連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第13回:ゾンビ(Zombie)

 定命の者であれば,いつかは死を迎えて土へと還っていく。ところが,なかには現世への未練が強いためか,はたまた呪いや魔法による影響か,死後,動き出して人々を襲うものもいる。そうした存在を一般的にはアンデッドと呼ぶが,その中でもとくにメジャーなものが,生ける死体ゾンビ(Zombie)だ。
 ゾンビは,墓場や廃墟などを徘徊する死体で,人々に襲いかかって肉を食らうという。10体や20体といった単位で行動していることも多く,少々やっかいな相手である。
 とはいっても,頭の回転や動作が遅く,数が多くとも統率されているケースはほぼないので,手慣れた冒険者であれば,それほど苦戦することもないだろう。
 ただし,小説,映画,TRPGなどでは,しばしば町全体がゾンビであふれかえっているシーンが描かれる。そういったケースでは,個別に相手をしていてはキリがないので,高位の司祭/神官などの力を借りて,「成仏」してもらう必要があるだろう。
 また,ゾンビが大量発生している場所では,ゾンビそのものの数よりも,そうなる原因を作った存在(主にネクロマンサーの仕業だろう)を警戒すべきである。

 

 現在のゾンビのイメージを作りあげたのは,ジョージ・A・ロメロ監督による「Night of the Living Dead」(1968年),「Dawn of the Dead」(1979年),「Day of The Dead」(1985年)といった,一連のゾンビ映画だといっても過言ではないだろう。彼はこれらの映画の中で,動きが遅く,生者に敵対的で,理性がなく,ゾンビに殺された者はゾンビとなって蘇る,というゾンビの特徴を確立し,ゾンビの恐ろしさをアピールしたのだ。
 そういった特徴は,ゲームや小説などに登場するゾンビ像に大きな影響を与えた。ある意味,今日のゾンビはロメロ型のゾンビともいえる。
 なお,ここでロメロ型と書いたことには理由がある。ご存じの人も多いだろうが,ゾンビはロメロのオリジナルキャラクターではなく,本来はブードゥー教に登場する存在だからだ。
 ブードゥー教の起源になったのは,西アフリカの精霊信仰だといわれている。ブードゥー(Voodoo)という語は,西アフリカのフォン族の言葉で精霊を指す“Vundun”からきているらしい。
 ブードゥー教では,白魔術を扱う男性の神官をオウンガン(Houngan),女性の神官をマンボ(Mambo),黒魔術を使う男女の神官をボコール(Bokor)と呼んでいる。これらは決まった役職ではなく,同じ人物であっても状況に応じてオウンガンであったり,ボコールであったりするようだ。
 ゾンビを作り出すのは主にボコールの仕事。といってもむやみに作られるわけではなく,刑罰の一種で,極刑だとされている。ブードゥー教が広く浸透した社会では,生前に重い罪を犯した者は,死後に安らぎが与えられることなく,ゾンビとして償いをさせられるというのだ。なおゾンビを作り出す方法には諸説あり,死体に精霊を降臨させるというものもあれば,フグ毒の主成分であるテトロドトキシンから作られる“ゾンビパウダー”という秘薬を使うというものもある。

 

次回予告:ヘルハウンド

 

■■Murayama(ライター)■■
食い物に関して強いこだわりを持つMurayamaだが,大好物の生牡蠣に関しては,そうそうお高い店で食べるわけにもいかず,仕方なくスーパーで生食用の牡蠣を買うことが多いそうだ。しかし最近,そういった生食用の牡蠣は(安全性を考えて)丹念に洗浄され,うま味が抜けていることが多いことに気づいたという。今後はお高い店で生牡蠣を,家では加熱用牡蠣を食べるようにするとのこと。幸いそろそろ鍋の季節なので,彼が牡蠣破産するのはしばらく先の話になりそうだ。


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