ミュージックアクション&アドベンチャーゲーム「ディアピアニッシモ ルフラン」は,2006年8月に発売された「ディアピアニッシモ」の強化リパッケージ版だ。オリジナル版は「フィギュア内にUSBメモリを内蔵し,PCに接続するとプレイできる」という個性あふれる販売形態で,話題を呼んだ作品である。とはいえ,まさしくその個性的なパッケージングゆえに,ゲームアプリケーションとしては限界があった。具体的に言うと,USBメモリの容量ゆえにプログラム/データのサイズが大きくできなかったのである。
ディアピアニッシモ ルフランは,普通のDVD-ROM版パッケージソフトとすることでそうした枷(かせ)を外し,シナリオやグラフィックス,ボイスデータを追加した作品だ。
ちなみに「ルフラン」は音楽で「繰り返し」の意味としても使われる「リフレイン」(refrain)のフランス語読み(というより,もっぱらシャンソン用語)だ。ただの繰り返しには留まらないという意味で,なかなか意味深なネーミングである。
ゲームシステムはオリジナル版の記事でご確認いただくとして,もっぱら追加部分に着目しつつ,概要を紹介していこう。
それぞれの追加シナリオがプレイできるようになると,このようにタイトル画面が変わる。左がナルミ編,右はジャスミン編だ。シナリオの切り替えは,画面左右にある三角印でできる |
フルボイス化と,シナリオ&新曲追加
追加シナリオの一つナルミ編では,このように狙いの明らかなカットが多い気がする |
ディアピアニッシモ(以下,オリジナル版)は,キャラクター性とストーリー性に力点が置かれたミュージックアクションゲームだった。その特性を考えたとき,“入れたいけど入らない”ものの代表と目されるのがキャラクターボイスである。また,シナリオ自体も登場人物を絞ってコンパクトにまとめられていた。
対してディアピアニッシモ ルフランでは,キャラクターをフルボイスにしたうえ,新シナリオを加えてゲーム全体のボリュームを強化している。
そしてシナリオ追加に関しては,オリジナル版のシナリオに分岐を追加する方法ではなく,別シナリオとして他キャラクターのストーリーを追加する方法をとっている。
既存シナリオに新エピソードを追加する方法は,しばしば全体のバランスを崩すし,そもそも選択肢のないノベル形式であったオリジナル版のシナリオに,選択肢を追加する方法はとりづらい。この拡張方法はある意味必然といえるだろう。
ナルミ編で,練習の休憩中にナルミとヒヨリが今置かれた「コンサヴァトリ」の中途半端な状況について話す。ナギ編では分からなかったナルミの心境や状況に対する説明を補完し,さらに広げている | なぜか組むことになったナルミとヒヨリ。最初はヒヨリを邪魔に思っていたナルミだが,能力を認め,コンビで挑むことに。……それにつけてもナルミ編は,この手の「サービスカット」が本当に多い |
ナギ編をクリアすると,最後にこのようなメッセージが表示され,新たなシナリオがプレイできるようになったことが示される |
追加されたシナリオは2本。オリジナル版でサイドキャラクターとして登場した鳴海澄香を主人公にし,オリジナル版と少し違ったシチュエーションでのアナザーストーリーに仕上げた「ナルミ編」と,これまたオリジナル版でお馴染みのキャラクター花山田ジャスミン先生を主人公に,オリジナル版のストーリーが始まる以前の出来事を描き出す「ジャスミン編」である。
これらの追加シナリオは最初から選べるわけではなく,オリジナル版のストーリー=「ナギ編」の完了後にナルミ編が,ナルミ編のあとにジャスミン編がプレイできるようになる。
また,シナリオの追加に当たっては,当然ながらミュージックアクションパートでの演奏曲も追加されている。各新シナリオ用に1曲+オープニング曲1曲の,計3曲だ。新曲に関しても,オリジナル版同様橋本みゆきさんが作詞作曲を担当しており,印象が大きく異なることはなく,作品の雰囲気は一貫している。
ジャスミン編では,レコンコルソが始まる前のコンサヴァトリに,なぜか突然現れた女の子「マイ」について,ジャスミンと学園長が振り回されつつも調べていく | 当初はコメディタッチで進むが,コメディには終わらない。設定を生かし,違った視点から世界観を広げたジャスミン編は,確かにラストに来るべきシナリオかも |
テイストを保ちつつ世界を広げる
追加シナリオでは,それぞれの主人公が歌う曲でミュージックパートをプレイする。ナルミ編ではナルミもレコンコルソに参加するのでミュージックパートがあるのは分かるのだが,ジャスミン編ではどういった必然性があるのか? プレイしてのお楽しみだ |
オリジナル版=ナギ編は,湿っぽい話になりがちなシチュエーションを採用しながら,「泣き」や「鬱」に走らず,きれいにまとめたストーリーが印象に残ったが,追加されたシナリオでもその雰囲気は変わらない。心地よい余韻を残すストーリーになっている点は評価に値しよう。とくにジャスミン編では,オリジナル版のナギ編につながる小ネタがいくつかあり,うまくつなげている。
各シナリオとも選択肢なしのノベルで,要所にミュージックパートがはさまれる形式は変わらない。追加曲数の関係で,残念ながらナルミ編とジャスミン編ではミュージックパートで使用される曲が1曲ずつしかないものの,シナリオからミュージックパートへの誘導は巧みで(とくにジャスミン編),作品としてはそれほど気にはならなかった。
きれいに完結したオリジナル版の,脇を押さえる形で世界とストーリーを広げた本作。オリジナル版の時点で気になっていたものの,ボリューム面などさまざまな理由から手を出しかねていたという人も,これを機会に,この切なくも美しい物語を味わってみてはどうだろうか。
シナリオ本筋は至ってシリアスだが,そこここにビミョーなネタが混じるのはオリジナル版と変わっていない。それにしても右のセリフ(というかモノローグ)は,EDβデッキを2台稼働状態にしている筆者への挑戦だろうか? |