連載 : 奥谷海人のAccess Accepted


奥谷海人のAccess Accepted

2007年6月22日掲載

 最近,ゲームが文化として一定以上の地位を得るためには,それなりの社会的貢献が必要と考える人達が増えてきているようだ。開発者達は,あの手この手でゲームのポジティブな面をアピールし始めた。今回は,その先駆け的な事例をまとめて紹介しよう。

 

社会貢献が目立ち始めたゲーム産業

 

チャリティ事業に乗り出すゲーム開発者達

 

 ゲームは,暴力描写の影響や遊び過ぎによる負担など,何かとネガティブに取り上げられることが多い。ゲームを日常的にプレイする人の多くは,そのマイナス面がクローズアップされることに,辟易しているだろう。
 しかし,ゲームが社会へ貢献していると,はっきり言いづらいのも事実。音楽や映画は,元々サブカルチャーとして出発し,その後メインストリーム化していったが,チャリティコンサートやドキュメンタリー映画といった形で,その活動が認知されている。

 一方でゲームはというと,プレイしない人々にとっては,依然として得体の知れないものだ。ゲーム企業は,収益が映画産業を超えたと喜んでいる場合ではなく,社会における立ち位置を積極的に確保していかなければならないのではないだろうか。

 

One Big Gameのコンセプトは面白いが,生半可な作品を集めただけでは,それほど売り上げが見込めないので,開発者達は片手間で作るわけにもいかないだろう

 最近ではそのような機運がゲーム業界でも高まりつつある。筆者がそう感じるようになったのは,2006年に発足したOne Big Gameのことを,2007年3月に行われたGDC 07(Game Developers Conference 2007)で聞きかじってからのことだ。
 One Big Gameは,オランダ出身で現在サンフランシスコ近郊に暮らすMartin De Ronde(マーティン・デ・ロンド)氏によって設立されたNPO(非営利団体)だ。彼は,PlayStation 2用のFPSとして日本でも知られる「キルゾーン」を開発したGuerrilla Gamesの創設メンバーである。

 このOne Big Gamesのコンセプトは,1985年にアフリカ難民の救済を訴えてミュージシャンらが集結した,「USA for Africa」(ウィ・アー・ザ・ワールド)に似ている。ゲームクリエイター達が集まり,各人が保有するIP(知的財産)のパロディやMOD,JAVAやFlashで制作したミニゲームなど,思い思いの作品を提供し,それを一つのパッケージにまとめて販売し,その収益のすべてを慈善事業に役立てようというのだ。すでに,「クラッシュ・バンディクー」で有名なMark Cerny(マーク・サーニー)氏や,Xboxの仕掛け人として知られるSeamus Blackley(シーマス・ブラックレー)氏ら,欧米の名だたるゲーム開発者が参加している。
 また,Big One Gameのキャッチコピーは「Play, So Others Can」。これは,「ゲームで遊ぶほど,ほかの子供達もゲームを楽しめる」,といった感じの意味である。ゲームで遊べない貧しい地域の子供達に,PCやゲーム機のある環境を提供しようという計画のようだ。

 

 

教育現場に浸透していくゲーム

 

画像は,北米市場向けに2004年11月にリリースされたXbox用の「Dance Dance Revolution ULTRAMIX 2」。学校への導入は,社会的な貢献も学生や父兄に強く印象付けられる。そのうちLive機能を使って学校同士でのトーナメントが行われたら面白そうだ

 Microsoftは,地球温暖化の問題を啓蒙するソフトの企画/制作コンテストを,大学生や専門学校生など世界100か国以上における18歳以上の学生を対象に開催することを発表した。
 このプロジェクトは,「Xbox 360 Games for Change Challenge」と呼ばれ, Microsoftから無償で提供されている「XNA Game Studio Express」という開発ツールを使って制作することが条件。応募方法や詳しい条件は8月中にも発表されるとのことだが,コンテストの優勝者は,アメリカでシリアスゲームの現場を支えるSerious Game Initiativeという組織の傘下団体が主催しているGames for Changeというイベントで表彰され,賞金が授与されるという。良い作品であれば,Xbox Live Arcadeのダウンロードコンテンツとして売り出される可能性がある。

 また,アメリカで有名なのがコナミの「Dance Dance Revolution 」の公立学校での普及だ。ウェストバージニア州では,2006年1月に55万ドル(約6600万円)の予算を費やして,州内の全765校にDDR専用のXboxとテレビ,そしてダンスパッドを設置した。児童の3分の1が肥満傾向にあるというアメリカで,より楽しく“運動”させるというのが目的だ。
 このプロジェクトは,ゲームで遊ぶのが好きな子供達の心をガッチリ掴んだのか,カリフォルニア州の学校にも導入され始めている。教育予算が削減され,小中学生の体育のクラスが週1時間以下に減らされたカリフォルニア州の公立学校だが,ロサンゼルスの中学校で筐体を数台設置したところ,見張り役の先生が必要になるほどの大人気に。休み時間やランチタイムにも生徒達に開放するなどの対応に追われたという。2週間で7キロの減量に成功した男子生徒へのインタビューもニュース番組で放送されていた。

 思えば,筆者が日本の公立学校に通っていた頃は,「はだしのゲン」のような映画を鑑賞したり,ジョン・レノンの「Imagine」を歌ったりしていた。現在では,ゲームを使ったカリキュラムが取り入れ始められているというわけだ。このような積み重ねが「ゲームも役に立つ」という意識を広く浸透させ,やがてゲームの社会的な地位向上にもつながるのだろう。

 

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。奥谷氏の子供が通う小学校には,父兄から寄付されたPCやMacintoshが各教室に置かれている。以前,奥谷氏は娘さんの忘れ物を届けに行ったときに,休み時間を利用してMacで「MDK」を遊んでいた男子生徒達を発見。流血シーンが多いゲームなので,教育上良くないかもと思いながらも,子供達にゲーム談義を開始したのだとか。それだけならまだしも,休み時間が終わって席に戻った子供達を尻目に,先生が女子生徒の作文添削に気を取られている隙を見つけ,約10年ぶりのMDKを堪能したという。ところで,娘さんの忘れ物はちゃんと届けたんですか?

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