■50か国のリーグ,2300以上のクラブ,23万人以上の選手が登場
勝つことが基本だが,「ひいきのクラブを指揮する」「下部リーグからキャリアを積み上げる」「海外に日本人だけのクラブを誕生させる」といった,プレイヤー自身の目標を持って遊べるのがいいのだ |
フットボールマネージャーシリーズといえば,欧州のPCゲーマー,とくにサッカーファンから熱狂的な人気を集めているサッカークラブ運営シムだ。今回紹介する「フットボールマネージャー2006 日本語版」(以下,FM2006)は,ワールドサッカーの2005年度データを収録したシリーズ最新版である。
世界各国に実在するさまざまなクラブが収録されており,プレイヤーはその中から好きなクラブに監督として就任して,自分のチームを勝利へと導いていく。なお残念ながら今回も,日本(Jリーグのクラブおよび日本代表の監督)ではプレイできない。
本作では,世界を代表する23万人以上もの有名サッカー選手が,ほぼ実名で登場する。すべての選手には,フォワード/ミッドフィルダー/ディフェンダー,右サイド/中央/左サイドなどといった実際のポジションはもちろん,スピード/スタミナ/ドリブル/パスなど36項目にもわたるパラメータが,20段階で設定されている。
登場するリーグは,イングランド,イタリア,スペインなど欧州を中心に,南米やアジアなど全50か国。トップリーグのクラブだけでなく,下部に所属のアマチュアクラブまでもが収録されていて,その数は2300以上にも及ぶ。
もちろん各クラブには,現実どおりの選手が在籍している。それだけではなく,各クラブに設定されたゲーム開始時の資金は,実際の経営状況を元に決められている。例えば,ロシアの富豪「アブラモビッチ」がオーナーのチェルシーには200億円近くの資金があるのに対し,オーナーの子会社が破産したイタリアの名門パルマではわずか約2億円なうえ,いきなり約100億円の借金を抱えている。
本作はパッと見れば分かるように,ほとんどの画面が数字と文字で埋め尽くされている。3Dで描かれた選手達による白熱の試合シーンや,ミニスカートの美人秘書などといった,ゲームを盛り上げるための派手な演出は皆無である。それでも世界中のサッカーファンから愛され続けているのは,上記のような桁外れのデータ量と緻密なシステムが生み出す,徹底したワールドサッカーの再現にある。
監督(プレイヤー)が携わる仕事は,戦術の采配や選手の獲得などのほかに,メディアからの取材に応じるといったものまで含まれる。ただ,監督の権限はあくまでも現実と同様で,クラブの運営をすべて任されるわけではない。各クラブにはオーナーがいて,例えば選手獲得のために利用できる資金の額は,オーナーが決定する。監督ができるのは,資金の額を増やしてもらえるように,オーナーを説得することだけだ。
監督であるプレイヤーは,あくまでも雇われの身。辞任して,ほかのクラブの監督になることも可能である。クラブが破産しようが,チームが一度も勝てなかろうが,クラブをクビになろうが,自ら廃業を宣言しない限りゲームが終わることはない。
このように,ゲームだからといって何か味付けをすることもなく,現実のサッカー界,そして監督という仕事を忠実に再現している点が,海外サッカーファンのPCゲーマーから支持され続けている理由だ。
■監督の仕事はどれもこれも意外と地味!?
最初にクラブを選択すれば,晴れてプレイヤーは監督となる。就任当初,オーナーから今シーズンに対する期待を告げられるので,プレイヤーはこれらの要求に応えながら,チームを優勝へと導いていくことになる |
就任したいクラブを選ぶと,所属リーグが開幕する約2月前からゲームがスタートする。基本的に日単位で進行するが,自クラブが関係するイベントが起きない限り自動的に時間が経過していく。
なお,本作も前作と同様,シミュレートするリーグと登場する選手の量を,ゲームを始める前に決定しなければならない。詳しくは前作のレビューを参考にしてほしいのだが,扱うデータが多いほどプレイ中のロード時間は長くなる。2300以上あるクラブのすべてをアクティブにすると,つまり2300クラブ分の処理が行われるわけだ。PCスペックにもよるが,下手するとロード画面で何十分も待たされるハメになるので,断腸の思いで1リーグまたは数リーグだけを選ぶのが現実的だ。
本作は基本的に,“試合に臨むための準備”と“試合”の二つにパート分けできる。まずは“試合に臨むための準備”のパートで,トレーニングと戦術の作成,選手の補強といった仕事を,試合までに行うことになる。
トレーニングと戦術は,画面左側のツリーメニューにあるそれぞれのメニューで作成する。
「トレーニング」では,体力,エアロビクス,ゴールキーピングなど9項目のメニューを,なし/軽め/普通/少し激しく/激しくの5段階で調節し,それらを組み合わせてトレーニングのスケジュールを作成できる。
「戦術」では,選手を自由に配置してフォーメーションを決め,メンタリティ,創造性,パス方法など20以上の指示を選手ごとに設定し,基本となる戦術を作っていく。
選手の補強は,「検索」メニューを利用して,獲得したい選手を探し出すところから始まる。検索メニューにある「選手」の項目では,世界中の選手が一覧で表示される。この一覧表は,ポジジョンや各パラメータの下限などを指定して,絞り込んでいける。条件を徐々に加えることで,より理想に近い選手を見つけられるだろう。ただしゲーム開始当初,この一覧表には,登場するすべての選手がリストアップされているわけではない。また,リストアップされていたとしても,異なるリーグに所属する選手のパラメータのいくつかは伏せられている場合がある。新たな選手の発見と調査のため,プレイヤーは世界各国にスカウトを派遣することになる。
希望の選手が見つかったら,相手クラブに獲得のオファーを出して移籍交渉を行っていく。各選手には,選手の能力やクラブでの活躍度などを元に算出した,「評価額」というパラメータがある。プレイヤーはこの額を参考に移籍金を決め,オファーを出すことになる。獲得したい選手が所属クラブの重要なプレイヤーであれば,評価額より高い移籍金を提示しなければならない。逆に,それほど必要でない選手を獲得する場合は,評価額より低い額で交渉を行わないと損をする。ただし,所属リーグが同じだったり,ライバルクラブだったりすると,オファーを拒否されることもある。
交渉がまとまると,次に選手と給料や契約年数などの話し合いを行う。この交渉でも,選手が現状に満足していたり,所属クラブのほうが成績が良かったりすると,いくら魅力的な契約内容であっても,同意には至らない。
このように,理想の選手を獲得するには,候補をできるだけ広げて,獲得の可能性が高い選手を見つけ出すといった作業を,何度も繰り返して行うことがポイントになる。マメな作業にはなるが,世界に散らばっている選手を段々と把握して,20万人以上も存在する選手の中から理想の選手を見つけ出していく感覚は,どことなく宝探しに似ていて意外と楽しいものだ。
ここまでが試合までの準備となるが,ゲーム画面に負けず劣らず,プレイ内容も地味である。しかも,トレーニングの結果はゲームが進行しないと分からないし,作成した戦術の良し悪しも試合をするまで分からない。選手の獲得だって手間がかかるわけで,初心者はきっと戸惑うことだろう。そのようなプレイヤーのために,本作からはチュートリアル(Windowsのヘルプのようなもの)がゲーム内に用意された。しかしこれも今一つ分かりにくいため,結局は慣れて覚えるしかないだろう。
ゲームを開始する前のセットアップ画面。自分のPCに合った設定が分からなければ,左下の推奨セットアップをクリックしてみるといいだろう | 左がトレーニングの画面,右が戦術の画面。プレイヤーはそれぞれ細かく指示を出す必要がある。トレーニングには6種類,戦術には31種類のテンプレートが用意されているので,慣れるまではこれらを利用するといいだろう |
検索にある「選手」の画面には,各国の選手が一覧で表示される。一覧は,評価額やポジション,年齢などによるソートも可能だ。絞り込みの条件はファイルに出力できるので,毎回指定する必要はない | チュートリアル機能は,一からプレイ方法を教えてくれるタイプのものではなく,困ったときに参照するヘルプのようなものになっている |
■新機能「チームトーク」が勝敗を左右する
一試合を最初から最後まで観戦するには時間がかる。試合を全部見る「フル」だけでなく,通常表示の「ノーマル」,見どころだけ表示される「キーのみ」,ハイライトなしの「コメントのみ」からモードを選択できる。また,表示形式も全画面/右分割/左分割の3種類が用意されている |
試合当日,スタメンとサブの選手を選択して日程を進行させると,試合画面に切り替わる。
「試合」は,ピッチを真上からのアングルで表示した2Dの画面で表示される。いたってシンプルだが,そのぶんプレイヤーは試合の流れを把握しやすいだろう。シュートの本数,パスの成功率,支配率,選手の活躍度といったデータ一覧は,画面を切り替えることで試合中も随時チェック可能だ。
試合はリアルタイムで進んでいくので,プレイヤーは試合画面とデータを参考に,戦術の修正や選手交代などを適時行うことになる。前作まではこれらの指示を,「詳細戦術変更」をクリックして試合を一時停止させ,画面を戦術画面に切り替えてから実行していた。本作では,これに加えて新機能「クイック戦術変更」が搭載され,左側に2Dの試合画面,右側に戦術画面を表示できるため,試合を止めることなく戦術を変更できるようになったのだ。
説明書では“ちょっとした戦術変更が可能”な機能として扱われているが,リアルタイムに戦術を変更できる後者を使うことで,より実際の試合に近い感覚で楽しめるようになるだろう。ただ,一度戦術を変更すると分割画面から通常の試合画面に戻ってしまうのと,クイック戦術変更では選手交代ができないのは残念である。
また本作からは,試合内容に大きな影響を与える「チームトーク」という新機能も加わっている。チームトークとは,試合中の選手のパフォーマンスを評価できるミーティングのことで,ハーフタイムと試合後に,「怒っている」「お前ならできる!」「非常に喜んでいる」などのコメントを,各選手に伝えられるのだ。選手はこのコメントを受けて,「士気」を変化させる。
士気とは各選手に設定されたパラメータの一つで,その選手のやる気を表している。とても悪い/悪い/普通/良い/かなり良い/最高の6段階で表示され,通常はバイオリズムのように,一定の期間で上下を繰り返しているようだ。士気が低い選手は,試合中に本来のパフォーマンスを発揮できなくなる。今作では,このチームトークを使って常に士気を良い状態に保てるのがありがたい。
筆者はレビューを執筆するにあたり,イングランド,プレミアリーグの「ニューカッスル ユナイテッド」で初めてプレイした。英国を代表する2人のストライカーが所属していて攻撃面は優秀だが,ゴールキーパー以外のディフェンスに不安があるのと,選手層の薄さに問題があり,リーグ中位がシーズンの目標となるようなクラブだ。筆者の場合,このシリーズの初プレイはだいたいさんざんな結果に終わることが多いのだが,今回は,チームトーク機能のおかげで士気をあまり低下させずに済んだためか,1月の時点で13勝2敗5分39得点13失点で首位に立った。戦術がたまたまハマッた可能性も否定できないが,士気の安定は,ゲームの難度をやや低くしたように感じられる。
試合が終わったら,ドリブルやシュートの数,ボールをインターセプトした回数など,各選手に集計されたデータを参考に,戦術が機能していたか,どの選手が活躍していたかなどを判断する。そして問題点を克服すべく,戦術の調整や選手の補強といった準備を再び行い,次の試合に臨む。このように,試合までの準備と試合中の指示を繰り返して,クラブを強化していくわけだ。
一連のゲームの流れを説明してきたが,最初のうちは感覚がつかめずなかなか勝てないし,ゲームを盛り上げるための演出もないため,すぐには本作の楽しさを実感できないだろう。しかし,試行錯誤と実践を繰り返し,最善の方法を見つけるというのは,シミュレーションゲームでは当然の作業だ。本作のように,細かく用意された要素に悩ませられた末,最高のクラブを作れたときは,感動もひとしおだろう。
試合に勝てるようになると,オーナーや選手から信頼されてるようになり,その結果,自由に扱える資金が増えたり,選手の獲得が有利に進められるようになる。このように,監督の地位が上がることでチームを強化できる可能性が広がる“成り上がり人生”的な感覚こそ,本作の醍醐味ともいえるだろう。
FM2006は非常に時間と手間のかかる作品だが,それを差し引いても,これらの感覚を楽しく感じられるような海外サッカーファンには,本作をオススメできるだろう。
最後になるが,残念ながら前作に続き本作でも,処理速度の遅さをプレイ中ずっと感じた。CPU:Athlon XP/2600+,メインメモリ:1.5GBのPCで,6か国12ディビジョン,データベース:小の設定で6か月プレイするのに,プレイ時間にして24時間かかった。加えて,「進む」や「戻る」などボタンのリアクションが悪く,すべてワンテンポ遅れて反応する。ゲームをより軽快に楽しみたいというのが,このシリーズの永遠の課題だろう。
チームトークではプレイヤーが,試合中の評価を各選手にコメントで伝える。適切のコメントを選ぶと士気は上がり,高いパフォーマンスを発揮する。ただし,明らかに間違ったコメントを選択すると士気は下がり選手は不満をあらわにする。なお,コメントをしない“なし”を選ぶと選手は不安がるので,チームトークが面倒ならば,アシスタントマネージャーに任せる設定にしておこう |