ヒストリカルキャンペーンの展開は“2001”以前に復帰?
ヒストリカルキャンペーンと「レッドサンブラッククロス」キャンペーンを備えたWWII(?)ストラテジー「アドバンスド大戦略5」。タイトル画像はニューヨーク沖(?)を行くドイツ戦艦だ |
第二次世界大戦のヨーロッパ戦線をテーマとした国産ストラテジーの定番といえば,アドバンスド大戦略シリーズの名を挙げないわけにはいかない。適度な難度,ユニットが経験値を溜めて新装備に進化する独特のシステム,それを通じて披露される登場ユニットへのマニアックなこだわりが,ファンの間でも物議を醸す本シリーズは,ヘックス/ターン制ストラテジーとして,極めて高い完成度を誇る作品群であることは論を待たない。
シリーズ歴代作品とも,ヨーロッパ全域+北アフリカを舞台に,1939年のポーランド戦から1945年のベルリン市街戦まで,約7年に及ぶ第三帝国の戦いをステージクリア形式でプレイしていくキャンペーンストラテジーだ。プレイヤーは第三帝国による欧州征服の達成に向けて,各ステージを戦い抜く。
なお,ゲームの概略についてはまず,2003年8月22日に掲載した「アドバンスド大戦略IV」のレビュー記事を参照してほしい。本稿では前作からの変更点と,今作ならではの特徴を中心に紹介する。
“5”でも,ゲームの大枠は継承されている。シナリオ展開として自由度を最大限重視して,第二次世界大戦がポーランドから始まることすら流動的だった前作“IV”とはかなり異なり,プレイヤーはそれなりに第三帝国らしいステージの数々を,選択しつつ順にこなしていく。ただし,後述するように単純なヒストリカル展開に復帰したわけではないのだが。
おおむね史実に沿ったヨーロッパキャンペーンは,1939年のポーランド侵攻作戦(ファル・ヴァイス。白の場合)から始まる。シナリオには分岐もあり,進め方によって行けないステージも出てくるので,すべての展開/ステージを楽しむには,ある程度の繰り返しプレイが必須だろう。
シリーズ旧来作品でもヒストリカルキャンペーンをクリアした後には,ボーナスステージとして架空戦シナリオが用意されていた。そこを本作はさらに一歩先に進めた。元ボードゲームデザイナーにして,ハードな仮想戦記小説「レッドサンブラッククロス」で知られる佐藤大輔氏を監修に迎え,作品世界をゲームで再現,そこが大きなウリとなっている。
1948年,北米で戦うレッドサンブラッククロスモード
仮想戦記「レッドサンブラッククロス」の世界観をもとに構成された,ミニキャンペーン3本が収録されている |
ご存じの読者も多いと思うが,「レッドサンブラッククロス」は1985年に発売された同名ボードゲームの設定を背景に置きつつ,新たに書き起こされた小説である。第二次世界大戦に勝利したドイツと,(イギリスと同盟を組み,対米戦争を起こさなかった)日本が,アメリカを東西から引き裂く形で1948年に衝突するという,いわば“やり直し第二次世界大戦”ものの仮想戦記だ。マニアックな兵器設定と人物造型,複雑な政治情勢設定などの魅力から,ここ数年続きが書かれていないにもかかわらず,根強いファンを持っている。
ゲームスタート時,プレイヤーはヨーロッパキャンペーンとレッドサンブラッククロスキャンペーンのどちらでも選択でき,例えばヨーロッパキャンペーンをクリアした後,自分で育てたユニットをレッドサンブラッククロスキャンペーンで使うこともできる。いや,実を言うと逆も可能なのだが,その場合兵器の設定年代の問題で,シッチャカメッチャカな展開になること必定なため,あまりお勧めはできない。
「レッドサンブラッククロス」キャンペーンの開始年代は1948年。小説の展開に合わせ,北アメリカにおけるドイツ軍の対日英米統合作戦計画(Fall Gold)における,東方軍集団(ノヴァスコシア制圧),中央軍集団(合衆国侵攻),西方軍集団(オタワ攻略)という3本のショートキャンペーンから成っている。設定が設定だけにドイツ軍は非常に強力だ。対する日英米軍は一部の兵器を除いて,能力的にパッとしない。
小説の設定では,シーパワーは日英側にあり,ドイツは長期的な兵站不安を抱えて戦わざるを得ないのだが,この作品が扱うのは序盤のドイツ軍攻勢期だけに,そうした懸念は予算面を除けば少ない。パンターII中戦車やらTa152C-1戦闘機やらといった,いかにもドイツが作りそうな設定の架空/未成兵器を存分に活用し,国防軍参謀本部に与えられた北米という「新しい砂場」を,存分に暴れ回れる。
日英軍には能力的に凡庸な兵器が多いなかで,要注意なのがこれらジェット戦闘機。Me262といえど返り討ちに合う可能性が高い。独軍が生産可能なTa152C-1では日英の戦闘機に対して劣勢なうえ,作戦中にはユニットの転換ができない。Me262が撃墜されると,かなりショックである | ドイツ北米総軍を苦しめる戦場の地形。川が多いうえ,両軍とも地形攻撃を多用するため,重量級ユニットの移動はかなり制約を受ける |
進化するのはユニットばかりではない
アドバンスド大戦略シリーズといえばユニットの進化ルールである。経験を積んだユニットは次のレベルのユニットに進化させたり,派生型に交換したりできる。あえてレベルが下のユニットに戻すことも可能 |
シリーズを重ねるごとに新機軸を取り入れ,システムを進化させてきたアドバンスド大戦略シリーズだが,本作でもいくつか新しい試みがなされている。なかでも重要なのが,スタックのルールと,訓練および練度である。
スタックとはボードゲーム用語でコマを重ねること。従来作ではとにかく1ヘックスに1ユニットだったが,本作では航空ユニットと地上ユニットを同一ヘックスに置けるようになった。これにより,航空ユニット,地上ユニットと同一ヘックスから2回攻撃できるようになったばかりでなく,地上ユニットが敵航空機ユニットの攻撃を受けるようなことがあれば,同一ヘックスの味方航空ユニットが自動的に防御射撃をするようになった。これはいわば地上部隊の直掩任務であり,第二次世界大戦以降の立体作戦を再現するには有益なルールである。
そして,本作でことさら重要度を増したのが練度のルールだ。本作ではシナリオ攻略に入る前,戦略ステージで練度の低いユニットを訓練できる。“購入”したばかりのユニットは練度も低く,攻撃しても思うように戦果が挙がらないことが多い。そのシナリオで使わない低練度のユニットがあれば,訓練に回すことで戦闘力をアップできる。訓練 → 転換 → 訓練を繰り返していけば,出番が少ない艦艇ユニットの成長を早めることも可能だ。
シナリオに同盟軍が登場する場合,指揮する軍を変更できるのもポイントだ。同じシナリオでも違った局面を見られるため,新鮮な気持ちで楽しめる。小説「レッドサンブラッククロス」の外伝でも,ドイツに協力させられているヴィシーフランス軍の戦意の低さが,作戦の不安材料となる描写が出てきたが,たまには精強なドイツ軍のみならず,無茶を押しつけられる側に立ってみるのも一興だ。
このほか,軍団編成や侵攻予約,接続拠点など,前作にあったやや複雑なルールのいくつかはオミットされており,概してプレイしやすくなっている。
ユニットの練度と併せて語るべき問題かもしれないが,本作が,厳密にいうとヒストリカルキャンペーンと仮想戦キャンペーンをそれぞれに楽しめる作品ではないことには,注意しておきたい。実はヨーロッパキャンペーンの段階から,「レッドサンブラッククロス」の世界を再現すべく,バランス調整が行われている。何がどうなっているとヒストリカルなのかという議論はさておくとしても,例えば独ソ戦におけるソ連軍の練度は低めに設定されており,シリーズ歴代作品に比べて難度も低い。これは,小説「レッドサンブラッククロス」の中でソ連軍が敗北し,指導者たるスターリンも内紛で落命したという展開を,なぞるのが標準のバランスとなっているためである。
同様に戦車の進化系統にしても,ヨーロッパキャンペーンの段階ですでに「レッドサンブラッククロス」に合わせたアレンジが加わっている。そうした意味で,この作品はとにかく丸ごと「レッドサンブラッククロス」世界を扱い,仮想現実の中で仮想戦記を再現するという,少々込み入った作りになっているのだ。
このように,シリーズ歴代作品のファンからしてみると,いささか評価が分かれそうなアプローチを採った「アドバンスド大戦略5」だが,ストラテジーゲームとしての仕上がりは上々だ。シナリオ分岐型ストラテジーを,戦記小説のように楽しませる手法に興味を抱いた人には,手にとって損のない1本である。