― 連載 ―

奥谷海人のAccess Accepted

 この連載を毎週読んでいるような人なら,検索サイトを利用して,英語でゲームの生の情報を探したことがあるかもしれない。そんなとき,必ず検索結果の上位にランクされているのが,IGNのVault NetworkやGameSpyのPlanet関連サイトのはず。IGN系列の親元IGN Entertainmentは,2004年3月にGameSpy Industriesを買収しているから,これらすべてのサイトが一つの巨大なネットワークを構築していることになる。今回はGameSpyを例に,ナローキャストの台頭や専門知識を強みとするサイトのあり方について解説しよう。


巨大ファンサイトにみる専門知識の有用性

■専門知識をネットワーク化したGameSpyとは?


 GameSpyは,1995年にMark Surfas(マーク・サーファス)氏によって始められたWebサイト制作会社Critical Mass Communicationsを前身としている。当時「Quake」にハマッていた同氏が,オンラインゲームに可能性を感じて,「GameSpy 3D」というマッチメイキングソフトウェアを開発,1998年までにオンライン系ゲームソフトを総合的に扱うGameSpy Industriesへと発展した。
 当時はまさにドットコム・バブルの最盛期。3Dシューティングを中心に複数のソフトを紹介するPlanetサイトが登場したのもこの頃のことだ。
 このバブルはあえなくはじけてしまったものの,GameSpyはGameArcadeなどさまざまなツールを公開したり,プレイステーションや任天堂のゲーム機などに進出したりすることで,難を逃れている。

GameSpyは,2004年3月にVoodoo Extreme 3Dなども傘下に持つIGN Entertainmentによって吸収され,名実共に世界最大のゲーム情報ネットワークになっている。IGN Entertainmentはライフスタイルや映画などの情報サイトへも精力的に触手を伸ばしているようだ
 Planetサイトは,上記のように「Planet Quake」からスタートしたもので,現在では「3D Action Planet」や「StrategyPlanet」などのジャンルに分かれて,合計300本近いタイトルを紹介している。
 このネットワークの組織は二段構造になっており,アクセスの多い28タイトルは「Planet Quake」や「Halo Planet」のような公式の称号やサイトのテンプレートを得て,本社のあるカリフォルニア州サンディエゴ市のサーバーで管理されている。その他90%は,GameSpyが認可したアフィリエイトとしてホストされているだけだが,いずれにしてもGameSpy.comなどの総合サイトや,GameSpy ArcadeFilePlanetといった関連サイトへのリンクや系列サイト間での紹介が盛んに行われて,ユーザーへの露出も確実に高くなるのである。

 興味深いのは,これらの専門的なファンサイトはほぼすべて,ゲーマー出身である一般の運営者達に委ねられているという,日本人にはあまり馴染みのないシステムであること。GameSpyから広告バナーを提供されることはあっても,基本的に運営者の労苦が換金されることはない。彼ら運営者達は,サイトの管理のために職場や学校生活を放棄することなく,ゲームが好きだという情熱でサイトの運営を行っているのである。
 もっともこれらの運営者には,例えば 〜@actionplanet.com のようなメールアドレスなどが支給され,GameSpyの準メンバーとして認められることで,対外的な情報入手活動も容易になるといったメリットがある。専業ライターではないが,Electronic Entertainment Expo(E3)のようなゲームイベントやプレス発表会にも堂々と参加できるのである。フォーラムなどがGameSpyから提供されることでファンの意見も汲み取りやすく,セミプロとしてゲームの発展に寄与できるというわけだ。
 このように,GameSpyという非常に企業的な性格を持つ組織は,セミプロの専門知識を活用することで独立系メディアとしてのノリを失うこともなく,ゲーム情報にはなくてはならない総合的なネットワークへと成長していった。



■アメリカの市場アプローチに見る広報戦略の変化


GameSpyは,「Quake」のようなFPSの発展に便乗する形で成長してきた。本社オフィスには,今でも「Quake」ロゴをあしらった数メートルの門が飾られているらしい
 ここで少し,テレビ広告に話を移す。  アメリカの三大メジャーネットワーク局(ABC,NBC,CBS)の広告スポット料は,1977年と2004年の平均を比較すると,5倍近くに膨れ上がっている。その一方で,ケーブルや衛星放送による多チャンネル化やインターネットの影響をもろに受け,視聴率シェアは1985年からの20年間で42%も下落した。
 この事実は,アメリカのマスメディアにおける広報戦略を根本的に変化させており,マクドナルドやコカコーラ,P&Gなどの巨大企業は,前世紀までは全広告費用の3分の2をテレビCMに投じていたのに対し,現在では3分の1にまで減らしている。そして新たな宣伝手法として台頭しているのが,例えばYahoo!,Google,iVillageなどインターネット媒体の利用や,ここ数年間で急激に増えている専門雑誌での広告,専門店や関連企業でのスポット広告などである。
 これら比較的新しい宣伝手法は,これまでの"ブロードキャスト"という概念と区別するために,"ナローキャスト"と呼ばれている。アメリカでは,テレビ視聴者の70%が,CM中はザッピングしたりトイレなどで席を立ったりするという統計もあり,ブロードキャストでのCMの効率が疑われて久しい。そのため,例えばダイエット食品なら女性誌やフィットネス誌で集中的に紹介するというように,ターゲットを絞り込むようになってきたのだ。

 このナローキャストは,そのままファンサイトの動向と一致していると考えていいだろう。つまり,メディアリテラシーが向上して能動的に情報を収集する人が増えてきたのに伴い,総合的なエンターテイメント媒体に投資するよりも,ゲームのファンであれば必ず訪れるであろう専門のファンサイトに広告を出したりサポートしたりするほうが,確実に情報を伝えられるのである。
 ファンサイトの運営者は,四六時中そのゲームをプレイしているような,各ゲームへの思い入れが強い人が多いはず。特定のゲームに集中して動向に目を光らせている彼らの知識は,本職の業界人をしのぐ場合もあるほどだ。彼らはまた,ほかのプレイヤーとの直接的なコネクションを確保しており,多数のプレイヤー達の意見を代弁するオピニオンリーダーとしてゲーム開発者も一目置いていることが多い。そのため,先述したようにプレス発表会への参加が認められたり,α版を特別支給されてフィードバックに貢献したり,開発者との連絡を密にして直に情報を得たりするようにもなる。アメリカのファンサイトの運営者がセミプロとして活動しているのを,筆者も何度となく目にしている。
 こうして,人気ファンサイトは制作者と一般プレイヤーをつなげる"ハブ"として機能するようになり,公式サイトよりも詳しいニュースや厳しい意見が両立する信頼できる情報源に成長していくことになる。ナローキャストの原理が使用されているが,制作側がこのハブに情報を送るだけで,その情報はインターネットを介して次から次へと飛び火していくという点で,ほかのメディアに勝るとも劣らない効率の良さを持っているのだ。

 とはいえ,とりわけ北米で雨後のタケノコのように登場している,業界人のふりをするのが目的の(業界関係者はE3に入れるのだ)各種"ファンサイト"や,運営側と開発側が近づきすぎてしまったがゆえの"非公式の「公式サイト」"など,各種の弊害も多い。
 これらの問題がクリアされ,日本でもファンサイト全盛の時代が来る前に,4Gamer.netのような比較的幅広い情報を扱う総合サイトは,生き残りをかけて,総合知識と専門知識の両方をバランス良く取り入れていかなければならないのかもしれない。



来週は,「過熱するゲーム批判」と題してお届けします。お楽しみに。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。熱帯魚の飼育が趣味という奥谷氏。一時は繁殖にも手を染めて,地元の熱帯魚店へ卸して小銭を稼ぐほどの腕前だったらしい。数年前に番(つがい)や機材を売り払って一つの水槽にまとめたらしいが,新しく追加したダイヤモンドエンゼルが産卵行動を始めたことから一念発起。久々の水槽のセッティングに妙な歓喜を覚えたという奥谷氏を尻目に,彼の奥さんは家が再び水族館のようにならないか心配しているそうだ。


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