Illustration by つるみとしゆき |
残念ながら剣の発祥については不明だが,記録では1236年にヘンリー三世の妻であるエリナー王妃の戴冠式に登場している。ほかにもリチャード三世やエドワード三世の戴冠式でも,使われたり,登場しなくとも目録上にその名が記録されたりしてきたようだ。なお,戴冠式では王に捧げられるという形で使われることが多いようである。
しかしピューリタン革命によって王家が崩壊すると,クルタナの行方は不明になってしまった。王権の象徴であるクルタナは不必要なものということで,破壊されたか,どこかに持ち去られてしまったのだろう。
それから年月が過ぎ,名誉革命の後に王権が復活すると,チャールズ二世によってクルタナは再び歴史の表舞台に登場する。とはいっても失われたクルタナが復活したわけではなく,昔の絵画などを参考に新たに作られたものである。ちなみに新生クルタナは1953年のエリザベス二世の戴冠式でも使用されている。
現在のクルタナは身幅5cm程度,全長80cm程度の大きさである。最大の特徴は切っ先がないことで,これは相手を傷つけないことから慈悲を表しているそうだ。
クルタナというネーミングは,以前「こちら」で紹介した,フランス最古の叙事詩「ローランの歌」に登場する聖剣"デュランダル"と深く関係があるそうだ。「ローランの歌」のクライマックスでは,瀕死を負った勇者ロランは聖剣デュランダルを敵に渡すまいと,近くの山頂の大理石に叩きつけたが剣は折れることなく,大理石が真っ二つになってしまった。だが,これにはもう一つの説があり,剣を折ることはできなかったが切っ先は欠けてしまったと記述しているものもある。
その折れた剣を,"短い剣"という意味でコールタンと呼んだそうだ。そのネーミングが変化して,クルタナになったという。といっても,デュランダルのコールタンという別名にちなんだというだけで,"デュランダル=クルタナ"ではないので,お間違えなきように(それはそれで面白い説だが)。
式典などではクルタナと呼ばれることは少ないようで,一般的な資料では「Sword of Mercy」(慈悲の剣)と呼ばれている。前述したエリザベス二世の戴冠式では,ほかにも「Sword of State」「Sword of Spiritual Justice」「Sword of Temporal Justice」「Juelled Sword」といったものも使われていた。なお,戴冠式ではクルタナは必須であるものの,ほかに使われる剣の本数は毎回一緒ではないようだ。
クルタナは草薙剣と同様,一度失われたあとに作り直されているが,国家の象徴として"慈悲"を表しており,そこに込められている精神や意味合いは非常に興味深い。つまり,物質的な意味合いの強い普通の剣とは異なり,精神的な剣なのである。
実在する剣の中で1000年以上の歴史を背負っているという点では,草薙剣かクルタナか? というくらい珍しいだろう。
神話における逸話がある剣も面白いが,国家の宝として秘蔵されている剣はほかにもありそうなので,今後も追っていくとしよう。