3月3日に発売された,ロングセラー育成シムの最新作「プリンセスメーカー5」は,舞台を現代日本に移し,交友関係が娘の性格に与える影響をファクターとして取り込むなど,さまざまな新機軸が盛り込まれた意欲作である。このゲームの魅力をお伝えする新連載「プリンセスメーカー5 お父さんは夢見がち」を今週からお届けするのだが,それに先立ち,まずは実際にプレイしてみたところで分かったゲームの雰囲気について,簡単にコメントしておきたい。
このゲームを構成するファクターについては,新作紹介ですでにひととおりお伝えしているが,本作が歴代作品と異なるのは,新作紹介に挙げられた新システムの部分ばかりではない。前作「プリンセスメーカー4」では主にフレーバーとして取り入れられた,いささかシリアスなストーリー展開が,このゲームのもう一つの顔なのである。
プレイヤーが育てる娘は,ゲーム内世界におけるプリセンス候補最後の生き残りであり,人間界に避難してきた彼女の身はなおも,異界の「革命勢力」が放つ刺客に狙われ続けている。育成が進むにつれてそうした刺客が姿を現し,プレイに介入するのだ。
プリンセスメーカー4において,娘が対立し合う人間と魔族の間に生まれたというバックストーリーは,娘の育成バリエーションの説明と,そのストーリー的回収になっていたのだが,本作ではプリンセスを目指す正統派プレイからして,こうしたストーリーの先に位置付けられている。つまり本作は,より明確にパラメータアドベンチャーゲームになったわけだ。
とはいえ,こうした娘の宿命を積極的に引き受けるか,消極的に受け流すかは,従来作にも似てプレイヤーの自由である。そしてこの連載では,どうしてもストーリーが集約方向に向かう正統派プレイではなく,思うさま受け流す方向で記事を展開していきたいと思う。そこで娘がどうなるのか,もとい,娘をどうしてしまうのかが,記事各回のトピックとなるだろう。
北大路コンスタンチン氏近影(松本隆一:画)
そうしたわけで早速,娘の氏素性などほったらかし気味のプレイに入っていこう。1回目のお父さんは陶芸家にして美食家という設定の,北大路コンスタンチン氏だ。どこかで見たような風体だといったツッコミは,想定内なので言わぬが華である。
まずは娘の名前を決める。北大路といえば,やはりKINYA(きんや)以外あり得まい。こう……何かを避けようとして別の何かを二つぐらい引っかけてしまった気もするが,これについても深く考えてはいけない。
北大路家の娘である以上,陶芸と料理に造詣が深くなくてはならない。とはいえ,残念ながらこのゲームに陶芸などというスキル/パラメータはないので,陶芸ほどではないにせよ,北大路氏の得意分野として知られている「絵画」をブーストアップする。「彼が得意としていたのは山水画では?」といった,至極まっとうなツッコミは……えーと,そろそろ許してください。
この作品には,「4」を除いたシリーズ従来作の「武者修行」に相当する「冒険」が用意されていて,「格闘」スキルや「剣技」スキルはもちろん「音楽」や「舞踏」といったスキルも,そこにおけるターン制RPG的戦闘に役立つ。
それにひきかえ「料理」スキルや「絵画」スキルには,とくにそういった使い途がない。冒険は,お金や各種アイテムが手に入るという,ゲーム展開上たいへん重要な要素であって,そこで活躍できない娘には,いきおい“使えない”感が色濃く漂う……。まあ,零落の姫君として,そう悪くない趣味だとは思うのだが。
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陶芸家・北大路コンスタンチン氏と娘のKINYA。いや別に「演技」スキルを伸ばす予定ではなく,今回の苗字はあくまで父親のパーソナリティに沿っているのだが…… |
「あのような輩と……」と小学生に腹を立てるのも大人げないが,これ以上繊細さが損なわれても困る。浮世離れした職業設定の割に過干渉な北大路氏である
「絵画」スキルと「料理」スキルを重視するとはいえ,序盤は基本パラメータ全般の底上げが課題である。「愛情」パラメータの低さもさることながら,今回の育成でネックになりそうに見えたのが「繊細さ」だ。なんというか,繊細さに欠けた状態で料理や絵画のスキルがうまく機能するとは考えづらい。そこで「絵画教室」のほかに,同じく繊細さを引き上げる効果を持つ「バレエ教室」にも通わせる。とはいえ実のところ,何かおいしいイベントが起きることを期待して,手を着けておくにすぎないのだが。
繊細さをもっと効率的に引き上げるなら,序盤はマップ上にある神社の境内を散策させるのがよい。10歳の女の子が,鳥居や拝殿や手水鉢を見て何事か深く感じ入っているとすると,いささか近寄りがたい光景であるが,暇を見ては神社に足を留めさせた。
繊細さをめぐってはもう一つ,今作の大きな特徴である友人の存在に触れておくべきだろう。友人とは登下校時や街の各所に出かけたときに出会うことがあり,行動をともにすることで娘が影響を受ける。今回少々困ったのが,活発な女の子である「小早川みちる」だ。彼女の影響を受けるたびに,なけなしの「繊細さ」パラメータが引き下げられてしまう。
そこで当面,彼女を見付けても,こちらから声をかけさせないようにした。陶芸家にして美食家の北大路さんとしては「あのような輩となれ合うでないわ」と斬って捨ててもよいのだが,コンスタントに繊細さを上げられるようになって,彼女の影響を度外視できるようになるまでの暫定措置ということだ。
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繊細さを上げた結果,こんなことも。文人/芸術家として,この世ならぬものを見られるのは才能の一部だと思うが,ここまでくるとむしろ,柳田(国男)さんや南方(熊楠)さんの領域では? |
この「ガンパレードマーチ」もびっくりな人間関係シミュレート要素は,意外にプレイの効率を左右する。伸ばしたいと思っている分野に長けた友人を持つことで,たいていのカリキュラムより効率よくパラメータ数値を引き上げられる半面,友人同士には嫉妬と反目の要素があって,誰かと仲良くするとほかの誰かが腹を立てたりするのだ。子供なりにというよりは,子供だからこそ人間関係に悩むのである。
しかし,いつも白足袋のつま先から登場する北大路さんの娘に,周囲の空気を読んだ発言を求めるというのは,かなり酷な話ではなかろうか?
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微妙な間合いの返答を迫られたり,一方的に絶交を言い渡されたと思ったら,和解を求められたり。子供もたいへんだ |
そうこうするうちに娘は思春期を迎えて親に反抗したりするのだが,早期から親子の絆を深める方向のプレイに努めていたためか,それほど大きな影響はなかった。父親の作品をすべて打ち壊して家を飛び出したりしないと,北大路さんの子供らしくないという話は,とりあえず置いておくとして。
娘が中学に進んだころに,刺客が二人ほど送られてくるものの,北大路さんとキューブで一人ずつ撃破。陶芸家とその使用人に打ち破られるレベルでは,異界の「革命勢力」とやらも,気にするほどのことはあるまい。
中学3年生になった時点でのパラメータ。絵画スキルは最高レベル,教育方針とは無関係にカリスマ突出状態
それにしても……。上がらないといったら,料理スキルは本当に上がらないのである。中学後半くらいから,空き時間5コマを費やして家事に専念させているのだが,いっこうに効果が出ない。絵画はカリキュラム数に応じてまっとうに引き上げられているものの,「カリスマ」パラメータばかりがぐんぐん上昇していく。いや,美食家&陶芸家の娘にしてカリスマ値が高いというのは,なんとなく父親の教育方針どおりに進んでいる気がしないでもないが,肝心の料理の腕が伴わないのでは,ゲームシステムがそれに応えてくれるかどうか,実におぼつかない。
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娘の絵画スキル向上を示すイベントと,やたらと「家の手伝い」を増やした「週間スケジュール」 |
そんな状況を劇的に改善する手立ては,今後見いだされるのか? そして,至高の娘は完成するのか?(次回に続く)