― 連載 ―

奥谷海人のAccess Accepted

 ここしばらく,過激な描写のあるゲームに対する批判が激しくなってきている。まだ発売前の「25 to Life」を議員や慈善団体が非難するかと思えば,最近では,発売からしばらく経過した「Grand Theft Auto:San Andreas」が矢面に立たされている。今回は,ゲーム批判に関する現在ホットな話題を二つお伝えしよう。


ゲーム批判の最前線

■警察とギャングの銃撃戦を描いた問題作


25 to Lifeとは,重犯罪に適用される判決「刑期25年から終身」の意味。ゲームとしては面白そうな内容だが,警官殺しゲームの汚名を返上できるだろうか……
 「Grand Theft Auto」の爆発的ヒット以来,アメリカやヨーロッパで盛んに制作されているのが,狭義では"クライムアクションアドベンチャー"と呼ばれる,暴力的なアクションを前面に押し出したゲームの一群である。とくに,広大な都市を散策しながら好みのミッションのみを受けられるなど,ゲームシステムに阻害されることなくプレイできる自由度の高さが,この手のゲームのウリになっている。
 その最新のエントリーといえるのが,イギリスのEidos Interactiveが開発中の「25 to Life」である。このソフトは,アメリカ上院議員のCharles E.Schumer(チャールズ・E・シューマー)氏をして,「Grand Theft AutoがRomper Room(幼児向けテレビ番組。日本版"ロンパールーム"を覚えている人もいるだろう)に見えてしまう」と言わしめる作品で,プレイヤーはギャング団と警察のどちらかに加担して戦うという,暴力的な内容になっているのだ。
 もっとも,ゲームとしてはなかなか面白いアイデアも含まれており,例えばギャングでは通行人を盾にしてまで銃激戦を展開できるが,警官は当然周辺への影響も考慮してプレイせねばならず,さらにギャングメンバーも,撃ち殺すことなく現行犯逮捕するのが望ましい。「オンラインの対戦マッチで逮捕なんて悠長なこと……」と思う読者もいるだろうが,対戦ゲームの場合は逮捕すれば相手プレイヤーのリスポーンまでの時間が延びることで,勝負に大きな影響を与えるようになっているのである。
 2005年のE3(Electronic Entertainment Expo)ではプレイステーション2とXbox用のみが公開されていたため,本誌のE3特集記事では漏れてしまっているものの,欧米ではPC版も10月中にリリースされることが決まっている。

 シューマー議員は,遺伝子解析情報関連の版権問題やクレジットカードのID盗難など現代社会の問題に積極的に取り組む民主党議員で,先の発言は,地元のニューヨーク・デイリー誌のインタビューで答えたものだ。彼は「ニューヨークほど警察の価値を理解している場所はない」として,ニューヨークのソフト販売店で店頭販売を見合わすように呼び掛けているほか,SonyやMicrosoftへも,Eidos Interactiveとの25 to Lifeに関する契約を考え直すように要請しているなど,かなり過激な行動をとっている。
 このシューマー議員の意見に追随したのがCNNだ。看板キャスターとしてトークショウの司会も務めるNancy Grace(ナンシー・グレース)氏が数分にわたって25 to Lifeについて話題にし,「Grand Theft Autoなんかに驚いていてはいけません。今は25 to Life。警官を殺すのが目的のゲームです」と語ってパネラーを驚かせている。

Taser社が販売するテイザー・スタンガンは,容疑者とつかみ合いになることなく近距離で放電する仕組みになっており,各地域の警察ご用達のアイテム。写真のモデルかは分からないが25 to Lifeにもフィーチャーされ,ギャングは警察から奪い取ることも可能らしい
 また,7月になって,テイザー式のスタンガンを開発するTaser社が設立したテイザー基金も参戦した。テイザー基金は,同社の利益や募金を殉職警官の遺族に分配する組織で,すでに6000万円(約56万ドル)近い金額が支払われているという。そのディレクターであるGerry Anderson(ゲリー・アンダーソン)氏が,テイザーという登録商標がゲーム内で無断で使用されていると非難しており,さらに「このようなゲームは警官を"非人間化"するものだ」とプレスリリースでコメントしている。
 発売前の作品なのに,なぜ議員や慈善団体がゲームの細かい情報を入手しているのか不思議で仕方ないが,良い意味でも悪い意味でも,25 to Lifeはアメリカで話題沸騰中のソフトなのである。



■MODでセックスシーンを解除!?


 ゲームの批判者達の矢面に立っているのは25 to Lifeばかりでない。GTA最新シリーズの「Grand Theft Auto:San Andreas」(以下,San Andreas)も,周辺の波風が荒くなってきた。
 このゲームには,"彼女と部屋に閉じこもってセックスを楽しむ"ミニゲームが隠されて(?)いる。しかもなんと,部屋の中で実際にコトが行われているのを鑑賞できるのである(もっとも,後述するMODを使用しないと,このミニゲーム自体をプレイできないが)。

2004年11月に,Rockstar GamesとInterscopeのコラボレーションでリリースされたGrand Theft Auto:San Andreasの8枚組CDボックスセット。ヒップホップからカントリーまでラジオ局ごとに分かれている
 同シリーズは,「Grand Theft Auto III」が2001年10月にリリースされて以降,(とくにコンシューマでは)日本製のソフトに押されっぱなしだった欧米のソフトセールス界に旋風を巻き起こした,アメリカゲーム界を代表するゲームとして知られている。
 しかし,"より盛りだくさんな続編を"というファン達の期待から逃れられないのか,San Andreasでは服やファーストフードを買ったり,ビリヤードやバスケットボール,ラジコンカーのレースなどを楽しめたりするうえ,RPG(携行式ロケット弾)を警察のヘリコプターに打ち込むことだって可能。前代未聞の8枚組サントラCDボックスセットまでリリースしている。

 もっとも,メディア・ウォッチドッグ(番犬)として報道を監視する団体のThe National Institute on Media and the Familyが噛み付いたのは,このゲームの暴力性の高さではなかった。くだんのセックスゲームはオランダのMOD制作者が手がけた「Hot Coffee」というMODソフトを利用して,PC版でのみプレイできるようになっており,実際にカメラを彼女の部屋の内部に移動させると,そのままの行為が行われているのを見られる。そもそも,このMODは春先から出回っていたものだったが,ここに来てAP通信やロイターでも取り上げられて,あらためてスポットライトが当てられた格好だ。
 長らくコメントを控えていた販売元のRockstar Gamesが,ようやくアメリカの大手ゲームサイトGameSpotで「あれはゲームの仕様ではない」とコメントを出したものの,MODの内容や開発経緯とは辻褄が合っておらず,MODを制作した人物もAP通信に「僕が制作したMODは,ゲームに何も加えていない」とコメントしている。
 筆者がこの原稿を執筆している日本時間7月12日現在,ゲームソフトのレーティング制度を取り仕切るESRB(Entertainment Software Ratings Board)が調査を行っており,その成り行きには業界全体が注目している。日本でも神奈川県がGrand Theft Auto IIIを有害図書に指定したばかりだが,もし例のセックスシーンがRockstar Gamesも関与しないところで開発者が仕組んでいた"イースターエッグ"だったとしたら,Rockstar Gamesをはじめとする関係者達もある意味被害者だといえる。
 しかし,そもそもすでにMatureレーティング(対象年齢17歳以上)でリリースされているものを,AO(18歳以下禁止)に引き上げたところで,何か意味があるのだろうか?


 もちろん,過激なゲームに対する批判は今に始まったことではない。「DOOM」や「Duke Nukem 3D」などゲームソフトが本格的に3D化し始めた'90年代中期から大きく取り上げられるようになり,少年犯罪などと照らし合わせることで現代社会における"スケープゴート"となっていったのは周知の事実といえるだろう。
 映画や小説など他メディアも含め,現在では精神面への(犯罪に走らせる)影響は科学的に立証されていない。「Postal」や「Manhunt」のような残虐性をウリにした商売意識の高いゲームも少なくないが,結局のところ,開発者やプレイヤーのモラルによるところが大きいのである。

 今後も,「Saint's Row」というギャングの抗争を描いたXbox 360用の作品がTHQからリリースされる予定だし,Webzenの,クライムアクションを完全オンライン仕様にした「All Points Bulletin」も,25 to Lifeと同様に,ゲーム内で警察とのインタラクションが想定される。
 すでにハリウッド映画を超えたともいわれるゲーム産業だが,過激な行為を仮想世界で楽しむソフトがなくなることはおそらくなく,今後もゲーム批判は続けられていくことだろう。



次回は,「ゲームはドラマになりうるか?」と題してお届けします。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。「今の住まいに引っ越してきた8年程前,近所ではギャングの抗争が激しかった」と回想する奥谷氏。なんでも黒人系とフィリピン系がいがみ合っていたらしく,真っ昼間から大通りで銃やバットを振りかざして警官に包囲されていたり,夜に車が放火されていたり,果ては窓から見える場所で銃殺事件が発生したりしただの,嘘か本当か分からないことを話す。「こんな場所に引っ越すんじゃなかったと悔いた」と彼は言うが,なぜ8年も居座っているのだろうか。


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