定命の者である限り,いつかは死を迎えて土へと還ることになる。しかし剣と魔法の世界では,死を迎えても永遠の眠りにつくことのない存在がおり,それらを総称してアンデッド(Undead)と呼んでいる。ちなみに似たような呼び方にイモータル(immortal)というものもあるが,これは「死してなお活動を続けるもの」ではなく,(基本的に)完全なる不死の存在を指しているので,その点は注意してほしい。
アンデッドの中にはゾンビ,スケルトン,ヴァンパイアなど,ホラー映画などでも有名なモンスターが多いが,今回は遺跡などの番人として知られるマミー(Mummy,ミイラ)を紹介してみよう。
ファンタジーの世界におけるマミーは,遺跡や墳墓を守る存在としてよく登場する。その姿は包帯でぐるぐる巻きにされた死体。動きは遅いものの,墓荒らしや盗掘者などには容赦なく襲いかかってくるという印象が一般的だろう。
動きが遅いということで,冒険者にとっては戦いやすい相手ともいえるが,中には特殊能力を持つマミーもいる。ゲームによっては「病気」や「呪い」といった,厄介なステータス異常を引き起こすモンスターなので,戦闘を長引かせると痛い目に遭うかもしれない。
マミーの弱点は,炎であることが多い。その正体は乾燥した死体だし,全身が包帯で包まれているので,火炎属性の魔法や松明などを使えば,有効なダメージが与えられるだろう。
また,これはマミーの製法に関連する弱点だが,マミーの内臓は壺に入れられ,どこかに保管されている場合がある。TRPGのシナリオなどで,強力なマミーを登場させておいて,どこかに保管された内臓を弱点にするのも面白いかもしれない。
古代エジプトでは,王族などが死ぬと魂の入れ物である肉体を保存し,いつか復活すると信じてマミーを作った。マミーの製法については,最も腐敗しやすい内臓を取り出してカノプス壺(Canopic Jar)に保管し,死体を香料や薬などで清め,布を丁寧に巻き……,といったもの。ちなみに古代エジプトの人々は,脳は鼻水を作る器官であり,思考は心臓で行われると信じていたため,心臓だけは摘出しなかったそうだ。
マミーを語るうえで欠かせないのは,ツタンカーメン王の呪いにまつわる話だろう。1922年11月4日,ハワード・カーターはツタンカーメンの墓を発掘したが,碑文に「この墓を汚す者,死の翼に打たれん」と書かれており,翌年には発掘の出資者であるカーナボン卿が死に,1930年までに発掘に関わった22人が死亡。これがファラオの呪いとして話題になった。
お話としては実に興味深いが,実際には碑文はなかったし,死んだ人々に関しても事実と異なるケースが多い(1930年以降にも生きていた人は多数いる)。これは,カーナボン卿がロンドンタイムズと独占契約を結んでいたために,そのほかのマスコミから恨まれ,流布されたデマだったようだ。
なおこれは余談だが,発掘においてもう一つ興味深い話がある。カーターは出資者であるカーナボン卿の娘 イーブリンと恋仲だったが,身分の違いから一緒になれなかった。おまけに第一回の発掘の翌年にはカーナボン卿が亡くなり,彼を継いだ息子のヘンリーは発掘権を手放すと言い始めたのだ。さらに愛するイーブリンは上流階級の男性と結婚。カーターは打ちのめされることとなる。
だが,その後一転して発掘の続投が告げられる。一説によると,イーブリンが発掘の続投を条件にして結婚を承諾したらしい。真相はどうあれ発掘は継続され,カーターは王墓に眠るツタンカーメンと対面できたのである。
その後,カーターは次のようなコメントを残している。「王墓の中は黄金で包まれていたが,しかし最も美しかったのは,棺の上にひっそりと置かれた枯れた花束だった」と。エジプトに渡って30年以上も発掘に携わってきたカーターだが,目標を達成したあとに,何を想ったのだろうか。