― レビュー ―
業務用ヘッドセットの名門によるゲーマー向けヘッドセット
.Audio 90
Text by 榎本 涼
2006年7月7日

 

.Audio 90
メーカー:Plantronics
問い合わせ先:プラントロニクス サービスセンター
TEL:0422-55-8812(受付は年末年始,祝祭日を除く平日9:00〜17:00)

 しばらくぶりになるヘッドセットレビュー,今回はPlantronics製の「.Audio 90」を採り上げたい。
 Plantronicsという会社名を聞いたことがないという人も少なくないだろうが,同社はコールセンターなどで使われる,業務用ヘッドセットの名門だ。最近では民生用にも進出し,携帯電話やIP電話用のヘッドセットなども展開している。家電量販店の店頭で,同社のコーポレートカラーでもあるオレンジを基調とした製品パッケージを見かけたことのある人も少なくないのではなかろうか。

 .Audio 90は,そんなPlantronics製の「高音質を求めるゲーマーや音楽リスナー向け」(製品パッケージの表記ママ)とされる,アナログ接続ヘッドセットだ。もう少し踏み込んで説明すると,「家電量販店のPC用ヘッドセットコーナーで購入できるPlantronics製アナログ接続ヘッドセットの最上位モデル」といったところになる。
 「業務用」「最上位」という言葉に少し退(ひ)いた人がいるかもしれないが,そこはコンシューマ向け。2006年7月現在の実勢価格は4200円前後で,いわゆるゲーマー向けブランドのヘッドセットの販売価格がまず1万円を下らないことを考えれば,かなり安価である。

 

 

可動部が“硬い”作りなのは気になるが
装着感は良好

 

 というわけで,.Audio 90をざっと眺めてみよう。相対的には低価格品ということになる同製品だが,安っぽさはなく,しっかりした作りだ。お世辞にも「高級感あふれる……」とはいえないが,かといって安っぽくもない。スピーカーのエンクロージャー部にある可動部だけは堅牢というわけではない気配なので,このあたりは,あまり乱暴に扱わないほうがよさそうだが,総じて,実用的な業務用の世界からやってきた製品らしい雰囲気である。

 

オープンエア型のエンクロージャーは,可動部を介してヘッドバンドと接続している。この部分は,手荒に扱わないほうがよさそうだ

 可動部の話が出たのでヘッドフォンから見ていくと,エンクロージャーは,音漏れが発生する代わりに,外の音を聞き取りやすいオープンエア型。音漏れはそれほど大きくないので,セミオープンエア型といったところだ。エンクロージャーが大きいので想像がつくかもしれないが,スピーカードライバー自体も40mmのフルレンジ※1と大きめなので,低域再生能力に期待を持てるが,この点は後ほど検証する。
 なお,イヤーパッドは柔らかな布製。ヘッドバンドには頭頂部と触れる部分に合皮が用いられており,全体的に装着感はいい。同時に,本体が非常に軽量なので,長時間使ってもあまり疲れないはずだ。

 

ブームマイクは,硬いだけでなく,上下左右の可動範囲も限られている

 「QuickAdjustマイク」と名付けられたブームマイク(=ヘッドセットから伸びる,可動型小型マイク)には,ブレスノイズ(=息継ぎ音)を防ぐためのスポンジ製ウィンドスクリーンが取り付けられているのだが,これが結構大きい。ウィンドスクリーンの上から掴んでみると分かるのだが,ノイズキャンセリング機能付きのマイク本体もかなり大型なので,全体として大きな印象になっているのだろう。
 大型のマイクには,ダイヤフラム※2が大きくなるため,集音力と周波数特性(とくに低域)に優れることが期待できるという長所と,どうしても目に付きやすくなってしまうという物理的な短所がある。実際に装着してみると,やはりマイクの位置によっては,ゲームプレイ時,視界に入る場合があった。

 もっとも,それ以上に気になったのは,ブームマイクの可動域が思いのほか狭く,ユーザーが自分の置きたい場所にマイクを固定できるとは限らない点だ。ブームの長さ調整を行う可動部も硬く,ブームマイクとして,柔軟に位置を設定できるとはいい難い。

 なお,硬いという意味では,ヘッドバンドの長さを調整するアタッチメントが硬く,片手で「スッ」と調節できない点も気になるところだ。一度位置が決まってしまえば,むしろカチっと固定されるのは悪くないのだが,使い勝手や装着感を調整するに当たって,この硬さはマイナスに作用すると感じた。

 

硬い部分を赤い丸で囲んでみた。とくにブームのほうは,「ここを引っ張っていいのか?」と思ってしまうほど硬い

 

 このほか仕様をチェックしてみると,ケーブル長は2.9mで,PC用としては必要十分な長さ。むしろ長すぎると感じる人もいるのではなかろうか。ケーブルの途中にはボリューム変更機能とマイクのオン/オフボタンを持つコントローラが用意されているのだが,ここもマイクのボタンは少々硬い印象だ。
 接続端子は入出力ともにPC用としては一般的なステレオミニピンで,リングの黒いほうがヘッドフォン入力,ピンクのほうがマイク入力。PCのオンボード端子や,ゲーマー向けの標準サウンドカードであるSound Blasterシリーズなら,基本的に端子を差すだけで利用できる。

 

※1 1個のスピーカードライバー(≒スピーカーユニット)で高中低すべての音域をカバーする方式のこと。ヘッドフォンやイヤフォンは,多くがフルレンジ方式を採用する

※2 マイクの中で最も重要な機構の一つ。正体は薄い振動板で,マイクというデバイスは,この振動板で音波(≒音声)を電気信号に変換する

 

 

ヘッドフォンは低域再生に優れ
ゲーム用途なら十分

 

 概要をつかんだところで,出力/入力品質を検証していきたい。.Audio 90を接続する先のサウンドカードには,2006年7月7日時点の最新ドライバ(2.07.0004)を適用した「Sound Blaster X-Fi Elite Pro」(以下X-Fi EP)を利用。X-Fi EPのブレイクアウトボックスに,ステレオミニ→ステレオ標準変換プラグを経由してアナログ接続した。

 順に見ていこう。まずヘッドフォンの特性だが,試聴印象としては,低域に迫力がある一方,中域は位相ズレし,高域にはやや物足りなさが感じられた。
 低域(≒低い音)再生に迫力があるのは,低域の周波数特性が優れているからだ。密閉していないぶんだけ,低域の周波数特性が悪くなるオープンエア型としては,特筆していいだろう。ただ,低域が強すぎるため,全体のバランスとして,どうしても高域(≒高い音)は弱く聞こえてしまう。
 なお,中域の位相ズレは,言ってしまえば,店頭価格1万円以下のヘッドフォンが抱える典型的な問題であり,別に.Audio 90に限った話ではない。ただ,定位(≒ステレオ感)が不明瞭になることで,ヘッドフォンで本来そうあるべき「頭の中央で音が鳴っているような感じ」が乏しくなり,不用意に音が広がってしまう。シュワシュワした感じの,耳障りな音になっており,.Audio 90ではこれが顕著だ。

 

 結果として.Audio 90のヘッドフォンは,「肝心要のゲーム,あるいは低域の迫力が重要な映画やテレビ番組といったコンテンツなら十分楽しめる」というレベルに落ち着いている。中高域の強いヘッドフォンの場合,銃器などのキンキンとした効果音で耳が痛くなることがあるが,.Audio 90であれば,そういったことがないのはいい。しかし,特性面のクセが強いこともあって,音楽鑑賞にはまったく不向きという明確な弱点もある。
 なお,X-Fi EPから,ヘッドフォンに特化したバーチャルサラウンドモードである「CMSS-3DHeadphone」を有効にすると,低域と高域の表現力が2段階ほど上がり,域の位相ズレもかなり改善し,ずいぶんと音質が向上した印象になった。Sound Blaster X-Fiシリーズのユーザーは,CMSS-3DHeadphoneを有効にすることで,より快適に利用できるようになるだろう。

 

 

老舗の実力? マイク入力は品質が高い

 

 続いては,スペック上,100Hz〜8kHzの周波数帯域をカバーすることになっている,マイクの入力品質テストだ。
 詳細なテスト方法や用語については,2005年9月12日の記事を参照してほしいが,手順を簡単に説明しておくと,マイク入力テストに当たっては,口の代わりに,スピーカーをマイクの正面前方5cmのところへ置き,スピーカーからモノラルの「ピンクノイズ」というノイズを出力。ブームマイクが拾った音をサウンドカードへ入力し,それをPCにインストールしたWaves Audio製のオーディオアナライザソフト「PAZ Psychoacoustic Analyzer」(以下PAZ)を用いてグラフ化している。
 さて,先にピンクノイズの波形をリファレンスとして下に示す。

 

上段は周波数特性,下段は位相特性をグラフ化したものだ。周波数特性は,オーディオレベル(≒音の大きさ)を周波数(≒音の高さ)ごとに並べたもの。左が低域,右が高域を示しており,オレンジの波形は「ピンクノイズが持つ音の大きさを,音の高さ単位で分解するとこんなグラフになる」ことを示している。位相特性のグラフは,説明すると難しくなるので,「青い扇状の部分にオレンジの波形が入っていれば,入力した音の不自然さはなく,ヘッドセットとして合格」と理解してほしい

 

 テスト結果は下に示した。驚くべきは,実際の測定結果でも,スペックどおり100Hz〜8kHzの範囲がしっかり入力されていることだ。厳しく見れば,入力されている上限は8kHzを若干下回っており,また音の山や谷が大きく,特定の周波数の音だけよく通ったり,あるいは通らなかったりする可能性はあるものの,コンシューマ向けのヘッドセットとしては十分な品質といえる。ノイズキャンセリング機能もまずまず効いているようで,ピンクノイズ以外の音(室内に存在するほかの音=室内のノイズ)が気になることもほとんどない。

 

波形の山と谷の大きさが目立つものの,100Hz〜8kHzの範囲で,総じてリファレンスと同じオーディオレベルを保っている点は要注目。リファレンスと比べて低域と高域が落ち込んでおり,とくに高域が目立つことを気にする人もいるだろうが,これは問題ではない。この帯域には(女声ソプラノを除けば)人間の声が存在しないので,むしろ一定以下の低域や一定以上の高域において入力のオーディオレベルが低い(≒感度が低い)と,よけいなノイズを入力しないで済むのだ

 

 低域をきちんと拾えているうえ,むやみやたらと高域を拾って,甲高いだけの音になってしまうような問題もなく,全体としては非常に扱いやすい部類に入るだろう。家庭よりはるかにフロアノイズ(=室内に,自然に存在するノイズ)の大きなオフィスで鍛えられた老舗の,ノウハウのたまものなのかもしれない。

 

 

入力は○,出力はゲームなら及第点
価格を考慮するとかなり○

 

 .Audio 90は,外観にこそ大きなインパクトはないが,マイクの入力品質が高く,仲間に自分の声を伝えるのに適しており,さらにゲームの効果音を迫力ある形で伝えてくれる。オーディオ用の製品と比べるとヘッドフォンの品質は低いため,ゆっくりと音楽を楽しむような用途には向いていないが,それを4000円台で購入できるヘッドセットに求めるのは酷だ。
 「なんでもかんでも詰め込んで,“全部入り”になってはいるものの,すべて中途半端」になってしまう製品は少なくない。そんななか,.Audio 90は,潔く用途を割り切ることにより,ゲーム用ヘッドセットとして,価格以上の価値がある製品に仕上がっているといえるだろう。

 

タイトル ヘッドセット
開発元 各社 発売元 各社
発売日 - 価格 製品による
 
動作環境 N/A


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/dotaudio_90/dotaudio_90.shtml