連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第18回:ドッペルゲンガー(Doppelganger)

 ファンタジー世界に棲息するモンスター達は,実にさまざまな攻撃能力を持っている。爪や牙といった単純な攻撃手段を持つものもいれば,特殊な武器や魔法を巧みに使いこなすものもいる。また「不死」や「再生能力」,特定の武器でしか傷を負わないなどの特性を備えているものまでいる。
 これらの攻撃能力/特性は,ゲームでもよく表現されているが,中にはゲームで再現しにくい能力を持ったモンスターも存在する。その筆頭は,なんといってもドッペルゲンガー(Doppelganger)だろう。
 ドッペルゲンガーは変身能力を持っており,冒険者の姿をコピーする。コピーされるのは姿だけではなく,身体能力/技能も含まれることがあり,その場合,ドッペルゲンガーはかなりの強敵といえるだろう。
 コピー能力を備えたドッペルゲンガーは,ゲームにもたびたび登場する。しかしドッペルゲンガーの真骨頂は,姿を真似ることだけではないのだ。
 ドッペルゲンガーは,知らないうちにパーティメンバーを倒して入れ替わり,パーティを罠へ導いたり,パーティ内に不和の種をまいたり,戦闘中に本性を現して襲いかかってきたりする。通常のモンスターと違い,パーティ内部から破滅へと追い立てるわけだから,非常にタチが悪い。
 冒険中,仲間の言動に違和感を覚えたら,ひょっとするとその仲間はすでに殺されており,ドッペルゲンガーがすり替わっているかもしれないのだ。

 

 ドッペルゲンガーとは,ドイツ語で“二重”を表す「Doppel」と,“歩く者”を表す「Ganger」の合成語である。英語では「Co-Walker」や「Double」などと呼ばれることがあり,「共歩き」と和訳されることもある。自由自在に姿を変えるシェイプシフター(Shape Shifter)なども,ドッペルゲンガーと近しい存在と考えていいだろう。
 民間伝承では,死すべき人間の前に,それとまったく同じ姿で現れるとされており,ドッペルゲンガーと遭遇してしまったら,近いうちに必ず死ぬと伝えられている。

 ドッペルゲンガーは,いくつかのパターンに分類できる。一つは,死すべき運命の人間の前に現れるというもの。この場合は,ゲームのように襲いかかってくることはない。ただ現れるだけである。死すべき者の家の前に現れてすすり泣くというバンシーに似ていると言えるだろう。
 また,肉体から抜け出した魂が可視化し,それを目撃してしまうパターンもある。魂が抜け出てしまった肉体は生きながらえることができない=死,というわけだ。
 病理学でいうところの自己像幻視/オートスコピー(Autoscopy)であるとする説もあるが,あまりそちら寄りの話をしてしまうと,ファンタジーならではの面白みが薄くなってしまうので,ここでは割愛させてもらおう。
 歴史上の著名人の中には,ドッペルゲンガーを目撃したという人が多くいる。アメリカ合衆国第16代大統領エイブラハム・リンカーンや,ドイツの文豪ゲーテ,日本の芥川龍之介などが,ドッペルゲンガーを目撃したと記録しているのだ。
 ちなみにゲーテは,20代半ばにドッペルゲンガーを目撃したが,その姿は当時の自分に似てはおらず,少々老けていたという。そして目撃から8年後,以前目撃した「自分に似た人物」と今の自分がうり二つであることに気づき,かつて見たものはドッペルゲンガーだったのだと思い当たったそうだ。
 目撃したら死ぬといわれているドッペルゲンガーだが,ゲーテは83歳まで生き続けた。もしかすると彼の生き方には,ドッペルゲンガーによる死を回避する秘密が隠されているのかもしれない。

 

次回予告:サラマンダー

 

■■Murayama(ライター)■■
クリスマス(もしくはイブ)には,毎年パチスロを打っているというMurayama。ここ数年は必ず勝っているそうで,今年の12月24日も,淡い期待を胸にスロットを打ちに行ったとか。結果は大爆発。あれよあれよという間に7000枚のコインを手に入れ,サンタクロースの存在を間近に感じたという。夢があるんだかないんだか分からないエピソードだが,Murayamaらしいクリスマスの光景ではある。メリークリスマス。


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