― レビュー ―
CrossFireテストで見えてくるRadeon X1900の価値
Radeon X1900 XTX&CrossFire Edition
リファレンスカード(後編)
Text by 宮崎真一
2006年1月30日

 

 Radeon X1900 XTX,Radeon X1900 CrossFire Edition(以下Radeon X1900 CFE)の両リファレンスカードに関し,前編ではプレビューとして,サンプルドライバを用い,主に同じATI Technologies(以下ATI)製グラフィックスチップ同士で性能比較を行った。製品版に付属する正式版グラフィックスドライバが手に入った後編では,プレビューではなく製品レビューとして,CrossFire動作におけるスコアの伸びや,NVIDIAの最上位モデルとの比較を行ってみたいと思う。

 

 CrossFireについて4Gamerでは解説を行っているほか,Radeon X850 CrossFire EditionRadeon X1800 CrossFire Editionの2回に分けてベンチマークテストを行っているので,詳しくはそれらを参照してほしいが,一言でいえば,2枚のRadeonを併用して性能向上を図る,「ATI版SLI」といった感じの機能だ。NVIDIA SLI(以下SLI)とは異なり,2枚のカードが同一のグラフィックスチップを搭載している必要はなく,コア世代が「R580」で同じであれば,今回のようにRadeon X1900 CFEとRadeon X1900 XTXという組み合わせでも,CrossFire構成が可能である。

 

CrossFireの接続イメージ。基本的にはRadeon X850 CrossFireから変わっていない

 前編でお知らせしたとおり,Radeon X1900 CFEの動作クロックはRadeon X1900 XTと同じ。Radeon X1900 CFEは言ってしまえば「CrossFireのマスターカードになれるRadeon X1900 XT」だ。Radeon X1900 XTXと組み合わせる場合,マスターカードのほうが動作クロックは低いことになる。
 これについてATIは「スレーブカードがRadeon X1900 XTXの場合,スレーブカードがRadeon X1900 XTのときよりも,スコアは1〜2%上昇する」という見解を示している。ATIの言い分としては,CrossFire動作する時点で,シングルグラフィックスカードよりも大幅にパフォーマンスが上昇するから,わざわざマスターカードまでよりコストが高いRadeon X1900 XTXベースにする必要はない,というわけだ。

 

 ただ,その理屈が通ったところで,「Radeon X1900 CFEをRadeon X1900 XTXベースにするほうが,パフォーマンスは上だったはず」という意見には反論できない。絶対的なパフォーマンスという意味で,Radeon X1900 CFEがRadeon X1900 XTベースであることには,疑問がどうしても残ってしまう。
 どちらかといえば,これはパフォーマンス云々というよりも,コストの問題かもしれない。Radeon X850,あるいはRadeon X1800のCrossFire Editionを在庫しなければならなかったカードメーカーが,CrossFire Editionの価格引き下げを求めた結果ではないかと,推測するのが妥当なように思われる。

 

 

テスト環境は基本的に前回同様
SLIテストはnForce4 SLIマザーボードで

 

 前振りが少々長くなったが,早速テストに入っていこう。テスト環境はのとおりで,冒頭で述べたとおり,2006年1月30日時点で各社の製品版に付属しているものと同じRadeon X1900用ドライバを新たに用いて,すべて計測し直していることと,比較用にGeForce 7800 GTX 512のリファレンスカードを用意したことが,主な変更点だ。
 もちろん,Radeon Xpress 200 CrossFire Edition(以下Radeon Xpress 200 CFE)マザーボード上ではSLI動作を行えないので,今回は本誌定番のnForce4 SLIマザーボード「A8N-SLI Deluxe」を用意している。とはいえ,なるべく動作環境は揃える必要があるので,シングルグラフィックスカード構成時は,Radeon/GeForceを問わず,前編と同じRadeon Xpress 200 CFEマザーボード上でテストすることにした。また,前編でその役割は十分に果たしたオーバークロック版のRadeon X1800 XT搭載グラフィックスカードは,今回テスト環境から省いている。

 

 

 以後グラフ内では,CrossFire動作を「CF」,SLI動作を「SLI」と表記する。デュアルグラフィックスカード時のスコアはそれらを見てほしい。なお,テストに利用したアプリケーションやテスト方法は前編とまったく同じであるため,今回は説明しない。

 

 

CrossFireでパフォーマンスは伸びるが
劇的ではない

 

「3DMark06 Build 1.0.2」のスコアについては前回と同じ理由から,参考程度に留めておく(グラフ1〜2)。ポテンシャルの評価自体は3DMark05 Build 1.2.0(以下3DMark05)を利用する。

 

 

 グラフ3,4が3DMark05の総合スコアだ。各社の最適化合戦となっている同ベンチマークにおいて,RadeonとGeForceの直接比較にあまり意味はない。よって,基本的にはRadeonシリーズ間のみで比較していくが,今回のテスト環境において,1024×768ドットの標準設定時に10000を超えるスコアを見せたRadeon X1900 XTが,CrossFire構成では約12000と,20%弱というスコアの伸びを見せた。
 Radeon X1900のCrossFireだと高解像度でスコアの落ち方が少ないことや,8x AA&16x AFを掛けた状態では,Radeon X1900とRadeon X1800でCrossFire構成時のスコアの差が顕著な点にも注目したい。こういった,描画負荷(=グラフィックスチップへの負荷)が非常に高くなる状況では,Radeon X1900 XTのCrossFireが持つ,高いポテンシャルが発揮できている。

 

 

 グラフ5〜7が,3DMark05のFeature Testの結果である。Radeon X1900シリーズは48基ものピクセルシェーダ(Pixel Shader)ユニットを搭載するのが大きな特徴だが,Radeon X1900のCrossFire動作では,それがスコアとなって見事に表れている。807.9fpsというのは,Radeon X1800 CrossFireが持つスコアの,1.7倍以上だ。
 同時に,このスコアはシングルグラフィックスカード時のほぼ2倍の値。スペックどおりの結果が出ているともいえる。

 

 

 続いて,前編同様,ゲームアプリケーションベンチマークに移っていこう。まずグラフ8,9が「Quake 4」の結果となる。標準設定の1024×768ドット時は,GeForce 7800 GTX 512がシングルグラフィックスカード時とSLI構成時でスコアがまったく同じであるなど,CPUがボトルネックとなってしまっている可能性が極めて高いため,それ以外で見ていくことにするが,シングルグラフィックスカード動作でGeForce 7800 GTX 512に大きく遅れを取るRadeon X1900が,CrossFireで逆転するあたりは非常に興味深い。また,以前の検証で,GeForce 7800 GTXに(とくに高負荷時で)及ばなかったRadeon X1800のCrossFireが,互角の勝負に持ち込んでいる点も注目すべきだろう。CrossFireに対するドライバの最適化は順調に進んでいるようだ。

 

 

 「Battlefield 2」は,シングルカードでもCPUがボトルネックとなってスコアが頭打ちになる傾向が高い。よって,CrossFireやSLIによるスコアアップはあまり見込めないが,結果はそのとおりとなった(グラフ10〜11)。高解像度かつ高レベルのフィルタリングを適用する状態以外では,Athlon 64 4000+と組み合わせる限りにおいて,CrossFireにもSLIにも,価格分のメリットはほとんどない,というわけである。
 とはいえ,1600×1200ドットの8x AA&16x AFでも,スコアがまったくといっていいほど落ちないRadeon X1900 CrossFireは,評価していい。

 

 

 最後に,「TrackMania Sunrise」のスコアをグラフ13,14にまとめた。
 CrossFire動作に当たっては,Catalyst A.I.という機能が「ゲームタイトルに合わせて最適なレンダリングモードを自動的に選択し,最適なパフォーマンスを提供する」のがウリ文句だ。そして,TrackMania Sunriseではそれがうまく働いていないことを,本誌では何度か指摘しているが,この問題は未だ解決していないようである。
 前述したように,Quake 4のスコアにおいてはドライバレベルの最適化が進んでいるCatalystだが,ドライバのバージョンが上がるごとに細かく最適化が進むのは,それこそ3DMarkシリーズやQuakeシリーズ,「Half-Life 2」などといった「定番ベンチマークタイトル」が中心。TrackMania Sunriseのような「それ以外」では,まだまだといわざるを得ない。今後は,こういった「それ以外」のタイトルにどれだけ対応できるかが,ゲーマーからより広範な支持を得られるかどうかのカギとなるだろう。

 

 ただ,それ以上に指摘しなければならないのは,グラフ12のスコアに――計測しておいてなんだが――意味がほとんどないということである。TrackMania Sunriseのような“軽い”ゲームを,ハイエンドクラスのグラフィックスカードを用いながら,1024×768ドットの標準設定でプレイすることなど,現実的にはまずない。せっかくハイエンドクラスのグラフィックスカードを用いるなら,描画設定はリッチにするはずで,その意味では,より現実的なゲーム環境に近いグラフ13を見るべきだ。そして,そうなると,Radeon X1900 CrossFireのスコアが,わずかだが,GeForce 7800 GTX 512 SLIより高いことが見て取れる。

 

 

 

■システム全体では高負荷時に457W消費

 

 ATIはRadeon X1900のCrossFire動作にあたって,定格580W以上の電源ユニットが必要であると明言している。それを裏付ける測定結果がグラフ14である。この値はあくまでもシステム全体の消費電力だが,それでも,Radeon X1900 CrossFireの457Wというのは衝撃的。消費電力の大きさを問題視したGeForce 7800 GTX 512のSLI動作時と比べて,測定誤差を差し引いても,確実に50W以上は電力食いである。

 

 消費電力が大きい以上,グラフィックスチップの温度が高いことも容易に想像がつく。ForceWareではSLI構成時に両グラフィックスチップの温度をそれぞれ計測できることを踏まえて,グラフ15にグラフィックスチップの温度測定結果をまとめたが,Radeon X1900 CFEは高負荷時に82℃と,非常に熱い。室温25℃の環境で,バラック(PCケースに組み込んでいない状態)のテストであるため,これがそのままPCケースへ組み込んだときのコア温度を示すものではないが,熱対策は相当真剣に取り組まねばならないだろう。
 ただし,A8N-SLI DeluxeはPCI Express x16スロット間が2スロット分空いているのに対し,A8R-MVPでは1本分。この点,若干ながらRadeonのほうが不利になると思われるので,この点には留意しておきたい。

 

 

 

プラットフォームとしては
nForce4 SLIのほうが優秀か

 

 Pentiumシリーズを利用するとなると話は変わってくるが,Athlon 64を利用しつつ,デュアルグラフィックスカード構成を採るとなると,2006年1月30日時点では,Radeon Xpress 200 CrossFire Edition,もしくはnForce4 SLIマザーボードを利用するほかない。では,両チップセットに,パフォーマンス面での差はあるだろうか。同じASUSTeK Computer製マザーボードで,シングルカード4枚のスコアを比較してみることにしよう。
 テスト方法は前編と同じで,ここでは3DMark05の総合スコア(グラフ16)とQuake 4のスコア(グラフ17)を用いた。

 

NVIDIAは,2005年秋の時点(≒Radeon X850 CrossFire登場時点)で,nForce4 SLIチップセットのほうが,Radeon Xpress 200 CFEよりも優れていると公言していた

 まずグラフ16で見てみると,全体的にnForce4 SLI(A8N-SLI Deluxe)を用いたほうが,パフォーマンスは高く出ている。GeForce 7800シリーズでは顕著で,高解像度では顕著で,Radeon Xpress 200 CFE(A8R-MVP)に差したときと比べて,かなり大きな差が生じているのが分かる。
 グラフ17では,3DMark05ほどではなくなるものの,やはりA8N-SLI Deluxeのほうが値は高めに出ている。中でも描画負荷が高まる1280×1024ドット,1600×1200ドットでは,GeForce 7800 GTXのテスト時に,10fpsという大きな差が生まれているのは見逃せないところだ。
 いくら同じメーカーの製品といっても,設計方法などは異なるはずで,必ずしもチップセット同士の比較にはなっていない今回のテスト。だがそれでも,nForce4 SLIのほうに,パフォーマンス面で分があることは確かなようである。

 

 

 

CrossFireはまず不要だが,
1枚のコストパフォーマンスは非常に高い

 

 高負荷時のパフォーマンスを中心に,Radeon X1900のCrossFireにはそれなりの魅力がある。ただ,予想実売価格で7万円近いRadeon X1900 CFEを,Radeon X1900 XT/XTXに加えてもう1枚買うだけの価値があるかというと,これは微妙だ。GeForce 7800 GTX 512のときにも指摘しているように,現時点ではウルトラハイエンドクラスのデュアルグラフィックスカード構成を組もうとすると,CPUがボトルネックとなってしまう。CrossFireを構築するとスコアが下がるタイトルすらある状態だ。
 もちろん,有り余る予算があるなら止めはしないし,オーバークロックして極限のベンチマークスコアを得たいのであれば,それはそれでいいだろう。だが,ゲーマーの視点から見たときに,Radeon X1900のCrossFireがいま必要かと言われると,それは大いに疑問である。

 

Radeon X1900 XTのグラフィックスチップ。ダイサイズは実測値で18.5×19mmだった

 一方で,Radeon X1900シリーズは,ハイエンドでありながら,搭載カードの実勢価格はいきなり下がった。発売からわずか1週間の2006年1月30日現在で,最安値ならRadeon X1900 XTXが7万円台後半,Radeon X1900 XTなら6万円台中盤になっているのだ。GeForce 7800 GTX 512の入手が困難で,入手できたとしても価格が軽く9万円を超えることを考えれば,1枚差しで用いるゲーム用グラフィックスカードとして,Radeon X1900シリーズ搭載製品のコストパフォーマンスはすこぶる良好。GeForceシリーズの次世代最上位と言われる,開発コードネーム「G71」の足音が聞こえてきてはいるが,価格を考えると,十分にハイエンドなゲーム用カードとして,Radeon X1900シリーズは明らかに「アリ」といえる。
 ……消費電力と発熱には,注意が必要だが。

タイトル ATI Radeon X1900
開発元 AMD(旧ATI Technologies) 発売元 AMD(旧ATI Technologies)
発売日 2006/01/24 価格 製品による
 
動作環境 N/A

(C)2006 Advanced Micro Devices Inc.