当にまで落ち,Athlon 64 X2 4200+に置いて行かれる。対Core 2 Duo E4300や,オーバークロック時の対Core 2 Duo E6700は言わずもがなである。

 

 

 

従来と同じTDP 65Wだが
消費電力は十分に低い

 

Pentium DC E2160で省電力機能(EIST)を有効化すると,アイドル時には動作クロックが1.20GHzにまで下がる

 いつものように,OSの起動後30分間放置した直後を「アイドル時」,CPUだけに負荷を掛けるために午後べんちを30分間リピート実行した時点を「高負荷時」として,それぞれの時点における消費電力をワットチェッカーで計測してみよう。
 アイドル時においては「Enhanced Intel SpeedStep Technology」(EIST)もしくは「Cool’n’Quiet」といった,CPUが持つ省電力機能を有効/無効化したそれぞれの状態でも計測してあるので参考にしてほしい。また,Pentium DC E2140およびPentium D 950は,前述の通り,上位モデルからFSBクロックや動作倍率を変更して実現させたものであるため,省電力機能有効時のスコアを取得できていない。

 

 消費電力をスコアとしてまとめたのがグラフ10になるが,消費電力の目安となるTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)が既存のCore 2 Duoと同じPentium DC E2160だけに,消費電力は全体的に低めだ。Core 2 Duo E4300と比べると高めなのは解せないが,数Wの差なので,測定誤差の可能性も残っており,ほぼ同じと見て問題ないのではなかろうか。
 一方,高負荷時にAthlon 64 X2 4200+よりも17W低い点も評価できそうだ。マザーボードが異なるため,厳密な意味での横並びになっていないとはいえ,アイドル時の消費電力はほぼ同じなので,この17Wは,ほぼそのまま消費電力の違いといってよさそうだ。
 オーバークロック時の消費電力は高負荷時でCore 2 Duo E6700とほぼ同等。それにしてもPentium D 950の消費電力の高さは(いまさら言うまでもないが)絶句モノである。

 

 

 続いて,グラフ10のアイドル時と高負荷時におけるCPUの温度を,CPUモニタリングツール「CoreTemp」で測定したものをグラフ11に示す。CPUクーラーはいずれも製品ボックスのものを利用したが,ほぼ消費電力と同じような傾向を見せている。Pentium DC E2160が高負荷時にも45℃というのは,これから暑い時期を迎えるのを考えるに,悪くないスコアだ。
 なお,ここでPentium D 950のスコアがないのは,Core Tempが非対応のためである。

 

 

 

悪くはないが微妙な価格はネック
オーバークロック前提か?

 

Pentium DC E2160の底面

 下位モデルだから当たり前なのだが,Pentium DC E2160のパフォーマンスは,やはりCore 2 Duo E4300より一段落ちる。問題は価格で,同価格帯のAthlon 64 X2 4200+のほうがスコアで上回る例が少なからず見られた。消費電力まで加味するなら話はやや変わってくるが,コストパフォーマンスで比較すると,エントリー製品では1万円を下回る価格設定があるAthlon 64 X2に軍配が上がりそうだ。

 

 もちろん,オーバークロック前提ならば,Pentium DCには十分な魅力がある。ただ,どうしてもリスクがあるため,“分かっている人”が遊ぶには悪くないが,万人にお勧めできるものではないのも,また確かである。
 その意味では,Pentium DC E2140が1万円を切った価格で販売されるようになると,状況は変わってくるだろう。販売開始翌日となる現時点では,オーバークロック前提の人に向けたアイテム,あるいは「より安価なCoreマイクロアーキテクチャ採用デュアルコアCPUの選択肢」以上でも以下でもないという評価に留めたい。

■■宮崎真一(ライター)■■
某有名PC専門誌の主力編集者として活躍した長いキャリアを持ち,「いかにして公正なデータを取得するか」のノウハウに長けているテクニカルライター。4Gamerでは主に,GPUやCPUの新製品をゲーマー視点で評価している。ゲーマーとしては「Diablo」以来のオンラインRPG好きで,ここ数年,「ファイナルファンタジーXI」をひたすらプレイし続けていることは,デバイスメーカーやパーツメーカーの間でも有名な話だ。
タイトル Pentium Dual-Core
開発元 Intel 発売元 インテル
発売日 2007/06/03 価格 モデルによる
 
動作環境 N/A


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/pentium_dc_e2160/pentium_dc_e2160.shtml