― レビュー ―
ハイエンドとミドルレンジのグラフィックスカードで見る,
CrossFire Xpress 3200チップセットの価値
A8R32-MVP Deluxe
Text by Jo_Kubota
2006年3月1日

 

開発コードネームRD580ことCrossFire Xpress 3200。コア上には「Radeon Xpress 300」とあるが,開発当初はそんな名前だった?

 ATI Technologies(以下ATI)は2006年3月1日にCrossFire Xpress 3200チップセットを発表した。
 CrossFire Xpress 3200がどういったチップセットなのかについて,詳細は別記事を参照してほしいが,簡単にいえば,既存のCrossFire対応チップセットであるRadeon Xpress 200 CrossFire Edition(以下Radeon Xpress 200 CFE)の上位版である。組み合わせるサウスブリッジに変化はなく,CrossFire接続時のPCI Expressレーン数が各16(CrossFire Xpress 3200)か各8(Radeon Xpress 200 CFE)かが,ほぼ唯一の違いとなる。

 

 では,PCI Expressのレーン数が上がることで,CrossFireのパフォーマンスはどれほど上がるのだろうか。ATIがかなり景気のいい話をしている一方,常識的に考えると,PCI Express x16のバス帯域をいっぱいに使って2枚のグラフィックスカードが相互にデータを転送するような状態が起こらない限り,劇的なパフォーマンス向上は期待できないようにも思えるが,実際はどうなのだろうか。今回は同製品を搭載するASUSTeK Computer製マザーボード「A8R32-MVP Deluxe」を入手したので,同製品を用い,この点を中心に掘り下げてみたいと思う。

 

A8R32-MVP Deluxe
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティ コーポレーション
news@unitycorp.co.jp

 A8R32-MVP Deluxeは,別記事でも指摘しているように,ULi製のULi M1575をサウスブリッジとして採用するマザーボードである。
 気になるスロット構成は,(当然ながら)デュアル16レーンで動作するPCI Express x16 ×2と,PCI Express x1 ×1,PCI×3。注目すべきは,ASUSTeK Computer製のRadeon Xpress 200 CFEマザーボード「A8R-MVP」や,他社製の同チップセット搭載製品とは異なり,両PCI Express x16間が2スロット分空いている点だ。
 本誌で再三お伝えしているとおり,Radeon X1900/X1800シリーズの発熱はかなりのものだ。このため,PCI Express x16スロット間が1スロット分しか空いていない,ほとんどのRadeon Xpress 200 CFEマザーボードでは,マスターカードとスレーブカードの間に空間がほとんどなくなってしまう。そして,そのまま,熱対策もせずに長時間高い負荷をかけ続けると,かなりの確率でシステムが熱暴走してしまったのだ。その点,A8R32-MVP Deluxeなら2スロット分空いているから,少なくとも(PCIスロットはつぶれるが)1スロット分の空間が確保される。これは,システム全体の冷却を考えると非常に重要な改善点だ。
 もっとも,この仕様のため,拡張性は犠牲になってしまっている。CrossFire利用時は,写真一番下のPCIスロットにしか,拡張カードは差せないと考えておいたほうがいい。

 

ULi M1575

 これを補うためか,オンボード機能が充実しているのも,A8R32-MVP Deluxeの特徴だ。まずサウスブリッジのULi M1575により,転送速度3Gbpsに対応したSerial ATA RAID 0/1/5/0+1をサポートし,別途Silicon Image製のSiI3132を搭載することで,さらに2ポートの転送速度3Gbps版Serial ATAポートを用意している。
 このほかデュアル1000BASE-T LAN,IEEE 1394a,アナログ7.1ch出力対応のHigh Definition Audio Codecと,必要なものはたいてい搭載する。PCIスロットに差すとしたら,高性能なゲーム向けサウンドカードくらいだろうか。

 

CrossFire Xpress 3200では,CPUに近いほうのPCI Express x16スロットがマスターカード用になった。ちなみに,従来製品ではシングルカード動作時にスレーブのほうのスロットへ差しておかねばならなかった「MVP Switch Card」は,必要なくなっている PCI Express x16接続のグラフィックスカードに別系統から電力を供給し,動作の安定を図る「EZ Plug」コネクタは,なぜかA8R32-MVP Deluxeで省略された。A8R-MVPでは搭載されていただけに,少々疑問が残る

 

電源周りには,富士通メディアデバイス製の機能性高分子コンデンサなど,一定水準を満たした国産コンデンサを配しており,3フェーズながら信頼性は高いと見ていいだろう。もちろん,それ以外の部分にも,日本ケミコンのKZGシリーズなどが置かれており,抜かりはない

 

 

ハイエンドとミドルレンジの2パターンで
Radeon Xpress 200 CFEと比較

 

 というわけで,テストに入っていこう。今回は,A8R32-MVP Deluxeを中心に,Radeon Xpress 200 CFE搭載製品である前出のA8R-MVPとの比較を行っていく。またCrossFire環境としては,Radeon X1900 CrossFire Edition+Radeon X1900 XTXというハイエンド構成のほか,Radeon X1600 XT×2という,CrossFire Editionを必要としない組み合わせも用意した。このほか,テスト環境は下のにまとめたとおりだ。A8N32-MVP Deluxeは,標準で自動オーバークロック設定を行うと思われる項目が有効になっているが,それらはすべて無効にしてある。

 

表 テスト環境

 

EAX1900CROSSFIRE/2DH/512M
メーカー:ASUSTeK Computer
実際に販売されているRadeon X1900 CrossFire Edition
問い合わせ先:ユニティ コーポレーション
news@unitycorp.co.jp
EAX1900XTX/2DHTV/512M
メーカー:ASUSTeK Computer
Radeon最上位のX1900 XTXを搭載
問い合わせ先:ユニティ コーポレーション
news@unitycorp.co.jp

 

PowerColor X1600XT
メーカー:Tul
入手しやすいRadeon X1600 XT搭載製品
問い合わせ先:アスク
info@ask-corp.co.jp
※CrossFire動作を行わせるには,Catalyst Control Centerから「CrossFire」にチェックを入れる必要がある。このとき,CrossFire用ケーブルが接続されていない旨の警告が出るが,気にせずOKを押す。そして,一度Windows XPを再起動すれば完了だ。再起動しないまま使おうとするとゲームタイトルによってはエラーが出るので要注意

 

A8R-MVP
メーカー:ASUSTeK Computer
ULi M1575を搭載し,RAID 0/1/0+1/5に対応したCrossFireマザーボード
問い合わせ先:ユニティ コーポレーション
news@unitycorp.co.jp

 なお,今回は製品名が長いものが多いため,グラフ内の表記は適宜略している。「Radeon」の表記を省略し,さらにCrossFire動作は「CF」という文字列で示したので注意してほしい。「X1900 CF」は「Radeon X1900のCrossFire動作」ということだ。逆に「X1900 XT」は,Radeon X1900 XTと動作クロックが同じであるRadeon X1900 CrossFire Edition搭載カードを「Radeon X1900 XTカード」としてシングルカード動作させたことを示している。マザーボードは,それぞれ搭載するチップセットで表記する。
 このほか,テストに用いたアプリケーションは本誌定番のものだが,例によって「3DMark06 Build 1.0.2」(以下3DMark06)についても,参考用にスコアを取得した。さらに,1920×1200ドットの解像度設定が用意されているアプリケーションでは,そのスコアも取得。この解像度は,24インチワイド液晶ディスプレイなどでよく採用されているものだ。また,今回は時間の都合上,Radeon X1600 XTにおいては一部テストを省略している。
 最後に,これはいつものとおりだが,以後本稿では,Catalyst Control Centerから垂直同期のみオフに設定した状態を「標準設定」,強制的に8倍(8x)のアンチエイリアシングと16倍(16x)の異方性フィルタリングを提供した状態を「8x AA&16x AF」と呼ぶ。

 

 

CrossFireケーブルを必要としない
Radeon X1600 XT CrossFireで大きな効果

 

 さて,例によって参考程度にグラフ1,1aで3DMark06の結果を示す。とくに考察は行わないので,こういう値が出たという理解をしておいてもらえればいい。

 

 

 

 というわけで,グラフ2,2aで3DMark05の総合スコアを見てみよう。グラフは数字のみで示しているのがRadeon X1900 CrossFire,「a」の文字付きはRadeon X1600 XT CrossFire動作のものである。
 結果を概観すると,Radeon X1900 CrossFireでは,標準設定時にRadeon Xpress 200 CFEが有利だが,高負荷な8x AA&16x AFでは,CrossFire Xpress 3200が逆転。一方,CrossFireケーブルを用いないRadeon X1600 XTのCrossFire動作では,描画負荷によらず,CrossFire Xpress 3200が優勢だ。

 

 

 

 続けてFeature Testだが,ここで注目したいのはVertex Shaderテストだ(グラフ5,5a)。とくにRadeon X1900のCrossFireでは,項目「Simple」において,非常に大きなスコアの向上が見て取れる。念のため,ディスプレイ解像度を変更してテストを行っても傾向は変わらなかったので,3DMark05のVertex Shaderテストでは,PCI Express x16の帯域を使い切るほどの莫大なデータが流れていると見ていいだろう。
 もちろん,この傾向が実際のゲームにおいてそのまま当てはまると断言はできないのだが,データ量が非常に多くなる場面では,CrossFire Xpress 3200が圧倒的に高いパフォーマンスを示す可能性はある。
 なお,Fill RateテストとPixel Shaderテスト(グラフ3,3a,4,4a)に関しては,別途リンクを用意しておくに留める。興味のある人は下のリンクからチェックしてみてほしい。Radeon X1600 XTのCrossFire動作では,総合スコアと同様,CrossFire Xpress 3200の優位性が見て取れるだろう。

 

 

 続いて,実際のゲームタイトルを用いたベンチマークに移ろう。まずは「Quake 4」だ。Quake 4では,「The Longest Day」というマップで7名によるデスマッチを行ったリプレイデータを利用し,Timedemoから平均フレームレートを計測している。
 結果はグラフ6,6aのとおり。グラフ6では両チップセット間に差がほとんどないのに対し,グラフ6aではCrossFire Xpress 3200が明らかな形でRadeon Xpress 200 CFEに差を付けている点に注目したい。

 

 Radeon X1900 CrossFireの場合,CPUがボトルネックになる傾向が強いというのは,以前お知らせしたとおり。そのような状況では,PCI Expressバスの帯域幅が上がっても,ほとんど効果はないということなのだろう。
 逆に,CrossFire接続ケーブルを利用せず,2枚のグラフィックスカード間のデータ転送をすべてPCI Expressバスを用いて行うRadeon X1600 XT CrossFireでは,レーン数の増加(=バス帯域幅の向上)が,そのままパフォーマンスの向上に結びついているようだ。

 

 

 

 次に「Battlefield 2」のスコアを見てみることにしよう。Battlefield 2では,「Dragon Valley」というマップで実際に行われたコンクエスト(16人×16人対戦)のリプレイをスタートから120秒間再生し,「Fraps 2.60」で平均フレームレートを計測している。
 Battlefield 2は,Quake 4よりもさらにCPUがボトルネックとなりやすいタイトルであるため,解像度や描画負荷の差では,スコアの差はほとんど出ない(グラフ7)。ただ,CrossFire Xpress 3200のスコアが,全体として明らかに低い点は見逃せないところ。BIOSかドライバのチューニング不足を指摘できよう。

 

 

 最後に「TrackMania Sunrise」のスコアを見てみることにする。TrackMania Sunriseにおいては,1周53秒程度の「Paradise Island」というマップのリプレイを3回連続で実行し,その平均フレームレートをBattlefield 2と同様,Fraps 2.60で測定した。
 CrossFire動作に当たっては,Catalys A.I.と呼ばれる機能によって,“どんなタイトルであっても,自動的に最適なレンダリングモードを選択して動作する”はずなのだが,なぜかそれがTrackMania Sunriseではうまく働かないということを,本誌では何度も指摘してきた。
 そして今回も,それは変わらず。なかなか理解に苦しむスコアだ。Radeon Xpress 200 CFEで見られる,標準設定時の落ち込みがCrossFire Xpress 3200ではなくなったため,ついに最適化を果たしたように見える。その一方,8x AA&16x AF設定時のスコアは1280×1024ドットと1600×1200ドットでほとんど変わらないなど,やはりまだ,全幅の信頼はできそうにない。

 

 

 

チューニング必須だが
ミドルレンジ向けとして可能性はある

 

 最近のATI製品らしく「今後のチューニングが必須」という結果にはなったが,Radeon X1600 XTで見せたスコアの向上は,注目に値するだろう。
 ハイエンド向けの「世界一のゲーム用プラットフォーム」を謳う製品が,ハイエンドよりもミドルレンジでより効果があるという点については,それでいいのかという疑問も残る。ただ,以前から4Gamerでは指摘しているように,ウルトラハイエンドクラスのデュアルグラフィックスカード・ソリューションは,少なくともCPUパフォーマンスが劇的に向上していない2006年3月時点において,ゲームの体感速度を向上させるという意味で,それほど魅力的な選択肢ではない。

 

 そう考えると,ミドルクラスのグラフィックスカードによる,極めて現実的なデュアルカード動作時に「意味がある」CrossFire Xpress 3200には,それなりの価値があるといえる。搭載マザーボードの価格が安価になってくれば,ゲーマーとしても注目すべき存在になってくるのではなかろうか。

タイトル AMD 580X/480X CrossFire
開発元 AMD(旧ATI Technologies) 発売元 AMD(旧ATI Technologies)
発売日 2006/03/01 価格 製品による
 
動作環境 N/A

(C)2006 Advanced Micro Devices Inc.

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/crossfire_xpress/crossfire_xpress.shtml