― 連載 ―

シヴィライゼーション4 (午前)3時のおやつは文明道
Tサイド第1回:誰がための国際連合……?

現実のとおり,きちんとニューヨークに国連本部を建ててみたところ

 「シヴィライゼーション4」(以下,Civ4)の優れた点を挙げるとすれば,「高度に洗練されたインタフェース」「直感的かつ奥の深いルールとシステム」「優れたゲームバランス」「1プレイの短さと充実感」などが,ほぼ共通見解になるだろう。
 しかしながら,Civ4はそうした「大変に完成度の高い歴史テーマのストラテジーゲーム」であるに留まらない。いやむしろ,「大変に完成度の高い歴史テーマのストラテジーゲーム」だからこそ,ゲームで展開される俺様的インナーワールドを現実と見比べながら,批評的視点で楽しめる作品としても,魅力的なのである。
 そんなわけで,今回は勝利条件に沿ったプレイテクニックなどはさておいて,ここをこんな風に見たら面白いという,トピックスをお届けしていく。
 歴史を,個別のエピソードが連続したものと捉えるならば,Civ4はまったく歴史的ではない。マップはランダムに生成されるし,プレイ開始後数ターンでブリテン島にテノティティトラン(アステカ文明を代表する遺跡)が造営されたりもする。そもそも一律紀元前4000年に開始され,その瞬間に「アメリカ」があったりするフリーセットアップゲームなのだから,言うまでもないことだ。
 だが,そうした歴史モチーフのごった煮が,ただのごった煮で終わらないところに,Civ4のプレイが持つ隠れた魅力がある。そうした例の一つとして,今回は国連と国連勝利を取り上げてみよう。

 

独り相撲を究極の理想とする国際協調って

カエサルの支持がなければ国連事務総長になれない状態。自文明の軍事的実力と影響力で,優位に立つのが外交勝利だ

 Civ4の勝利条件に,外交勝利というものがある。これは,国際連合が世界に存在している状況において,国連決議で「自国の勝利を承認させる」ことだ。
 本作における国連決議は,現実の国連と異なり,各文明がその人口に比例した票を投じたうえで採決される。また国連安全保障理事会と違って,絶対的な拒否権を持つ国も存在しない。
 採択できる決議事案は「俺に勝たせろ」以外にもいろいろ存在し,全世界的に特定の政治体制を強要したり,国際貿易の収支を向上させたりする決議も可能だ。こういった決議案のうち,外交勝利をもたらすものの可決には全投票数の61%以上,それ以外では51%以上の賛成票が必要となる。

 

1939年に国連決議で奴隷解放を達成したところ。いや,この場合決して年代に意味があるわけではないが

 さて,もうお分かりのことと思うが,結局これは民主的手続きという数の論理を振りかざす,強制力の一つにすぎない。実際,国連決議による外交勝利を達成する最も簡単な手段は,全世界の人口の61%を握ってしまうことなのであり,自分より格下の国に戦車でお邪魔して彼らの都市を併合していく,また,あまり領土を広げすぎると問題があるなら焼き払っていくのが,手っ取り早いのだ。
 そもそも戦争に努力して勝てない文明が,強制的な平和のルールで浮かばれるかというと,それはたいへん難しい。ぶっちゃけこのゲームにおける国連とは,戦争という不毛な蕩尽を節約するための即物的な仕組みであって,世の中から不公正を追放するとか,そんな崇高な理念を感じさせる働きは,そうそう期待できない。言葉を換えて表現するなら,強い者がその強さを別の形で発揮する場,それが国連だ。もちろん,不条理な死を減らすこと自体に,大きな意義があるとしても,である。
 そんな,なんとなく身につまされる感じの認識を心に秘めつつ,国連を中心としたプレイが実際どのようになるのか,インド(ガンジー)で試してみた。いやさ椎名 誠さん流に言えば,インドでわしも考えた,というところか。

 

インドでプレイをスタート。正直あまり恵まれた土地とはいえないが,銅と鉄を確保して,発展を続ける

 

世界にオレ流の平和をもたらすために

 国連による外交勝利を目指す場合,あまり極端な内政中心プレイを目指すわけにはいかない。なにしろ世界人口の61%の世論を一文明で掌握するのだから,そこまでの圧倒的大差を,内政だけでつけるのはまず不可能だ。思えば国際連合とは,二度にわたる世界大戦の落とし子であったのだなあと,理想と現実の果てしない懸隔をめぐって,しばし感慨にふけってみる。
 そんな筆者のメランコリーはさておき,そうなると斧兵による序盤ラッシュ,アポロ神殿で素早く中世に入って鎚鉾兵でのラッシュ,同様の技術/文化的リードから歩兵による人海戦術といった,各時代における軍事攻勢も視野に入れねばならない。もちろん,いち早くマンハッタン計画を実現させて,核兵器で自文明以外の人口を激減させ,しかるのちに国連決議で核兵器の使用を禁止して反撃を防ぎ,外交的勝利を目指すという効率的なプレイも考えられるが,このプランだと,いったい何がしたくて国連勝利を目指すのか,自分でも分からなくなってくる。今回は採用しないことにしよう。

 

続々と宗教を創始して,財源を確保。シヴィライゼーションシリーズらしい,各文明の産物が入り乱れる展開だ

 

 さて,実際にゲームを始めてみると,幸いにして近隣の文明はエジプトやドイツといった,「話せば分かる」感じの人達が多かった。唯一の例外は鎖国大好き日本だが,例えば超宗教モードのバーサーカーであるアステカと隣同士になるのと比較すれば,外交は楽な部類に入るだろう。
 難易度設定は皇子レベル,プレイの進行プランは奇をてらわず,宗教優先でアポロ神殿を経由し,早期の中世入りを目指した。外交,内政,軍事のすべてを勘案せざるを得ない以上,とりあえず汎用性の高い戦術を採用しておこうという話である。
 途中,友好関係を深めていったハトシェプストのエジプトから,都市が我がインドに寝返ったり,アステカのモンテスマとスペインのイザベラが,彼らの国教である仏教を信じない者など許さないと怪気炎を上げるなか,インドにまで仏教が伝わってくる気配がなくてドキドキしたりと,微妙に想定外の展開はあったものの,おおむね大きな問題もなく現代に入り,戦車の量産体制も整った。

 

世界大戦と講和から生まれる平和政策?

イザベルさん,モンテスマは同じ仏教徒のようですが。それに,徳川さんがうちの軍隊を通らせてくれないので,無理ですって

 さて,ここからが問題である。いったいどこを攻め落とし,どこと手を組むのか。エジプトとドイツは基本的にインドと友好関係にあり,こことわざわざ戦争する必要はないように思える。日本は基本的に我関せずの立場を保っている。アステカとスペインは仏教を信仰しないインドを非難し続けているので,遅まきながら仏教を国教にしてみれば,今度はなぜかアステカとスペインの間で戦争が始まったりと,本当にアグレッシブかつよく分からない勢力である。これらに加えて,アラビアがほぼ完全な中立状態で独自路線を邁進している。

 

右下のミニマップに注目。西に日本領が広がっていて,その西に存在する文明との交易や布教ができない状態だ

 その中で,インドにとって地政学的に最大の障害となるのが日本であった。鎖国政策を採る日本が大陸を縦断する形で領土を展開していたため,この世界は日本を軸にして「エジプト―ドイツ―インド」と,「スペイン―アステカ―アラビア」という,二つのグループに分かれていたのである。インドが大規模な軍事行動を取るべき相手は,明らかにスペインやアステカなのだが,そのためにはまず日本から,というわけだ。
 かくして大量の戦車と歩兵とカノン砲が日本領になだれ込み,あっという間に日本は滅びた。もっともこれは純粋にインドの軍事的優越というだけでなく,スペインとアステカを日本攻めに誘ったら二つ返事で賛成してくれたという要素も大きかったのだが。

 

国境に集結した巨大な軍隊。やる気満々。イザベル,モンテスマとの根回しも万全だ

そうですか徳川さん,奇遇ですね。ということで遠慮なくお邪魔させていただくことに

対日戦争勃発。戦国自衛隊もかくやという戦いが幕を開ける。結果はいわずもがなだが

焼け跡となった東京に,インドの進駐軍が。江戸と別の都市になってるのは,お約束か

 

 さて,対日戦争が終わった以上,これはもうすかさず国連を設立して,戦後世界をリードするしかない。この世界では,国連の源流が「大西洋憲章」だったりするこたあないだろうが,初代事務総長の席は無事確保した。そして,エジプトとドイツの支持を背景に,インドは次々に決議案を提出していく。その内訳はといえば,以下のとおりまことにもって,地球と人類のためを思った政策だ。

 

デリーに国連を建設する。なんだか言葉がおかしい気もするが,このゲームの国連は,あくまで建物なのだ

  • 世界の破滅を未然に防ぐ核兵器の禁止
  • 世界の産業と貿易を活性化する自由貿易協定
  • 信教の自由の世界的な保障
  • 全世界にわたる奴隷解放
  • 地球環境の保護

 

 だが,このうち無事に採択されたのは4.まで。5.は,インドと並んで世界をリードする先進文明にさえ反対された。なぜなのか? それを理解するためには,これらの政策が持つ意味,すなわち,ゲームの展開に与える影響を読み取る必要があろう。

 

同じ月を見て「いない」

信教の自由でイザベラとモンテスマを懐柔。インド,ドイツ,エジプトの連携による,近代化とグローバライゼーションである

 まず,1.の核兵器の禁止について。一見高邁なこの政策は,核によるラディカルな追い上げを阻止することによって,現在の上位グループの優位を固定化するものだ。ちなみこの条約を採択した時点では,世界の誰も核兵器なんて見たことも聞いたこともなかったのは内緒の話である。
 そして2.の自由貿易協定は,世界を舞台にあれこれ悪さをして資金難のインドにとっては歓迎すべきものだが,十分な経済的基盤を持つ文明には,そうありがたいわけでもない。おまけに,採択してみてもインドの財政難は解消されなかった……。
 同様に3.の信教の自由は,宗教的統合を重視するスペインとアステカの足を引っ張るのが真の狙い。4.の奴隷解放も,下位を走っている文明が自国の人口を犠牲にして軌道エレベータなどの重要施設を建て,いきなり宇宙船勝利したりしないための策である。そして,最も反対の強かった5.の環境保護政策が持つ意味は,社会維持費用を大幅に引き上げることで,下位グループの文明の財政基盤に負荷をかけ,成長を阻止しようというというものだ。
 ……つまり,一見したところ人類全体の前進につながりそうな案件も,各文明の相対競争要件と考えた場合には,また違う景色が見えてきてしまう。このあたりが,国連ルールの深いところなのである。

 

統一通貨で経済的基盤の世界的向上を図る。インドは+44金なので必須ではないが,宇宙開発競争をするなら大幅赤字確定だ

この段階でまだ世界に核兵器はない。自分達が何を禁止しようとしているのか分かっていないわけだが,とりあえず可決

 

 ちなみに国連で外交勝利を決定するための,本当に「外交的」な手段としては,どこか一国を悪者にし,その国に対する防衛協定を結んだうえで外交勝利を協議にかける,というものがある。なんだか現実世界でも最近似たような光景を見た気がして,微妙にリアルで困りものだが,それはさておき,ここはひとつアステカを悪者にして,エジプト,ドイツと防衛協定を結んでみれば……と思ったが,どう交渉しても答えはノー。正直手詰まりだ。

 一方,タイムリミットは迫っている。何のタイムリミットかというと,ゲーム終了の規定ターン数ではなく,インドの財政が破綻するまでの時間である。技術でいえば,ドイツとアラビアがインドの背後からひたひたと追い上げていて,近い将来には逆転される。リードを維持し,分野によっては追いつき追い越せるだけの財力が,インドにはもはやほとんど残されていなかった。そもそもアラビアのアポロ計画はすでに完成しているのに対し,インドはまだ着手すらできていない。
 事ここに至って,インドは現実に目を向けることにした。(インドに有利な)環境保護政策を蹴って宇宙船地球号の未来を顧みることもなく,(インドに有利な)普通選挙をグローバルスタンダードにしようという提案にすら耳を貸さないような連中に,これ以上つき合っていても無駄だと,逆ギレしてみたのである。
 かくして数千万のインド人は,冷凍睡眠装置に入って,はるかアルファケンタウリへの旅路に着いた。思ったより役に立たなかった国際連合の巨大なビルを地球に残して。……すみません,もうこれしか勝ち方が残されてなかったもんで。

 

環境保護主義も普通選挙も否定する国際世論に嫌気がさしたので,インドは宇宙に新天地を求めることに。いや,地球環境が破滅するよりだいぶ早く,具体的にはあと5年くらいで,インドの財政は破綻必至だったわけですが

 

腰の退け具合が,マルチプレイを面白くする

アメリカで実現してみた,一人国連状態。うーん,国連って何だろう?

 えー,気を取り直して。もっともっと軍事に偏った運営をすれば,外交勝利はさほど難しいものではない。アメリカ(ルーズヴェルト)で外交勝利を収めたときの様子を以下に紹介しておこう。この回のプレイにおいて,総投票数384のうち,アメリカが持っている票数は208。過半数は195だから,これはもう国連という名前のアメリカ独裁政府である。ただし,外交勝利となると252票が必要なので単独決議は不可能だが,防衛協定締結によって賛同者の確保に成功,迅速に外交勝利を達成した。
 つまり平たく言うと,国連による外交勝利を目指すことは覇権主義の一種なのであって,筆者としてはクラウゼヴィッツが戦争と政治について述べた金言が,今さらながら身に沁みる夏の夜なのである。

 

2位以下に大量のODAを供与して防衛協定を結ぶ。ここまでいくと破廉恥外交と言われても,仕方ない気もする

2位は無条件で自分に投票するようだが,3位は防衛協定があれば1位に賛成する率が高い。難易度設定次第でもあるが

外交勝利。とはいえ,世界に文明は四つしか残っていなかったりする。ある程度の軍事的成功なしには成立しないだろう

 

 本作における国連は,かように現実の国連をシニカルにデフォルメした存在となっている。少なくとも本作で国連とは,強きを助け弱きをくじく国際機関である。また,国連主導のグローバライゼーションとは,すなわち6000年近い歴史を持った各国の政治体制を,問答無用で一元化することを意味する。
 そして外交勝利という勝利条件は,対人マルチプレイで本当に面白みを発揮することがある。なにしろ外交勝利が採択されれば,ゲームはそこでサドンデスである。例えば「間もなく3位に抜かれることが確定している2位」にとってみれば,時の1位が提示する「俺を勝たせろ」宣言は,すなわち自分の2位を保障してくれる宣言でもある。最後まで奮闘して,しかし結局は凋落の歴史を刻むか。それとも自らの敗北を認めつつ,2位の栄誉を確保するのか。この,たいへんに生臭く人間的な問いかけを,よりによって「国際連合」という名のギミックを通じてゲームに反映させるセンスには,恐れ入る次第である。

 このとおり,国際連合というギミック一つを取ってみても,Civ4からは歴史的リアリズムが十分に感じ取れる。もっともそのリアリズムは,「ある種独特の」という但し書きをつけたほうがよい部類のものではあるが。
 さて,現実をチラチラと横目で見ながら楽しむ「文明道 Tサイド」,次回は後発近代化国たるドイツの宿命,あるいは近代ヨーロッパにかけられた呪いのようなものについて,考えながらプレイしてみる。

■■徳岡正肇(アトリエサード)■■
演劇や音楽など,ほかの表現物と等価な視点で,ヒストリカルストラテジーを楽しんで見せるゲームライター。「すると,三十年戦争でグスタフ=アドルフが活躍したというのは?」「このゲーム的に言うと,かなり偶然の産物ってことですね。生き残ったユニットが,歴史的に活躍した人物ということになりますし」といった話が,企画の打ち合わせの一環として出てくる,そんな貴重なキャラクターである。
タイトル シヴィライゼーション4【完全日本語版】
開発元 Firaxis Games 発売元 サイバーフロント
発売日 2006/06/17 価格 オープンプライス
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP(+DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium III/1.2GHz以上[Pentium 4/2GHz以上推奨],メインメモリ:256MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスチップ:GeForce 2 MX/Radeon 7500以上,グラフィックスメモリ:64MB以上[128MB以上推奨]

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