連載 : 奥谷海人のAccess Accepted


奥谷海人のAccess Accepted

2007年8月17日掲載

 アメリカでは,MMORPGが万単位のアカウント増減で一喜一憂しているのを尻目に,子供達をターゲットにしたオンラインゲームやソーシャルネットワークサービスが,それよりも1〜2桁多い単位のアカウント数を稼ぎ出している。今回は,子供達の心をがっちりつかんでいる,そんなサービスを紹介しよう。

 

大盛況な子供向けオンラインサービス

 

3か月で400万アカウントを獲得したバービーサイト

 

夏休みも手伝ってか,まだβ版なのに3か月で400万アカウントを獲得した女の子向けのSNS「Barbie Girls」。無料で楽しめるのだが,右上の囲み写真のような人形型のMP3 Playerを購入してPCと連動させることで特典が得られるという,タイアップ戦略も垣間見られる

 突然だが,筆者の長女は今年で10歳。いわゆる“ティーンエイジャー”の一歩手前だ。遊びやファッションに関して,それなりにアンテナを高く張り始めており,親も知らないような情報を集めてくるようになってきた。
 そんな彼女が夏休みになってから時折プレイしているのが,「Barbie Girls」である。これは,バービー人形で世界的に有名なMattelが運営するサービスで,7歳から12歳までの,いわゆる“プリティーン”を対象にした無料のソーシャルネットワークサービス(SNS)だ。バービーらしく自分のアバターの着せ替えを楽しめるほか,オンラインで友人とチャットしたり,ショッピングモールで買い物を楽しんだりする。ファッションアイテムを購入するためには,広告入りのムービーや音楽を視聴することで入金されるバーチャルマネーを利用するという仕組みである。

 正直な話,筆者にはこのBarbie Girlsの何が面白いのかよく分からないのだが,2007年4月にβ版として開始され,すでに400万人もの登録者がいるというから驚きだ。プリティーン世代の多くにとっては,家族や学校以外で初めてのソーシャルコンタクトであり,彼女達の“ちょっと背伸びしたい感覚”を刺激しているのかもしれない。
 Barbie Girlsに限らず,最近では子供を対象にしたオンラインゲームやSNSが人気を得ている。プリティーン世代の上限である12歳といえば,「Windows 95」が発売された1995年生まれ。物心ついたときから3Dゲームが存在し,インターネットを通して情報を手に入れ,手紙よりもEメールでやり取りをして育ってきた。そんな世代が,ネットワークを介したサービスのターゲットとして浮上してきたわけだ。

 

 

次々と成功する子供向けオンラインサービス

 

 子供向けオンラインゲームやSNSで共通するのは,FlashやJavaを利用していることだ。PCとインターネットへの接続環境があれば利用できるようにすることで,ハードルを低く保っているのだ。
 その代表格といえるのが,1440万アカウントがあるという世界的にも超人気の「NeoPets」だろう。170種類ものミニゲームを取り揃え,その結果で得た金銭やアイテムでペットを育てていくという内容で,サイトが立ち上げられたのが1999年11月のこと。アメリカのメディア大手Viacomが,2005年に1億6000万ドル(約188億円)で買収するほどの勢いだ。
 さらに,「Devious MUD」という名前で長らくβ状態にあったJAVAベースの「RuneScape」が,2001年1月にパブリックβとして稼動を始めた。3Dグラフィックスのファンタジー世界を,ブラウザで楽しめるというのが人気となっており,現在のアカウント総数は900万。月額3.2ポンド/5米ドル(約650円)のメンバーシップ会員も,100万人に達したことが2007年5月に発表されている。

商事改善協会(National Better Business Bureau)から「子供にとって安全なオンラインサイト」に指定された「Club Penguin」は,ペンギンのアバターを使ってミニゲームやチャットを楽しむカナダ産のサイト。サービス開始から2年ほどで1200万アカウントと急成長し,ディズニーに買収された

 また,2003年6月に公式リリースされたディズニーの「Toontown Online」は,自社開発の「Panda3D」という3Dゲームエンジンが使用されており,かなり本格的だ。アカウント実数は発表されていないものの,日本やフランスでもサービスされている。Disneyは,ほかにも「Virtual Magic Kingdom」といった複数のサイトを運営。全サイトのアカウント数の合計は1300万ともいわれているのだが,これだけに留まらず,2005年10月の登場以来チャットとミニゲームを主軸に1200万アカウントを取得するという急成長を続けている「Club Penguin」を,3億5000万ドル(約410億円)という巨費を投じて買収している。その後も「Pirates of the Caribbean Online」や,女の子をターゲットにした「Disney Fairies」のリリースを準備するなど,信じられないような額に上る投資を続けているのだが,裏を返せば,それほどこの分野が,将来的に成長するという見込みがあるのだろう。

 これだけでも過当競争気味だが,バービー人形の対抗馬のファッションドールとしてオモチャ売り場を賑わせている「BRATZ」も,近々「Be-Bratz」というSNS型のオンラインサービスのテストを開始する予定だ。プレビューサイトを見る限り,Barbie Girlsと同じようなサービスになりそうである。また,興味深いところでは,イギリスの国営放送BBCが子供向け番組「Tronji」のMMOを,2008年中にも立ち上げるという発表が行われている。

 今後も,子供達をメインターゲットにしたオンラインゲームや,SNSのサービス開始を告げるニュースが次々と報じられるだろう。この分野がどのような進化や成長を遂げるのか,注意深く見守っていきたいところだ。

 

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。今回の連載記事でも話題にしていた長女を「Club Penguin」で遊ばせていた奥谷氏。子供をゲームで遊ばせているときは,小学生世代の行動パターンや興味をチェックする“テスター”として利用するため,常にそばにいるそうなのだが,たまたま買い物でしばらく席を外していたあとに,モニターを覗くと,アバターの吹き出しに「ボーイフレンドはいないの?」という文字があったという。父親としてのショックを隠しきれず,慌ててゲームをやめさせてしまったのだが,娘さんに「ほかの人の会話で,そんなことが書かれているのも気付かなかった」と,しっかり説明されたのだとか。早とちりしたことに気がついた奥谷氏だったが,「他人の会話が見えるようにしているのが悪い」と,ゲームの仕様に責任転嫁するという,大人げない態度をとっているらしい。


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http://www.4gamer.net/weekly/kaito/138/kaito_138.shtml