アメリカ陸軍特殊部隊「ゴースト」チームが
PCに帰ってきた
2013年の近未来を舞台に,ハイテク装備の特殊部隊の活躍を描くシリーズ最新作,「Ghost Recon Advanced Warfighter 日本語マニュアル付英語版」が発売された。ミッションの舞台となるのはここ,細かく描き込まれたメキシコシティだ。パラシュート降下から作戦開始までがローディングなしで描かれ,没入感は抜群である。つかみはオッケー |
9月28日にフロンティアグルーヴから発売された「Ghost Recon Advanced Warfighter 日本語マニュアル付英語版」は,アメリカ陸軍の特殊部隊“ゴースト”チームを主役とするFPSシリーズの最新作だ。ゴーストチームは紛争地帯にいち早く投入され,数々のミッションを隠密裏に遂行する特殊部隊である。彼らのモットーは「一番早く来て,最後に帰る」だが,私の仕事に対するスタンスが「一番最後に来て,誰より早く帰る」なのはどうでもいい話である。同じくUbisoft Entertainmentの人気シリーズ「レインボーシックス」と共にいわゆる“リアル系”の嚆矢とされるゲームで,「オープンスペースのレインボーシックス」などと言われたりもするが,だいたい正解かと。次々に登場する敵をランボーよろしくバッタバッタとなぎ倒していくFPSが主流だった時代に,「移動はもっさり」「ジャンプなし」「チームを率いる」「設定がリアル(っぽい)」「押すボタンがたくさん」などなどのフィーチャーをくっつけることによって,例えば筆者のように反射神経がいまいちアレになりつつあるプレイヤーでも戦略とアクションを同時に楽しめるゲームにしてくれたのが,レインボーシックスシリーズとゴーストリコンだったのである。
前作はもともとPCゲームとしてリリースされたが,その後,各種コンシューマ機に移植されてそちらでもかなりの人気を獲得した。だが,悲しいことに2005年に発売が予定されていた「Tom Clancy's Ghost Recon 2」はさまざまな理由からコンシューマ機のみでの発売となり,PC版はキャンセルされてしまったのである。まさに「庇を貸したら母屋を取られてもらい泣き」という風情だが,私が強く諭したところパブリッシャのUbisoft Entertainmentは反省し,今回のAdvanced WarfighterはちゃんとPC版もリリースされたのである……というのはぜひ話半分で聞いてもらいたい。
欧米ではすでに2006年5月に発売されている。いろいろな拡張パックがあるのでちょっと意外な感じを受けるが,数えてみるとこれがPC版の新作としては2作目となる。スウェーデンのストックホルムに本拠を置くGRINが開発を担当しているが,彼らはPC版だけを制作しており,PC版とコンシューマ機版では,ゲーム画面はもとより,マップやストーリー展開,演出などにも違いが見られる。これは,プラットフォームによってプレイヤーの嗜好が異なるためとされており,このへんまで気遣ってくれるのは嬉しい話だ。
さて,今回ゴースト部隊が派遣されるのは2013年のメキシコだ。時まさに北米安全保障会議が開催されている真っ最中で,アメリカ大統領とメキシコ大統領,そしてカナダの首相がメキシコシティに集まっていた。だが,そこをメキシコの反乱軍が襲撃し,カナダ首相を殺害,アメリカとメキシコの大統領を誘拐してしまったのである。
しかし,まるでゲームの設定のように折りよくメキシコシティにはゴースト部隊が派遣されていた。メキシコ軍の一部とニカラグアの反政府勢力がなにやら裏取引をしているらしい,との情報をキャッチしたためである。当地にいる緊急即応部隊はゴーストだけ,というわけで,プレイヤーはスコット・ミッチェル大尉となり,ワシントンDCのキーティング将軍や作戦コーディネータのスティーブなどからの指示を受けながら,反乱軍と戦い,2名のVIPを救出しなければならないのである。
監修がトム・クランシー御大というところから推測できるとおり,ゲームには最近の政治情勢および軍事技術がふんだんに登場してくる。時代背景が2013年なので,なにより兵士達が驚くほどハイテクなのだが,現実離れしたSFというわけではない。これは現在,アメリカ陸軍が進めているLand Warrior計画に沿ったもので,同計画の目標はウェアラブルの機器を装備したサイバー兵士を整備することだ。GPSやヘルメットに装着したカメラとディスプレイ装置,またヘッドフォンによる分隊間のコミュニケーションや高度な火器管制装置を備えたライフルなどによって,兵士一人一人の能力を飛躍的に高めるのである。お金かかってます。
余談だが,もともとLand Warrior計画は,ドキュメンタリー小説/映画「ブラックホーク・ダウン」で描かれた事件に端を発している,というのは今や中学生でも知っていることだ。ソマリアに派遣されたアメリカ軍特殊部隊は,ブラックホークの墜落地点を求めて入り組んだモガディシオ市内を迷走し,その間にさんざんに攻撃されて多数の死傷者を出してしまったのだ。上空の偵察機からの道路情報はいったん作戦司令部に届けられ,そこから監視ヘリコプターを通じて地上部隊に伝えられたため,大きなタイムラグが生じてしまい,曲がるべき角を曲がれずに結果として迷走となった。
Land Warrior計画は,その事件を教訓として「最前線の兵士がすべての情報を持つ」ことを目的とする。これはまさに,軍隊のパラダイムシフトとも呼べるもので,かつて上級司令部がすべての情報を掌握し各部隊に命令を下していたのに対し,進歩したIT技術によって末端の兵士にこそすべての情報を与え,自律的に行動させるのである。将来的にはゲーム同様,師団野砲や空軍の支援要請を最前線の兵士が必要に応じて出せるようになるという。
ハイテク兵士を操って,
クーデター軍から大統領を救い出せ
一つのミッションが終わり,ヘリコプターで移動して次の作戦地域に向かう。ここでも,ヘリ→ラペリング→展開/戦闘がシームレスに続き,まさに今,戦場にいるような気分になれる。右上のウィンドウにはヘリパイロットや将軍,作戦コーディネータからの指示や情報が提示されるが,戦闘で忙しいときに限って,いろいろ言われるような気も…… |
というわけで,ゴースト部隊のハイテク度はきわめて高く,一人で何本もの電池をカラにしちゃいそうな勢いだ。第一次世界大戦の兵士がほとんど電力を消費しなかったのに比べ,大きな進歩といえよう。
ゲームでは,ヘルメットに装着した“Cross-Com”と呼ばれるハイテクギアを通じ,本部や上空のヘリコプターから次々に情報が入ってくるし,無人偵察装置「ドローン」からの画像もある。部下の見ている風景をカメラを通じて自分も見られるし,彼らの生死や負傷の度合いなども分かるのだ。こうした設定は,同じくトム・クランシー監修の「スプリンターセル」シリーズなどでもおなじみだが,あちらがなんでもかんでもサム・フィッシャー一人で行うのに対し,こちらはこのCross-Comをいかに使いこなして部下に正しい命令を与えるかが重要になってくる。
敵AIの認知度は非常に高く,こちらの姿が視界に入ってくると,ほぼ100%発見され攻撃される。接敵すれば戦闘になるので,スニークの要素はほとんどない。彼らの登場はスクリプトによるが,場所は微妙にランダムで,さっきここの敵に撃ち倒されたので今度は先制攻撃だ,ありゃ,いない,ということも多い。また,出てくるはずのなさそうなところにいきなり出現したりもするので,これはちょっと困る。シリーズの美しい伝統として敵弾の命中精度は高く,こちらは高度な訓練を受けたグリーンベレーなのに,反乱軍ごときに一発でやられてしまう場合が多々ある。前作とは違ってヘルスのパラメータがあり,ある程度の被弾には耐えられるが,ヘルスパックが落ちていることはないので(転がっている敵のライフルからマガジンをピックアップすることはできる),「突撃! オレに続け!」というスタイルの戦い方は無理である。
よって,基本はあくまでチームプレイだ。ミッチェルが単独になるミッションもいくつかあるが,ほとんどの場合,3人いる部下を二手に分けて接近させ,敵に十字砲火を浴びせることが求められる。Cross-Comを通じて下せるのは“ATTACK”や“FOLLOW”“COVER”など,ごく単純な命令ばかりだが,コツを呑み込めばかなり込み入ったポジションを取らせられる。
普段の行動はこれで十分だが,とはいえ,「フル スペクトラム ウォリアー」みたいなチームプレイを行いたいという向きもおられるだろう。なにしろ部下はコンピュータ並みの正確な射撃技量を持つ優秀な兵士であり,うまく配置してやれば,不意打ちを食らったプレイヤーが「え,どこどこどこ?」と周囲を見回している間に敵を発見し無力化してくれるほどの腕前だ。要するに,本人が撃つより部下に撃たせたほうが効率がよろしいのね。そのため用意されているのが,タクティカルマップからの指示だ。画像は偵察衛星からのもので,この画面で兵士一人一人をピックアップして命令を下し“EXECUTE”(実行)ボタンによりそれを実行させるのである。複数の命令を連続して与えることも可能で,うまく使えば相当込み入った展開も可能となる。ただし,タクティカルマップ表示中も戦闘は続いているので,マップを見て指揮に熱中している間に敵にやられてしまった,ということが起きるとカッコ悪いので要注意だ。
厳しすぎる現代の戦場がプレイヤーを待つ きびしー!
マルチプレイは,前作でもあったチーム対戦「Domination mode」(最大32プレイヤー)と,本作から導入された「Co-operation mode」の二つが用意されている。後者は言うまでもなくCo-opで,それぞれが分隊員となって反乱軍と戦うのだ。部隊が全滅するか,もしくは隊長役が死亡すると終了。参加者が4人以下の場合,残りの隊員はPCが担当する |
もっとも,それでも戦闘はきわめてシビアだ。AIはかなり優秀な部類とはいえ,それでもときどき「おいちょっと」という行動を取ったりする。プレイヤーが隠れている場所に部下が走り込んできたせいで遮蔽物の陰から押し出されて眉間に一発食らった,なんてのはまだ可愛いほうである。ちょっとそこ,オレの隠れ場所。
なにより憎らしいのは,いきなり飛んでくるRPGや,前ぶれなく出現する戦車などだろう。いかに緻密な作戦を立て,一歩一歩着実に進んでいても,突然手の施しようのない強敵が出現してはせっかくの計画も台なしになる。セーブポイントでのオートセーブなので,やられるとずいぶん前まで戻されてしまうときもあり,これはちょっと大弱り。
もっとも,こうした「撃たれちゃダメ」と「意外な展開あり」がゲームに高い緊張感を与えているのも事実で,この緊張感にハマる人はハマってしまうかもしれない。
それやこれやで難度は驚くほど高く,この手のリアル系FPSに慣れていない人はイージーモードからスタートしたほうがいいだろう。おそらく,それでも容赦なくやられてしまうはずだ。出てくる敵の数も半端ではなく,ハイテク歩兵といえど,たったの4人でここをしのいでいくのはいくらなんでも無理でしょ,とディスプレイの前で腕を組む場面も多い。
ただ,それだけに作戦が効を奏し,ミッションをクリアしたときの喜びもひとしおである。
グラフィックスのレベルは高い。独自のエンジンを使用しているが,HDRレンダリングにも対応しており,柔らかい光と影の表現が秀逸だ。オブジェクトの描き込みもかなりのもので,個人携行兵器やM1エイブラムズ戦車のディテールなども細かい。オープニング,ゴースト部隊は輸送機からのHALO(高々度降下低高度開傘)でメキシコシティに降り立つのだが,その途中,眼下に広がる町の様子は見事の一言で,この景色の一部が細かく作り込まれて戦場となっているわけだ。輸送機から飛び出し,降下し,ハイウェイに降りて作戦を開始するまでがシームレスで描写され,ものすごい没入感を味わえる。まあ,お約束だから書くが,それだけにそれなりのスペックのPCが要求されてしまうのは仕方ないだろう。
マップは非常に広く,進行ルートはいくらでも考えられる。オブジェクトを達成すればそれでマップクリアとなるので,わざわざ交戦せず,やりようによっては敵拠点を迂回して前進するというオプションもあるだろう。
また本作はAGEIAの物理演算チップ「PhysX」対応のゲームでもあり(関連記事は「こちら」),同カードを使用すると銃撃や爆発のエフェクトが派手になる。ちなみに,今回の画面写真もPhysXを使って撮影したものである。
戦術性を重視したスクワッドもので戦闘がシビアなので,ちょっとマニア向きかしらと思う人もいるだろうが,前作に比べると戦闘の迫力がはるかに増し,グラフィックスは申し分のないほどリッチになった。歯ごたえは十分すぎるほどあり,タクティカルFPSに慣れたプレイヤーでも,かなり手強く感じるだろう。「オレはガンガン行ってバンバン撃ってバタバタやっつけるのだ!」という人にはオススメしづらいが,じっくり戦略を練ってプレイするのが好きだというFPSプレイヤーはぜひどうぞである。