定命の者であれば,いつかは死を迎えて土へと還っていく。ところが,なかには現世への未練が強いためか,はたまた呪いや魔法による影響か,死後,動き出して人々を襲うものもいる。そうした存在を一般的にはアンデッドと呼ぶが,その中でもとくにメジャーなものが,生ける死体ゾンビ(Zombie)だ。
ゾンビは,墓場や廃墟などを徘徊する死体で,人々に襲いかかって肉を食らうという。10体や20体といった単位で行動していることも多く,少々やっかいな相手である。
とはいっても,頭の回転や動作が遅く,数が多くとも統率されているケースはほぼないので,手慣れた冒険者であれば,それほど苦戦することもないだろう。
ただし,小説,映画,TRPGなどでは,しばしば町全体がゾンビであふれかえっているシーンが描かれる。そういったケースでは,個別に相手をしていてはキリがないので,高位の司祭/神官などの力を借りて,「成仏」してもらう必要があるだろう。
また,ゾンビが大量発生している場所では,ゾンビそのものの数よりも,そうなる原因を作った存在(主にネクロマンサーの仕業だろう)を警戒すべきである。
現在のゾンビのイメージを作りあげたのは,ジョージ・A・ロメロ監督による「Night of the Living Dead」(1968年),「Dawn of the Dead」(1979年),「Day of The Dead」(1985年)といった,一連のゾンビ映画だといっても過言ではないだろう。彼はこれらの映画の中で,動きが遅く,生者に敵対的で,理性がなく,ゾンビに殺された者はゾンビとなって蘇る,というゾンビの特徴を確立し,ゾンビの恐ろしさをアピールしたのだ。
そういった特徴は,ゲームや小説などに登場するゾンビ像に大きな影響を与えた。ある意味,今日のゾンビはロメロ型のゾンビともいえる。
なお,ここでロメロ型と書いたことには理由がある。ご存じの人も多いだろうが,ゾンビはロメロのオリジナルキャラクターではなく,本来はブードゥー教に登場する存在だからだ。
ブードゥー教の起源になったのは,西アフリカの精霊信仰だといわれている。ブードゥー(Voodoo)という語は,西アフリカのフォン族の言葉で精霊を指す“Vundun”からきているらしい。
ブードゥー教では,白魔術を扱う男性の神官をオウンガン(Houngan),女性の神官をマンボ(Mambo),黒魔術を使う男女の神官をボコール(Bokor)と呼んでいる。これらは決まった役職ではなく,同じ人物であっても状況に応じてオウンガンであったり,ボコールであったりするようだ。
ゾンビを作り出すのは主にボコールの仕事。といってもむやみに作られるわけではなく,刑罰の一種で,極刑だとされている。ブードゥー教が広く浸透した社会では,生前に重い罪を犯した者は,死後に安らぎが与えられることなく,ゾンビとして償いをさせられるというのだ。なおゾンビを作り出す方法には諸説あり,死体に精霊を降臨させるというものもあれば,フグ毒の主成分であるテトロドトキシンから作られる“ゾンビパウダー”という秘薬を使うというものもある。