アドバンスド大戦略IV

Text by 大路政志
22nd Aug. 2003

"アドバンスド大戦略シリーズ"最新作,ついにリリース!

 2003年8月21日に発売された「アドバンスド大戦略IV」は,第二次世界大戦におけるヨーロッパ戦線をドイツ軍視点で戦うターン制ストラテジー,"アドバンスド大戦略シリーズ"の最新作。
 1991年にメガドライブ版として発売されたされたシリーズ1作めの「アドバンスド大戦略」からして,コンシューマ用ストラテジーとは思えぬほどの完成度と魅力を秘めていたが,熱烈なファン達の声と制作側の情熱によって,7年後にPCゲーム「アドバンスド大戦略98 Storm Over Europe」として蘇り,さらに多くのゲーマー/軍事マニアを唸らせた。
 その後,1999年には「アドバンスド大戦略II Zwei」,2000年にはドリームキャスト版「アドバンスド大戦略」,2001年には「アドバンスド大戦略2001」,2002年には「アドバンスド大戦略2001 パワーアップキット」が発売され,繊細なシステム/データ調整や演出面の強化などを繰り返しつつ,「隠れた名作」としての地位を守り続けてきたのである。

 忌憚のない意見をいわせてもらえば,本作「アドバンスド大戦略IV」が,極めて多くのプレイヤーに遊ばれ,「隠れた名作」ではなく「名作」として一般に認知されることは,ゲームの性質上難しいだろう。
 しかし,「隠れた名作」という称号に込められた意味を,魔力を,「アドバンスド大戦略IV」をプレイしてぜひ味わってもらいたいものである
 本作は,"第二次世界大戦" "ドイツ軍" "ターン制ストラテジー"というキーワードに偏見や苦手意識を持っていないゲーマーに,十分にオススメできる作品。本作の備えるハードルの高さを少しでも和らげるため,あまりコアなレビューに仕上げないよう心がけたので,もし興味がある人は,以下の本編原稿に目を通してみてほしい。

戦略画面/戦術画面の融合が,より深みのある「戦争」を再現する

軍団編成は,戦闘を有利に進めるための最重要作業。指揮官の特性,配置する地域,運用可能な兵器の種類とその総数などを考慮して,無駄のない軍団を作り上げていくのだ

 従来のシリーズ作品と「アドバンスド大戦略IV」の最も大きな違いは,なんといっても戦略画面が採用された点である
 従来作では,基本的には戦術パートの繰り返しによってシナリオが進展していき,歴史上重要なシナリオでの勝敗や,戦績などによってストーリーが分岐した。それに対し本作では,ヨーロッパのマップに拠点や進行ルートが表示された戦略画面上で,隣接地域への自由な侵攻が可能になっている
 史実に忠実にプレイしたい人は,侵攻ルートレベルでの再現性を楽しめばいいし,歴史のifを満喫したい人,あるいは難度の問題から手薄な拠点から攻略したい人は,自由な侵攻ルートを構築していけばいい。この戦略画面が採用された点のみに注目しても,本作の戦略性の高さ,侵攻の自由度の高さが理解できるだろう。

 戦略画面には,そのほかにも"戦術を最適化する準備/方策"としての戦略要素がぎっしりと詰まっている。その代表格は,将軍を任命しての軍団編成である
 将軍の特性や侵攻/防衛地域の地形,敵軍の戦力などを考慮しながら,陸・海・空の各属性の部隊を編成/編入していく作業は,戦術パートを有利に戦うための最重要戦略要素ともいえる。軍団は最大96軍団,1軍団の最大部隊保有数は128部隊となっているが,将軍(指揮官)の人数や維持費の問題から,当面の間は好き勝手に軍団を乱立することができない。
 戦略上重要と思える拠点を見いだしたり,任務に適した軍団を編成することは,史実やストラテジーに明るくないプレイヤーにはやや難しいかもしれないが,ゲーム開始時に難度を下げる(欧州全土の50%制圧で勝利,初期軍事費は通常の5倍)ことも可能なので,まずは低難度でプレイして感覚をつかんでみよう。戦略マップを「見る」目さえ養うことができれば,戦略によって勝利をたぐり寄せることの醍醐味を,存分に味わうことができるはずだ。
 ただ,この軍団編成について「面倒だ」という意見が多いのも事実である。しかしこれまでのシステムがむしろお手軽すぎて物足りないと思っていた筆者にとっては,これくらい"面倒"なくらいのほうが,好みである。

史実で有名な人物が多数登場するのも,本作の大きな魅力の一つ。ロンメルのように,優秀だがゲーム序盤は階級が低い指揮官は,多くの戦闘に参加させて階級を上げていき,軍団編成の自由度を高めていこう

登場兵器は2000種類以上! 工場の拡張と新兵器の開発で,ドイツの科学力を発揮しよう!

工場への投資は自軍戦力を拡大するためには欠かせない。主力兵器を生産している工場には惜しみなく資金を投入し,生産力を高めておきたい

 戦略画面ではそのほかにも,自国工場の規模拡張,兵器生産,新兵器の生産ライン投入などの指示を出し,兵力を増強することができる。特定の拠点にある工場を保守・確保することは,強大な連合軍と渡り合うための生命線。有力な工場には惜しまず資金を投入して規模を拡張し,生産性を高めておきたい。また,強力な新兵器や主力となる兵器には,多くの生産ラインを割り当てるようにして,軍備を整えていこう。
 新兵器の開発は,条件を満たしているターン(一月)ごとに行える。新兵器は戦況を好転させるための効果的なカンフル剤なので,できるだけ多くの開発費を投資するのが無難。そうしていけば,史実よりも早い時期に高性能兵器が生産可能になるし,史実では実戦投入されなかった珍しい兵器を開発することもできる
 なお,新兵器開発画面では,各兵器の史実上の開発日時がチェックできるので,史実の再現性を重視したいプレイヤーも,雰囲気を損なうことなくプレイできるはずだ。もっとも,歴史の闇に葬られた兵器達の勇姿を見るために,一度くらいはハメを外してもいいと思うのだが……。

 以上のように,さまざまな戦略要素をプレイヤーが操作し,「史実」や「戦争」をリアルに味わえる半面,新兵器のコレクションや歴史のifも気軽に楽しめる点は,本作の大きな魅力である
 意外にも柔軟性の高い戦略システムに仕上がっており,参謀キャラクターに操作のナビゲートやゲームのアドバイスをもらうこともできるので,ストラテジー初心者から上級者まで,幅広い層が楽しむことができるだろう。

開発済みの兵器は,設計図を任意の工場に送って生産ラインに乗せる。新兵器の系列が旧生産ラインの兵器と同系列ならば,工場規模の減少を緩和できる

「雲」や「接続拠点」の導入で,戦術パートもより深化した

戦闘が発生する直前に参謀の意見を聞くことができれば,大まかな敵味方の戦力比が判断できる。同月に複数の戦闘が発生した場合には,簡易戦闘でコンピュータに委任することも可能

 戦略画面で,敵拠点に対して侵攻を予約しターンを進めるか,敵軍に攻め込まれた場合に,戦術画面に移行する。戦術画面に移行する直前,データのセーブや難度調整ができるので,ターンベースの戦闘に不慣れな人でも心配はない
 そのターンに複数の地域で戦闘が発生した場合には,プレイヤーが操作する「通常戦闘」のほかに,戦闘をコンピュータに任せる「簡易戦闘」が選択できるから,ターン制戦闘のわずらわしさと,それにかかるプレイ時間(20〜60分程度)をある程度短縮できる点も嬉しい。

 戦闘が始まったら,まず最初にするのが部隊の編成(前作でいう生産)/配置だ。
 前作では,首都から5ヘックス以内の都市,空港,港,補給基地で生産/配置することができたが,本作では「地上接続拠点」「航空接続拠点」「艦艇接続拠点」と,任意の首都,都市,空港,補給地,港で編成/配置できるよう仕様変更された
 「接続拠点」とは,文字通り隣接する地域との接続拠点である。敵軍の接続拠点からは敵軍や敵の同盟軍が侵入してくることがあるので,都市や空港のほかに,敵の各接続拠点をいかに早い段階で占領できるかが,戦闘(シナリオ)のポイントとなる。
 首都がない拠点マップや,都市や補給地が存在しない拠点マップでは,敵接続拠点の占領や敵軍全滅が勝利条件となるので,戦闘が発生したらまずは敵接続拠点の位置関係を把握しておいたほうがいいだろう。

 ユニット対ユニットの戦闘は,基本的には前作とほぼ同様。天候,時間帯,部隊の向きなどによるデータ修正が入ったりするが,それ以外はいわゆる普通のターン制ストラテジーと同じく,直感的な操作によるプレイが可能だ。
 ただし,本作では「雲」という天候属性が追加された。「雲」が出ていると,例え晴天でも航空機による対地攻撃が不可能になるのだ。これにより,前作までは晴天時のでの活躍度が非常に大きかった航空機の運用がやや難しくなった。結果として,陸軍の運用が有利に行える確率が若干増すことになるので,前作で空軍を重視していたプレイヤーは,苦戦を強いられる場面が増えるかもしれない。
 「雲」が,前作までの戦術を弱体化する暗雲か,敵航空機の攻撃を緩和するバリアになるかは,各プレイヤーの戦術スタイル次第,といったところか。

戦術画面は,ごく一般的なターン制ストラテジーとほぼ同様の感覚で操作できる。見た目は地味だが,囲碁や将棋のようにじっくりと戦術を練る楽しみは,RTSでは味わえない魅力だろう。なお,戦闘が発生すると,このように画面中央に3D戦闘シーンが表示される

「隠れた名作」としてのハードルの高さは気になるものの……

 ストラテジーといえばRTS全盛の今,WWIIを舞台とするドイツ軍視点のターン制ストラテジーは確実に地味で,操作が面倒だ。ヨーロッパ戦線という戦いを忠実に再現しうるシステムやデータも,シリーズ作品をプレイしていない人にとっては,かなりの勉強が要求されるボリュームかもしれない。
 シリーズを重ねるごとにパワーアップしてきた戦闘シーンのグラフィックスも,最近のPCゲームに親しんでいる人の目には,チープに映ることだろう。
 が,そんなことはゲームの善し悪しにさほど関係はない(あえて明言するほどのことでもないが)。簡単操作でサクサク遊べ,遊んでいるうちにゲーム世界の知識が自然と身に付き,想像の余地がないほどの緻密なグラフィックスで装飾された作品が,「ゲーム」という高度に知的な遊戯の理想型だとは思えない。百歩譲っても,それはプレイヤーの数だけ存在する理想型の一つ,商業的な意味においての理想型の一つに過ぎない,としかいえないはずだ。

 コンシューマ版として産声を上げたアドバンスド大戦略シリーズだが,ややマニアックな題材と緻密なシステム,過剰とも思えるほどの圧倒的なデータ量は,ある意味もの凄く「PCゲームらしい」属性だといえよう
 確かに,グラフィックスを中心とする演出面が突出したPCゲームも「スゴイ」が,「アドバンスド大戦略IV」も十分「スゴイ」PCゲームだと思うのだが,それはひねくれ者の少数意見なのだろうか?
 ともあれ,冒頭でも少し述べたが,第二次世界大戦やターン制ストラテジーが苦手ではないのなら,本作は「遊べる」ゲームだ。興味があるなら,ぜひ購入してプレイしてみてほしい。

 最後に余談だが,筆者の義父(64歳)は結構なゲーマーである。そんな義父がここ数か月毎日プレイしていたソフトは,「アドバンスド大戦略98」。人気のゲームや新作ゲームも一応プレイしているのだが,義父曰く「シングルのストラテジーではこれが一番面白い」のだそうだ。
 そんな彼が次に遊びたいソフトは「アドバンスド大戦略IV」だろうと,本作をプレイしてみた筆者(息子)は確信する。

戦略マップの採用,参謀によるアドバイス,新兵器開発/工場拡張周辺の仕様変更などにより,シリーズ未体験者にも遊びやすくなった。登場兵器総数が2000種以上もあり,兵器図鑑のコンプリートもマニアなら楽しい作業である

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■発売元:セガ
■価格:9800円
■問い合わせ先:セガPCユーザーサポートセンター TEL 0570-000-354
■動作環境:Windows 98SE/Me/2000/XP,PentiumII/300MHz以上(PentiumIII/800MHz以上推奨),メモリ 64MB以上(128MB以上推奨),空きHDD容量 1GB以上,メモリ16MB以上搭載したビデオカード(メモリ32MB以上推奨),DirectX 9.0a以降
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