Illustration by つるみとしゆき |
ローマの祖は,トロイアの英雄アイネイアスだと伝えられている。彼はトロイアの王子アンキセスと女神アフロディテの間に生まれた英雄で,トロイア陥落時に父親を背負って脱出し,イタリアへと渡って一生を終えた。
それから数百年後,アルバ・ロンガ王国には英雄アイネイアスの血を引くヌミトルとアムリウスという二人の王子がいた。王位はヌミトルが継ぎ,アムリウスは莫大な財宝を受け継いだ。だが,アムリウスはそれだけでは満足せず,王位簒奪をもくろんだのだ。
アムリウスの陰謀によってヌミトルは王位を追われ,その息子は殺害された。さらに娘のレア・シルウィアは,ヌミトルの血筋を残さぬようにとの判断から,巫女として出家させられてしまったのである。
巫女となったレア・シルウィアだったが,ある日のこと思いもかけないことが発生する。なんと彼女のもとに軍神マルスが現れ,二人は結ばれてしまったのだ。後に生まれたのは双子で,名をロムルスとレムスという。
しかし,アムリウスは双子の出生を知り,レア・シルウィアを殺害したあげく,双子も川に流してしまう。こうしてアムリウスは,復讐者の芽をつみ取り,安心して王座に君臨したのだった……。
アムリウスによって川に流されたロムルスとレムスだったが,死んではいなかった。我が子の苦境を察知した軍神マルスが,使者として雌の狼を送り,しばらくの間双子を育てさせたのである。やがてロムルスとレムスは羊飼いに発見され,育てられることになった。
時が経ち成人したロムルスとレムスは,パラティウムの丘で放牧を営み暮らしていた。ある日のことである。ロムルスとレムスは近隣のアウェンテヌスの丘の人々との諍いに巻き込まれてしまう。二人は必死に戦い,敵の大将を追いつめたが,実はその大将こそ,自分達の祖父であり,かつて王座に君臨していたヌミトルその人だったのである。
祖父と出会い,自分達の出生の秘密を知った二人は,アムリウスに対して復讐の刃を振るい,アルバ・ロンガの王位を奪還,祖父ヌミトルに王位を返上したのだ。
そしてロムルスはパラティウムの丘にローマを,レムスはアウェンティヌスの丘にレムラという都市を建設したが,次第にロムルスとレムスは対立するようになり,最終的にレムスは倒されて二つの都市はローマに統一された。歴史上では,紀元前753年にローマが建国されたことになっている。
ローマ建国神話(?)には,その象徴ともいえる武器が登場する。それがロムルスの槍だ。これはロムルスが数々の戦いで振るった武器で,入手の経緯などは不明とされている。特筆すべきはその武勇よりも,ローマの象徴になったということだろう。というのは,ロムルスがローマ建国の宣言と共に槍をパラティウムの丘に突き刺したところ,なんと槍から根が生え,大樹に成長。以後,その大樹はローマを見守ったというのだ。実に不思議な話ではあるが,軍神マルスを父に持ち,神が遣わした狼に育てられたロムルスであれば,こうした能力も驚くべきことではないのかもしれない。
なお,ロムルスの死後,建築工事を行った際に大樹の根に傷が付いてしまった。当時の人々は気に止めなかったが,その傷が原因で大樹が弱り,それに伴ってローマも衰退していったという言い伝えもある。ロムルスの槍の神秘性を表すエピソードである。
ロムルスの死についても興味深い話があるので紹介しておこう。神話では,ローマが成立して平和の訪れを確認した軍神マルスが,主神ユピテルに「ロムルスの役目は終わった」と告げると,ユピテルは風を起こしてロムルスを包んだ。そしてロムルスは天に召されて神になったとされている。
また,ある日,視界を遮るほどの大雨が玉座のロムルスを包み,雨が上がるとロムルスは玉座からいなくなっていた,という伝説も残っている。