― 連載 ―


グループメンバーと連係して,自分の特技を活かして戦わないと敵には勝てない。この戦闘の面白味こそ,EQの楽しさの中核を成すものだ
 実際にプレイしたことはなくても,しばしMMORPGの最高峰として"エバークエスト"の名が出てくるのを,目や耳にしてきた人は多いだろう。しかし同時に聞こえてくるのは,難解そうで面倒そうという噂だったのではなかろうか。このたびシリーズ第2作のサービスが日本でも始まるにあたり,これまで興味はあったが敬遠してきたという人にとって,スタートしてみる最良のタイミングが訪れた。
 「エバークエストII」(以下,EQ2)を知るうえで,どうしても欠かせないのが初代「エバークエスト」(以下,EQ1)の存在だ。EQ1の中心的要素であった"戦闘"の面白さは,より進化した形でEQ2に受け継がれている。つまりEQ2を知るには,EQ1ごとひっくるめて知る必要があるのだ。

 しかし今さら「そもそもEQ1とは」なんてところから説明を始めていては,いつEQ2の話に入れるやら分かったものではない。そこで本記事では,ある程度はEQ1を知っているものと仮定して話を進めていく。なお,「そんな知識はない!」という人のために用語解説を用意した。多少駆け足になってしまうが,用語解説を参照しつつ,分かったつもりになって話についてきてほしい。

 本連載では,まず3回にわたって戦闘のキモといえる"クラスバランス"について考察し,そこからEQ2の概念を理解していこう。第1回は,EQ1(のクラスバランス)が抱えていた問題点と,それを解消すべく組み立てられたEQ2のコンセプトについて見ていく。
 ややこしい順序になってしまうが,もっと初歩のプレイそのものを教えてほしいというMMO初心者の方は,もうちょっとだけ待っていただきたい。




 EQ2の面白さをズバリ絞るなら,それは戦闘の楽しさだ。これはEQ1からの特徴でもあり,EQ2はその楽しさを受け継ぐことを前提に作られている。このあたりを説明するために,まずはEQ1に関する記述が続くがご容赦いただきたい。
 EQ1の戦闘の特徴は,どのクラスにもパーティ内で自分が果たすべき"役割"があるところだ。各メンバーが自分の仕事をしっかり理解し,それを上手に遂行すれば,パーティは満足のいく結果が得られる。その面白さに多くのプレイヤーたちは寝食を忘れてのめり込んでいったのだ。このEQが"発明"したグループ内での役割には,大きく分けて4種類あると考えられる。すなわち「タンク」「ヒーラー」「ダメージディーラー」「クラウドコントローラー」だ。通常の経験値キャンプに出掛けるときには,このうちどれかが欠けると,苦戦することが多い。

「タンク」は敵を挑発して引きつけ,「ヒーラー」はタンクのヘルスを守る。「ダメージディーラー」は敵に襲われないように注意しつつ攻撃を加える。「クラウドコントローラー」は余分な敵を無力化することで戦いをコントロールする

 ところで,EQ1ではこの"発明"を完成させるまでに,さまざまな試みが行われていたはずだ。文字通りパッチ(当て布)をどんどん重ねていき,継ぎ接ぎだらけになったところで,ようやく完成したものに見える。そうして出来上がったバランスは,MMORPGのデファクトスタンダードになるという,素晴らしい成果を出した。
 しかしそれは,もともと意識していなかったものに継ぎ接ぎを当てて形を整えた結果であり,EQ1のクラス間バランスはとても歪(いびつ)なものになっているように筆者には思える。全体としての釣り合いは取れているが,個々のウエイト(重石)の形はバラバラという印象だ。

 たとえば,いま挙げた不可欠な役割4種類のうち,タンクとダメージディーラーは多くのクラスが担当できる。しかし,グループに"真の"ヒーラーとして迎えてもらえるのは,16種類あるクラスのうちクレリックただ一つ。"真の"クラウドコントローラーとされるのは,エンチャンターのみだ。これはかなり深刻で,「クレリック&エンチャンターがいないと,おいしいキャンプポイントには出掛けられない」と考えるプレイヤーも少なくないようだった。

 この二つのクラスは必須ではあるが,エンチャンターやクレリックがグループ内に二人以上いる必要はなく,あまり歓迎されない。逆にほかのクラスは必須ではないが,タンクは二人いてもいいし,ダメージディーラーは三人になってもいいし,サブのヒーラーがいると安心だし,それ以外の能力もまぁあれば便利なので,結果的にすべてのクラスの"グループへの誘われやすさ"は同等に近くなる。完全に同等ではないが,誘われにくいクラスにはソロでの活動能力などのアドバンテージが与えられていたりして,バランスがとられている。この仕組みが分かりやすいかと問われれば,残念ながらそうは思えない。

 EQ1の歪さはほかにもある。たとえばエバックグループゲートを使用できるクラスが,なぜかドルイドとウィザードであるということ。背景にはゲーム内の歴史的な設定があるものの,ニュートラルな状態で初めてこのゲームに触れた人間が,一般的なファンタジーの知識から類推することは難しいだろう。モンクも非常に特殊で,フェインデスがあれほど貴重な存在になるとは,当初ゲームデザイナーも意図していなかったと思われる。




 EQ2を作るうえでの課題の一つは,EQ1の"役割分担"を軸としつつ,"歪さ"を解消することだったのではなかろうか。そして筆者にはEQ2から次のようなアプローチが読みとれる。

EQ2ではまず序盤で「アーキタイプ」を選び,レベル10になるときに「クラス」を,レベル20になるときに「サブクラス」を選択する。「クラス」「サブクラス」へのランクアップはクエストを通して行われる。

 まずヒーラーに関して。EQ2では"対象のヘルスを維持する"という能力に関して,アーキタイプがプリーストのキャラクターすべてに,ほぼ同等の性能(アプローチの仕方こそ違うが)が設定されている。ヒーラーのもう一つの大仕事はレザレクションだが,これもすべてのプリースト系キャラクターが充分に使用できる。つまりEQ2では,クレリック系キャラクターのみならず,ドルイド系キャラクターもシャーマン系キャラクターも「"真の"ヒーラー」役として振る舞えるようにすることで,歪さの解消を目指している。

 次にクラウドコントローラーについて。EQ2でも効果的なメズメライズを使用できるのはエンチャンター系キャラクターだけだが,こちらはクラウドコントロール自体の重要度を下げることで歪さの解消を図っている。
 具体的にはMob同士のリンクを切れないようにすることで,一度に複数の敵と戦う状況を当たり前のものにし,それを捌けるだけの能力を通常のグループに与えている。エンチャンターがいればより有利になるが,複数Inc時に必須ではない。そもそもEQ1では,複数のMobを一度に相手にする状況というのは,いわば"異常事態"だった。敵は1体ずつ相手にするのが当たり前で,Pullに失敗したときには逃げるか死ぬかクラウドコントロールするしかなかった。EQ2では強制的に複数Incを"通常事態"とし,EQ1では不自然に高かったエンチャンターのプライオリティを引き下げている。

すべてのキャラクターはゲーム序盤でホームタウンへの帰還能力を手に入れる。これはEQ1の「Gate」の魔法とほぼ同等だ
 エバックについてはシンプルにまとめられた。アーキタイプが"スカウト"のキャラクターすべてが同じタイミング(レベル25)で覚える。スカウトは初期段階からグループ全員の移動速度を高められる移動のプロなので,その延長と考えれば捉えやすい。普通に6人のグループを組めば,大抵1人以上のスカウトが入ることになるので,エバック能力の有無により狩り場が限定されるような事態にはまず遭遇しない。
 グループゲートは,それ自体がなくなった。しかしEQ2では,どのクラスでも苦労することなく適切な狩り場へと移動できるので,不便になったという印象はない。その一方で,ホームタウンへのゲートはすべてのキャラクターが使用可能になったので,ハンティング後に町まで送ってあげる必要のあるクラスは存在せず,冒険途中でグループを抜けるのにも気を遣う必要が少なくなった。

ゲーム開始直後に「アーキタイプ」の選択をする場面。やり直しがきかないので,選択は慎重に
 モンクはEQ2においては,「タンク」の一人としてデザインされている(少なくともそう意図されている)。パッチによる修正の方向性からも,それは読み取れる。アーキタイプが"ファイター"であるウォーリア系,クルセイダー系,ブロウラー系(モンクはここに属する)すべてがメインタンクになれるという仕様は,これもまた理解しやすい。
 ちなみにMobのリンクはどうやっても切れないので,EQ2にFD Pullはない。一般的な想像力において,「修行者」「格闘家」という人物から連想されるイメージは「肉体を武器として戦う人」「力の弱い者を助ける人」であり,決して「死んだふりをして敵をおびき寄せるのがうまい人」ではないだろう。EQ2のブロウラー(モンク)は,より一般的なイメージに合わせて大きく手が加えられたクラスだといえる。


 以上の新要素は,EQ1を見直すことから生まれた(と推測される)改良の一例に過ぎない。EQ2にはこれ以外にも,ゲームをより遊びやすくするためのアイデアが多く盛り込まれている。次回は個々のクラスの性質ではなく,グループ内の役割のバランスについて考えていきたい。


■■星原昭典(ライター)■■
このプロフィール欄には,以前から「もっとカッコよく書いてほしい」などとこだわりを見せている星原氏。今年,E3 2005の取材に初めて参加する氏は,このゴールデンウィークを駆使してノートPCのセットアップに挑戦。しかしこれまでデスクトップPC一筋で生きてきた氏は,結局GWをすべて費やしたにも関わらずセットアップに失敗。さらにどういうわけか仕事用のデスクトップPCまで壊れてしまい,現在ふてくされ中とのこと。相変わらず,少しもカッコいい要素が……。
タイトル EverQuest II
開発元 Sony Online Entertainment 発売元 Sony Online Entertainment
発売日 2005/06/16 価格 オープンプライス,月額1480円(税別)
 
動作環境 Windows 2000/XP,Pentium III/1GHz以上(2GHz以上推奨),メモリ512MB以上(1GHz以上推奨),空きHDD容量7GB以上,Pixel Shader機能およびVertex Shader機能に対応したVRAM64MB以上のビデオカード(VRAM128MB以上推奨),DirectX9.0b以降

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