連載 : 奥谷海人のAccess Accepted


奥谷海人のAccess Accepted

2007年2月21日掲載

 ルチャリブレ(メキシコ風プロレス)のようなニワトリのマスクをかぶり,雄叫びを上げる謎のアメリカ人。なんだこりゃと思わせるGamecock Media Groupの公式サイトだが,実はこの会社,PCゲーム業界では名の知れたビジネスマン二人が設立したばかりのパブリッシャなのである。今週は,従来とは異なる思想で作られたこの会社の過去と未来を探ってみよう。

 

業界に風雲を巻き起こす異端児の復活

 

「QUAKE」の爆発的ヒットに関わった
異色コンビが帰ってきた

 

 欧米では,大きな販売網と資金力を持ったパブリッシャに自らのゲームを委ねず,タイトルごとに新しい販売会社と提携したり,オンラインによる配信を行うデベロッパも数多い。大企業の支配を嫌い,自分達の信じる開発理念を貫きながら,リスク覚悟で理想とするサクセスストーリーに向かって頑張り続けるのだ。最近では,「Jade Empire」のBioWareや「Half-Life 2」のValveなどが,その典型例と言えるだろう。
 PCやコンソール機向けのパッケージ販売以外に,オンラインゲームやモバイル機対応ゲームが着々と発展する昨今,そんな独立系の開発チームが世に出るチャンスも増えてきた。ブロードバンドの一般化によってユーザーへのアプローチが容易になり,比較的安価に利用できるミドルウェアの登場による開発環境の整備も進んでいる。これらの要素が独立系デベロッパの追い風になっているのは間違いないだろう。

 

ただふざけているだけのようにも見える,マイク・ウィルソン氏(左)とハリー・ミラー氏だが,二度目のチャンスをものにしようと,いたって真剣だ。10年ほどのキャリアの中でさまざまな話題を振りまいてきた彼らだが,まだ30代。そのパワーは今後どこへ発揮されていくのだろう

 2007年2月12日,そんな独立系の開発チームをサポートするGamecock Media Groupという会社が起業した。創業者は,1990年代後半に同じような趣旨で設立され,当時,ゲーム業界の台風の目となったGathering of Developersで知られる,Harry Miller(ハリー・ミラー)氏とMike Wilson(マイク・ウィルソン)氏の二人である。
 ミラー氏は,ゲームビジネスやマネジメントに精通した人物だ。1995年にオンラインゲームサービス会社,Dwangoに入社し,そこでライセンスビジネスなどを経験したあと,設立したばかりのRitual Entertainmentに招かれてCEOとなり,初期のFPSにおける注目タイトルである,「SiN」をActivisionからリリースしている。
 一方のマイク・ウィルソン氏も,ミラー氏と同じく1995年にDwangoにいたが,6か月で退社してid Softwareに入社。「DOOM II」のマーケティングや,DOOMエンジンをライセンスする事業などに実力を発揮した。
 とくに,当時ゲームソフトなど置いていなかったセブン・イレブンと提携して「Quake」のシェアウェア版デモを設置して全国的に普及させるなど,数々の新しいマーケティング手法を開拓したことで知られている。だが,「id SoftwareはJohn Carmack (ジョン・カーマック)氏の会社で,彼の考える高いレベルでの就労が要求されている」とコメントするなど,その頃からid Softwareに対する不満を表しており,1996年末には退社してJohn Romero(ジョン・ロメロ)氏のION Stormに加わった。しかし,ここも長くは続かずに退社している。そのあたりの顛末については,本連載の第15回「あの時,"嵐の渦中"で起こっていたこと 〜 その1」第18回「あの時,"嵐の渦中"で起こっていたこと 〜 その2」をお読みいただきたい。

 

 

ウィルソン,ミラー両氏が仕掛けたGoD Gamesとは

 

 このようなバックグラウンドを持った,ミラー氏とウィルソン氏が1998年1月に興した会社が,Gathering of Developersだったのである。提携する6社の開発会社の代表者を役員にすることで「デベロッパが所有するパブリッシャ」という逆転の発想を実現し,“開発会社にとって最も有利な条件で広報/販売活動を行い,ロイヤリティを保証する”という理想を掲げて船出した。
 当時,ウィルソン氏は「映画に行くときパラマウントだからって理由で観ますか? いえ,ジム・キャリーだから観に行くんです。CDを買うときにバージンレコードだからって買うでしょうか。いえ,マドンナだから聞きたいはずです。ゲーム業界もそういうことなんです」と,ゲーム業界におけるクリエイター第一主義を表明している。既存の販売会社と開発会社の関係を打ち破る,ゲーム業界への挑戦だった。

 

Gathering of Developersは,3D Realmsが“開発者の権利”を訴えて販売権を取り戻した「Duke Nukem Forever」をいずれリリースする予定だった。しかし,その開発は遅れに遅れ,やがてGathering of Developersはなくなってしまった。最近,3D Realmsからデューク最新画像が公開されたが,Gamecockから発売されることはない模様

 Gathering of Developersに参加していたのは3D Realms,Edge of Reality,Epic Games,PopTop Software,Ritual Entertainment,そしてTerminal Realityの計6社で,ちょっとしたPCゲームファンなら誰でも知っていそうな開発会社ばかりだ。起業から4年の間に,Terminal Realityの「Nocturne」,Ritual Entertainmentの「Heavy Metal: F.A.K.K.2」(2000年),Croteamの「Serious Sam」(2001年),3D Realms/Remedy Entertainmentの「Max Payne」(2001年),PopTop Softwareの「Tropico」(2001年),Bungie Studiosの「Oni」(2001年)など,アクションゲームを中心に,参加会社以外のタイトルも含む多くの傑作をパブリッシングしている。

 ただ,これらのソフトはいずれもリリースがかなり遅れ,会社の資金繰りは良くなかった。しかも,3D RealmsとGathering of Developersは,Max Payneと「Duke Nukem Forever」の販売権をめぐり,当時,打倒Electronic Artsを掲げて日の出の勢いだったGT Interactiveと法廷内外で激しい攻防戦を繰り返して疲弊しており,最終的に発売の権利を勝ち取ったものの,Max Payneはともかく,Duke Nukem Foreverは3D Realmsの内部問題でいまだに発売のメドさえたっていないというオマケが付いてしまう。さらには,「Unreal」で成功していたEpic Gamesが,ゲームエンジンのライセンス事業へ手を伸ばしたためにGathering of Developersと疎遠になるなど,さまざまな逆風にも苛まれたのである。

 

 

Gamecockは,風雲を巻き起こせるか

 

 Gathering of Developersは,2001年のE3(Electronic Entertainment Expo)で“Farewell”(さようなら)と書かれたTシャツを配り,その直後にTake-Two Interactiveに売却され,参加各社それぞれの道を歩むことになった。Gathering of Developersの販売ブランド「GoD Games」は,その後もTake-Two InteractiveのPCおよびバリューゲームのブランドネームとして存続していたが,2004年末には2K Gamesへ名を改めて現在に至っている。
 このように,なかなか紆余曲折に富んだキャリアを歩んできたウィルソン氏とミラー氏だが,彼らの動きは常に「独立系デベロッパの代表として,影響力の強いパブリッシャと対等に勝負するにはどうすればいいか」ということに集約されているように思える。Gamecockも,提携開発元から役員を募るのをやめた以外は,Gathering of Developersのビジネスモデルをそのまま継承しているようだ。

 

Gamecockがリリースを予定している中には,オーストラリアのAuran Studiosが制作するMMORPG,「Fury」といった作品もある。Gamecockは今後もライブラリを増やし,1年で1タイトルくらいを発売していく予定だという

 Gamecockは,すでにメディアや映画関連のベンチャーキャピタルからもかなりの投資を獲得している。これを元手として,急速に発展したブロードバンドによるオンライン流通などを開拓し,いずれは大手パブリッシャとも互角に競争できる会社にしたいようだ。
 オンライン流通はパブリッシャ,すなわち“ミドルマン”(仲介人)を取り除くことを可能とする技術だが,彼らの理想が実現すれば,彼ら自身も不要になるという二律背反をも内包している。オンライン販売をしたり,無名の開発者を発掘して自社の流通に乗せるだけでなく,何かまったく新しい活路を見いだす必要もあるかもしれない。そうでなければ,Gathering of Developersの轍を踏むことにもなりかねないのだ。
 Gamecockは,会社発足から1週間も経たたないうちに,すでに5本のタイトルをラインナップしている。詳細が分からないので未知数だが,いずれもひとクセもふたクセもありそうな雰囲気が強く漂っている。PC用パッケージソフトに限らず,コンソール機やモバイルゲームなどにも進出する予定で,いずれゲーム業界の台風の目として再び脚光を浴びることになるのかもしれない。

 

Gamecockの発売予定リスト

タイトル開発元発売予定日ジャンル対応
プラット
フォーム
内容
FuryAuran Studios2007年末MMORPGPCPvPをメインにしたアクション重視のMMORPG
Hail to the ChimpWideload Studios2008年中シミュレーション次世代コンソール機「Halo」の元開発者の関わるタイトルで,動物王国の選挙戦で勝ち抜いていくのが目的
HeroFirefly Studios2009年春アクションPCほか残忍な暴力描写を含む激しいアクションながら,独特のコミカルさを持つ
InsecticideCrackpot Entertainment2007年末アクションアドベンチャーPC,モバイルなどだが,詳細未定昆虫型の人間の住むファンタジーワールドで起こる,ミステリ系のアドベンチャー
Mushroom Men: The Spore WarsRed fly Studio2008年中アクション/育成シムコンソール機,モバイルゴミから特殊能力を持つマッシュルーム人間を育てて市民戦争に参加させる

 

 


次週は「ゲームの影響力について」を予定しています。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。家族が風邪でバタバタ倒れていく奥谷家。予防注射をしたはずの子供達まで熱を出しており,最後に残った奥谷氏は「何か新種のインフルエンザかもしれない」と戦々恐々としているようだ。家族の食事作りから洗濯まで任される始末で,せっかくの連休も台無しになったとか。原稿の入稿直後に,「とりあえずオレまで寝込んでしまったときのため」と薬やインスタント食品を大量に買い込んだらしい。「GDC 2007」の取材間近だというのに,さて,どうなることやら……。


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