Illustration by つるみとしゆき |
諸説あるが,一般的にはスルトの持っていた炎の剣はレーヴァテインとすることが多いので(別ものだとする説もある),ここでは炎の剣=レーヴァテインとして話を進めていくことにしよう。
北欧神話には炎の国としてムスペルヘイム(Muspelheim)が登場する。ここはスルトの統治のもと多数の炎の民(Muspel)が生活を営んでいる。熱や炎があまりに強烈なことから炎の民のみが生活でき,神であっても立ち入れない過酷な場所だ。
また,ムスペルヘイムは北欧神話上での扱いが非常に特殊で,北欧神話の天地創造以前から存在しているばかりか,太陽,月,星などはムスペルヘイムの炎によって作られたといわれている。
神々と巨人族の最終決戦であるラグナロクにおいて,スルトは巨人族に荷担して神々と戦った。スルトは死者の爪で作った船ナグルファル(Naglfar)に炎の民と共に乗り込むと,神々の領土へと侵攻。神々の中でも万能を誇るフレイと対峙することになった。
この戦いではスルトは優勢だった。というのは,フレイは意思を持つルーンの剣(銘は不明)を持っていたが,妻を娶るために失っており,代わりに鹿の角を武器に戦わなければならなかったからである。それでも戦いは長期化したことを考えると,フレイの戦い振りは賞賛に値するだろう。一説によると,命をかけてスルトをくぎ付けにしたとの説もある。それだけスルトは脅威の存在だったわけだ。
永い戦いの末,スルトによってフレイが倒されると,ほぼすべての神や巨人族は相討ちなどで死んでおり,たった一人残されたスルトは世界を炎で焼き尽くすと,どこかへと姿を消した。そして世界は新しい時代を迎えることになるのだ。
スルトが世界を焼いた剣は,レーヴァテインとされることが多い。この剣を鍛えたのは,北欧神話でトリックスターとして活躍した奸智の神ロキであり,冥界ニブルヘイムの門前で,ルーン魔術を駆使して鍛え上げたという。どのような経緯でスルトの手に渡ったかは不明だ。普段はスルトの妻シンマラ(shinmara)が,九つのカギをかけた箱に保管している。
レーヴァテインは燃え盛る炎の剣で,その輝きは太陽のそれを凌駕するほど。レーヴァテインは「災厄の杖/枝」という意味だが,このネーミングは非常に興味深い。というのも,ラグナロクで猛威を振るったフェンリル狼の別名ヴァナルガンドは「破壊の杖」,世界蛇ヨルムンガンドは「大地の杖」と呼ばれており,どちらもロキの子供である。ひょっとしたらレーヴァテインも単なる武器ではなく,魔物/生物であったのかもしれない。そう考えると九つのカギをかけた箱(オリ?)に保管しているという記述も,しっくり来るというものだ。
前述のように,ムスペルヘイムは北欧神話の天地創造よりも前に存在したり,太陽/月/星はムスペルヘイムの炎で作られたりしたわけだが,スルトはそこを統べる王であったと同時に,最終的には世界を炎で焼き尽くして幕を引いた。こうした要素を考えると,スルトはどう考えても神々に匹敵する力を持っていたように思える。ひょっとしたらスルトは,北欧神話以前の古代神のことを指しているのかもしれない。