連載 : キャラクターゲーム考現学


キャラクターゲーム考現学

第29回:サイバーパンクとギャル
BALDR FORCE Standard Edition

 

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サイバーパンクな世界観とストーリー,そして良好なアクションパートを兼ね備えた秀作ゲーム「BALDR FORCE」。2006年秋にはOVA化されていたりする

 今回取り上げるタイトルは「BALDR FORCE(バルドフォース) Standard Edition」。もともと2002年にPC版18禁タイトルとして発売された作品で,Dreamcast/PlayStation 2版を経て,PC全年齢版として復活した。前回取り上げた「ショコラ」と同じような経緯である。ま,メーカーさんも一緒だし。
 コンシューマ機版には経緯上「BALDR FORCE EXE」(バルドフォース エグゼ)と,別のタイトルが付いているが,ムービーやおまけ要素を除いたゲーム本体は,今回のStandard Editionとまったく同一である。

 BALDR FORCEは根強い人気を誇ってきたタイトルで,その秘密はゲーム中に登場するアクションパートの“奥の深さ”にある。なにしろ,シナリオクリア後もアクションパートのみをプレイするモードで,そのテクニックを極めようとするプレイヤーが続出したという逸話があるくらいだ。
 さらに,ほかのゲームメーカーがそのシステムを利用して,自社キャラクターが戦うゲームを作成したというオチまで付く。この「バルドねこフォース」はPlayStation 2版に収録されていたのだが,PC版には収録されていない。ちょっと残念だ。

 

 

Character Side:攻略順はある程度固定
順に明かされるストーリーの全貌

 

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サイバーパンクのお約束も踏まえているが,この作品はあくまでもキャラクターゲーム。初対面でいきなりヒロインにぶつかるというシチュエーションも重要だ

 この種のゲームの常として,攻略対象の(つまり固有のエンディングのある)キャラクターは複数配置されている。そして,本作ではさらに攻略順序にもある程度の規則があり,特定のキャラクターのエンディングを迎えていないと,次のキャラクターのエンディングにたどり着けないようになっている。
 これは当然ながら,いろいろな視点からストーリーを描写することで,伏線や情報を少しずつ順番に提示し,張った伏線をきれいに回収するためのものだ。重要なキーワードが唐突に登場して,プレイヤーを混乱させるような事態も未然に防げる。

 攻略順が最初になるキャラクターでは描写が多少薄くなるとか,最初のうちはほとんど登場しないキャラクターがいるといった弊害もないわけではないが,そのぶん自身のシナリオ以外で,キャラクターの見せ場が用意されていたりもするのだ。
 また,どのキャラクターもそれぞれに「ワケあり」で,それが自身のシナリオ以外で明らかになることがあるなど,構想は全体としてよく練られている。

 ゲームの世界観は俗にいう「サイバーパンク」。最近のメディア作品で例を挙げるなら「攻殻機動隊」や「マトリックス」が代表となるが,これらの作品とBALDR FORCEの共通要素は,例えば電脳仮想空間への没入(ダイブ)や,仮想空間上に存在する電子的な意識体などといった概念である。ウィリアム・ギブスンの小説「ニューロマンサー」や「クローム襲撃」に登場するガジェットが多少形を変えつつも引き続き利用されており,原点が最高傑作という状況が続いている。余談だが,ニューロマンサーの中で,すでに電脳仮想空間は「マトリックス」と表現されていたりするのだ。

 BALDR FORCEに話を戻そう。体内にマイクロチップを埋め込んで,コンピュータネットワークと人間の意識を直接接続できるようになった仮想空間が成立した近未来。主人公はそこを舞台にハッカーの一人として暮らしてきたが,解散前の「お祭り」として行ったハッキングで,テロ集団と軍の戦いに巻き込まれ,親友を死なせてしまう。主人公は無罪判決と引き換えにスカウトされた軍に入隊し,復讐を誓う……というのが導入部のストーリーである。
 サイバーパンクで愛用されるシチュエーションをちりばめつつ展開していく王道のストーリーは,国産サイバーパンクSFとして見たとき,なかなかの出来と評価できる。

 

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サイバーパンクSFでは定番のガジェットや用語が,そこここに登場する。「攻殻機動隊」や「マトリックス」で我々にも馴染み深いものとなったサイバーパンクジャンルだが,BALDR FORCEを含めて,どれも基本部分では元祖たる「ニューロマンサー」の忠実な後継者である

 

瀬川みのり

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軍(FLAK)に入隊した主人公をサポートするオペレーター。教師を目指していたが,過去に自分が巻き込まれたがゆえにネット犯罪を憎んでおり,ネット犯罪と闘うFLAKに志願したという過去を持つ。実は良家のお嬢様でメガネっ娘。彼女が最初の攻略キャラクターである。(CV:武下真奈美)

 

須藤彩音

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FLAKで主人公と同じ小隊に属するパイロット。過去の事件からテロリストに対して異常なまでの憎悪を抱いており,そのためにしばしばチームワークを乱して単独行動をとる問題児。彼女のシナリオでは,ストーリーのキーになる主人公の「仇」が明らかになるが,それは実際のところ途中で予想がつくものである。とはいえ,そこまでのストーリーの盛り上げ方は見事。(CV:坂本翔子)

 

笹桐月菜

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主人公が引き取られた家の娘で,幼馴染み。何かと世話を焼きたがる性格で,主人公のことを心配している。実によくあるパターンのキャラクターだが,このゲーム全体のシナリオにおいては,ヒロイン中最も不幸かもしれない。彼女のシナリオをプレイするあたりから,ゲーム全体のストーリーの「裏」が見え始めてくる。(CV:芹園みや)

 

リャン

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テロリスト集団「飛刀」(フェタオ)に属する少女。ネット上の仮想空間より現実空間での格闘が得意な武闘派。中国系で変形チャイナドレスをまとっているのは,女性格闘キャラクターの一つの宿命だろうか。彼女もゲームのストーリーの鍵を握る人物の一人。(CV:桜木あおい)

 

朝倉ひかる

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オープニングやタイトル画面,パッケージ裏などには登場するが,マニュアルの人物紹介には登場しない少女。ゲーム序盤から登場はしているものの,彼女が表舞台に登場するのは上記4人のシナリオをクリアしたあとだ。そうした経緯から必然的に,彼女もストーリーの鍵を握る人物の一人である。(CV:鮎川守)

 

水坂 憐

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仮想空間内で主人公の周囲に現れる謎の少女。彼女もゲーム序盤から,ところどころの重要なポイントで出現する。その神出鬼没さから,都市伝説として語られる「ネット接続中に死亡して意識のみが仮想空間に残された」電子幽霊体(ワイヤードゴースト)ではないかと疑われる。彼女がこのゲームの最大の鍵であり,彼女のシナリオにおいて,このゲームのストーリーすべてに結論が出される。(CV:まきいづみ)

 

 

 

Game Side:サイバーパンクの世界観のうえに
ストーリーとアクション性を構築

 

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アクションパートでは,コンボのヒット数と与ダメージ値が表示され,これがやり込み要素となる

 前述した仮想空間内での戦闘には,戦闘用ツール「シュミクラム」を使う。アクションパートでは主人公の乗るシュミクラムを操作して,可視化されたウィルスや,テロリストの操るシュミクラムと戦う。シュミクラムの操作はキーボードでも可能だが,ゲームパッドを利用したほうがよいだろう。
 操作は,カーソルキー+武器3ボタン+ショートダッシュの4ボタンに加え,PlayStation 2版で導入された「ハイパーモード」(HPの残りがレッドゾーンに入ったときに起動できるモードで,攻撃力や移動力がアップする)起動用ボタンという,計5ボタンで行う。
 武器ボタンにはそれぞれ,ショートレンジ/ロングレンジ/ショートダッシュ中/ダッシュ移動中という,4種類の状況に合わせた設定が可能だ。これは,相手との距離や自分の移動状況によって,同じボタンを押したときでも使う武器が変わるように設定できるということ。うまく利用すれば連続攻撃(コンボ)の発動も楽になる。格闘ゲームのように,最大コンボ数や最大与ダメージ値などが記録されるようになっており,ゲージがフルになったときのみ利用できる必殺技「フォースクラッシュ」と併せて,記録狙いの楽しみ方が可能なのだ。

 接近戦用から遠距離射撃用,中間的なものなどさまざまな武器が用意されており,これらを選んで効果的に割り当てることで,遠距離主体の攻撃パターンや,接近戦中心のパターンなど,好みの戦闘スタイルを構築できる。また,同系統の武器を利用していくことで新しい武器を開発できるようになるのも重要なポイントで,さらに,シナリオクリア後は強化したシュミクラムの装備を持ち越して,新規プレイができるようになっている。
 アクションパートのオールクリア後には,敵を倒し続けて何ステージクリアできるかを競う「SURVIVAL MODE」や,規定時間内に何ステージクリアできるかを競う「TIME ATTACK」,ゲーム本編では登場しないシチュエーションのステージをクリアしていく「HELL MODE」も利用可能になる。

 BALDR FORCEのアクションパートは,プレイヤーが自由に装備をカスタマイズすることで自分のスタイルを追求し,それを使ってTIME ATTACKやSURVIVAL MODEをプレイしていくという,純然たるアクションゲームとして評価されている。実際非常に奥が深く,やっていて楽しい。また,ストーリー中で主人公の乗るシュミクラムをプレイヤーが操作するわけで,感情移入の度合いは自ずと高まる。
 もともとの発売が2002年と,少々時間が経っていることもあり,システム的に古く見える部分があるのも確かだが,いまもって評価の高いアクションゲームであることは間違いない。もちろん,サイバーパンク好きにも勧められる作品である。

 

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このゲームのもう一つのキモであるアクションパートの開始前は,シュミクラムのセッティングや装備品の開発などを行うタイミングだ

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1個の攻撃ボタンには,ショートレンジ/ロングレンジ/ショートダッシュ中/通常ダッシュ中という,四つの状況ごとに武器を設定できる

 

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シュミクラムに搭載する装備の選択画面では,その装備の効果や機能をあらかじめ確認できる

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装備を選択したら,PRACTICEで実際に操作して,思ったとおりの運用が可能かどうか試せる

 

 

■■田村眞治(ライター)■■
ノベル系・アドベンチャー系のみならず,しっかりしたプレイアビリティを備えたキャラクターゲームを愛する,PCゲームライター。今回の紹介作品については,コンシューマ機版が出て以来,ずっとPC一般カテゴリー版の発売を待っていたとのこと。まあ「バルドねこフォース」に言及している以上,コンシューマ機版も買っているのはもちろんなのだが。
タイトル BALDR FORCE Standard Edition
開発元 テイジイエル 発売元 テイジイエル
発売日 2007/03/23 価格 7140円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 7以上),CPU:Pentium II/450MHz以上[Pentium III/800MHz以上推奨],メインメモリ:192MB以上[256MB以上推奨],グラフィックスメモリ:4MB以上[8MB以上推奨],DVD-ROMドライブ相当の光学ドライブ

COPYRIGHT(C)2007 TGL ,(C)2005 Alchemist,ALL RIGHTS RESERVED.

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/weekly/charagame/029/charagame_029.shtml