― レビュー ―
手軽なプレイ感が魅力の古代ローマ建国シム
グローリー オブ ザ ローマン エンパイア 日本語版
Text by Sluta
2006年10月6日

 

過去の名作の流れをくむ正統派の箱庭ゲーム

 

箱庭系のゲームは一時期非常に数が少なかったが,最近盛り返しつつある。本作は完全な新作ではあるが,過去の名作のエッセンスが随所に取り入れられている

 今年はローマ建国シムの“当たり年”のようで,「Caesar IV」「CivCity: Rome」,そして本作「グローリー オブ ザ ローマン エンパイア」(原題 Glory of the Roman Empire)の3作が立て続けにリリースされた。今年はローマにゆかりのある何かがあったわけではなく,3作品が集中したのはあくまでも偶然のようだが,同ジャンルの作品数自体がそれほど多くない昨今,ファンにとっては楽しみの多い年になったといえよう。

 その中で,ズーから9月29日発売された本作「グローリー オブ ザ ローマン エンパイア 日本語版」は,最もカジュアル寄りに位置する作品だ。住民一人一人の動きが視覚的に表現されていて,それがそのままゲーム内での資源の移動や人の活動を表しているあたりは,「カルチャーズ」や「トロピコ」などの名作箱庭ゲームの流れを汲んでいるが,本作の作りはそれらよりもずっとシンプルになっている。
 本作を端的に表現するなら「まったり眺めて楽しむゲーム」「操作量の少なさ」「明るく牧歌的なグラフィックス」といったキーワードが当てはまる。箱庭入門編としてピッタリの本作はどんなゲームなのか,さっそく見ていこう。

 本作は古代ローマを舞台とした,都市建設シミュレーションだ。プレイヤーはローマ皇帝から派遣された総督となって,一つの植民地を任せられ,都市を一から作り上げていくことになる。都市の経済に必要な資源を確保しつつ,人口を増やしていき,より高度な文明と名声を持つ都市を築き上げるのがプレイヤーの目標だ。

 都市には段階ごとに発展度(町の公会堂をクリックすると表示される)が設定されていて,その発展度がアップするごとに,ローマ皇帝から新たな記念碑の建設許可が下りる。凱旋門やコロシアムなど,ローマの華やかさを象徴する建物が多数用意されているので,中盤以降は景観作りの楽しみも十分にある。

 ゲームはまず,新しい建物を建てるための木と石を得ることから始まる。森の近くに木こり場を建設し,その近くに住居を建設する。すると新しい夫婦が住居に移住してきて,男性が木こり場で働き始めるだろう。同様に岩塊の近くには,石切り場と住居を建設する。

 市民には4段階のレベルがあり,下から順に「新参」「見習い」「熟練」「主人」と呼ばれる。上位の市民ほど生産性が高いが,いろいろと満たさなければならない欲求も多い。欲求をある程度満たすごとに市民のレベルがアップし,経済が発展して文明が高度になっていく。

 最初に移住してくる新参の市民の欲求(必要な資源)は「小麦」「肉」「祭壇」「井戸」の四つ。そこで「小麦農場」「養豚場」「祭壇」「井戸」を建設する。この四つがある程度満たされると,新参の市民は見習へと自動的にアップグレードされ,住宅の形も変化する。

 こうして順に市民の欲求を満たしながら,だんだんと市民の階級をアップグレードさせていき,より高度な文明の都市を築いていくわけだが,ここでポイントになるのが暴動と疫病である。

 この二つは,どちらも市民の欲求が十分に満たされていないと発生する。暴動になれば市民は仕事をボイコットして建物に火をつけるようになり,火災が発生する。疫病が広まると市民は仕事を続けられなくなり,やがて死んでしまう。この二つはそれぞれ,役所と薬草店という建物を置くことで“緩和”されるが,完全に防ぐことはできない。よって,市民が必要なものを常に供給し続けられるよう,テンポよく発展していくことが重要になってくるのだ。

 

のどかなグラフィックスが本作のまったりとした雰囲気を形作っている。全体的にゆっくりとした進行 昼夜の推移や天候の移り変わりも表現されている。好みによって,時間や天候は固定できる 建物はそれぞれ効果範囲を持つ。住宅地が範囲内に収まるように一連の建物を配置しよう

 

市民各々の人生も一応シミュレートされている。結婚相手が見つかるよう,ある程度の集落を作りたい 道路は移動経路上にあれば使われるようだが,必須ではなく景観的な要素が強い。自由に敷こう 建物同士はある程度離したほうが火災の延焼を防げる。しかし移動距離は短いほうがいいので悩ましい

 

 

雑務は奴隷AIが自動でこなしてくれるから
景観作りに専念できる

 

凱旋門や黄金の像といった記念碑は,一定の発展度を達成すると建設が許可される。記念碑の近くの住居は,名声が高まって階級が上がりやすいという利点がある

 これまで紹介してきた「市民」は住居に住み,各種施設で働く都市の主役である。だが,本作にはそれとは別に「奴隷」というユニットが存在する。奴隷は最初から最後までずっと奴隷で,町の公会堂や倉庫に住んでいる。奴隷はお金で買うか,蛮族を征服して従えることによって増やしていく。

 本作では,この奴隷にいかにうまく働いてもらうかが最大のポイントになる。奴隷の仕事には次の三つがある。

 

  • 建物を建設すること。プレイヤーが指示した建物を指定した位置に建設する
  • 生産施設で作られた資源を倉庫へと運搬する
  • 各建物が必要とする維持費を倉庫から施設へと運搬する

 

 このほか,奴隷は自分自身の生活行動として,昼寝をしたり食事をしたり,井戸で水浴びをしたりする。

 気をつけなければならないのは,奴隷は建設専用ユニットではないということだ。奴隷は独自のAIを持っていて,自分の意思で次に何をするかを決めて行動する。奴隷は所属する倉庫を中心に活動するということ以外は何も決まっていない。

 一方,プレイヤーが指示できることは「どこに何の建物を建てるか」だけで,あとは奴隷にすべてお任せになる。プレイヤーが建物の建築位置を指定すると,とりあえずそこに土台ができ,あとは眺めているしかない。指示してもすぐに建設を始めてくれるとは限らないし,忙しいときはずっと放置されて,だいぶ経ってから建設が始まるときもある。逆に多くの建物を一度に予約すると建設ラッシュが始まり,物資の運搬のほうの仕事がおろそかになって,問題を起こすこともあるので注意しよう。

 この「奴隷にお任せ」な部分が,本作の最大の魅力であり,同時に欠点でもある。奴隷が自分の意思であちこちを動き回り,仕事をこなすのをつぶさに観察するのは楽しい。さっき休んだばかりなのに,また昼寝に行ったり,やっと仕事を開始したと思ったら余剰気味の資源を運びに行ったり,といったことはしょっちゅうだ。建物の維持費が足りてなくて火事が起こりそうだから,早く物資を届けてくれよと思っているところに,おもむろに水浴びを始めたりする。そういうのを心に余裕を持って眺められる人は,このゲームを楽しめるだろう。

 建物の建設位置を指定したら,あとは見ているだけで,それ以外にプレイヤーが関与する要素といったら,寺院に金を寄付するかのオン/オフや,兵士に攻撃を指示するかのオン/オフ(実際の軍事行動もAIが行う)といった程度で,シミュレーションゲームによくありがちなスライダーの調整とか,数値をいじる類の操作は一切ない。火事が起きても,役人が消火してくれるのをじっと待っていればよい。操作量はかなり少なくて済むので,まったりとプレイするにはかなり適したゲームだ。

 逆にいうと,深くやりこもうとすればするほど,奴隷の動きがネックだと感じた。必要なときに必要な建物を建ててほしい,この物資を運んでほしいと思っても,そのとおりに動いてくれるとは限らず,ギリギリのプレイを迫られたときに命とりとなる。奴隷のAIに行動の優先順位とか,ある程度の行動パターンとかを指定できればまだよかったが,そういった機能は盛り込まれていない。

 幸いにも,本作の難度はかなり低く抑えられているため,こういった問題でストレスを感じることはほとんどなかった。筆者はざっくばらんにプレイするタイプのため,おおむね好印象をもってプレイできたが,これは人によるだろう。

 

火事になると,役所の労働者が自動で消火に向かう。そのとき井戸の水を使うので,井戸は多めに設置しよう 交易ルートと品目はマップによって異なる。マップ上にない資源は交易を通じて得るしかないので,積極的に使おう 一定の発展度を達成するごとに,資源が送られてくる。ゆるやかに,かつスムースに発展を続けていくのがコツだ

 

マップ上に稀に存在する幌馬車は,疫病を治癒してくれる能力を持つ。疫病を完全に予防しきるのは,非常に難しい 気に入った画像は1クリックで保存できる。本作の操作量では,キーボードはほとんど使わなくてすむくらいである 実は本作の一番個性的な特徴「ラテン語のゲームテキストと音声」を選択できる。雰囲気重視なら試してみる?

 

 

ややボリューム不足は否めないが
遊びやすさでは合格点の箱庭ゲー

 

豊富な種類の樹木や装飾物を組み合わせれば,美しい景観が簡単に作れる。装飾物の設置は無料で,一瞬で完成する

 本作のゲームモードには「キャンペーン」「チャレンジモード」「フリーモード」の3種類がある。

 キャンペーンは当時実在した11の都市を舞台に,特定のミッション目標に従ってプレイするモード。全部で30ミッション程度ある。これにはチュートリアルも含まれており,かなり丁寧な説明が入っているので,箱庭シムに不慣れな初心者の人にとっても安心だ。  ただ,キャンペーンといっても古代ローマの歴史を追体験できるような要素は,ほとんど入っていないので注意。イベントやミッション目標などはごくごく一般的な内容のもので,あくまでも古代ローマを舞台とした箱庭ゲームといった面が強い。

 チャレンジモードは,ランダムな4ミッションを特定の条件でプレイして,その最終的な合計スコアを競うもの。スコアは都市の発展度,市民の感情,記念碑の数,クリアまでに要した時間などで総合的に計られる。このスコアはインターネットを通じて公式サイトへ自動的にアップロードできる。本作にはマルチプレイはないが,このスコアを競うのが,ほかのプレイヤーとの接点になる。

 フリーモードは特定の目標なしに,自由に街づくりが楽しめるモード。なかでも初級マップの「山の楽園」はいわゆるサンドボックスモードで,基本的な資源は無限,暴動や疫病もない条件でプレイ可能だ。しかしそれを含めても,合計7マップというのはちょっと少なく感じられる。

 シナリオの数やマップのバリエーションが不十分で,若干物足りない印象は受ける。マップエディタ,ウインドウモードでのプレイなど,箱庭ゲーとして基本的なものをサポートしていないのもマイナス材料だ。
 筆者は集中してプレイしていたというのもあるが,1週間程度ですべてのコンテンツを一巡してしまった。ただ,一通り遊ぶには十分なボリュームでもあり,ライトゲーマー向けの作品としては及第点を与えられる。動作の安定度や軽さ(これはマップの狭さと表裏一体)は,かなり満足のいくレベルだった。

 小ぢんまりとまとまっているが,全体的にシンプルなつくりで遊びやすい。傑作とまではいえないが,安心して遊べる佳作といったところだろう。

 

チュートリアルの丁寧なつくりには好感が持てる。日本語版だと理解しやすさが段違いだと改めて実感した チャレンジモードのスコアボード。このうちミッションボーナスは自分で選択できる。ハイスコアを目指そう スコアは公式サイトにアップロード可能。マルチプレイはないが,ほかのプレイヤーとスコアを比較できる

 

軍事,戦闘の要素も多少存在する。だがこれも操作はすべてAI任せだ。画像は蛮族に街が襲撃されている場面 兵士を作るには,傭兵育成所と武器の店の二つを建設すればよい。兵士の育成は自動で行われていく プレイヤーがするべきことは,攻撃開始の指示のみだ。あとは自動で兵士が出撃して,蛮族を攻撃してくれる

 

タイトル グローリー オブ ザ ローマン エンパイア 日本語版
開発元 Enlight Software 発売元 ズー
発売日 2006/09/29 価格 8190円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium 4/1.50GHz以上[2.40GHz以上推奨],メインメモリ:256MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスチップ:GeForce 2 MX以上[GeForce 6600またはRadeon9700以上推奨],グラフィックスメモリ:32MB以上[128MB以上推奨]

(c) 2006 CDV Software Entertainment AG. All rights reserved. CDV, the CDV logo and "Glory of the Roman Empire" are either registered trademarks or trademarks of CDV Software Entertainment AG or in the US and/or UK and/or other countries. All other brand and product names are trademarks of their respective holders.

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http://www.4gamer.net/review/gotre/gotre.shtml