― レビュー ―
世界が待っていた,ハーフライフ 2の続編
ハーフライフ2 エピソード1
Text by 奥谷海人
2006年6月8日

※記事中,前作「ハーフライフ 2」のエンディングに関する記述があります。ご注意ください

 

世界的ヒット作の後日談が“エピソディック形式”で語られる

 

ハーフライフ2 エピソード1のメニュー画面。チャプターごとに背後の“動く”図柄が変化するのは,前作ハーフライフ 2と同じ。ストライダーの大暴れとコアの爆発により,シタデルのあるCity 17は無残な姿となった

 2004年11月にリリースされた「ハーフライフ 2」はおおむね高く評価されていたが,我々ライターや編集者を含む多くのプレイヤーにとってそのラストシーンは不満を覚えるものだったはず。おなじみゴードン・フリーマンを操ってCity 17の戦火をかいくぐり,ようやくブリーン博士を要塞の屋上にまで追い詰めたものの,最後は相棒アリックスと共に大爆発に巻き込まれてしまう……,という,なんとも煮え切らないエンディングだったからである。
 深読みすれば,このエンディングは話の続き,つまり続編の存在をプレイヤーに意識させるものだろうが,開発元のValveはその後日談を発表するにあたり,通常の続編を作るのではなく,定期的に少しずつリリースしてファンを待たせない “エピソディックゲーム”という斬新な手法を選択した。ゲームのリリースをテレビドラマのように行うことで,我々のハートを常にガッチリ鷲づかみにしておこうという魂胆である。それが,第一弾(続編は全3作で構成される予定)となる「ハーフライフ2 エピソード1」(以下,エピソード1)なのだ。
 エピソード1のボリュームとしては拡張パック程度だが,サイバーフロントから発売されている日本語版のパッケージ,およびSteamからのダウンロード版とも,起動にハーフライフ 2は必要なく,単体でプレイできる。
 ハーフライフシリーズのストーリーを知る必要はないが,現在までに400万本という大ヒットを記録し,グラフィックス技術やゲーム性など,おそらくゲーム史にその名を刻むであろう「ハーフライフ 2」ぐらいは,やはりプレイしておいたほうが良いと思う。

 というわけで,ここでちょっと,ハーフライフシリーズの物語をおさらいしておこう。そもそもゴードン・フリーマンは,ブラックメサ秘密研究所に勤務する理論物理学者だった。第一作である「ハーフライフ」(原題 「Half-Life」1998年)では,MIT時代の恩師であるアイザック・クレイナー博士に従って時空間移動に関する極秘実験を行っていた。MIT卒で博士号取得という高学歴の割には,ボタンを押したりカートを押したりという割と地味な肉体労働をさせられていたゴードンだが,ある日,反量子スペクトラムの放電実験が失敗し,異世界Xenの扉を開けてエイリアン達を地球に呼び込んでしまうという事故が起きる。しかも,これをもみ消そうと軍精鋭のブラックオプス部隊が研究所に乗り込み,“7時間戦争”と呼ばれる大事件に発展してしまうのである。
 しかし,一連の出来事は政府を陰で操る組織にとっては想定内。雑用担当の研究者から勇敢な戦士へと脱皮していたゴードンは,Xenと地球の掛け橋になっていた謎の男G-Manによって雇用されることになり,15年という長い眠りに落ちる。そして,その後の話がハーフライフ 2なわけである。
 ハーフライフ 2の地球は,すでに異世界の侵略者によって蹂躙され,人間は侵略者と手を結んだブリーン博士によって自由のない生活を強いられている。コンバイン兵という抑圧的な軍事警察が大手を振っており,ブラックメサの生き残りであるイーライ・ヴァンス博士,その娘のアリックス,そしてクレイナー博士や元警備員のバーニー・カルフーンらは,東欧にあるとおぼしきCity 17で活動する反体制ゲリラになっていたのだ。フリーマンの到着はゲリラたちを奮い立たせ,やがて大規模な戦闘を組織しながらも“ダークエネルギーコア”のある敵の牙城,要塞(シタデル)に潜入し,ブリーン博士の野望を阻止することになるのだ。

 

エピソード 1は,ハーフライフ 2のエンディングシーンの直後から始まる。あの大爆発を,ゴードンとアリックスはいかに逃れたのだろうか? ゴードンの雇い主であるG-Manは,依然として謎のベールに包まれたままだ。とはいえ,今回の出来事にちょっと疲れたのか,無精ひげのままで登場する エピソード 1では,ただのヒロインというだけではなく,物語の進行役として重要な立場にあるアリックス・ヴァンスと,彼女が子供の頃に父親が製作したというロボットペット,Dog

 

「プリンス オブ ペルシャ」顔負けの敏捷な動きを見せ付けるDog。屋外では,フォールアウト(死の灰)が降っており,荒廃した世紀末的な雰囲気が出ている アリックスは,意外なほどウィットに富んだジョークを連発するかと思えば,ふと悲しげな表情を見せたりもする。壁にもたれ掛かる様子など細かいアニメーションにも注目 引力でオブジェクトを引っ張ったり放出したりするグラビティガンを使ったパズルはエピソード 1にも多い。プレイヤーの行く手を阻むスナイパーも再登場

 

 

アリックスとの連携を重視したストーリーの展開でゲームを引っ張る

 

Sourceエンジンのアップグレードの一つとして,HDR Lighting技術が取り入れられた。画像のコンバイン兵の体や武器にあるように,直接光が当たっているオブジェクトに対して,まぶしいような効果が見て取れる

 「Tell me, Dr. Freeman, if you can. You have destroyed so much. What is it, exactly, that you have created? Can you name even one thing? I thought not.」 (教えてくれ,フリーマン博士。君は多くのものを破壊してきた。ところで,君が作り出したものは何だ? 一つでもあるのか? あるまい。)
 エピソード 1は,こんなブリーン博士の挑発的な言葉から始まる。爆発事故を生き延びたゴードンとアリックスだったが,いったいゴードンは何のために戦っているのか? G-Manは多くを語らず,ゴードンをただ見つめるばかりだ。エピソード 1に続く三部作では,このあたりの真相解明を中心にストーリーが展開していくものと推定できる。
 ともかく,残骸の中に埋もれていたところをアリックスのペットロボットDogに救出されたゴードン。今回は,五つのチャプターからなる全編を通じ,プレイヤーはアリックスと行動を共にすることになる。不安定なまま作動を続けているダークエネルギーコアを制止するために再びシタデルに侵入し,最終的にCity 17からの脱出するまでを,トータルで5時間程度のゲームプレイで描いている。シタデルやCity17の大部分は全壊しているが,なんとなく見覚えのある場所も多いため,前作をプレイした経験がある人なら,ストーリーの続きをそのまま進めているかのような錯覚を起こしてしまうかもしれない。

 “アリックスと行動を共にする”というチームプレイの要素は,これまでのハーフライフシリーズとは異なった,比較的新鮮な感覚をプレイヤーに提供してくれる。まず序盤,プレイヤーにはグラビティガンしか武器はなく,かなりのシーンでアリックスの攻撃力に頼ることになるだろう。ほとんどは,後からついてくるサイドキックのような役割ではあるが,アリックスがコンバイン兵やゾンビと戦っている間に,プレイヤーが謎を解くというパターンが随所に出てくる。彼女に命令を下すことはできず,完全にAI制御ではあるが,ゲームを進めていくうえでアリックスの行動に不自然さを感じることはなかった。
 また,ナレーションやゴードン自身のセリフがないという状況は前作と同じだが,ウィットに富んだアリックスの“独り言”によってストーリーに自然な説明がなされ,プレイヤーの物語に対する理解が深まる。「ここ不気味ね」というような状況説明から,「この扉を開けるには○○が必要なんだけど……」といったヒント,そして「心配してたのよ……。あ,Dogだって喜んでいると思うわ」などの,いわゆる“キャラクターディベロップメント”的なセリフまで,彼女の視点や思考を通してゲームが進行していくのだ。
 とはいえ,ゴードンはちょっと無愛想すぎないだろうか? せっかくアリックスが冗談を言っても何も反応しないので,彼女は自分の冗談に自分で笑うしかないのだ。かわいそうである。

 このように,主要な登場人物をアリックス一人に絞り,ほかのキャラクターはチョイ役程度でしか出てこないのも,エピソディックゲームという比較的短めのゲーム中,ストーリーを散漫にさせないための処置だろう。だが,チョイ役なればこそ,イーライやバーニーの姿を確認したとき「おお,良く生きてたな!」と,まるで旧友と久しぶりに出会ったように思える効果も生んでいる。彼らもおそらく,残りの2作ではキーパーソンとしての役割を担っていくはずで,ファンならば,彼らの言動はしっかりとチェックしておきたい。

 

序盤,コア中枢へと向かっているときに出現したブリーン博士。しかし,これは録画された映像らしく,生存しているのか,どこにいるのかは謎 ハーフライフ 2でしばしば登場した“乗り物”は,本作では一切使用されない。これは,序盤に登場する廃車のシーンで,ちょっと面白い展開になる ヌメヌメしたストーカーが,廃墟となった要塞の中で黙々と作業している。彼らは,コンバインに反抗して改造された人間のようだ

 

ハザードスーツと改良版グラビティガンのおかげで,コアの中枢部にまで到達したゴードン。ストーカーやマンハックに悩ませられながらパズルを進める 途中の地下鉄構内では,前作のレーベンホルムを思い出させるシーンが満載。ゾンビ化したコンバイン兵も登場し,かなり白熱した戦いが楽しめる,前半の山場である 構内で入手できる銃弾は限られており,不死身に近い(死ぬときは死ぬけど)アリックスに戦ってもらいつつ,自分はパズル解きなどの作業をしていく感じになっている

 

 

改良点は少ないながら,シリーズのクオリティの高さはしっかり継承

 

後半は,前作にそっくりな雰囲気のCity 17の中を進んでいく。物理エンジンHavokによるリアルな動きを利用して巣穴を塞がなければ,アントライオンは永遠に出現し続ける

 エピソード 1は,常にアリックスを連れてのプレイという変化を除けば,インタフェースやプレイアビリティ,そしてアクションとパズルで緩急がついたゲームの流れまで,ハーフライフシリーズの基本を踏襲している。
 登場する武器も同じだし,戦う敵も,コンバイン兵士,ゾンビ,ヘッドクラブ,アントライオン,ガンシップ,バーナクル,ストライダーなどなど,毎度おなじみのものだが,一つだけ“ゾンバイン”とアリックスに冗談で呼ばれる,ゾンビ化したコンバイン兵士がフィーチャーされている。このゾンバイン,けっこう手強く,しかもグレネードを持って突撃してくるのがやっかいだ。グレネードの赤いライトが敵の手許に見えたら即座に撃つか,もしくはグレネードの転がってきた方向を確認し,反対方向に逃げる必要がある。通常のコンバイン兵士にしても,ビルの屋上からロープを伝って降りてくるなど,敵AIの戦略性は相対的に向上している印象だ。

 ValveのSourceエンジンの特徴の一つである表情アニメーション技術は,初登場してからすでに一年半が経過していながら,まだまだ業界最高峰である。もちろん,ゲームエンジンにまったく改良が加えられていないわけではなく,それはアリックスの頭髪やバーニーの防具などのテクスチャの,大幅なアップデートにも十分見て取れるはず。
 また,約一年前にリリースされた技術デモ「Half-Life 2:Lost Coast」以来話題になっているHDR(ハイ・ダイナミック・レンジ/High-Dynamic Range)Lighting技術が,本作でふんだんに利用されているのも特筆しておきたい。このHDR Lightingというのは,カメラで言うところの露出調整を幅広い範囲で可能にしたものだ。画面内で光源からダイレクトに光が当たっている部分を強調するSpecular Highlight(スペキュラー・ハイライト)や,暗がりに差し込む外からの光を露出オーバー気味にして見せることで,さらに現実味のある表現がされている。これらにより,風景はより現実的なものとなり,室内やキャラクターの雰囲気もうまく演出される。
 エピソード 1では,最近のDVD映画にオマケ機能として付けられている“Commentary Mode”が用意されている。ゲームでは,「The Chronicles of Riddick」などに取り入れられていた機能だが,これはゲームが進行するにつれて画面にアイコンが登場し,それを押すことで開発者などのコメントが聞けるもの。映画の監督や役者たちのように垢抜けた話術ではないが,ゲーム2周目などで彼らのコメントをじっくりと聞きながらゲームを進めていくと,ハーフライフ 2やValveの開発現場の雰囲気がより伝わってくるだろう。

 とはいえ,ハーフライフ2 エピソード1の不満点は,やはりゲームが短すぎることだ。エピソード形式であるため,本作を終了させると,今まで以上に,プレイヤーは半端な状態で待たされることになる。もっとも,計画では半年ごとに残りの2作がリリースされていく予定になっており,すでにEpisode 2のムービートレイラーも公開されている。こうしたパブリシティで,本作で高まったファンのテンションをこのまま持続していこうと考えているのだろう。
 確かにプレイ時間が5時間程度というのは「単品のソフトウェア」として考えれば短いものではある。だが,2時間で1800円を払って映画鑑賞することを思えば,日本語のパッケージ版で4200円,Steamのダウンロード版であれば2500円程度という価格設定は,多くの人にとって手の届きやすいものだと思われる。
 HDR Lightingなどの新技術の恩恵を最大限に受けるためにはDirectX 9.0以上をサポートしているグラフィックスカードが必要となり,あの殺人的なローディング時間もいくらか緩和されているとはいえ,スムースなプレイにハイエンドなPCが必要であろうことは事実。とはいえ,同じくSteamでダウンロード配信されている「SiN」とともに,ハーフライフ 2 エピソード 1は“エピソディック・ゲーム”という新しいスタイルとその流通形態の到来を十分に予感させる。値段もお手頃なので,興味があれば,それがどんなものであるのかチェックしても損はないだろう。

 

クロスボウはスコープを使って敵を狙撃できる,数少ない遠距離攻撃武器。だが筆者は,イマイチ苦手。とっさのズームであたふたするのである 一度攻撃を受けると,死に物狂いで向かってくるゾンバイン。普通のゾンビに混じり,グレネードを持って突撃してくることも多い。ゾンビ連中と戦うときは要注意だ バールやグラビティガンと同じく,ハーフライフシリーズになくてはならないのが“バルブ”。本作では,ドアを開く際に使用する局面が多い

 

バーニーらは,ほとんどチョイ役程度でしか出てこないが,声優は全員,前作と同じ。服装や顔グラフィックスのテクスチャが大幅に向上している もはや,司令官のいないコンバイン達だが,その機動力の良さは相変わらず。トランシーバーによる会話の声が聞こえたかと思えば,どこからともなく襲い掛かってくる ハーフライフ 2らしい緻密なマップは,さすがと言える。プレイ時間が5時間程度と短く,その点,少し不満には感じるが,クオリティ面では満足のいくものだろう

 

タイトル ハーフライフ 2 エピソード 1
開発元 Valve Corporation 発売元 サイバーフロント
発売日 2006/06/02 価格 4200円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/XP/2000(+DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium 4/1.4GHz以上(Pentium 4/2.4GHz以上推奨),メインメモリ:256MB以上(512MB以上推奨),HDD空き容量:4.5GB以上

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