― 連載 ―

剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜
第6回:ガーゴイル(Gargoyle)

 “剣と魔法の世界”に登場する古びた館の庭や屋根には,しばしば,悪魔のような姿をした石像が置かれている。通常,それらは(当然のように)石像然としているが,不注意な者が近づくと,不意を突いて襲いかかってくることがある。それがガーゴイルと呼ばれるモンスターである。

 一般的に,ガーゴイルというと,背中にコウモリの羽を生やした悪魔のような姿で描かれることが多い。屋根,台座の上,噴水の中心など,さまざまな場所でじっとしており,冒険者が近づくと襲いかかってくる,というのが典型的なイメージだ。
 魔法などの特殊能力を持っていないのは幸いだが,魔法的な飛行能力や,鋭い爪による攻撃は,かなりの脅威となるだろう。もちろん,ベースが石像であることから,剣などの斬りつけるタイプの武器では,大したダメージを与えられない。魔法の付与された武器か,メイスやフレイルなどの鈍器を用いて立ち向かいたいところだ。
 また重量があるため,のしかかられてもやっかいなことになる。抱きつかれたまま水中にでも落ちたら,絶体絶命のピンチに陥ることは,まず間違いない。
 ガーゴイルの役割は「守護者」「番人」であることが多く,主人(力のある魔術師だろう)の命令を忠実に守っているケースや,古い石像に疑似生命が宿っている場合がある。

 

 民間伝承では,ガーゴイルは,家屋や館などを災厄から守る石像として生まれたとされている。現在でもヨーロッパの教会などの屋根を見ると,その異形が確認できる。
 ガーゴイルの多くは四肢を備える彫像だが,中には顔だけのものや,胸像などもあるようだ。ちなみに日本家屋にも,鬼の顔を模した鬼瓦を,厄払いとして設置することがあるが,これも一種のガーゴイルといえるかもしれない。

 ガーゴイルというネーミングは,古いフランス語で「喉」や「雨どい」を示す“ガルグイユ”(Gargouille)からきているといわれている。これは,ガーゴイルが家の雨どいや噴水などに置かれ,その口から水を吐いていたことに由来するとの説がある。ちなみにガルグイユという語は,水が流れるときのゴボゴボという音を示す,ラテン語のGarから生まれた言葉であるらしい。水と大きく関係のある語である。
 また興味深い逸話として,以下のようなものがある。キリスト教の伝承によると,はるか昔のセーヌ川付近には,ガルグイユという怪物がいて,嵐や竜巻などを起こし,しばしば人々を襲っていたという。これを見たキリスト教の大司教ロマンは,ガルグイユを諭して(退治して),それがやがてガーゴイルになったというのだ。
 このエピソードから,ガーゴイルは,キリスト教が広まるに従ってその座を追われた古代神だと推測することもできるだろう。キリスト教では他宗教の神を認めないことから,布教先で本来信仰されてきた神を,守護者や魔物,邪神として取り込んできた歴史がある。ひょっとするとガーゴイルも,そうした存在なのかもしれない。土着の古代神であれば,水にまつわる名前を持つことも,かつては竜巻を起こすなどの能力を持っていたことも,キリスト教に似つかわしくない容姿を持っていることも,すべて納得できるというものだ。ガーゴイルは水に縁がある存在であることから,かつては土着の豊穣神だったというのが,比較的信憑性のある仮説かもしれない。

 ガーゴイルは大いなる力を奪われ,モンスターにされてしまったとはいえ,今なお家や教会の屋根などに姿を残し,民衆ににらみを利かせるとともに,その地を守護している。そして多くの民衆から畏敬の念を持たれているのだ。

 

次回予告:クラーケン

 

■■Murayama(ライター)■■
「飲み食い」への強いこだわりを持つMurayama。米を炊くときにはもちろん(?),電子ジャーではなく鍋を用いているという。なんでも,いわゆる「お焦げ」が大好物なのだそうだ。ちなみに,その鍋はフッ素樹脂加工が施されているのだが,最近,加工がひどくはげてきているのに気づいたという。うまいものを食べるためには,フッ素樹脂を摂取しても構わないという,Murayamaの食への想いを感じさせるエピソードである。ああ,僕はそのお焦げ,遠慮しておきますね。


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