― 連載 ―

AoE3 新大陸漂流記

グランドストラテジー「Rush」「Boom」「Turtle」

 「マイクロソフト エイジ オブ エンパイア III」(AoE3)日本語版発売目前にして,本連載はついに最終回を迎える。今回は,AoE3を語るうえで重要な戦略的枠組みである「Rush」「Boom」「Turtle」,この三つのグランドストラテジー(大戦略)について考えていこう。

 これはAoE3のプレイスタイルの最も基本的な分け方で,軍事面(戦闘)と経済面(内政)のバランスをどのように取るかによって戦略を分類したものだ。マニュアルにもちょっとだけ記述があるから,すでに知っている読者も多いと思う。

 この3戦略は,とくにAoE3特有の概念というわけではなく,ほかの多くのRTSにも当てはまるものである。誰が考案したのかは定かではないが,AoEシリーズから生まれた戦略ということは確かなようだ。以下では三つの戦略について,それぞれ解説しよう。

Rush(ラッシュ)

実際にRush戦略を採るわけでなくても,その姿勢を見せるだけで相手への牽制になる。スキあらば速攻できるようなカードは,どのデッキにも入れておきたい

 「Rush」とは,できるだけ早く軍隊を編成し,敵に先制攻撃を仕掛ける戦略のこと。Rushとは「急いで〜する」というような意味である。敵がまだ十分に軍隊を揃えていない段階で敵の本拠地へと侵攻し,入植者(Settler)を襲撃して内政にダメージを与える。うまくいけば,そのまま町の中心を破壊して勝利することを目指す。

 AoE3ではIIの時代(Colonial Age,植民の時代)から本格的な戦闘が開始できるので,IIの時代に入ったらすぐに育成所を建てて兵士を育成したり,軍隊を呼ぶカードを使ったりする。経済面への投資は最小限に留めておき,とにかく軍事を優先する。自国の文明の軍隊で戦うだけでなく,先住民の兵士を使ったRushも効果的だ。
 Rush戦略を採るときは,ホームシティのデッキは資源や軍隊のカードを中心に編成しよう。とくに軍隊を呼ぶカードを多めに組み入れておきたい。AoE3では戦闘を行うことで経験値が溜まって次のカードを使えるようになるため,うまく攻め続けることができれば,矢継ぎ早にカードを使って軍隊を次々と投入し,早い時間で勝利できる。

 この戦略の長所は,敵の準備が整っていなければ一方的に攻撃できるということだ。内政にダメージを与えられれば敵は反攻する力を失っていき,そのまま力の差が開いていく。結果的に早い時間で勝敗が決着しやすい。また「攻撃は最大の防御」という諺のとおり,戦場が敵の本拠地近辺となって自分の本拠地は無事であるため,鉱山の採掘や狩猟を自由に行いやすいという意味で,内政上の利点もある。
 逆にRushが失敗した場合,一気に不利になる。軍隊を最優先したため経済発展がおろそかになっているからだ。結果として敵に経済力で負けてしまい,反撃を喰らって負けてしまうということになりやすい。

 Rush戦略は手順が分かりやすく,成功すれば爽快であることから,3戦略の中では最もポピュラーであるようだ。序盤にアドバンテージのあるオスマン帝国,スペイン,ドイツなどがRushに向いている文明である。
 なお,一般的にはRushというとIIの時代での早期攻撃を指す場合が多いが,IIIの時代(Fortress Age,要塞の時代)にいち早く入って,軍隊を揃えて攻撃する戦略もRushという場合がある。これは特別に「FF」(Fast Fortress)とか「即III」などと呼ばれている。

Boom(ブーム)

実際にRush戦略を採るわけでなくても,その姿勢を見せるだけで相手への牽制になる。スキあらば速攻できるようなカードは,どのデッキにも入れておきたい

 「Boom」とは,とにかく内政に注力し,強い経済力をつけることを最優先する戦略のこと。ちなみにBoomとは「急発展」という意味だ。軍事面はひとまず後回しにして,入植者を増やしたり,資源収集の効率を高める研究を実行したりして,経済面に集中的に投資していく。そして十分な経済力がついたら一気に大規模な軍隊を用意し,戦闘を開始する。
 どの程度の経済発展をBoomと呼ぶかはマチマチだが,Boomの目的は敵との経済力に差をつけること。十分な経済力がついたと判断したときが,戦闘準備開始のタイミングだ。

 AoE3では,Boomに二通りの方向性が考えられる。一つは同じ時代にとどまりながら入植者を増やしていく戦略。町の中心で入植者を連続生産するのに加え,カードを使って入植者を増やしていく。もう一つは先の時代への進化を優先していく戦略だ。前者のほうが短期的には発展が早いが,長期的に見れば後者のほうが有利になると考えられる。時代を進んだほうが効果の高いカードや研究が行えるからだ。
 AoE3ではIIIの時代になると町の中心を増やせるため(ポルトガルのみIIの時代から),Boom戦略を採る場合,IIIの時代へなるべく早く進むのがよいだろう。デッキには入植者を呼ぶカードや資源収集の効率をアップさせるカードを組み入れよう。

 Boom戦略には釣り船の活用が効果的だ。海では魚から食料,鯨から金を得られる。入植者を増やすスピードには限界があるから,釣り船も同時に作っていくことで,より発展のスピードを早められる。また,家畜小屋(Livestock Pen)で羊や牛を飼育するのもよいだろう。

 この戦略の成否は,敵の出方次第だ。自分がBoomをしている間に敵が攻めてこなければしめたもので,中盤〜終盤にかけて有利に立てる。だが敵の攻撃を受けてしまった場合,自分の軍事力は貧弱なために内政を破壊されてしまい,失敗となる。相手が攻めてくるか否かを偵察によって判断して,Boom戦略を継続するかどうかを決める必要がある。

 Boom戦略の長所は,十分な経済力があれば軍事面での選択肢も豊富になるという点。Rushだと,ある程度決まったパターンしか採れないが,Boomなら豊富な資源を使ってさまざまなユニットを出したり強化したりできるので,中盤以降はバリエーションに富んだものになる。

Turtle(タートル)

AoE3では交易所の掌握が非常に重要。本拠地周辺だけでなく,交易所近辺を防御施設で固めるのも一策だ

 Turtleとは亀のことで,亀の甲羅のように堅い守備でもって,敵の攻撃を跳ね返すことを目的とする戦略である。壁,町の中心,前哨,砦といった防御施設を積極的に活用することが特徴で,それに加えて少量の遠隔攻撃ユニットを生産する。敵が攻撃してきたら速やかに撃滅し,カウンターアタックに転じる。
 ポイントは,防御施設を使うことで自軍の損害を少なくしつつ,敵の損害を大きくするという点にある。兵士同士の戦闘の場合どうしても互いに損害が出てしまうが,防御施設を使って戦えば損害を少なく済ませることも可能だ。防御施設は移動できないから,当然のごとく防御にしか使えないわけだが,防御を固めた本拠地に敵を誘いこみ,そこで戦うことで敵の損害を大きくし,差をつけるわけだ。

 Turtle戦略を採る場合には,デッキに防御施設関連のカードを組み入れたい。具体的には前哨のワゴンを二つ呼ぶカード(Frontier Defenses,辺境防衛)や,民兵を増やし町の中心の攻撃力をアップさせるカード(Colonial Militia,植民地民兵)などだ。入植者のHPを上げるカード(Pioneers,開拓者)もよいだろう。
 Turtle戦略では,軍事と経済を同じくらい重視して進めていく。そういう意味ではRushとBoomの中間のような戦略だが,実際は“Boomにそこそこの防御を加えた戦略”といった感じのニュアンスが強いかもしれない。序盤に攻撃しないという意味ではBoomと同じなので,中盤以降に経済が発展していないと不利になってしまうし,そもそも守ってるだけでは勝てないのだ。

 IVの時代になると,臼砲(Mortar)で防御施設の射程外から攻撃できるため,防御施設の存在がほとんど意味のないものになってしまう。つまり,それまでには本格的に戦闘できるだけの軍隊を整える必要がある。Turtleを仕掛けやすい文明としては,町の中心が無料でもらえるポルトガルや,銀行があるので鉱山がなくても内政できるオランダなどが挙げられる。

 Turtleの長所は,手堅く進められるということだ。軍事と経済のバランスを取っているので攻撃を受けても対応できるし,経済もそこそこ発展できる。本格的に戦闘が始まった場合にも本拠地を荒らされる心配が少ないから,主戦場での戦いに集中できる。
 逆にいうと,どっちつかずの中途半端になりやすく,これが短所といえる。そもそも敵が攻めてきてくれないことには防御施設を建設した意味がない。防御施設に資源を費やした分だけBoomより貧しく,守備的戦略のため引きこもりがちで,本拠地から離れた場所の資源を採りに行きづらい。

 基本的に,TurtleはRushへの対抗策として存在するものだ。敵がRushで来る場合に(早期の偵察やデッキの内容で判断する)敵の目論見をくじけるので,そういった場合には非常に効果的な戦略だといえる。

3戦略の関係

 これまで解説してきた三つの戦略を整理すると,次のようになる。

  • Rush:軍事優先。序盤〜中盤に攻撃
  • Boom:経済優先。中盤〜終盤にかけて攻撃
  • Turtle:両方のバランスを取る。敵からの攻撃に対して反撃

 ゲームの時系列ごとの有利不利は,おおむね次のようになる。

  序盤 中盤 終盤
Rush
Boom
Turtle

 そして一般的には,3戦略の間にはジャンケンのような相性関係があるといわれている。

  • RushはBoomに勝つ・・・(1)
  • BoomはTurtleに勝つ・・・(2)
  • TurtleはRushに勝つ・・・(3)

 ということである。(1)についてはBoomは序盤の軍事力がおろそかなのでRushの早期攻撃が効果的だし,(2)は双方共に守備的ならより経済重視のBoomのほうが有利になる。(3)については先に述べたとおり,TurtleがRushを防ぐ戦略として存在することから明らかだ。

 実戦では,これら3戦略が綺麗にはっきりと分かれることは少なく,混合した感じになったり,途中で戦略を変更したりといったふうになる。だがいずれにしても「どの段階,タイミングで攻撃を開始するのか」について,はっきりと方針を持ってプレイすることは重要だといえるのではないだろうか。

 ちなみに,文明によって得意な戦略と,そうでない戦略というのがある。自分の好きな戦略を考えるのも文明選びの基準の一つになることだろう。
 参考までに,AoE3の開発者の一人として著名なBruce Shelley氏のブログ(2005年11月30日の記事)においては,文明ごとの適した戦略が以下のように分類されている。

  • British(イギリス): Boom
  • French(フランス): any(どれでも可能)
  • Spanish(スペイン): any (どれでも可能)
  • Portuguese(ポルトガル): Turtle or Boom
  • Ottoman(オスマン帝国): Rush
  • Russian(ロシア): Rush or Boom
  • Dutch(オランダ): Turtle
  • Germans(ドイツ): Rush

 人によって,見方はさまざまだから違う意見を持つ人もいるだろう。それに加えて,戦略は日々研究されているので,時間とともに変化してくる。最近では,オランダはRushもできるとか,ドイツは3戦略いずれも得意だとかいった意見も多いようだ。

 さて,本連載はこれにて終了。あとは発売日を待つのみだ。AoE3はパッと見,なかなかRTS初心者には近寄りがたい作品のようにも見えるが,初心者でも本当に夢中になって楽しめる,実に優れた作品である。生まれて初めて購入するRTSとしても,ぜひお勧めしたい。

 

■■Sluta(ライター)■■
これまでの連載に掲載されていたスクリーンショットを拡大したことのある人の中には,あるいは気づいた人もいるかもしれないが,「Sluta」は「スルータ」と読むらしい。てっきり編集部では「する太」という,なんとなく少年マンガの愛すべき主人公風キャラをイメージしていただけに,「スルータ」という日本人離れした名前には動揺を隠しきれなかった。本人に意味を聞いてみたところ,「幼少の頃になんとなく思いついただけで,意味はとくにないですね」とのこと。同名のミュージシャンがいるようだが,そのファンというわけでもないらしい。どんな幼少なんだ!
タイトル マイクロソフト エイジ オブ エンパイア III
開発元 Ensemble Studios 発売元 マイクロソフト
発売日 2006/01/27 価格 9400円(税別)
 
動作環境 OS:Windows XP(+DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium 4/1.40GHz以上[Pentium 4/2GHz以上推奨],メインメモリ:512MB以上,グラフィックスチップ:DirectX 9.0c以上に対応,グラフィックスメモリ:64MB以上[128MB以上推奨]

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http://www.4gamer.net/weekly/aoe3/009/aoe3_009.shtml