テレポートしてくると,目の前に広がる優雅な景色にまず目を奪われる。白を基調とした外壁,ゆっくりと回る風車,急な斜面に沿うように作られた回廊のような通路。有名な観光地であるエーゲ海に浮かぶミコノス島を想起させるモナカタウン(Monaca本店)のコンセプトは,elleair Plasmaさんの発案だ。
アバターのコスチュームを中心に,Monacaで多くの作品を手がけるelleair Plasmaさん
Monacaは,CEOのebisuya Sporkさんを筆頭に,elleair PlasmaさんとCRUNKY Childsさんの3人で運営しているお店だ。売っている商品の種類は,アクセサリからアバターまで多岐にわたっており,意表を突くような斬新なコンセプトに溢れた楽しい作品がいっぱいあるお店である。
「何屋」という分類がそもそも当てはまらず,一見すると美術館のような印象もある,不思議な空間だ。
お店を案内してもらう前に,ビーチで雑談していたところ,elleairさんからプレゼントをいただいた。中身はなんと,ジャーナリスト用コスチュームとアイテムのセット。筆者の外見が,瞬く間にジャーナリストっぽくなった。ありがとうございます!
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筆者にプレゼントが! 前日に二人で簡単な打ち合わせをした後,すぐに作ってくれたものだという |
でかいリュックサックにウェストポーチ,デジカメと,右手にはボイスレコーダー。取材用の小道具が一通り揃っている |
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Monacaは現在,本店(モナカタウン)と2号店,桃源郷店の3店舗を持っている。置いてある商品は同じものだが,雰囲気やコンセプトがそれぞれ微妙に異なっている。まずは,本店であるモナカタウンをじっくり案内していただいた。
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モナカタウン全景。土地は4000㎡程度しかないとのことだが,かなり広く見える。高低差をうまく利用していることに加え,縮尺を実物大よりやや小さめにしているのがポイントのようだ |
ここがテレポート地点。眼下には綺麗な海を臨んでおり,後ろは公道になっている。ebisuyaさんは,斜面になっているこの土地に絶妙にマッチする建物を設計した |
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CRUNKYさんはガーデニングを得意としていて,ここ本店に関しては,主に草花の装飾を手がけた。手に持っている花は,テレポート地点のプランターから摘んできたものだ |
elleairさんの主力商品はここに集まっている。「めいどふく」が中央にどんと置いてあるということは,やはり一番の売れ線なのだろうか |
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喪服を着て泣く女性(画面はCRUNKYさん)。泣いている雰囲気が,凄くうまく表現されている。これもelleairさんの作品 |
本店中央部には鐘があり,毎時ちょうどになると鳴って時を知らせてくれる。画面のように,綱を引いて鳴らすこともできるようだ |
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ebisuyaさんの大ヒット商品,千手観音。外国人に大ウケしたそうで,今も仏像制作のリクエストが絶えないとか |
筆者も代わりに立ってみたが,勘違いした観光客にしか見えない。それにしても,こういうものを作ろうと思いついたその目の付けどころが凄い |
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桃源郷店は,Anshe Shung StudioというSL内の企業が所有するSIMの一つである,Togenkyoにある。Togenkyoは日本人が多く集まる場所の一つとしても有名で,Monacaはその中心付近にお店を構えているから,目にしたことのある人は多いだろう。
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ここが桃源郷店。中央部のスタジアムが目の前という,絶好のロケーションにある。この建物の設計もebisuyaさんだ |
数か月前まで,桃源郷店はこのようなデザインだった。このように過去の店舗建物がそのまま売られている |
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オブジェクトには,MOD/COPY/TRANSの三つのオプションを設定できるが,全部オンにしてしまうと無限にコピーができてしまう。そのため,自分用と贈答用の商品が別々に用意されている |
これだけ大きくて凝った建物でも,38プリムしか使っていないという。狭い土地,少ないプリム量でどれだけ“魅せられる”ものを作れるか,建築デザイナーの腕の見せどころだ |
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2号店は,elleairさんが建物まですべて手がけた,プライベート風の店舗だ。ほかの2店舗の建物はebisuyaさんの手によるものなので,雰囲気がちょっと異なる。狭い土地に建てられていることもあり,置けるオブジェクトの制限があって,コンパクトな造りになっていた。
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elleairさんフルデザインの2号店。横には,友人のために建てたという犬小屋があった |
扱っている商品は,ほかの店舗とほぼ同じ。土地が狭いため,プリム数が足りず,プライベートルームを設置したものの何も置けていないとか |
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テラスで腰掛けて,みんなでくつろぐ。2号店は本店や桃源郷店とはまた違った雰囲気で,のどかで落ち着いた時間が流れている |
ここも高台になっていて凄く眺めがいいのだが,最近は景観の変動がとくに激しくなっているとか |
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ショータイムの間も,次々とelleairさんのお友達がやってくる。友達グループがアトリエの片隅で遊んでいるのを横目に見つつ,elleairさんにお話を聞いた。
4Gamer:
では,早速インタビューしていきますね。まずは,Monaca誕生までの経緯について教えてください。
友達との何気ないおしゃべりから,アイデアが生まれることも多いというelleairさん。何か作っている最中も,おしゃべりは止めないとのこと
elleairさん:
私の場合は,今年の2月頃に「Second Life」に関する記事を読んで,面白そうだと思ってこの世界に一人で飛び込みました。
私はリアルライフでもデザインの仕事をしているのですが,こういう仕事って,どうしてもボツが多いんですよ。いっぱい作ってどれか通る,みたいな。そのボツになったものとか,結構自信があってもダメだったりということがよくあります。もっと自分のデザインを発表する場所が欲しいと思っていたときに,その記事に出会って,SLを始めてみました
4Gamer:
では最初から,自分でいろいろと作るつもりで,SLを始めたんですね。
elleairさん:
はい,SLでお店を出したいと思って,始めました。実は,ebisuyaさんとCRUNKYさんは,どちらも現実世界の知り合いなんです。お店をオープンするには建物が必要ですから,建築のスキルがあるebisuyaさんにまず声をかけ,お花とかも飾りたかったので,ガーデニングのスキルがあるCRUNKYさんにも声をかけて,3人でお店を始めました。それが今年の3月くらいです。
4Gamer:
現実世界の知人が集まって,始めたお店だったんですね。なるほど,それなら気心も知れているし,やりやすいかもしれませんね。
elleairさん:
はい。で,最初はBuildボタンさえ分からず,ずっと地面を編集しようとしてばかりいました(笑)。その頃はまだ,日本語の解説ページなどもありませんでしたし。でもそんなときに,凄く親切にいろいろと教えてくれた人達がいて,彼らには今でも本当に感謝しています。
オープンまではそんな経緯ですね。最初は,SL Japanというグループが新人向けに期間限定で無料でレンタルしているTogenkyoの土地でお店を開き,4月頃にTogenkyoの現在の位置に土地を借りてお店を出し,6月頃に本店や2号店を開店しました。
4Gamer:
Monaca本店では,主にelleairさんが商品を作ってebisuyaさんが建物を造り,CRUNKYさんが地形デザインや草花の装飾をしたと,さきほど伺いました。役割分担のようなものは決まっているのですか?
elleairさん:
誰が何というふうに決まっているわけではなくて,もちろん何でもやるのですが,基本は,それぞれ得意な分野をやっています。いろいろなアイデアは,私が最初になんかノリで言い出して,それにebisuyaさんが付き合ってくれます(笑)。それぞれ商品を作っていくのが理想なのですが,一つのことに集中しやすいebisuyaさんの性格もあって,しばらくは私の商品だけでした。
4Gamer:
そうそう,一つ聞いておきたいのが,3人のチームワークです。仲間内で一緒にお店を出したわけですが,この3人でうまくやっていくために工夫していることはありますか? 仲間と一緒にやっていくことの難しさって,あると思うんですよ。
elle'sは,Monacaのイメージとはちょっと違ったものを作りたいという,elleairさん個人の新しいブランドだ
elleairさん:
そうですね,まず,絶対服従のピラミッド構造は心がけていますよ。誰か一人リーダーで,うちの場合はebisuyaさんですが,その人が全部決める。みんなで案は出しますが,決めるのは一人です。
お店のコンセプトは割と自由です。日本に関係していれば,何でもありなんですよ。そこから逸脱しているものは,それぞれ独自ブランドでやっていたりしますが,これについても自由なんです。
あと,もう一つコツがあって,それは約束しないこと! これは大切です。「いつまでに何をする」とか,そういうのはナシ。頼んだら,あとはすべてお任せします。成功したらみんなのおかげで,失敗したら自分のせい。さらにいうと,楽しければOK。そういう気持ちでやっています。
4Gamer:
なるほどなるほど。自由でありつつも,大事なことを決めるときはリーダーにびしっと従うっていうのがコツなんですね。あと,約束しないというのも,なんだか勉強になりました(笑)。
ところで,三つの店舗を持っているという点が気になったのですが,なぜ三つに分けているのですか?
elleairさん:
それぞれに理由はありますが,まとめて言うならば,店舗数が多いほうがいろいろなことができる,ということです。ここはシンプルに売り場として,とか,ここはちょっと景観に凝って試験的なことをやるとか。土地を使ってやりたいことはいろいろあるので,目的別に店舗があるということですね。
4Gamer:
これは,SL一般の商売的な話なのかもしれませんが,1個にまとめたほうがトラフィック面で有利ということはないですか?
elleairさん:
確かにそうかもしれませんが,我々は別に,売り上げを最優先にしているわけではないんですよ。楽しむことと,自分のデザインを見てもらうことが,優先されています。
4Gamer:
なるほど,そういう考え方なら,問題ないかもしれませんね。
elleairさん:
お店を開いてから少し経って,売り上げがどんどん上がっていった頃,つい売り上げに敏感になって,それがすべてみたいに考えていた時期がありました。気がついたら,全然楽しんでやれていなくて,リアルの仕事以上に,仕事っぽくなっていました。
これで生計を立てられるかもしれない,なんて思ったのが,そうなった理由でしょうね。でもそうすると,やっぱり面白くないんです。それでしばらくSL以外のこともやってみたりして,クールダウンしていた時期がありました。
4Gamer:
面白くないけど,仕事のためにがんばる……じゃ,リアルライフと同じですよね。私自身も,やはり,楽しんでこそのSLだと思います。
elleairさんの座っている後ろには,SL内のイベントで獲得したトロフィーなどが飾ってあった
elleairさん:
本当そうですよね。で,これじゃいけないって思って,考え方を改めてお仕事モード禁止にしました。これはあくまでも私個人のことですが,そう考えるようになってから,凄く作る速さもアップしましたし,アイデアも出やすくなったと思います。
売り上げは後からついてくるし,今はそれよりも,会ったことのない,知らない外国の人と交流できるのがとても楽しいです。そして何よりも,そういった人達に,自分のデザインを評価してもらえるというのがSLの醍醐味です。
4Gamer:
先ほど,“日本に関係するもの”というのが,お店のコンセプトという話がありましたが,そういうものは,逆に外国人にもウケが良さそうですね。
elleairさん:
ええ。もちろん,ときにはクレームを受けることもありますが,クレームは最大のチャンスだとも思います。IM(インスタントメッセージ)でクレームをもらうと,当然その方に対応しますよね。すると,そのうちに仲良くなったり,アイデアをもらったり,自分自身で何か思いついたりします。英語は得意ではないのでたどたどしい会話ですが,なんとなく意思の疎通はできるようになってきました。いろいろな審美眼に触れられて,刺激的です。
4Gamer:
クレームも含めて,買った人から意見をもらうことって多いんですか?
elleairさん:
私が失敗ばかりしてるからかもしれませんけど,たくさんあります(笑)。でも,その数だけ,いろんなことを学びました。
そういえば,最近,浴衣などの着物関係がよく売れるのですが,これも実は,外国の方からの問い合わせがあまりにも多いので,作ることにしたんです。やっぱり知らない人,とくに外国の人が評価してくれて,それをきっかけにお話できるっていうことが,大変だけど凄い楽しいです。
4Gamer:
相手も人間ですからね。売る側と買う側が影響し合っているのも,SLの魅力かもしれません。
elleairさん:
あと,これは最初から心がけていることなのですが,友達には,できるだけ買ってもらわないようにしています。最初の頃は,友達の場合,会ったそばから商品を渡していました。今でもなるべくそうしています。
4Gamer:
そういえば,何か作ったときに,それを商品として売り出すかどうかは,どのように決めているのですか?
elleairさん:
売れそうなものは何か,とかは今は考えていないですね。ただ,最初は凄く考えました。出して売れるか不安もありました。でも,取り越し苦労かもしれませんよね。何が当たるか,売ってみないと分からないことが多いんです。
とくにSLでは,全世界の人が買い手になりえますから,何でこんなものが売れるの,っていうものも売れます(笑)。日本人とは,やっぱり全然違う審美眼を持っているんでしょうね。
4Gamer:
なるほど,では,elleairさんがモノを作るときに,自分なりにこだわっている部分はありますか?
夜になるとアトリエはさらにロマンチックな雰囲気になる。これが取材じゃなかったらよかったのに……(?)
elleairさん:
それなりに制約のある世界なので,それを逆手に取ったものを作るのが,面白いです。実際にあったら変だというものでも,作ってみたらそれっぽいものができたということがよくあって,なんでもチャレンジ,試行錯誤するようにしています。
4Gamer:
それで,あのようなユニークな衣装が次々と生み出されているわけですね。
elleairさん:
あと,私の場合特徴的なのは,服でもテクスチャを貼って完成ではなく,どこかに必ずプリムを使って,シルエットを補強している点です。例えば,さきほどのナース服の,腕の白い輪の部分などが分かりやすい例ですが,あのように,ほかの人が使わない部分に結構プリムを多用しています。
それと,服とか靴についてはそれぞれ専門店がありますから,買い物するときはそれぞれの専門店で買ったものをコーディネートするのも楽しいのですが,Monacaにはネタ系のものが多いので,フルセットで作るようにしています。1個買えば頭の上からつま先まで揃っちゃいます。一つ一つの質では専門店には全然かなわないレベルですが,全体のバランスを優先して作っています。
4Gamer:
確かにさきほど紹介していただいた作品は,アバター全体で見て全部のパーツが揃っていて,一つのイメージができていますよね。
さて,次に,ブランドについても教えてください。さきほどelle'sという,elleairさんの新しいブランド作品を見せてもらいましたし,ebisuyaさんも自身でデザインした建物を独自のブランドで展開しています。それらとMonacaというブランドとの関係は,どうなっているのですか?
elleairさん:
それについては,とくに何も決めていません。Monacaの売り上げ自体も,別に配当にしているわけじゃなくて,各自の商品を各自の売り上げにしているだけですので,現実世界のお店とはちょっと違いますよね。
ただ,Monacaはネタ系というイメージがだんだん固まってきていますので,今までのイメージに縛られずに作れるようにと思って,新しいブランドも出しています。
4Gamer:
そうですね。さきほど一通り見せていただいたときも,Monacaの商品には,共通する何かがあるような印象を受けました。
それでは,elleairさんがSLで目指していることはなんでしょうか。
elleairさん:
SLで何かをやるとしたら,現実世界では実現が難しいことほど魅力的なのではないかと思っています。例えば,お店の建物を次々に建て替えていくことは現実世界では難しいことですよね。でもSLなら実現可能です。ある場所を再び訪れたときには,全然違う地形になっていて雰囲気も一変しているとか,そういうのが面白いと思っています。
今はミコノス島の雰囲気にしているMonaca本店も,本当はもっとどんどんいろいろな風景に変えていきたいんです。それについては,ebisuyaさんも同じ考えなので,よくアイデアを出し合っています。次はこんな風景でとか,こんな建物でとか。でも大仕事になっちゃうから,なかなか取り組めないでいます。
4Gamer:
では,elleairさんにとってSLはどんな点が魅力的ですか?
まだまだ作りたいものがたくさんあるというelleairさん。今後の活躍が楽しみだ
elleairさん:
自分のデザインを,世界中の人に見てもらえ,評価してもらえることです。外国の人達とコミュニケーションする中で,外国の文化を知ったり,逆に日本文化が見えたりすることも魅力的です。
SLは,そういったことを実現可能にしてくれるツールだと思っています。いまさらゲームだとは思えません。誰の言葉かは忘れてしまったけれど,「あえてゲームと呼ぶなら,それはコミュニケーション上達ゲームだ」って聞いて,妙に納得した覚えがあります。
SL内で一人で過ごすことも,可能といえば可能ですね。でも醍醐味は味わえないような気がします。
4Gamer:
結局SLって,新しいコミュニケーションの形だと思うんです。それが今,過渡期でもあると思うし,おそらくこれから,多くの人がSLのようなものを使うようになる可能性もありますね。
では最後に,SLでやりたいことも含めて,elleairさんご自身の今後の夢について聞かせてください。
elleairさん:
これ初めて口にするので,ebisuyaさんに笑われてしまうかもしれませんが,現実世界でMonacaというお店を作れたらって思っています。現実世界の企業がSLに参入することが話題になっていますけど,逆をやってみたい。
そういう笑えることって好きです。夢というかネタですね,これ(笑)。
4Gamer:
完全にネタとも言い切れないと思いますよ。実現したら凄いですね。今日はありがとうございました。