連載 : 奥谷海人のAccess Accepted


奥谷海人のAccess Accepted

2007年5月9日掲載

 1983年にフランスのリヨン市に設立されたInfogrames Entertainment(以下,Infogrames)が,2007年6月に創立24周年を迎える。2001年にはアメリカの有名玩具メーカーHasbroのゲーム部門を買収したことから,その資産であった“ATARI”の名を引き継いで北米での基盤強化に努めたが,その頃の勢いは衰え気味だ。いったい何が起きているのだろうか?

 

Infogramesにまつわるアレコレ

 

創業者解任の背景にあった拡大路線の末路

 

 Ubisoft Entertainmentとともにフランスゲーム業界の双璧をなすATARI(Infogrames)は,1983年6月に大学を卒業したばかりのBruno Bonnel(ブルーノ・ボネル)氏らによって設立された,ヨーロッパでも最古参のゲーム会社の一つである。化学エンジニアでありながら,学生時代からフランスのゲーム機Thompson TO7のゲームをプログラミングするのが趣味だったボネル氏にとって,ゲーム会社の起業は自然な成り行きだったのかもしれない。

 

多くのゲーマーにとっては,InfogramesよりもATARI ロゴのほうが馴染み深いだろう。ちなみに,Infogramesは「インフォグラムス」ではなく,フランス語風に「アンフォグラム」と呼ぶというのを筆者が知ったのは,恥ずかしながら今世紀に入ってからのことだ

 Infogramesといえば,ベテランゲーマーには「Alone in the Dark」(1992年)のパブリッシャとして知られている。また最近だと「Roller Coaster Tycoon」や,アメリカにおけるバンダイ・ナムコの「ドラゴンボール」シリーズの代理店として有名な会社だ。
 同社は,1996年頃からフランス国外への拡大路線を急速に進め,1999年にGT Interactive,2001年にはMicroproseやHumongous Entertainment,そしてATARIを傘下に置いていたHasbro Interactiveを買収した。2003年には,ゲーム開発/販売部門をATARIに移し,その拠点をニューヨークとしたのだ。
 Infogramesは,持ち株会社としてリヨンで黒幕に徹しており,フランス語圏でコミック販売などを行っているほか,フランスの衛星テレビ局Canal+と提携し,ゲーム専用チャンネルをプロデュースしている。
 このほかにも,ボネル氏は'90年代のイギリスで最大手だったデベロッパ Ocean SoftwareやGremlin Interactive,アメリカの開発会社 AccoladeやShiny Entertainmentを買収するなど,強行なビジネス手法をとり続けていた。

 

 ところが,ゲーム史に大きな足跡を残したATARIの名を借りてから,同社の業績は急速に悪化し始める。映画「マトリックス」と連携する形で2003年に発売された「Enter the Matrix」は,600万本を売る大ヒットとなったことが発表されているものの,高価なライセンス料が相当響いたのか,同年度の利益は前年を大きく下回る結果となっており,UbisoftやElectronic Artsへの身売り話もウワサされたほどだ。
 2004年には,ボネル氏は役員の不信任投票により業績不振の責任を取る形で前線から後退。後任の経営責任者が短命政権に終わったために,彼は一時的にCEOに返り咲いたものの,ATARIのオペレーションディレクターとしてテレコム産業から入社したPatrick Leleu(パトリック・レルー)氏の昇格に合わせて完全に身を引くことになり,24年にわたって育ててきたInfogrames/ATARIから身を引くことになった。

 

 

大規模な社内改革は功を奏すか!?

 

ATARIが年内の発売を予定している,新生「Alone in the Dark」。開発元は,「Test Drive Unlimited」と同じフランスのEden Gamesだ。短いストーリーに区切られたエピソディックスタイルとなり,元祖ホラーアドベンチャーに名に恥じないようアクションや恐怖感を募らせるセッティングも豊富にあるという

 ATARIは,経営の陣頭指揮を担ってきたブルーノ・ボネル氏の引責辞任だけに留まらず,7月までに会社全体で26%の雇用者の解雇を発表するなど,その後も激しい経営改革が続く。マトリックスのゲームシリーズを開発したShiny Entertainmentは,投資企業Foundation 9に売却されているし,次期リリース予定のFPS「TimeShift」はVivendi Gamesの手に渡った。
 このほか,Interplayの倒産に伴ってライセンスを管理することになった「Neverwinter Nights」など,全体で2000万ユーロ(約32億円)の資産売却の検討が発表されており,この余剰収入を得るためにDungeons & Dragonsのライセンスや「ATARI」の看板そのものを手放す可能性もウワサされている。いずれにせよInfogramesの創業から四半世紀となる2008年までには,良い形に方向転換しておきたいところだろう。

 現在,ATARIは直接日本での販売は行っていないものの,日本人ゲーマーにとってもその状況は気になるところだ。なぜなら,失礼な言い方かもしれないが,ATARIはヨーロッパのB級ゲームを北米市場で販売することが多く,このおかげで,日本人がそういったゲームを入手しやすい状況が作り出されているからだ。

 またATARIは,ロシアの1Cと北米市場流通に関して提携したばかりで,今後は,E3で紹介されるばかりでその後の消息が分からなかったようなロシア産ソフトが,アメリカゲーム市場の流通に乗り,輸入ソフト販売店などを通じて,日本でも手に入りやすくなる可能性がある。
 各地に散らばった開発チームを整理し,長年蓄積したノウハウや知的財産を活用しつつ,今後どこまで復活できるのか。レルー新CEOによる舵取りを見守っていきたいところだ。

 

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。暖かくなったので,家の庭でバーベキューをやろうと奮起した奥谷氏。材料は手際よく用意したものの,ストックしていた炭が冬の間に湿ってしまったらしく,店に買いに行く羽目に。しかし帰ってきた途端に,今度はマッチが見当たらず,再び買い物にでかけたそうだ。そんなこんなで,ようやく炭に点火できたと思ったら,隣の住人から「こんな場所で煙を立てるな」と文句を言われる始末。結局,台所で材料を焼き,庭で“子供のシケた顔”(奥谷氏談)を見ながら食べたそうだ。来週はいいことがありますよ,きっと。


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