連載:ハーツ オブ アイアンII ドゥームズデイ スパイ大・・・戦?


ハーツ オブ アイアンII ドゥームズデイ スパイ大・・・戦?

第12回:されど,誰が「満州」?(前編)

 

旭日を背景に翻る五色旗という,まことに示唆的なプロパガンダがトレードマークの満州。いわばここから旭日を外してしまおうというのが,今回のプレイだ

 「満州」という存在を語るのは難しい。その成立の背後には幾重にも意図と意思が折り重なり,因果の糸を解きほぐすのは一苦労だ。
 だがもし,日本が極めて早期に(ゲーム的にいえば1936年1月1日に)満州国における自らの権益を放棄し,アメリカがそれを了承していたら,歴史はそこからどのように展開するのだろうか。
 日本の傀儡から脱する一方で庇護を失い,世界を見渡したとき良好な関係を築けている相手などいない,世界中から孤立した独立満州は,来たるべき大戦をどのように生き抜くべきなのだろう……というか,そもそも生きていけるのだろうか?

 

この連載は,第二次世界大戦あるいはその後の歴史に関わった,いかなる国や民族,集団あるいは個人をおとしめる意図も持っていません。ときに過激な表現が出てくることもありますが,それはあくまでゲームの内容を明確に説明するためのものですので,あらかじめご了承ください。

 

 

最小限の改変で満州を独立させる

 

 さて満州の国情を分析する前に,独立満州を世に生み出すには若干面倒な手順が必要だ。基本的には連載第5回と同じで,まずは1936年日本でスタートをきる。
 ゲームを開始したら,まずはポーズ。しかるのちに満州における傀儡政権の解体を行う。この段階で一度セーブしてゲーム終了。それから満州でゲームを再開する。この時点で,独立国家満州の完成である。
 このときすでに満州の行動がいくつかAIによってプロットされているので,適宜方針を修正し,そのまま1月7日までプレイしたら再びセーブして,一度ゲームを中断する。
 タイトル画面に戻ったら,今度は1月7日でセーブしたデータを使って,日本でプレイを再開する。そしてゲーム開始直後にポーズして,外交タブから満州を相手として「同盟からの追放」を選択,これで満州は日本との軍事同盟から離脱する。ここでデータをセーブして,満州でゲーム再開すればOKだ。

 

まず日本を選んで,満州の傀儡政権を解体し,セーブ
そのセーブデータで満州を選ぶ
AIが研究や生産を組んでいるので,キャンセルして再プロット
1月7日か8日ごろになったらセーブして日本を選択,満州を同盟から追放

 

 基本的な手順としてはこれですべてなのだが,実はこまごました選択肢が多い。以下,今回のプレイでどうしたかを中心に説明しよう。
 まず,日本軍の国内通行許可は維持している。これを解除してしまうと,ゲームの構造上,日本は日中戦争にほぼ100%負けてしまうのだ。通行許可さえ維持しておけば日本の勝率はさほど変わらないようなので,ゲーム展開に与える影響の小ささを優先し,通行許可を維持することにした。
 次に,日本が満州を同盟から排除するには,100金程度の外交費が必要となる。傀儡政権解除と合わせて130金前後だ。この程度の出費は日本くらいの大国なら大丈夫だよね,ということもできるが,今回はこのゲームに用意されたチートコードを用いて日本に500金を追加している。差し引き+370金になるが,謎の黒字分は外交交渉でスイスに無償援助することにより歴史の闇に消しておく。

 

 最後に,日中戦争が始まり日本の占領地が一定区域を満たすと,蒙古国が建国されるというイベントがある。こうして成立した蒙古国は,なぜか満州と軍事同盟を結んでいるうえ,軍隊の維持費/移動/援軍派遣周りで不可思議な挙動を示すようになる。
 これは通常の進行では絶対に起きない状況によって引き起こされる一種のバグなのだが,満州/蒙古国の間でならば軍事同盟の破棄が可能となっているので,これによって問題は解消できる。といっても破棄にはやはり100金程度がかかるので,先ほどと同様にチートコードを使って資金を増やしたあと,残金をスイスに投下している。
 ちなみにこんな面倒なことをしなくても,1936年1月1日のセーブデータをテキストエディタで開き,適切な箇所を適切な方法で書き直せば万事丸く収まる……が,これは万人向けの安心安全な方法とは言いかねるので,今回はあくまでもゲーム内の手順で解決する方法をとることにした。

 

 

意外と素質のある国

 

最初のころは基本的に産業のページ以外見なくてよい。そも,軍隊と呼べる軍隊いないんだし

 さて,ここで改めて満州を眺めてみよう。ゲーム開始時の基礎ICは21。20は超えているので研究ラインは2本ある。お世辞にも大国とはいえないが,中堅からちょっと下程度の実力は秘めている。
 研究チームは,ドゥームズデイでの追加でかなり充実している。質的にはイタリアより恵まれているくらいだ。唯一の弱点は艦船研究に向いた機関がないことだが,実はそれすらも「本当にいない」わけではない。イタリアには情報技術にフィットした機関が「本当にいない」ので,これは天地の差といってよい。
 技術開発状況は,実質まったくの白紙。ほんのわずかな研究はなされているが,軍事関係は真っ白だ。ドクトリンからなにから,あらゆるものをゼロから研究しなくてはならない。
 資源産出状況はあまり芳しくない。希少資源が絶望的に足りないほか,労働力の増加も+0.2/日と厳しい数値である。もっとも初期労働力が100与えられているので,その点では国家規模の割に恵まれているといってもよいかもしれない。
 政府スタッフは……控えめにいって,かなり絶望的である。デメリット能力が並ぶだけでなく,1936年段階では交代要員もいない。ただし,年を追ってかなり有能なスタッフが出現していくので,まずは辛抱というところだ。
 政体はファシスト,統制経済&徴兵制にかなり色濃く傾いている。経済と軍事は中途半端が一番よくないので,設定としてはかなりありがたい。労働力が少ないのに大量生産に向いた徴兵制というのは厳しいところだが,徴兵制だとほぼありとあらゆるものの量産効果が向上する(V1飛行爆弾すら量産効果が高まる)ので,使いようである。
 またタカ派&介入主義にもかなり強くシフトしている。こちらは戦争するならこれ以外の選択はなく,最初からタカ派で介入気味なのは実に素晴らしい。
 外交関係は,日本との関係が良好な以外,ほぼ世界中からマイナス評価である。さらに,北にソ連,南に中国国民党&日本軍。いずれも1対1で立ち向かうにはちょっとタフな相手のうえ,安易な同盟は簡単に即死フラグに変わり得る。とにかく慎重な行動が要求されるというわけだ。

 

 

非武装・工業化・貿易立国

 

戦力の下がった民兵など何の役にも立たない。即解散。

 満州がまずやるべきは,すべての軍隊を解体することである。準備ができないうちにソ連が宣戦してきたり,日本軍を撃破した国民党軍が満州に宣戦してきたりすれば,何をどうやったってゲームはそこまでである。時代錯誤な軍隊が数個師団いたところで,「即死」の「即」の実時間が変わる程度だ。補給物資を与え続けるのは無駄もいいところなので,さっさとすべて解体する。軍隊を解体すればそれは労働力に還元されるので,将来的に高い能力を持った軍隊として再生できるかもしれない。
 さて,外敵からの脅威に対し完全に無防備になったところで,満州10か年計画に着手する。
 満州のIC配分を見てみると,ある程度の外交交渉が可能になるだけの資金を貯めるために必要な消費財割り当てが約11IC。軍隊は皆無なので,有効IC25のうち13ほどが自由に使える。

 

日本軍以外はいなくなった満州。工場の建設を開始する

 この13ICを,今回はすべて工場の建設に投じる。ちなみに工場の建設は「タカ派」に寄っていればいるほど速くなるので,政体スライダーの最初の1手は「タカ派」方向で確定だ。
 工場は5ICを約1年,一定以上のインフラが完備されたプロヴィンスに投入することで,プロヴィンスのICを+1してくれるという建造物である。1年というと長いが,タカ派の修正があれば10か月程度まで短縮される。とりあえず10年=120か月というスパンで考えると+12IC程度ということになる。1946年ごろにこんな悠長なことをしていられるかどうかはともかく,2プロヴィンスでやれば5年=60か月で+12ICだから,なんと5年で基礎ICが50%増しになる計算である。
 基礎ICと有効ICのカラクリについても考えると,この「工業化」のメリットはさらに大きくなる。有効ICは,基礎ICを基に,閣僚の能力による補正,技術による補正,政体による補正を受けて増減する。これらの補正はすべてパーセント補正なので,もしすべての補正の合計が+50%とかいうことにでもなれば,基礎ICが20でも生産などに使えるICは30ということになる。

 

2年目もスライダーはタカ派に。これで工場生産の速度アップ 有効IC増加の技術を研究すれば工場3個の建設が100%の進行速度に

 

 +50%の補正なんて無茶な話だと思われるかもしれないが,比較的早期に完成する工業系技術三つで合計+15%,政体スライダーで統制経済側に振りきらせると+25%。すでに+40%までは視野に入っている。ここにIC増大能力をもった閣僚が加わったり(IC+5%の人は結構たくさんいる),人造石油技術から分岐しているIC増加系技術を実用化すれば,+50%補正は簡単に実現できる。
 +50%が現実的なラインとなれば,工場ユニットは事実上,1個当たり+1ICでなく+1.5ICとなる。先ほどのように2ラインで工場を5年間建て続ければ,+12ICではなく,+18ICというわけだ。
 もちろん,これですべてバラ色というわけではない。
 まず,研究ラインの数は基礎ICによって決まる。ICにおける80という数値は,研究ラインが5本に達するという点で「大国か否か」を決める一つの基準と考えてよいが,これはあくまで基礎ICで計算される。満州の例でいうなら,基礎ICは21なので,研究ラインを5本にしたければ59個の工場増設が必要ということだ。

 

幸福の瞬間。これで基礎ICが+2される

 また,ICは工場に依存するが,工場がICを生み出すには資源が必要だということも忘れてはならない。「基礎IC」の1ICごとに,1日あたりエネルギー2,金属1,希少資源0.5が消費される。これが満たせなかった工場はICを産出しない。満州のようにあまり資源に余裕のない国が工場を大増築すれば,国内生産分の資源で工場が維持できなくなる。
 維持できなくては工場を建てた意味がないので,だぶついている国から資源を輸入する。最終的に物資は1ICで最低でも4物資になる(最終的には1ICで6物資近く産出できる)ので,工場1個で1.5IC増えたとして,0.5IC相当の物資=2物資で必要3点セットが輸入できれば,ちゃんと工場1個でICが1増えている計算になる。万が一3点セット購入に4物資がかかったとしても,0.5ICは増える計算だ。
 細かい計算はさておき,要はひたすら工場を建てていけば,戦争しなくても超工業大国になれる。したがって,満州も大国になれるはず――これが満州10か年計画の骨子である。

 

 

無計画という計画

 

日中戦争の開始。日本がどれくらい伸張するかは運次第だ

 あまりにもシンプルな計算で始まった満州10か年計画だが,ここには満州特有の罠が二つある。
 一つは,日本がノモンハン事件を機に対ソ開戦するケース。満州がこの戦争に即座に巻き込まれることはないが,こうなったら満州の未来はどこまでも暗い。
 満州が非武装中立で工場建設にいそしめるのは,ひとえに日本が中国統一戦線の攻勢を押さえ込んでいるからだ。だがノモンハンで対ソ戦が始まると,まあ,議論の余地なく日本は支えきれなくなって大陸から追い出される。で,日本が中国から追い出されると,中国統一戦線はほぼ間違いなく満州に宣戦するので,満州に残された時間は一気に短くなる。
 もう一つは,日本が中国戦線で大敗を喫した場合だ。こちらもノモンハン開戦と同じくらいの確率で生じる。典型的なパターンは,南京近くに日本軍の別働隊が上陸,突破して南京を占領したのはよいが,退路を断たれて包囲殲滅されるというもので,これで戦力を大幅に損なったあげく,黄河渡河戦闘でおかしな包囲殲滅が複数回繰り返されると,日本軍は国民党軍に華麗に駆逐される。
 これらのケースに関して,今回の満州では世の中のありとあらゆる縁起物に祈りを捧げて黙々と工場を建て続ける以外に選択肢がない。仮に相手が中国国民党だけで,1942年あたりに日本軍の窮地が明らかになって,1944年ごろ日本軍が突破されるといったスケジュールなら,防衛線を築く日程の調整も利くが,これ以前となるとかなり青色吐息である。相手がソビエトだった場合は,ほぼ詰みだ。
 実際,筆者は独立満州を何度か個人的にプレイしたことがあるが,これらの“事故”が起こると,もうどうしようもない。いや,どうにかなる場合もあるかと思えば,どうにかなりそうでならない場合もあって,面白いには面白いのだが,基本的には詰みである。

 

ついに研究ラインが3本に。ただし研究ライン増加によって国家維持の固定費も上昇することに注意

中央統制経済は資金の伸びが悪いので,物資と引き換えに得た資源をさらに売ってお金に

 不幸な過去の話はともかく。今回のプレイにおいては幸運にもそういった類の事故は起こらず,満州は無事序盤を生き延びた。
 研究開発は産業・情報・農業の三つに重点を置いた。軍事関係はそれらの研究の手が空いたときに研究を進め,歩兵と陸軍ドクトリンだけに留めた。
 だが,別の角度で“事故”は起こった。1937年の末ごろ,海岸に上陸した日本軍は巧みな起動で海岸線を次々と封鎖,1938年に初頭には中国のほぼ半分が日本軍の占領下に入る。
 実のところ,これだけたくさんドゥームズデイをプレイしてきて,日中戦争で日本が勝つというシーンはほとんど見たことがない。こちらとしてはいつもどおり日本が黄河周辺でグダグダになって,1945年ごろにソビエトが日ソ中立条約を踏みにじって突入……という展開を大前提としていただけに,計画の大幅な見直しが必須となった。
 1940年4月には基礎ICが40を突破,研究ラインが3本になる。一方で日本はそつなく対中戦をこなし,1940年10月には国民党中国を併合。中国には汪兆銘政権が立つことになった。満州を諦めた日本は,「より巨大な満州」を成立させることに成功したのである。
 幸い,日本と満州の関係は貿易を通じていまだ良好である。汪兆銘国民党と満州の関係は険悪だが,日本の属国である以上,汪兆銘は日本の許可なしに満州に宣戦はできない。かくして満州は南からの人海戦術に押し流される危険はなくなったが,日本が中国から追い出された頃合いを狙って,蓄えに蓄えた軍事力で国民党を討伐し,清朝の復辟を遂げるという筋書きは消滅した。
 まあ,満州で最初から「目標」や「予定」がうまくいくはずがないのだ。だってここは満州なのだから……。

 

AI日本の巧みな機動。たいていは黄河を渡れずに,あちこちで包囲されて終了なのだが……

 

こうなってしまえば国民党中国もおしまい。まだ多少の時間はかかるだろうが,勝敗の行方は動かない 満州のICが国民党中国のそれを抜いたところ。ここから国民党が巻き返すことはまずないだろう

 

日本が日中戦争に勝利。これで清朝再興の夢はほぼ絶たれる。でもきっと,なるようになるさ 汪兆銘の能力。歩兵と民兵の生産速度が4分の3になるのはすごいが,指揮統制値−10%もすごい

 

 

大興奮の戦争が満州抜きで

 

どんどん増えていく工場の生産ライン。軍隊? なんですそれ?

俗に言うフィンランド化。やはりこの地域で最大の脅威はソビエトだろう

 1941年に入って,満州は大きな変動を迎える。前の年から動かし始めた右派/左派スライダーの効果で,政体がファシズムからレーニン主義にシフトしたのである。ちなみにトップは溥儀で変わらないが。
 予定としては,このままスターリン主義にまで移行,あわよくば共産圏に入ることでソビエトからの宣戦を防ぐとともに,ソビエトが日本に宣戦したら勝ち馬にのって清朝復辟へ突っ走ろうという,にわか作りもいいところの計画である。
 この計画の問題は2点で,共産圏の仲間に入れるか,入ったはいいがソビエトもろともヒトラーに潰されないか,ということになる。前者はそのときになるまで分からないが,後者については世界情勢とにらめっこである。すくなくともドイツがウラル近辺にまで突破を果たしたり,バクーを陥落させたりするようなら,ソビエトと組むという選択はありえない。

 

バルバロッサ作戦開始。この段階では,まさかこれがあんな戦いになるとは

 そして満州の基礎ICが間もなく50に到達しようとする1941年6月22日,ドイツはソビエトに宣戦布告。バルバロッサ作戦がスタートする。ちなみにこの段階でまだまだ満州の軍備はゼロである。
 ドイツは順調に戦線を進め,1941年の冬にはモスクワに隣接するプロヴィンスに到達する。1942年の春になると戦線はさらに前進,ソビエト3大都市はいずれも陥落していないものの,モスクワとスターリングラードの真ん中近辺でソビエトの戦線がちぎれるように崩壊した。ソビエトの負けパターンである。だが,ここから独ソ戦はドラマチックな展開を見せ始める。

 

最初の冬を迎えた東部戦線。ドイツの立場で言えば,可もなく不可もなくといったところか アメリカがドイツに宣戦。日本はいまだ平和のまま。いつか対米宣戦するだろうが……

 

2年目の夏。モスクワとスターリングラードの中間を突破されそうな赤軍

 5月に入って泥濘も解消したところで,ドイツ軍は主力をスターリングラード方面に向ける。機甲の突破力が遺憾なく発揮され,ドイツ軍はスターリングラードの北方を占領した。
 だが,ドイツ軍はあまりにも前進を急ぎすぎた。ハリコフ方面から赤軍は戦線を進め,5月末にはスターリングラード周辺のドイツ軍が包囲される。ドイツ軍はこの包囲を解くために果敢な攻撃を繰り返すが,赤軍の包囲網は固く,10月末には包囲されたドイツ軍全部隊が降伏することになった。

 

ここからドイツ軍は南に向けて攻勢展開,スターリングラードの攻略に向けて動き出す だがスターリングラード周辺のドイツ軍を赤軍が包囲。スターリングラードの悲劇である

 

日本が連合国に宣戦。ここから日本のインパール作戦が炸裂

 そのころアジアでは別の動きが始まった。1942年11月8日,日本は真珠湾攻撃を皮切りにアメリカおよび連合軍との戦争に突入。日本はフィリピンおよびインドネシア方面へと進出を開始する。
 だが,日本軍の主戦域は太平洋ではなかった。汪兆銘国民党が成立してから2年,国民党軍は戦前に匹敵する規模の軍隊を構築しつつあり,しかもその中身は日本軍の技術水準をベースとした,一応近代的な軍隊であった。質と量を備えた大軍はビルマの英軍を簡単に撃破,インド方面へと突破を始める。仮に日中戦争が続いていれば,船で東南アジアまで兵員を運ばねばならないため,ビルマへの突破は困難だが,いまや巨大な日本軍供給基地となっている中国から生み出される無尽蔵の歩兵を前に,英軍の遅滞戦術など効を奏するはずもなかった。

 

東南アジアを越え,インド方面に大突破しはじめた日本の貿易収支。希少資源+397/日って,ゴムにも錫にも困ってないよ,この人 このころ,何度この誘惑に駆られたことか。すでに資源入手面での弱点を克服した日本ですよ? めったなことでは負けなそうとか,思いません?

 

3年目の冬,ドイツの冬季攻勢。モスクワの所有権が激しく入れ替わる展開に

 東部戦線では1943年の年頭からドイツが冬季攻勢に出た。この攻勢は効を奏し,ついにはモスクワが陥落する。ソビエトの首都はゴーリキーに移転したが,ソビエトの受けたダメージの深さは計り知れない。この年の夏はモスクワを取ったり取られたりの攻防が続き,ソビエトのICは大きく低下した。傍目には,低迷するICはソビエトの断末魔にすら見えた。
 だがソビエトにとってモスクワは,一つの巨大な地方都市にすぎなかった。ソビエトの抗戦能力そのものは,シベリア疎開された工場群と,ヨーロッパ諸国にあっては他を圧する労働力に源を持つ。たまたま今回は,互いの戦力が均衡するラインの上にモスクワがあった,それだけのことだったのだ。
 1944年になると,交戦ラインはそろりそろりとベルリンのほうに動き始め,1日ごとに戦線が動く速度は上がっていく。おそらくドイツの消耗は限界に達しており,44年の赤軍夏季攻勢をしのぐだけの力は,ドイツには残っていないものと思われた。

 

ドイツ最後の賭け。おそらく攻勢軸をずらして南方を突破することで,バクーを落としたものと思われる。ある意味快挙

 それでも,ドイツはまだ戦争を諦めていなかった。雪が解け泥濘がロシアの大地を覆うころ,夏季攻勢に備えてソビエトの主力が戦線中央に集まるのを見越したかのように,ドイツ軍はウクライナ方面に戦力を投入して突破,ついにはカフカスを越えてバクー占領を果たす。ソビエトの石油供給は一気に赤字になり,逆にドイツは機甲の燃料を得た。アルデンヌ反攻におけるアントワープどころの話ではない。起死回生を賭けた乾坤一擲の大作戦を,ドイツ軍は成し遂げて見せたのだ。
 だがそれは,作戦レベルで成功したものの,戦略レベルでは失敗だった。ソビエトはバクーを占領されても十分に耐えうるほどの石油備蓄を有しており,バクー占領によって赤軍の足が止まることはなかった。逆に,燃料を確保した程度では,ドイツ機甲部隊が往年の輝きを取り戻すこともなかった。資源的にも,労働力的にも,ドイツは限界を超えていたのだ。
 赤軍はバクー方面のドイツ軍を無視するかのように戦線中央を大突破,ウクライナ全土を回復し,結果としてカフカスのドイツ軍は完全に包囲された。奇策はドイツの寿命を縮めこそすれ,永らえさせることはなかったのだ。
 1945年の夏にはソビエト軍がベルリンを占領。その年の冬にはドイツを併合し,ヨーロッパにはソビエトの衛星国家が立つことになった。

 

ソビエトの体力を思い知らされる場面。いまさらバクーを落としても,戦況を変えることはできない ソビエトがベルリンを占領。ここまで逆転逆転また逆転の熱い独ソ戦が生じることはあまりない

 

ヨーロッパ新秩序の構築。実はこの全部がソビエトと軍事同盟を結ぶわけではない 「エルベの誓い」ではないが,すでに冷戦は始まっている。これから先も,アメリカの対ソ諜報戦は継続される

 

 そしてこのヨーロッパ新秩序の完成は,インドを完全制覇しイラク国境で連合軍と戦う日本軍に,決定的な破滅をもたらすことになった。1946年4月,ソビエトは日本に宣戦布告すると同時に,バクー方面から大量の兵力をペルシア方面に投入,イラク正面はカフカスのドイツ軍もかくやといわんばかりの巨大なポケットとなり,破竹の進撃を続けていた日本軍は一瞬にして戦闘能力を失った。またモンゴル方面でもソビエト軍はプレッシャーを高め,6月には蒙古国を併合。9月には中国華北への侵入を果たした。
 東南アジアと南アジアを制し,アバダンまでも支配した巨大な大日本帝国は,赤い津波に飲み込まれようとしていた。

 

日本にとっては悪夢の瞬間。「いま世界で一番勝っているのは俺,だから俺がルール」的な裏切り ペルシアの戦力が文字通り“叩きつぶされた”ところ。日本はこれでもう,事実上ゲームセットだ

 

 

満州国の自存自営のため

 

がんばってスターリン主義になってみたが,ソビエトとの同盟の可能性は皆無。もっとも同盟しても,ソビエトがドイツに負けたら悲惨

 という,めったに見られるものではないドラマチックな展開を,満州はただ座って見ていた。いやもうねえ。赤と灰色のエリアが右に左に動くだけの画面がこんなに面白いとは!
 ……ああ,いや,そこではない。問題はそこではないのだ。
 1941年から1946年までの間,満州は常にどこの陣営につくべきかを見逃すまいとしてきた。シベリアを突破しそうなドイツと組んでソビエトを背後から叩くにせよ,巨大帝国を作る日本に出戻ってソビエトに宣戦してシベリア方面に抜けるにせよ,あるいはいままでどおりソビエト寄りの政策を続けるにせよ,決断が早ければ早いほどうまみは大きい。遅れれば,満州の取り分は減るだろう。
 だが焦る思いとは別に,1か月ごとにそれまでの判断を覆す材料が提示される。先月まで破竹の進撃をしていたドイツ軍は突然包囲され,逆襲を始めたソビエト軍は冬になるとドイツ軍に攻め込まれる。さすがにインドは落ちないだろうと思っていたら,日本軍はインドを突破するどころかアバダンまで落として石油を確保した。と思ったらソビエトに側腹を突かれて崩壊する。いやその,まったく先が読めたもんじゃないのである。

 

最後の分岐点。ここで共産勢力に入れれば入るが,スターリンの答えはノー。満州の未来と目標がついに確定する

 

突如閣僚が入れ替わった満州。悪夢

 だが,最終的な構図は見えた。日本はほぼ確実にソビエトに負けるだろう。大陸を失えば,太平洋の戦争は議論を待たない。そして日本はおそらくアメリカの占領地となる。あるいは奇跡が起きれば,ソビエトが日本を占領するかもしれない。
 構図は見えたが,それとは別に満州にはいくつかよくない材料が増えていた。典型的なフィンランド化を起こしてスターリン主義に鞍替えし,さらにはソビエトとの友好度が最大値であるにもかかわらず,スターリンは満州を同志と認めないのである。
 おまけにスターリン主義に転んだ満州で進めていたら,ソビエトがドイツを併合した瞬間にゲームがハングアップしたので,最後のセーブは何か月前だっけと思いつつゲームを再開してみたら,なんと閣僚が全部入れ替わっている!(溥儀様以外)。
 その能力はといえば「IC−3%」「物資生産量−10%」といったゲテモノばかり。要するに,政体スライダーを動かして政体を変えたことによる閣僚の入れ替えが,なぜか発生しなかったところで,ゲームを(不本意ながら)一度終了して再開してみたら,強制的に「本来あるべき姿」に入れ替えられてしまったというわけだ。
 正直これはほとんどバグだろうと思うものの,考えてみればここは満州国。建国して十数年,人工国家もいいところの満州国で,いまさら一夜にして閣僚が全員入れ替わったところで,誰が不思議に思うだろうか?
 とまあ,強引に自分を納得させたところで,ICペナルティや物資生産ペナルティに基づいて生産ラインを下方修正する。ついでに,来年のスライダーは右派に1マスと心に決める。

 

イギリス式のドクトリンを選択。梅津美治郎は陸軍ドクトリンも空軍ドクトリンもこなすマルチな才能

 で,それはそうとこの段階で満州国は,周辺諸国が熱すぎるバトルを展開してくれたおかげで物資の高額輸出先に困ることもなく,また一方的な展開になって「次はあのおいしそうな国」と思われることもなく,なんとなく戦争の狭間を泳ぎきった結果,「その先の何か」に到達していた。
 基礎IC78/有効IC105,国土は強度10の要塞に囲まれ,補給効率を高めるためインフラも整備している。陸軍ドクトリンはイギリス式のものを修了,最新式の歩兵と砲兵を備える。空軍は近接攻撃機を3編隊備え,空軍ドクトリンも近接攻撃機関係はほぼ制覇。一点豪華主義ではあるが,まったくの白紙から育成した軍隊は,十分な力を蓄えた。

 

要塞線の建設は完了,ついに歩兵の配置が始まる。まずは日本との国境を塞ぐ

 そして時はいま,満州国の目標は決定した。満州国は連合側に加盟し(レーニン主義なのにイギリスは寛大にも満州を受け入れてくれるらしい),日本に宣戦する。最終目標は満州による日本の併合だ。
 アメリカあるいはソビエトに東京を占領されれば,日本社会は一大変動を余儀なくされるであろうし,占領後は永遠に吸収併合,よくて属国化であろう。
 それに対して満州は,日本人がデッチ上げ……いや,担ぎ上げ……もとい築き上げた五族協和というイデオロギーで日本を包摂し,再独立を世界に認めさせるのだ。おそらくそれ以外,良くも悪くも満州の産みの親である日本を救う手段はない。裏切りに同士討ちを重ねるこの戦争は悲惨なものになるだろうが,情緒的観点からいえば,悲惨でない戦争など存在しない。

 

連合国に入れば,さしあたりソビエトに宣戦される心配はない。日本との戦争の準備は完了,あとは宣戦布告を待つのみ

 

 と,それっぽい理屈をつけてみたが,そもそも満州には日本に進出すべき切実な事情もある。なんとしても,日本が赤化することだけは絶対に絶対に避けねばならない――その可能性が1%未満であったとしても,それだけはまずいのである。樺太は仕方ないとして,沖縄・九州・本州・四国・北海道は絶対に譲れない。
 満州の工業力は,海外からの資源輸入にかかっている。もしここで連合国にとっての将来的な仮想敵国である共産圏に,日本海の出口を押さえられてしまったら? 「有事」となったとたんに満州は干上がってしまう。いまだドクトリンにすらまったく手がついていない海軍をゼロから育成し,日本の海軍拠点を使って中国(ソビエト属州中国)沿岸のシーレーンを自力で確保して初めて,満州は生存への保険を手にできるのである。
 理念と,それにも増して生存をかけた裏切り劇が,ここに幕を開けようとしていた。

 

■■徳岡正肇(アトリエサード)■■
徳岡氏がボード/コンピュータを問わずストラテジーゲームに詳しいことは再三ここで述べてきたとおりであるが,今回プレイしている満州国は,コンピュータゲームはおろかボードゲームでも,めったにメインモチーフにならない勢力である。大げさに言えば,それだけでこのゲームには存在価値があるわけだ。それはさておき,とくに満州についての話題でないとき,計画都市といったら即座に「新京」を念頭に置くこの人のセンスには,買うべきところがあると思う。いくらかは知らないが。
タイトル ハーツ オブ アイアンII ドゥームズデイ 完全日本語版
開発元 Paradox Interactive 発売元 サイバーフロント
発売日 2006/08/04 価格 通常版:8925円,アップグレード版:4725円(共に税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium III/800MHz以上(Pentium III/1.20GHz以上推奨),メインメモリ:128MB以上(512MB以上推奨),グラフィックスメモリ:4MB以上(8MB以上推奨),HDD空き容量:900MB以上

Hearts of Iron 2: Doomsday(C)Paradox Entertainment AB and Panvision AB. Hearts of Iron is a trademark of Paradox Entertainment AB. Related logos, characters, names, and distinctive likenesses thereof are trademarks of Paradox Entertainment AB unless otherwise noted. All Rights Reserved.


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/weekly/hoi2dd/012/hoi2dd_012.shtml



参考書籍をAmazon.co.jpで
敗北を抱きしめて 上 増補版
ジョン・ダワー著。これを日本人以外に書かれてしまったことの衝撃が,ひところ言論界を賑わした,日本戦後史概説の決定版。

参考書籍をAmazon.co.jpで
鷲は舞い降りた 完全版
ジャック・ヒギンズの冒険小説。失意の降下猟兵指揮官シュタイナ中佐と部下に下ったのは,IRA工作員と協力し英国に潜入する任務だった。